漢字を読めない。
だから宗一郎からの手紙すら読めないーー。
その悔しさを噛み締めたのか、照子の課外授業を喜美子はハイテンションで受けるようになります。
授業には信作もおるで。
風呂は天国や
昭和22年(1947年)冬。川原家、信楽初めての冬です。
ついに水道と電気も開通!
発明家ならば簡単に盗電もできる――そんなNHK大阪の朝ドラに不安を感じたものですが、決別しましたね。
とはいえ、冷たくなる掌に息を吹き付けつつ、水汲みをしなければなりません。その作業とは?
ジョーの自慢は、仕事の合間に作った風呂です。
狭くて、大柄なジョーは入るだけでも大変に見える。けれども、これが贅沢なのです。
この新しい風呂は天国。しかし、それを支えるのは他でもない喜美子です。
風呂焚きは重労働かつ危険なので、男性が担当することが多いものでした。
家のことは全部女性の仕事というのは実は間違いでして、薪割りや屋根の修理は男性のすることです。
それをふまえますと、もしも喜美子に兄がいたら彼の仕事ではあったでしょう。これが後の伏線になって来そうですね。
火の大きさを確認しながら、温度を見極め、適切な量の薪を加える。
炎を見つめる真剣な眼差し――最初はよく失敗しており、そのたびにジョーはこうなる。
「あ〜つ〜!! 喜美子ぉ〜!」
何度も何度も失敗し、叱られたらやりなおし。おかげで温度調節は玄人並みになったのでした。
「ええ湯加減や〜」
「よっしゃ〜」
このお風呂描写、結構細かくて考証がしっかりしています。
ジョーは、ちゃんと板の上を踏んづけて入っています。「五右衛門風呂」は、底が高温なのでそうしないと火傷するのです。
風呂に入る順番は、男が先で女はあと。
一番汚れたジョーカスなのに、一番風呂。それが家長の特権です。
ジョーのあとは、お湯も汚くなっているとは思います。垢と汗と土埃が浮いとるんや。狭い湯船に入る北村一輝さんは、なかなか大変な演技やったと思うでぇ〜。
しかも、いい意味で色気がなくて、そこにあるのはただのおっちゃん臭さだけでした。なんだかリアリティを無視した入浴シーンが連発された、そんなNHK大阪朝ドラもありましたが。
生活感のある風呂って、そもそもいちいち、見る側にセクシーだと思わせるような入り方しないと思うんですよね。時代劇のくノ一だの、入浴剤のCMじゃないんだからさ。
ジョー、その場しのぎで逃げる
庭の畑でも収穫ができるようになりました。
畑の世話もきみちゃんの役目。合間にお勉強。川原家の暮らしは改善中です。
喜美子は百合子の世話もします。
しかも、直子はあんまり役に立っていないと言いますか。
「川原百合子さん、呼ばれたらは〜いやで。川原百合子さ〜ん」
直子は、妹をあやすばかりではあるのですね。とはいえ、ほほえましい三姉妹です。
ここでジョーは、体を壊したおやじの代わりに、週明けまで出張になると告げています。
「はい、いってらっしゃい」
「いってきます」
と、ここまではよいのですが、家を出ると、子供の目を避けて金の無心をしています。ジョーカスっぷりに安定感が出てきました。
「また足らへんの? この前持ってった金は?」
「オゥちゃんにラジオを買うた金や」
オゥちゃんとは、すっかり飲み友達になった大野忠信のことです。
ラジオねぇ……いや、いいんですけどね。そもそも計画的に金を使えたら、借金まみれにならしまへん。
「すぐに金に羽生えて、飛んでくなぁ」
「パタパタパタ〜」
不安そうなマツにパタパタというあたりも、ええカスや。
「飲みすぎておやじさんの顔、潰さんといてよ」
マツに大酒飲みだと釘を刺されるあたり、カスっぷりがとまらへん。しょうもないおっちゃんやな。
ジョージが家を出ると、二人組の男がやってきました。見るからにカタギではない風情。
「ちょっと見てきますわ」
「おたく、川原さん? 川原常治いう男訪ねてきたんですけど」
げーっ、ジョー、探されとるやんけ!
もう一人の男が、川原という家の表札見つけたと言っております。
ジョー、ここで喋る。騙す。がんばる!
「しょうもない男やろ、大阪で借金こさえて出てったいう。琵琶湖の向こうまで逃げとった。ずーっとむこう、琵琶湖の向こう。ほらほら捕まえて、ギャーしたったらええんや、あんな奴」
ジョーは、なんとか口車でそう騙して、立ち去ってゆきます。
早口の関西弁がいい味を出しています。
けど、ええのん?
