時は流れ1999年(平成11年)。
ノストラダムスの大予言では世界の滅亡寸前だった年に、楡野鈴愛は連載を打ち切られ、漫画家から秋風羽織のアシスタントに逆戻りしておりました。
そんな娘を心配して、晴はお見合い写真を鈴愛に送ります。
晴から手紙を受け取った羽織は、晴の気持ちを汲んでお見合いを勧めることに……。
【75話の視聴率は20.9%でした】
久しぶりの秋風塾だ
見合いを勧められた鈴愛は、漫画家を辞めて田舎に帰れということですか、と一蹴。羽織も反論できません。
お前はもう、立派な漫画家だというほかない。立派は余計にしても。
それから、羽織は散英社の雑誌十二星座占いページのカットを描かないかと言い出します。
ためらう羽織ですが、鈴愛は引越し屋より時給は低くとも漫画に近いからとやる気を見せるのでした。
羽織は、『きっときみに会いたい』ではなく『いつかきみに会える』をネームにしたら見てやる、久しぶりに秋風塾だ、と言い出します。
やっぱり羽織は弟子思いですね。
紆余曲折があって、彼が育てた漫画家で、彼の元に残ったのは鈴愛一人。立派な愛弟子ではないですか。
ユーコにネタ帳を見せる鈴愛。
彼女は、アイデアの豊富さを褒めながら、構成に難があると指摘します。
『桃太郎』ならば、ずーっと桃やスイカ、メロンが流れてきて、桃太郎が生まれないのです。
そう、下手をすれば起承転結、オチすらない話になるという鈴愛の漫画。
川が果物だらけになってしまう。
気がつけば、目の前には30
欠点を克服するため、鈴愛は好きな映画のストーリーのまとめを作っていました。
『一瞬に咲け』を連載しながらここまでしていたのか、とユーコは驚きます。
実は時間も余裕もありませんでした。
カロリースティックと牛乳で食事を済ませ、トイレに行く時間ももったいなくて、紙パンツだけで過ごす(※編集注/紙パンツってのはさすがにヤリ過ぎかなぁと思うのですが……籠もりきって執筆活動をしていると全く外に出ないということは普通にあります。冷蔵庫にチョコレートケーキしか入っていない知人の女性漫画家さんもおりました)。
凄絶な漫画との格闘。
気がつけば、目の前には30。
デビュー十年目です。
このあたりが女性特有の感覚かもしれません。
もちろん男性だって、俺が漫画を描いているうちに30っていうのもありますよ。彼女作る暇ないとか。
しかし、女性の方が加齢へのペナルティはシビアです。
子供のおかげでユーコは母と仲直り
朝ドラは同じ役者が演じる以上加齢がどうしても難しいものです。
鈴愛の場合はどんどん年齢不詳の不思議ちゃんになっていきます。
これが最後のチャンスかもしれないと張り切る鈴愛。
ユーコは協力すると言いますが、アシスタントを雇う金すらないと答えます。
出世払いでいいよと答えるユーコ。
子供のクウちゃんを実母に預けています。あれほど対立していた母子も、孫がかすがいとなって仲直りしたようです。
こちらの道が、ユーコにとって正解だったんですね。
いい顔しているよ、と鈴愛は言います。
しかし……女性だからといって、ユーコルートが正解じゃないイレギュラーな存在もいるわけでして。
「スラスラ描ける!!!」
羽織は、苦手だった江口編集長と打ち合わせ中。
ボクテの口利きで、羽織の長編とひきかえに、鈴愛の読み切り枠を取ったそうです。
優しすぎる……。こうなったら、まずは読み切り、頑張れ鈴愛!
羽織は、また晴さんに向けて手紙を書き始めます。お茶を持ってきた菱本は文才のある先生なら簡単でしょう、といいますが、その文才をもってしても、親の愛には勝てないと辛そうです。
「私はこの人の娘を取り上げた」
そう言う羽織。菱本は、鈴愛の意思だったとフォローしますが、それでも母からすれば取られたも同然ではあります。
難しい話ではあるんですよ。
ある意味、晴が羽織から才能の塊を取り上げようとしているとも言える。羽織だって10年間、親身になって面倒みたわけですし。
そのころ鈴愛は、甘いものを食べています。
煮詰まっているという証拠。甘いものを食べると眠くなって寝てします。
ここで鶏の声。
「スラスラ描ける!!!」
嬉しそうな鈴愛。しかし、何かがおかしい。
能天気なBGMが不穏な感じに。音楽の使い方がうまいです。
そして鈴愛は、ペンをコーヒーにつけ、インクを飲んでしまう。
……夢でした。
“Just married.”
