「お父ちゃんおはよう。昨夜寝てしもたやろ」
「ちょお飲みすぎた」
かったるそうな父に、もっかいちゃんと話したいと迫る喜美子です。
十代田さんも頭下げてる。どうか会うてください。
そう言うものの、ジョーは顔をざぶざぶと洗うばかりです。
「ええけど」
「ほな、会うてくれるん?」
「ああ、構へんよ。今日でも明日でも」
「ほんま? ほな、今日早速ええですか?」
「おう、わかった。せやけど結婚はあかんで。あいつはあかん」
ズコーッ! SEも入ります。
これを受け、商品開発室では作戦会議です。
「なんであかんのやろ?」
喜美子は悩む。そんなん悩むだけ無駄や。無意味な感情論やん。
それでも八郎は前向きです。
「けど、会うてくれるんやろ。会うてくれるだけでもありがたい。百回でも、二百回でも会いに行く。許してもらえるまで何回でも行く! 大丈夫。そんな顔しな。いっしょに乗り越えよな? さっ今日も始めるで!」
これを出社したばかりの津山がドアの向こう側で聞いています。あっ……!
「一緒に乗り越えよな?」
場面は喜美子の絵付け火鉢工房へ。
焼く前は淡い色で、こんなに色変わるんですね。
おもしろい!
陶芸って面白いですね。
ミッコー&ハッチーを推す社長夫妻
その絵付け火鉢工房に、社長夫妻が入ってきます。
そしてこう切り出します。
商品開発室で、朝から十代田と二人でどういうことなのか?
陶芸だけなのか?
照子が切り出します。
仕事のことは、全部敏春さんに任せているけれども、社員の揉め事や悩み相談はしている。そういうことが内助の功、力になるためのことだと。
照子も大人になりましたね。
そうそう、昭和の内助の功とはこういうことです。
昨年の放送事故ヒロインも、史実ではそういう方だったんですけどね。それがドラマでは、オカルトお告げと顔芸を繰り返し、公私混同しまくる謎の存在でした。あれは何だったのやら。
ちなみに、あの顔芸ヒロインの絶叫と、八郎の絶叫は違います。
後者は彼の特性をふまえたものですが、前者は何かの……ま、事故やろな。
照子は、社長夫人としての顔を見せてから、こう来ます。
「なんで言うてくれへんかったん! いつのまにそんなことになってたんもう!」
おう、関西のおばちゃん仕草やん!
大島優子さんの演技力が引き出されとる!
喜美子は信作から聞いたのかと確認します。
案の定そうでした。それだけでなく、社員でも噂になっているそうです。社員食堂でも、八重子と緑がはしゃいでいることでしょう。
それだけでなく、なんと、敏春は八郎本人からもキチンとと話をされているそうです。誠実やなぁ。
「ええ男やのう! ええのんつかまえたのう!」
「なんちゅう言い方や」
この照子の関西おばちゃんっぷりが完成度高い。たしなめる敏春も素晴らしい。生々しい。
なんちゅう台本と演技指導、そして演技や。敏春の本田大輔さんもええわ!
敏春としては、他の社員の手前もあるし、早く所帯を持って欲しいってよ。外堀埋め尽くしましたやん! やった!
喜美子はここで、こう言います。
「まだ許しをもらえてないんで」
ここで社長夫妻は意外そうな顔をします。照子は将来有望やで、と言う。
センス抜群の夫を信頼しているわけです。敏春さんが見つけたんやから、ええと。
敏春はその理由を告げます。
陶芸家として名を馳せてもおかしくない。釉薬をうまいこと使う。センスと将来性を高く買っている。
この前の工芸展でも惜しいところまでいった。賞も取れるかも。入選したら宣伝にもなる。
主力商品とは、人でもある――敏春の目敏さがクローズアップされますね。
慶乃川は、芸術性の高い陶芸を引退後にやるだけでしたが、前向きにそういう芸術魂を商品にするのが敏春なのでしょう。これはできる!
そんな陶芸家になったら、もうこれはマスコットボーイハッチー。そう盛り上がる照子。
ミッコーとハッチー。
確かにこれは宣伝材料バッチリや!
「ほんまええのん、捕まえたのう!」
「そやからなんちゅう言い方や。ほら冷えるで、ちゃんと掛けとき」
妻をやんわりと嗜めつつ、妊娠中だからと気遣う敏春。
紳士やん。この夫妻もええね。
本作の夫妻は、基本的に皆、仲の良い雰囲気が出ていてええと思う。ジョーカスですら、マツとの間に愛があると思えるし。
ジョーがヘマをしない限り結婚できる!
せや、問題はジョーカス攻略やで……。
そのころ、このジョーはちゃぶ台前で愚痴っておりました。脳裏に浮かぶ、喜美子の言葉です。
十代田さんには、陶芸家になる夢がある――。
「はあ、何が夢じゃもう、ふわふわしたこと言いやがってほんまにもう!」
おもろい。北村一輝さんは、海賊になると言うふわふわしてるのかよくわからん夢あって、俳優になったんですよね。
ドラマの作り手は、こういうジョーみたいな敵と戦って生きてきた。
「何がドラマじゃ。何が脚本家や。アホか!」
そういう敵を乗り越えてきた作り手が、渾身の反論をする。
クリエイターになるのは、女にモテたいからやない!
