世の中は平成不況の1999年(平成11年)。
バブルも遠くなった……そんな時代に登場したものといえば100均ショップです。漫画家を諦めた楡野鈴愛は、そこで時給750円のバイト店員として働いています。
そんなある日、アーティストタイプのイケメン・森山涼次がバイト仲間として現れました。
彼の落とした詩に心惹かれる鈴愛。
しかも彼は、なんと漫画家・楡野スズメのファンだったのです。
【86話の視聴率は22.3%でした】
もくじ
競技用ピストルに釣られて涼次は走り出す
今日の冒頭は、田辺による100均ショップの極意。
仕事の合間に梱包材になる新聞紙を切るとか。そんな知恵が披露されます。
それに対して、
「カッコいい!」
と素直に喜ぶのが涼次。
「かっこいいか?」と突っ込むのが鈴愛です。
いずれにせよ明日はいよいよ運動会。
気合を入れるべく田辺はここで競技用ピストルを撃ちます。鈴愛はそんなものまで扱うんだと驚き、発射音に釣られた涼次は条件反射で走り出しました。
うーん、やっぱり……鈴愛と涼次、相性抜群かも……。
美形で天然、かつ感受性が強い。似た者同士なのです。
ただ、こういうタイプの似た者同士は現実逃避してズブズブになるという危険性があります。
この三姉妹が叔母ってのはキッツい
一方、大納言オーナーの三姉妹は、明太子パスタで食事中。この間は素麺でした。
麺類が好きなのか、それとも作るのが楽だからか。
「あーあ、涼ちゃんのナポリタン美味しかったなあ」
そう懐かしむ三姉妹。ん? 涼ちゃんとはどういうこと? 涼次と彼女らの関係とは?
「あ〜涼ちゃん今どうしているんだろ」
その料理のうまい涼ちゃんは、なんと大納言でアルバイト中だと光江が説明します。
三姉妹にとって甥っ子のようですし、親がいないという発言もありましたし、ご両親に不幸があって、おばさんたちに育てられたのかな。
彼女らに子供がいなければ、甥っ子にかける愛情や期待は大きいかもしれません。
実際、麦はソワソワして、大納言を見に行こうかな、と言い出します。
しかし、この日はカルチャー教室で「野鳥講座」の講師をしなければいけないそうです。
ここで懸念が……。
もし、鈴愛と涼次の距離が縮まったら、この三姉妹が立ちふさがったりするのか?
光江は店のことに興味を示さず、明太子の割り増しだのなんだのいう麦とめありの妹たちにイラついています。
本当は権蔵譲りのセンスを持つ涼次と「三月うさぎ」を経営したかった、あの子はセンスがあると嘆く光江。その夢を潰したのは麦だと詰りますが、あんなものは夢ではなく妄想だと一蹴されてしまいます。しかも三姉妹揃ってあやしい関西弁を繰り出すことに。
鈴愛をあまりいじめんでやってくれ……
田辺は鈴愛に元漫画家だからポップを描いてと頼みます。
鈴愛の顔が少し引きつったことを察したのか。俺が描きたいです!と涼次が代わりに描きます。
これがなんとも素朴というか、はっきり言えば下手というか。
でも、こういう不得意なことでも庇ってくれる姿勢がいいんですよね。別に気を引こうとかではなく、純粋に優しい感じが伝わります。
ここから先は接客タイムです。
おかずカップをバランと呼び、嫁がシロガネーゼでいちいちうるさいと愚痴る女性客が出てきました。
なんだかんだウダウダ言っているけど、結局白金育ちの嫁自慢じゃないの!? という気もしなくはないですし、こういう人に「嫁は流しの下からもらえっていうから、あなたくらいでちょうどいい」と言われて鈴愛もトンチンカンに喜んじゃうし。
鈴愛はわがままと視聴者に叩かれますけど、劇中でもちょいちょい叩かれているというか。
規格外の痛い女だし、反論して来なさそうだし、失礼なことを言ってもいいだろうと思われているんでしょうね。
ただの客の嫌味なんて受け流せばいいと思いつつ、庇護欲が毎日募り、「鈴愛をあまりいじめんでやってくれ……」とため息をついてしまいます。
ドラマの中の人物ですが、最近、彼女が他人とは思えなくなってきているのです。要するに、世間から侮られているね。秋風羽織ですら、最初はそういう態度でした。
これってやっぱり朝ドラで珍しいかも。特に大阪制作のヒロイン出世系は、周囲がかしずくような設定ですからね。あまり粗末にされないのです。姑にはいじめられたりしますが。
そしてこの客に至るまで、存在感というかリアリティがあります。
会話の端々に至るまでユーモアと毒があって、飽きさせない工夫があります。
このドラマに一息つける場面はないと言われているかのように、今日も中身がきっちりと詰まっています。
イッチ、忙しいときにまた消えよった
ここへ、常連の東雲登場。
「こうしてこうなったのが欲しいの。娘が孫を連れてくるの」
うーん、わからないって!
