スカーレット42話あらすじ感想(11/16)まずは絵付けを極めんと欲す

マツも起きてきて、朝食を食べないことを珍しがっています。
足挫いたところが痛み出したのか。そう心配します。

マツの貧血の薬をもらってくると声をかける喜美子。
ジョーは家を出て、これで終わりかと思えるわけですが……ガラリと出て行ってから、戻ってきます。

戸惑う喜美子に、こう切り出しました。

「話てなんや?」

喜美子は帰ってきてからでええと困惑しています。マツも落ち着いて話したいと言うのですが。

ジョー、突然キレる。週一の永山陶業のことを持ち出すのです。

「あんなもんはあかんに決まっとるやろ! 丸熊陶業やないとあかんのや!」

驚く喜美子とマツ。
ジョーは一方的に話します。

やるならちゃんと遊びでなくてやれ。
半端な気持ちでは金になる前にやめてしまう。

そしてこうです。

「弱音吐くやろ!」

「吐かんわ、うちはそんな根性なしちゃうわ!」

娘からそんな言葉を聞き取り、ジョーは顔をしかめつつ、大股でドンドンと歩いてゆきます。
それでこそうちの娘や。そういう嬉しさも感じます。

そんな父の背に、喜美子は訴えかけます。

仕事もやる。うちのこともやる。せやから絵付けやらせてもらうで!

「やったるで〜!」

喜美子はそう大喜びをします。

これはええ話……せやろか?

ジョーの態度は、結果的に丸く収まったとはいえ。
面倒くさいし昭和のダメなおっさん感がミッチリだと思う。

・ジョー、昼の素面だと一方的。夜は酔っ払ってちゃぶ台返し。いつ話をしたらええんや!

・ジョーの心理は視聴者でないと理解できない。家族からすれば結果オーライでもムカつく話ではある

・正面切って向かいあわんかい! どうして背中に語りかけるんや!

・愛があろうがなかろうが、理由不明、理詰め説得ができずに、こんなポンポン決めとったらあかんやろ

・当事者無視して酒の席でおっさんが決める。冷静に考えて最悪やん

この場に直子がいたら揉めそうではありますし。

結論から言うと、ジョーがビジネスで失敗続きの理由もわかった気がする。
柴田牧場を成功させた柴田泰樹とはどうしたって違う。酒の席で重要なことを決めちゃあかんでしょ。ノリと根性論で突っ走るだけではあかんでしょ。

ジョーに似ている喜美子ですが、正反対の部分もありまして。
喜美子は演説キャラなんですよね。セリフが結構長い。感受性豊かではありますが、理由をつけて説明する。

『なつぞら』の柴田家は基本的に理詰めの家庭でした。

なつがアニメーターとして上京する理由や説得の局面。
農協への協力。
こういう決断の背景には理詰めの説得がありました。

特に泰樹は理由がないこと、自分が納得できないことは通じない性格です。

トメクレジット(最後に出てくる出演者の名前)同士の泰樹とジョー。
よい意味でおもしろい比較だと思う。

草刈正雄さんと並べられて、北村一輝さんはまったく劣らないのが素晴らしい。
表情ひとつとっても、今朝も絶品のおっさんぶりでした。

九番弟子のキュウちゃん

ジョーという最難関をクリアし、喜美子はフカ先生に頭を下げます。
三番弟子にしてください!