作りたいもんがあったんやろ? せやな?
そんなジョーの前に、ミッコー&ハッチーが頭を下げてやってきます。
マツと百合子はそっと迎えますが、援軍として使えるかどうかはわかりません。百合子は微妙、マツは期待しない。
さぁどうなる?
水曜日、鬱陶しい咳払いをするカスを倒せるのか?
カスは理詰めで攻めてもあかんからな。
暴力はもっとあかん!
【鳴かぬなら 鳴かせてみよう 不如帰】
ここが大勝負や!
あなたは八郎とつきあえるか?
八郎の言葉にキュンキュンする反応は、わかる。けれども冷静に考えたいところはある。
こいつはめんどくさいで。
・語り出す、話長い
→八郎の陶芸釉薬蘊蓄語り。ノート片手に、蘊蓄語り。
ここで「すごい! 賢い! さすがぁ!」ってなります?
いや、ならんやろ。ならないとは言い切れないけど、ちゃうやろ。
松下洸平さんも、演技指導さんも八郎の個性を踏まえておりますから、相手の理解度を確認しないまま、だーっとグイグイ話している。
こんなん昆虫標本だの、集めたプラモデル自慢始めたガキみたいな喋り方やん!
『なつぞら』ではイッキュウさん本人にもありましたが、その父がなつ相手に考古学トークを延々としていましたよね。
相手の相槌や理解度すら確認しなかった。その横で、妻は悟り切った笑みを浮かべていたものです。
これも八郎の個性なんだなぁ、うん。
「なんかキモっ!」と、そうならずに、自分の色を出したいメカニズムを語る彼に対して「ええなぁ」と言えるからこそ、喜美子なんですよ。
自宅でマーブルマシンを作ってるめんどくさい『半分、青い。』の律とか。
職場の階段でアニメ理論問答をしてくる『なつぞら』のイッキュウさんとか。
こういう独特の、相手の変なところを乗り越える。そういうヒロインです。
・絶叫&ローリング
→はい、この八郎絶叫。おわかりいただけたでしょうか。
胸がときめいて、特にいけないことがらみになると、感情がオーバーヒート起こして奇声を発するのです。
あれだ。『ゴールデンカムイ』の鯉登少尉。興奮すると叫んでゴロゴロ転がったり、早口でダーッと話すのは薩摩隼人の個性ではなく、彼の性格やから……。
※叫ばなければ、普通にナイスな男なんやけどな……
喜美子は「アホやな」で済まされておりますが、この時点で乗り切れるかどうか?
そこなんよ!
ムードが高まったときに抱き寄せてくるわけでなく、壁ドンするわけでもなく、叫ぶ。転がる。
こういう相手でもええんか?
そうNHK大阪は突き付けているんです。
・ご飯作るで!
→これもな……ええやん? って、そう思いますか。
喜美子は家事をしてきたし、大久保さん直伝の料理スキルがある。百合子も大好きです。
それが使えんのかもしれんのよ。八郎の方がうまいかもしれんよ? 謎のレシピノートあるかもしれんよ?
そういう女子力アピールできないことを、あなたは乗り越えられるのか?
「むしろええんちゃう!」と言えるのかどうか。ここや、ここなんや!
イッキュウさんもご飯をウキウキしながら作っておりました。
人間は、世代の影響も受ける。八郎もイッキュウさんも、世代的には「男子厨房に入らず」です。
でも、人間には時代の前に個性がある。
彼らの個性では、台所仕事への偏見がないのです。
「イッキュウさんみたいな男はありえない! この世代の男はそうじゃない、年下である私の夫もそうだった!」
うーん、せやな。荒木荘の圭介なんかせやったな。それは普通の男だったからやろなぁ。
人間には意識や規範でできんこと、ありえんこと。それとも物理的にありえんこと、二種類ある。
◆意識や偏見のせいで【ありえない(と、みなされる)こと】:イッキュウさんの家事と育児、10歳上の女性とつきあう『半分、青い。』のまーくん
◆あかん、物理的にありえんこと:史実では収監中に自宅で発明してしまった、昨年の放送事故モデル
ここが大事なんです!
「怪我しとる! ご飯作れへんな、作ってアピールしたろ!」
喜美子が、圭介のおはぎと同じ作戦を取ろうと思っていたら?
それができん。
それに、夫婦はよくても世間はどう思うか? という問題もある。
『なつぞら』では、なつが叩かれていました。
『半分、青い。』でも、鈴愛がそうでした。
その理由は?
イッキュウさんや律が特に嫌がっていない、むしろ楽しんでいるのに、こういう見方しかできん人がいる。
「なつや鈴愛は生意気! 男にやらせてだらしない!」
「申し訳ないと思わないの?」
「母として、妻として、女として、失格! 最低!」
「こんなに協力的な男なんているわけない! うちの父は、夫は……」
しかも、演じた女優や、脚本家まで叩かれまくってましたからね。
あれが世間の声やで。
それでも一緒に乗り越えられる?
ああいう世間の声に負けて、彼女らが自分たちのねじ曲げたら、どうなるのでしょうか?
そういう彼女らを苦しめている、普通に押し込もうとする残酷さ、滑稽さ、惨めさ。
変われない愚かしさを感じておりますか?
わかっとる?
わからんといかんでしょ?
そう豪速球を全力で投げてくる。期待しとるで!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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