それに、通信簿は結局のところ、先生という他者の目を通したものではある。えらいと言っても人間です。
通信簿に先生のえこひいきがなかったはず、そう言い切れますか?
先生に嫌われ、かわいげのない言動ばかりするために、成績が伸びない。おまけに内申点を盾に脅された。そんな経験ありませんか?
でも、人間の目を通す、意識するということはある意味、優しいことでもあります。
喜美子の穴窯は、彼女自身と、室町時代のカケラが成績をつける。それに陶芸の神様か。
彼らは欺けない。
だからこそ、喜美子は厳しい道を歩むしかないのです。
というと、カッコいいわけですが……。
それは他人の助言すらカチ割る路線に突っ走ることとも紙一重でして。八郎はきみちゃんロードローラーにもう踏まれましたね……。
※ロードローラーや!
またアレを持ち出します。昨年の放送事故は、常にヒロイン先頭に、自称天才発明家に媚を売るべくヨイショする取り巻きがうろうろしていました。
喫茶店なんか、もう教団支部だもんな。そこでどれだけドヤ顔しようと、全く天才に見えなかったモンですわ。
そこをふまえても、喜美子の孤高と試行錯誤がまぶしいほどです。
脚本家はじめ、本作スタッフは陶芸の難しい特性を、プロットにきっちり埋め込んでいます。
眠る武志を見つめる、そんな喜美子も重要です。育児で張り詰めた集中力をほどいている。
天才の嘘臭さといえば、昨年のアレ。
「天才だから家事育児はしないんだー!(と、いう割に屋台でウダウダしている)」
これも、嘘くさいんだな。
ずーっと神経を張り詰めていればこそ、家族との交流でホッとする時間も必要なはずなんですけどね。昨年のアレは、ただのサボりやろ。
まぁ『自称天才の言い訳百科』として見るなら、昨年のアレは素晴らしい出来やった。あのヒロイン夫だったハセヒロさん(ちなみにご本人は家事を行い、かつその男女分担に前向きな方だそうです)が、大河で本物の誠意ある秀才を演じていると思うと、嬉し涙がこぼれそうです。
信楽のポパイとオリーブ
そこへ、ノックがありました。
百合子です。
武志の好奇心を物語る。そんな本棚が映り、百合子がこう語りかけます。
役場の近くにお義兄さんが住んでいる。武志は八郎と会っている――そう言われても、喜美子は穴窯が終わってから会うと言い切ります。
「お義兄さんには会いにいかへんの?」
「穴窯失敗したんやで」
「ええやんそんなこと……」
「ええことない! 八郎さんには会えへん、会えへんよ」
それが喜美子の中では、穴窯の一件で八郎を見返すことが、優先順位として上にあるのでしょう。ゆえに、融通が効かない。武将だったら確実に強いタイプではある。
となると、八郎は抜きにしたところで攻めるのがよいのです。
百合子はどうする?
「じゃ〜ん! 大阪の動物園の入場券、用意してくれたぁ! 武志と行ってきてぇ!」
おおっ、流石や、ゆりちゃん流石!
でも「用意してくれた」?
誰が?
「じゃじゃ〜ん! うちからは武志にお小遣い! ボーナスでたんよ」
ボーナスええなぁ。
そういうことでなくて、百合子と誰かが準備したらしい。
「えっ何? 用意してくれたて、何?」
「ポパイが用意してくれた!」
八郎かな? そういう誤解。今週予告編のアレは何かと気になっていた、そんな視聴者の思い。それに答える衝撃の事実や。
信作=ポパイ
※えっ……共通点は?
共通点が思いついたところで、せいぜいほうれん草を食べそうなところくらいしか思いつかんわけですが。
ちなみに滋賀県は、草津市、東近江市等がほうれん草の名産地だそうです。
※滋賀の農業って素晴らしい!
「うちはな、オリーブって呼ばれてる!」
「オ、オ、オ、オリーブ!?」
オリーブてお前……ポパイの彼女やけど、お前……なんやその、滋賀県民がよう知っていそうな、イタリアンチェーンみたいな名前は!(※【オリーブ 滋賀】で検索かけてみよう!)
