スカーレット94話あらすじ感想(1/23)夢を邪魔するカネの壁

でも恋心は、状況次第で

さて、「かわはら工房」では。

新しい窯をもうひとつ、ここに置こうと八郎が切り出します。喜美子が驚いていると、あのカケラの色を出す窯だと八郎は言うのです。

「薪で焼く窯いうこと?」

「せや。やってみたいんやろ」

喜美子は戸惑いつつ、興味津々という顔にはなっています。調べてみいと言われ、目が輝きだす。

ここもちょっと複雑な構造ではある。
興味も、関心も、発案も、これから先の調査や何もかも。喜美子あってのものなのに、世間はこう言い出しそうではある。

「妻の願いを叶える夫あってのもんやな!」

「太っ腹や、たいしたもんや。妻のわがままを聞いてやるなんてなぁ」

そういう世の中の、見方の不条理を炙り出すようで、本作は怖い。

この場面を見て、安心する気持ちはわかります。
喜美子と八郎は分かり合える。そう信じたい気持ちはわかるのですけれども。

前述のマツの指摘の通り、喜美子はものづくりに夢中になると周囲を見る目がさらに鈍くなる。

八郎が、喜美子の集中力と観察力を減らしたいのだとすれば?
これは怖い話ですよ。

銀座下見もそうですが、八郎の怖いところは、喜美子の動機を原動力に自らの目的を達成するところだとは思う。

やめろ。そんなもん大河でやめとけ……そう言いたくなる気持ちはわかりますが、八郎は無意識でそれをやってしまうほど、高い知略の持ち主にも思えるのです。

恋心は、キッパリハッキリ意識できていて、かつ正しい相手へ向かうものならば美しい。百合子と信作が見せてくれる。

けれども、そうでないとなると……。

恋をする気持ちは変わらない。伝える手段は変わっても?

せやろか?
いかんでしょ。

それも立場と相手次第ではあります。本人にとってはそうでなくとも、世間はそう思ってはくれない。

※変わらないわけでもなくて……

伝統は変わり、消えてしまう。復活させねば!

喜美子は柴田に、薪の窯のことを相談しています。

丸熊は二年前、そのライバルも去年で撤退した。薪で焼くいうんは、もはや贅沢品。嗜好でやるもの。陶芸家ならやるけれど、そうでなければもうやらない。

この手の話は、色々なところにあります。

一例として伝統野菜です。
信楽なら、杉谷なすび、杉谷とうがらし、水口かんぴょう、鮎河菜だってよ。その土地や水にあっていて、独特の風味がある野菜が日本全国どこにもあったものです。

しかし、交配して病気に強い野菜ができると、そちらを栽培するようになってしまう。結果、地の物がどんどん消えてしまい、今やっと復活の流れができているものも多いのです。

進化ももちろん大切で、コスト面から消えゆくものも多数ある。喜美子はこの流れに直面しているわけです。

『なつぞら』でも、そういう側面がありましたね。

機械化でアニメーターの技術が変わること。

電気がなければ搾乳が止まること。

100作目以降の朝ドラは、高度経済成長期をノスタルジックに褒めるだけではなく、課題やマイナス面も描くようになってきております。意識的なものを感じるで!

にしても、あかん。もう信楽旅行する気満々でグルメを調べるからこんなことに。銘酒も忍者グルメもあるんやな。
と、それはさておき!

※酒もうまいってよ!

柴田は、陶芸家ならやっているとは言います。あまり大きくなく、川原家の庭でも出来そうとのこと。

ただ、それには実際に作った陶芸科の先生に聞くのが手っ取り早い。
そう言われてしまいます。

「前に穴窯の話、聞いたことある。なんちゅう名前やったかなぁ……」

そこへ武志が帰宅します。
元気いっぱいな彼に、父の跡を継ぐつもりはあるのかと、柴田は尋ねるわけです。

「お父さんの跡継ぐんけ? 陶芸に興味あるか? 先のことはわからんな?」

「はい、わかりません!」

「ははは、今は元気が一番やな。よし!」

そう武志に語りかける柴田は、閃くものがありました。

「よし? よし……よし? 慶乃川さんや!」

あのおっちゃんか!!!
喜美子が「売れん」とかなんとか失礼なこと言って、草間宗一郎に叱られた――あの、おっちゃんか。繋がったぞ、なんちゅう伏線や!