借金取りは家を見つけたんちゃう?
妻子に借金取り対応任せてええの?
今朝もジョーカスっぷり更新や!
やはり朝はこうでないとな。
照子、喜美子の弱みを掴む
教室で喜美子は「冬休みの注意」という紙を貼っています。
これには望月先生も感心しております。
一生懸命勉強すれば読み書きができるようになる。きみちゃんは賢い子なのでしょう。
「絵もほんま上手ですね」
そう褒められて、うれしそうに見ていると……そこにあの子が立ち塞がります。
「誰のおかげ? 読み書きできるようになったん、誰のおかげかしら〜。ついこないだまで毎週のように家に招いて算数まで教えてあげたの、誰のおかげ〜?」
照子様です。
うぜえ。押し付けがましい。これは友達できひん。
喜美子は、このお嬢様対策を身につけてはいるようでして。
「なにして欲しいん?」
嫌そうな顔ながら、そう切り出すのでした。
さて、ここで大野雑貨店。信作はまた熱を出したそうです。
陽子は、ちゃんと食べさせているのに、体が弱いとこぼしています。
ここで忠信が、ラジオを抱えて磨いています。
ジョーが買ったラジオでした。そのため、ジョーがいつ帰ってくるのか、喜美子に確認してくるのです。もうお金ももらっているとか。
「やったー、すごいで!」
本作は、こういうところがすごいと思う。
ポンせん。
狭い手作り五右衛門風呂。
ラジオ。
現代人からすれば、むしろ貧しいと思えるようなものを、愛しんでいる人々の顔が見えます。
教科書や本で読むだけではなくて、いきいきとした人の反応があるからこそ、わかる感覚ってありますよね。
本作は、そういう躍動感があると思えるのです。
恋文のおつかい
ここで陽子が喜美子相手に、話を進めます。
「渡したいもんてなに?」
外では、真っ赤なコートに黄色い花束を抱えた照子が、ウキウキしながら待っています。
「受け取ってくれた?」
「ああ……」
「なんていうてた?」
照子から預かっていた、渡したいものとは……お手紙でした。
それを見て、大野夫妻もこうなっております。
「これ恋文ちゃう?」
「ませた子やなぁ〜」
「ほやけど自分の子が好かれて悪い気しいひん。うれしいわ」
陽子はそう言います。
うーん、それはどうでしょうね……。信作の気持ちを聞いてあげないと。
信作は両親のよいところを受け継いだようには思えます。押しに弱そうでちょっと心配ではありますが。
喜美子は、そんな「両親」の反応を伝えるのです。
「喜んでた……」
「ほな待ち合わせ場所に来てくれるやんな〜」
照子は喜んでおります。その文面とは?
墓地で待ってます 照子
墓地ねぇ……。これには喜美子も突っ込む。
「墓地なんて普通来えへんで」
「若い男と女が人目を忍んで会うとなれば、こういうところ来んねんで」
「人目忍んでなにすんの?」
「いかんことよ」
「いかんことって?」
「いけないことよ。いけないことをしたくなるのが、人を好きになるってことなのよ。お兄ちゃんもここでおうてた」
照子ちゃん、ませているどころじゃない!
こんな小さいのに、「うち、大阪の女やから……」みたいな重さがもうでとる! 正しくは信楽の女やけれども。
いろいろ吹き出したくなって、悶絶した方も多いかと思います。
当時は、18禁という概念もあやふやですので、照子ちゃんみたいな子は、いろいろと学んでしまうのです。
お母さんとそのお友達あたりが、お煎餅やお饅頭をつまみつつ、そういう話をしていたのかもしれへん。
「それであの二人、深い仲になってしもてな……」
「そら、男と女やしなぁ」
「やらし〜わ〜」
みたいなね。公式サイトの人物紹介を見る限り、ジョーとマツの結婚経緯はあんまり話さんほうがええかもしれんね。ネタにされるで〜。
※やらしいやろ!
※続きは次ページへ
3月まで「スイちゃん」として毎日のように見ていた川島夕空さん。達者な子だなぁと思っていましたが、ドラマでも凄いですね!
台所事情の悪さが生々しくて切なくなりますが、その分見応えがありますね。当時の庶民の暮らしやマインドを知る、いい勉強になります。
まだこれといった名言も泣ける場面も出ていませんが、面白いです。
至福のお風呂 濃い人が揃ったテルマエロマエ思わせました。風呂焚きできみこ鍛えられる。