なんかどう呼び合おうか決めているうちに、ポパイとオリーブになったそうです。
ええんちゃうか。放置でええやろ。信作と百合子の考えていることに突っ込んだ方が負けやで。バカップルを通り越した何かやから。
百合子はこう言います。
「ポパイ言うてたで。信楽以外の空気吸って、これからのこと考えてこいって」
百合子がそう言います。
この二人は、本当に絶妙でして。朝ドラ関連ニュースを見ていると、注目点は男女がどうなるか、カップリングの話題が多いわけです。
そういう風潮で、美人女優二人の幼なじみという役どころで、美形。それだったら恋愛騒動があってモテモテでもおかしくない。それが水掛け&ハンドバッグ殴打をやられまくる。恋愛はむしろ変だった。
それでいて、ピンポイントで正解を出してくる。
信作は新しくて、革新的で。モテるだけじゃない、顔以外の魅力を発揮する、画期的な人物であると思えるのです。
イケメンばかりといわれていた『なつぞら』。
「あれだけイケメンでもきもーい」と心ないことを言われた『半分、青い。』の律あたりから、始まっていた流れだとは思いますけれどもね。
イケメンがイケメンしぐさ。
そんなもん、味噌汁に味噌が入っているくらい当たり前で、改革やないで。
ちや子が待っとるで!
「象さんでかかったなぁ!」
「楽しかったなぁ」
動物園から帰る、喜美子と武志。天王寺動物園あたりですかね。
武志が風船をもらいに行く後ろ姿を、喜美子は見ています。エキストラさんまで気合が入っていますねえ。
武志が選んだのは、赤ではなく黄色。
「ポパイとオリーブにお礼いわなあかんな」
そう言いつつ、宿泊先へ向かう二人。住所があっているかと確認しつつ、アパートらしき建物を登っていきます。
「あっ、きみちゃん! 遅いから、迎えに行こう思てたんよ。武志くんか、大きなったなぁ!」
そこにいたのは、ちや子でした。
信作ポパイ最高や! 八郎なんていらんかったんや!(ええんか?)
喜美子と八郎の関係が、燃え上がってきました。
本作はミスリードが多い。
NHK大阪朝ドラ夫婦役がきっかけで結婚し、破局を迎えそうな夫婦を引き合いに出した記事も、最近は目立ちますよね。
「うーん、今回の朝ドラは叩くにしても難しいで。下手に突っ込むとなんかあかんし。せや、こっちのカップルネタを打ち込めばええやん!」
とばっちりで迷惑という見出しではあるものの、そういうええネタ見つけた感が漂っていて、どうかと思います……。
ただ、三津そのものがミスリードなんですよね。
喜美子と八郎が決定的にブチ壊れるのは、喜美子の熱気由来でして。彼女のデカすぎる器が、八郎をメリメリとぶち破る本質がある。
八郎が悪いわけでも、三津でもない。
きっかけは彼女だとしても、本質的な爆薬は喜美子由来なんですよね。
その爆薬がここまで高まったのは、今日レリゴーしながら喜美子がしみじみと語った、幼少期からの抑圧でしょう。
何が悲惨かって、ここまで吹っ切った喜美子には何の言葉も通じないところでしょう。八郎の存在感は、極めて薄いのがおそろしい。今日、一瞬回想で出てきただけでした。
喜美子は恋しがって泣かないし、思い出しもしないし。
居場所がわかっても謝罪しない。
目を覚ませと照子が言っても「少しもつらくないわ♪」と笑い転げそうなところすらある。
喜美子は今までの気持ちを全部メキメキと踏み潰す、圧倒的な破壊力がある。
「もらい感情」系ヒロインにうっとりした視聴者も。
「耐えるマツこそ理想や!」と満足げな視聴者も。
「女はイケメンの八郎に夢中やろなぁ」と高みの見物をしていた視聴者も。
「ハチさんやめて!」「【#八郎沼】とは……?」と思う視聴者も。
全員まとめて踏み潰し、喜美子オンステージを見守る視聴者だけが救われる、地獄のような展開へ……。
唯一の救いが、信作なんだよなあぁ。
歌って踊ってプロポーズでウジウジしているクリストフと同じで、こいつが救いという、割ととんでもない事態に。
もう、本作のレリゴーがおそろしい。すごい日々になったもんです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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