やっぱり本作は、ここにきて喜美子の原点へ回帰していくようです。

慶乃川の残したもの

「サニー」で喜美子と八郎は、慶乃川のことを待っています。

しかし、そこへ来たのはハンカチで顔を拭う、そんな昭和のサラリーマン純平でした。

これまた昭和らしい封筒で、穴窯の設計図やもろもろ入っています、と彼は単刀直入に渡してくるのです。
仕事の途中なので、ゆっくりしてられへんそうで。保険の営業マンだそうです。このあと、穴窯できたら火災保険に入ったらええんちゃうか。

なんでも彼は甥っ子だそうです。伯父は去年亡くなり、身内は彼一人だったそうです。彼の境遇が、ちょっと見えてきましたね。

「子供部屋おじさん」という差別的な言葉が最近ありますが、そういう存在はずっとおります。江戸時代の武家ですと、家を継がない二男以下は「部屋住み」と呼ばれました。

あの井伊直弼ですら、様々な条件が重なって家を継ぎ、かつあそこまで出世したのは奇跡のような展開。若い頃は死ぬまで芽が出ないだろうと、諦念の境地にあったほどです。

井伊直弼は生まれたときから波乱万丈~桜田門外に散るまで46年の生涯まとめ

ジョーの年代は戦死者が多いため、嫌な意味で目立ちませんが。フカ先生も妻子がいる気配がありませんし、慶乃川もそういう一人なのでしょう。

この時代設定で、独身男性をえへらえへらと「モテない〜」とギャグ扱いにするのは、デリカシーも時代考証もない、酷い表現になってしまいますが、頭がバブリーできちんと調べ物もしておかないとそういうドラマができあがります。
結婚できない缶詰泥棒をモテない男扱いしていた、昨年の放送事故はその典型例やな。

そんな慶乃川の穴窯は、もう跡形もないそうです。

理由は単純。維持費が大変。薪の代金がえらいかかって、一回焼くごとに何十万もかかるそうな。
売れるかどうかわからんもんを作るのに、薪の代金だけで何十万も払て続けられるわけがない――そう言われてしまいます。

あのカケラが作られた室町時代も、戦国合戦で森林はボロボロになっておりまして。徳川幕府が植林をしたため、かなり回復しているんですね。

戦国時代のリアリティを本気で再現するのであれば、背景を全部ハゲ山にしないとあかんのですわ。

喜美子が受け取った慶乃川のノートを開くと、そこにはこう書かれておりました。

「あかん」

庭でノートを見つめ、振り返る喜美子。

幼いころ、ちょうど彼女が今の武志くらいのころ、慶乃川とこう会話しました。

「陶芸家になったらあかんで」

「お金にならんことはしません!」

「ふふっ、たのもしいな」

喜美子の人生とは、本質とは? 何だったのでしょうか。

武志のように「わかりません!」とは言うこともできず、お金のことを幼いながら考えていたあの頃。

あのカケラを荷物に入れて、大阪へ向かったあの頃。

家族のために、生きる道を制限されて。結婚して、奥様として、妻として生きてきて。

やっと自分のやりたいことを見出したのに、また金という呪縛がふりかかってくる。

喜美子を見ていると、夢に向かってまっすぐ歩けた――そんな今までの朝ドラヒロインとの落差に愕然とさせられてしまうのです。

まっすぐ夢に向かうことすら、喜美子には贅沢だから。

【朗報】稲垣吾郎さん、『スカーレット』出演!

どでかい朗報が届きました。

◆‪稲垣吾郎さん、スカーレット出演へ 30年ぶりの朝ドラ

話題作りだの、テコ入れだの、そういう憶測の前に先手を打っておきたい。

役者だって、出演作を選ぶ権利は当然あります。

NHKで、朝ドラブランド。それだけではなく、稲垣さんが脚本や作風に手応えを受け、意義ある一手にしたということは考えたいところ。

この医師は、医療の歴史という新しい地図に、何かを記す人物になるのでしょう。期待大ですね。

NHK大阪の過去朝ドラがらみでは、考えたくもないバッドニュースもありました。

八郎と三津とのことを考えると、嫌な一致すぎてどんよりする。そんなニュースや。リンクは貼りませんので、各自苦いもんを噛み締めてください。

まぁ、NHKの過去大河と朝ドラがらみでは、今後もいろいろ出てくるとは思う。掘るならそこだとは思いますが。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

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