そう言うのですが、一番と二番さんから衝撃の事実を聞かされます。

三番弟子は三日で辞めた。
四番はみつき。
五番もものになる前にやめた。

では何番目?
二番さんは九番目と言う。

「ほなキュウちゃん」

フカ先生は、筆と古新聞紙を渡してきます。

「あの、うちを弟子にしていただけるんですか?」

「ええよ」

「ありがとうございます! 九番、キュウちゃんがんばります!」

「キュウちゃんよろしゅう」

「よろしくお願いします!」

かくして喜美子は九番弟子のキュウちゃんに。

まずはまっすぐ線を引くところから。
最初は一本の線を描くところから。
それを繰り返し、繰り返し、息を吐くように正しい線を弾けるよう、何万本も描き続けるのです。

その間、食堂の仕事も続ける。
お願いして休憩どきにも練習。背後には八重子と緑もいます。

それから、フカ先生の絵柄の見本を真似る、模写も始める。
これも幾度も幾度も繰り返す。

集中する喜美子の顔を見て、フカ先生は怖い顔になっていると指摘します。

集中すると口が尖る癖は、子役の頃から意識して演技しているそうですよ。

「たまにはこういうのん描いて、よりみちしようか」

フカ先生はそう言いながら、蜜柑を置きます。

キュウちゃんの先には一番二番がおる。追いつきたいだろうけれど近道はない。
あってもオススメせえへん。なるべく時間をかけて歩く方が力がつく。

歩く力はな、大変な道の方がよくつく。
よう力つけとけ、今しかできひんことや――。

そう教えてくれるのです。

幼なじみのおしくらまんじゅう

喜美子は、照子と信作にも練習を見せます。
そして真剣になるとこんな顔になると、ついこぼすのです。

「もともと、そういう顔やんけ」

「ちゃうわ!」

照子に茶化されつつ、喜美子は語る。
もっとニコニコ、幸せな顔をしてやりたい。それでも三年かかる。照子は短大卒業後もやるのかと驚きます。

そしてここで、今日もウザ痛い信作が何かいうとる。
三年後は結婚してるってよ。

相手は卒業式の後につきあいだした子(今日子さん)かと照子は突っ込みます。彼女と結婚を考えているのかと。

ここが、ここから先が!
昭和のあかん青年らしさ満載や。

照子と喜美子は、結婚を前提にした交際相手がいるのかと思う。

それに対して、信作の理由はこれやで。たぶんな。

「俺モテるやん」

めっちゃムカつくわ。
心に決めた人がいるとお見合いを辞退した、誠意ある米屋の三男坊との違いもわかる。

調子ノリすぎぃ!
そういうムカつく意識は、セリフからわかる。
三年経ったら家庭を築いて、きみらより確実に幸せになっている。そうドヤ顔です。

高校の下級生からキャーキャー言われるのと、今日子ちゃんとギターを弾いて歌うことと、結婚したいかどうかは別なのですが、どうやらその辺を意識していない。
林遣都さんを一体どうしたいのか……。

ここで幼なじみは、しみじみとこう思ってしまいます。

「こんなんで三人で会うのなくなるかもなあ」

「よし、ちょっとやるか!」

「やるか、久しぶりに!」

三人がすること。それは草間流柔道や。

「とやあ〜!」

そう信作を押し合う喜美子と照子。
柔道ちゃうて季節外れのおしくらまんじゅうや。そう信作は言います。

本当に三人が子供のようにいられたのは、この日が最後――。
そんなナレーションが切ない。

そうして三年後の昭和34年(1959年)。
喜美子は21歳を迎え、運命が大きく変わる夏がやってきました。

来週へ。
近道がないというフカ先生の教えが、ブッ刺さりそうな予感がします。

女は敷居を跨ぐ前から、七人の敵がおるしなぁ

弟子入りに感激したとは思いますが、ちょっと気になりませんか。

喜美子の絵付けは、あくまで途中経過です。
陶芸家になると示されている以上、絵付け師として大成するわけではないのです。

「喜美子は絵付けがしたいんだね〜」ということを、見ている側としては思う。

実はそうでもないのです。

これは荒木荘でもそうでした。
大久保のように女中として道を極めるわけでもなければ、絵を習うわけでもない。

絵付けもあくまで途中経過です。

じゃあ喜美子は何がしたいん?

絵を描くことでなく、笑って描けないことに悔しさがある。
フカ先生弟子入りの理由も、笑いながら絵を描きたいことなんですよね。絵付けだけなら、永山陶業の方が楽かもしれないわけです。

喜美子は精神修養をしたいのだと思います。
それは草間流柔道もそうでした。

しかし、こういう曲がりくねったヒロインの人生が理解されるかというと、最近引っかかっていることではあるのです。

NHK東京の『半分、青い。』と『なつぞら』。
この二作のヒロインについて、こういう意見があったんですよ。

「鈴愛はどうして途中で漫画家を辞めるの? 何をしたいのかわからない」

「酪農をやると言っておきながらアニメを目指したなつは不愉快、根性なし、何がしたいのか?」

いや、むしろ、自分が何を言いたいのか整理しましょう。

鈴愛は漫画家経験を経て身につけた画力やアイデアを、発明家としても活かしておりました。

なつの北海道での酪農体験が、アニメのリアリティに結実させるところは、ちゃんと描かれたわけです。

どうしてこういう、進路変更のある人生を否定するのか?
あの『あまちゃん』だって、ヒロインは結局全国区アイドルの道を断念していたんですけどね。

これも近年朝ドラのドツボかもしれない。

NHK大阪のここ数年は、一本道でした。

幼くして何かを決めて、そこに突き進んで成功を収める。
京阪神実業家成功譚キャンペーンをしていたからには、それも仕方ないところなのでしょう。

男性である『マッサン』の主人公、昨年の主人公夫は、わりと蛇行ルートだったんですけどね。
しかも後者は、度重なる逮捕と、信用組合経営破綻寸前を伴う、被害者多数のルートでした。ドラマはごまかしていましたが、史実のモデルはもう……。

不思議なのは、男性の紆余曲折は藤堂高虎みたいな持て囃されれ方をされる一方で、女性はそうじゃないところ。
むしろ女性は、喜美子がそうであるように、家庭の都合で断念することが多い傾向すらある。

それなのに、彼女のような女性に「何がしたいのかわからない」と言いかねない。

なつのように成功したら「イージーでとんとん拍子」と悪意たっぷりに言う。

どういう根性しとんねん? 女性の人生をもうちょっと真面目に考えてみましょうよ。

朝ドラはそういう役目があったはずなんですよ。
成功した人生を追体験してウハウハ。それだけやない。

そこまで原点回帰や!

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

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