東雲相手の接客をしているだけで手一杯になってしまうレジ。しかし田辺は、彼のことを一郎由来の「イッチ」と呼ぶ謎の美女とともに、姿を消してしまうのです。
オッサン、またかっ!
しかも午後四時という、一番忙しい時間に逃げおったー!
そこへ助っ人登場です。晴に言われて草太が姉に会いにきました。
店に入りイキナリ戸惑う彼ですが、鈴愛は強引にレジをやらせます。そこはしっかりものの草太、きっちりと対応するのです。
鈴愛は草太に、今の生活が充実していると熱心に語ります。
岐阜にもあるというチェーン100均の大納言で? と思わず突っ込む草太。それに構わず鈴愛はちゃっかりと、岐阜の皆さんにもよろしくと言い出します。
自分で母ちゃんに伝えるんじゃなかったのかよ、と困り顔の草太。本当に鈴愛はマイペースだなあ。
というか大納言も大手100均だったんですね。フランチャイズ経営なのかな?
やってきたばかりの弟に恋心を見透かされ
イケメン二人が店内にいるためか。女子高生までやってきて、店は大盛況となりました。
涼次は100均で値切るという驚異的な客もあしらい、機転を見せます。いや、機転というより誠意かな。
店に来ている子供と遊ぶ姿も好青年です。おば三姉妹にたっぷり可愛がられて育ったのでしょう。
魅力的です。たとえ、あまりに生活力が無いにしても……。
「店長おもしろい人だな」
「あの人は店長やない。もっと変な店長がおる」
そう話す姉と弟。
草太は唐突に、あの人が好きなのか?と鈴愛に尋ねます。
ドギマギして、アラビア語に聞こえるような岐阜弁でしどろもどろになる鈴愛がかわいい。
「そんなことない、気のせい! 明日までのバイトなんだし」
ということは、明日、駆け込みでたまらなくロマンチックな場面がある。そう期待していいってことですよね!
今日のマトメ「それでも涼ちゃんさんがいる」
先週、漫画家を辞めたあたりは辛くてたまらなかったわけですが、今日は光が差し込んできているようです。
鈴愛の生活は何も変わらない。時給も据え置き。アパートは風呂なし。
それでも涼ちゃんさんがいるのです。
全身全霊をこめて漫画を描いていたころは無縁だった、恋の季節が訪れたわけですね。
一つ重荷を捨てて、別の何かを取る。ドン底に落として、また拾い上げる。
こういうアップダウンが楽しいです。
しかも恋の舞台は、蛍光灯の照明が白く輝き、安っぽい商品が並ぶ100均です。
秋風先生ご馳走のイタ飯屋のような、あるいはオフィスティンカーベルのような、それとも運命の夏虫駅のような、そういう風情はまるで無い。本作をトレンディドラマ路線とする意見もあるようですが、こんなチープなトレンディドラマはないでしょうに。
それでも涼次の魅力は溢れてくるし、その彼をうっとりと見つめる鈴愛もかわいらしい。
やはり鈴愛は、自分の世界を失っていないのです。
何でも想像力でキラキラさせることのできる鈴愛。焦げたトーストをキャンバスにする想像力はまだ残っています。鈴愛の目を通してみつめる涼次によって、ドラマ全体がまた輝きだしました。
この役をきっちり演じる間宮祥太朗さんも、素晴らしい演技です。
自然体で力が入っていなくて、実に良いですね。
いや、演じる側は相当考えているのかもしれないのですが、そういう気負いが、見ているこちらにはよい意味で伝わって来ません。あの萩尾律や朝井正人、そして秋風羽織の抜けた穴を埋めるプレッシャーは相当なものだったと思いますが見事に役割を果たしています。
そして鈴愛が素直に本音を言える草太役の上村海成さんも良いですね。
少年っぽさから抜け出し、社会経験を身につけた青年らしさが出ていて素敵です。
「みんな自分の人生を生きている!」
さあ、明日も楽しみだぞ!!