夢まで陳腐と目覚めてつぶやく鈴愛。起きなければいけません。
しかし今度もおかしい。
場所は「つくし食堂」。宇太郎と晴は鈴愛の単行本を片付けています。
ここの一階は図書館になるから、一回も貸し出されない本は破棄するのだと。しかもなぜか晴は標準語。
仙吉も「断裁」なんて難しい出版用語を使う(※編集注/本の在庫は倉庫に置かれ、決算前とかになると破棄します。持っていると資産になるので、処分によって費用として税金を軽減。これを断裁と言います)。
「一冊くらい残せば?」
見かねた廉子さんがそう言うと、
「三冊くらい残してよ!」
と、言い返す鈴愛。
あれ?
おばあちゃんは死んでいるはず!
と、ここではたと気付く。
夢です。こんなの夢、ほっぺた叩いて起こしてと迫る鈴愛。
すると神々しい光と共に顔の見えない男が声をかけるのでした。
「ネームなんてやらなくていいよ、鈴愛ちゃん!」
見合い相手の信用金庫・課長でした。鈴愛が見合い写真の中身すら見なかったため、こういう演出なんですね。
★
目が覚めると、朝の6時です。
やばいぞ、ネームはできとらん!
一方で羽織が手にした萩尾律からのハガキには、衝撃的な写真が……。
“Just married.”
こうなることは、見ているこちらとしてもわかっていましたが……。
見るとやはり、辛い。辛すぎる!
今日のマトメ「幸せの象徴だった結婚」
結婚ってなんだろう?
特に女性にとっての結婚って?
ハートのど真ん中にぶっ刺さるドラマです。
そりゃあ結婚してからも、キャリアを続けられる人はいる。多くはないけれど、増えてきてはいる。
ただ、本作ではハッキリと撤退&逃走という選択肢になって見えるわけです。
それが結果的に成功だったユーコという例があっても、鈴愛が成功できるとは思えない。
今までの朝ドラで結婚といったら幸せの象徴でした。
拒否もできぬまま、むしろそこがスタート地点であった『あさが来た』もある。
あれが江戸から明治の結婚とすれば、本作は平成の女性クリエイターとしての結婚観なのでしょう。
昨日も書いたことですが、本作の革命的な点。
それはとことん結婚に不向きなヒロインを登場させたことです。
ちょうどこんなニュースがあります。
本作の登場人物には、まさしくここでの「勝手なことを考えている人々が大勢出てきます。
漫画を選んで独身である羽織と菱本。
ゲイであり子供を残さないであろうボクテ。
もしかしたら鈴愛も、そういう方向に行くかもしれません。どうなるかは、わからないけど。
世間から見れば勝手、負け組、いつまでも大人になれない、変わり者、非生産的。
そういう人間が何も生み出さないわけではなく、自分自身の産み出す輝きをまとって、苦しみながら生きる姿を描いていると思います。
世間の常識に背いた生き方は自由で、憧れの対象で、おとぎ話みたいかもしれないのですけど。
そういう生き方ができる、世間の非難をものともせずに生きるのは辛いことなのでしょう。
これも昨日の繰り返しになりますが、『おんな城主直虎』における井伊直虎、小野政次、龍雲丸もそういう生き方でした。
花だけ咲かせて、散って、実を残さない生き方。
『真田丸』のヒロイン・きりもそうでした。
そういう生き方は無意味だの身勝手だの決めつけられるのか、という問いかけ。
そういう人でも社会からはじかれずに生きていけてこそよりよい社会じゃないのか、という大きな挑戦が、本作からは感じられる。そう思うのです。
儚い花になりそうな鈴愛に対して、律は結婚を選びました。
鈴愛のネーム『神様のメモ』で別れた男女二人は、独身のまま。つまり再会できる、そういう生き方をしていた気がする。
けれど律は、鈴愛とは違う、実りある世界へと壁を超えていってしまった。
今、鈴愛が取り組んでいるネームは『いつかきっと会える』。
このタイトルが、彼女にとって血を吐くような願いにならないとよいのですが……。
【編集注】昨日、博多華丸さんに対して挑戦的なタイトルを掲載してしまいました。昨晩の段階で修正をかけておりますが、御本人にお詫び申し上げます(おそらく読んでないでしょうけどスミマセンでした!)。※タイトルは編集側で付けています
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
最近時の流れが早過ぎてついていけません。
これまではかなり丁寧に進んできたと思うのですが、ここ最近、心境の描写が少ない(漫画制作の描写は変わらず丁寧ですが)。
特に律。
スズメと律の関係性は、結婚がベストだとは思わないですけどね。ただ、プロポーズまでとその後お互い何があったのか、もうちょっと扱って欲しかったです。
いろいろな捉え方があるし、想像するのは楽しいけれど、何で今の展開になっているのか、ちょっとわからなさすぎる。
このドラマ9月末までやるんですよね、まだ先が長いけれど、これからどこに重きをおいて、どういうオチを付けるのだろうか。まだまだ期待しています。
神様のメモ の二人は
それぞれ違う人と結婚してましたよ。
最後二人が再会するシーンも
女性の方は夫らしき男性に声かけて
外出した矢先だったです。
この漫画のエンドも随分意味深長でした。