◆著者の連載が一冊の電子書籍となりました。
ご覧いただければ幸いです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
漫画の話は終わっちゃうんか…と視聴意欲が落ちかけていたところへ、スズメちゃんワールド炸裂で、やっぱり目が離せません。三姉妹の芝居も、小劇場の濃密な時空間をテレビで再現しているみたいで素晴らしいと思います。新婚リツくんの住む住宅街を思い浮かべると、やっぱりスズメの居場所じゃありませんでしたよね。
スズメワールドに寄り添いながらも、所々に差し込まれる世間の現実。嫁は流しの下からか…( ̄▽ ̄)そんな空気を知り尽くした上で、しかも生殖年齢の限界を考えれば男女は同質の時間を生きてはいないのですから、晴さんの発言も、どうか大目に見てはいただけないでしょうか?
その一方で、三姉妹やキミカ先生のような規格外の人物を魅力的に描いている本作に、スカッとしている方も多いと思います。
男性の大局観と、女性の現実性、面白い視点ですね。漫画を描く秋風先生とそれをマネジメントする菱本さん然り。楡野家然り。どちらかというと男性的で運命論的な行動を取る鈴愛と、地に足の着いた弟・草太の対比も興味深い。(空飛ぶスズメ←→草の根運動?)
武者さんのレビューを読んで思い出したのが映画『サマーウォーズ』。サカエおばあちゃんの死に際し、男たちは弔い合戦を仕掛ける一方、女たちは葬式饅頭の心配、という中盤。しかし最終的には男、女、恋心、家族愛、矢面に立つ人、それを支える人、全てがあって世界の危機を乗り越えます。
映画と朝ドラはもちろん「つくり」が違いますが、『半分、青い』も男女のどっちがどの点で優れているとかを超えた、人間賛歌の物語になってほしい。そして確かになりつつあると感じます。北川先生が登場人物それぞれの人生を愛していると感じます。
晴さんひどい。
デビューできるのも、連載もてるのも、ひと握りなのに。
またも涼ちゃんさんの話題から外れてスミマセンですが、
晴さんは「私があれほどつらい思いしてあの子を東京へ出したのに、漫画家を辞めてしまうなんて。この10年は何だったの」と案の定グチグチ言ってる。それに対して宇太郎は「そんなことを言うもんやない」とピシッと制し、偶然にも秋風と全く同じセリフ「どんな人生にも無駄はないのだ」を口にする。日頃は全く存在感のないヒョロパパだが、こういう時はさすが父親だなと見直します。まして人生経験豊かな仙吉は、鈴愛からの電話一本で一瞬にして「それでええよ」と暖かく受け止めた。
女性の皆さんからは叩かれるに違いないけど、私は率直に言います。女性は日々の日常生活のこまごまとした場面では断然頼りになるが、人生のここぞという重要な局面になればやはり感情に流され浅薄な女性の決断ではダメ。男性の力強くおおらかな視野の広さが物を言うのです。ちょっと話がどうしても淀殿批判みたいになっちゃいそうですが(笑)
とにかく、朝ドラは人生の勉強になると言う人は私の知人にも少なくないです。だからこそ、脚本の失敗などは許されず、この国の朝のスタートにふさわしい秀作が求められるんですね。