これぞ甲賀流忍術「エロエロ水着で誤魔化す」の巻
「武志、あんなあ」
喜美子が切り出す。
ヒッ! こういう時は、あいつの登場が待たれます。
はい、信作や!
戸が開き、これやで。
「信楽のブルース・リーが来たでぇ! わあー!」
※ホアチャア!
うん、見てきた中でも最低の怪鳥音やわ。
この当時、高校生はヌンチャクに夢中で。それはブルース・リーのおかげで。
「ホアチャアー!」という掛け声=怪鳥音は、『北斗の拳』が元祖かと誤解している方もいるかもしれませんが、そうではない。
ケンシロウはブルース・リーの影響をモロに受けたキャラクターです。ついでに言えば、秘孔の元ネタも武侠モノです。
ただ、根底に、中国への反発がある方は認めたくないんやろなぁ。昨年の放送事故がまさにそれよ。
※ヒロインが夫にこういうことを言うから、びびったで!
でも事実を見つめなくちゃ!
日本、めっちゃ中国の影響、文化的にも受けとるから。
そんな信作は、誰にも見られんように念押しつつ、謎のブツを手渡します。喜美子が不信感を抱いていると、こう来ました。
「俺と武志の秘密や、秘密!」
男には17、18にもなると母親には言えん秘密あるねん。自分が武志の頃には百個はあったとか言ってます。おう、あの痛かった青春時代な。
それでも喜美子は『麒麟がくる』斎藤利政(斎藤道三)レベルの疑いの眼差しを見せる。なんやの、この、毎朝醸し出す武将感……。
それに対して信作はこれやで。
「ピンクフィーバーズの水着写真!」
信作は、呆れる喜美子にミートソーススパゲッティの話を持ち出す。そうそう、当時はパスタでなくてスパゲッティやね。
百合子に粉チーズを返しておくよう頼まれて、こう言う信作。
「ほな頭に振りかけながら帰るわ!」
そうおちゃらけつつ帰ります。
武将感があるのは、喜美子だけでもないかも。
おちゃらけつつ密書を渡す信作の手口は、信楽だけに甲賀忍者らしさすらある。武将でなくて忍者やな。
※甲賀流忍術やで!
エロでごまかすのも古典的なんですよね。
隠したがるし、調べる方もアホらしくなるし。えらいブツの上に、エロエロなものを置いて、アホらしさに調査官が見逃す。典型的や。
それはさておき、男性視聴者の脳天をかち割るようなおっとろしい脚本だとは思いました。
隠したはずのエロエロなアレやコレやが、掃除を終えて机の上に置かれていたとか。
親が受け取った宅急便の品目や何やかやで、中身がバレたとか。
そういうトラウマ刺激を朝からやりかねん本作。
昨年の放送事故とは真逆の、男性視聴者を狙ってドラカーリスする感がおっとろしいで……。
信作は、このあと喜美子と顔芸コンタクトをして、念押ししています。
本作、林遣都さんの可能性を一体どこまで引き出すのか。
父・ジョーの後悔
マツは無事に、加賀温泉から戻りまして。
武志と向き合い、温泉饅頭を差し出しています。昔と変わっとったってよ。
昔、じいちゃんと行ったと武志も思い出している。病気で亡くなる前、二人で行ったって。ずっと笑わしてくれたって。
本作の滲み入るようなところは、ちょっとした昔話には、ちゃんと経験があったとわかるところです。このセリフを聞いただけで、ジョーとマツのあの旅行が思い出されて、懐かしくなる。
それと同時に、自分が聞き流していた昔話にも、こんなふうな思い出があったんだとわかって、胸がちょっと苦しくなる。
マツは真面目な話もしたと、ここで言い出すのです。
川原家の家訓「女に学問は必要ない」
これを、あのジョーが悔やんでいた。
学問は必要やったなあ、高校も大学も行かせてやりかったと、語っていたそうです。
ジョォオオオォーーーーーーー!
退場後も、一体こちらを何度感動させるのか!
武志はここで揺れ動きます。
「お母ちゃんも行きたかったんかなぁ」
武志に大学進学を進めるのは、そういう気持ちもあるからやろ。そう語られてしまう。
「自分ができんかったこと、子どもにはして欲しい思うねん」
しみじみとマツはそう言う。
おばあちゃんもそうかと聞かれて、マツは微笑みます。武志は武志の好きなようにしたらええ。ちゃんと話したらええ。
「思てること、聞いてもらいなさい」
そう語られるのです。
喜美子の目は厳しく、熱い
そのころ、喜美子は工房にいます。
喜美子は穴窯で作品を作るかたわら、大量生産も続けてきました。
本作は優秀ですから、封じてきましたね。
好き勝手して家計を考えない、ジョーと同じだという批判を、そうではないときっちり説明する。描写不足にてぬかりはない。
ただ、時系列をシャッフルしたり、ミスリードするために敢えて説明を後回しにしたり、難易度を上げてでもやりたいことをしているから、ちょっとつかみにくい。
これはすごいことだと思う。
あの『半分、青い。』バッシングには、こういう時系列シャッフルや何やかやで、朝食を食べつつ見ると飲み込めない仕掛けが多かったところもあると思えましたが。
意欲的なヒロイン、離婚、時系列シャッフル。本作はあのドラマで批判されたものを、練り込んでまた入れてきた。『なつぞら』もそうだったな。
武志は、そんな喜美子にばあちゃんの土産だと饅頭を差し出します。
「コーヒーいれてくれてたんや」
そう労われ、ササっと入れてお湯入れて終わりやと武志は言う。これすらできん、武志と同年代男性は多いんやろなぁ。
でも、そこも逃げ道を塞ぐ本作は強い。喜美子のようなおかあちゃんが育てていたら、違ったのかもしれない。
『なつぞら』のイッキュウさんは、こういう夫ならば私は救われるという問題提起で。本作は「そう育てたらええんやで!」と回答をぶん投げてくるから強すぎるわ。
喜美子は信楽焼のコーヒーカップで飲みつつ、ろくろを回すかと武志に投げかけます。
「いや……やる」
武志は、母の前でろくろに向き合います。
喜美子の強さは止まらない。
この眼差しは、母としての慈愛以上に、先輩陶芸家としての強さがあった。
戸田恵梨香さんは、眼光が半端ない。燃やす目だ。
八郎は喜美子を女として見て、陶芸家としては見られなかった。喜美子は母としてではなく、後輩として武志を見ている。
そう思えると、喜美子称賛だけになるけれども。
武志は、陶芸家になる以前に少年です。その心を気遣う誰かが必要なはず。
その答えはもう、おわかりでしょう。
おばあちゃんの話を聞いてきたのか?
今日は、喜美子と武志が目立つものの、マツが圧巻でして。
あの年代の女性は小柄で、出産経験もあってか骨も弱くて。腰も曲がって、よろよろしちゃっている。
善良さそのもので、ニコニコしていて。
そのかわいらしいおばあちゃんが、どれほど凄絶な人生を送ってきたのか、見逃されがちではあったと思う。
夫が出征。我が子は戦災死。自分も焼け出される。夫に代わって働く。夫は飲む・打つ・買う。
我が子のために身を削ってきた。写真を見ると、疲れ切った顔で。
そういうおばあちゃんの苦労を、ちゃんと見てきたのかな。かつてはともかく、近年の朝ドラではどうだったのやら。
一昨年の、モデルの人生を漂白しまくったおてんちゃん。
https://bushoojapan.com/jphistory/edo/2020/09/27/105083
そして昨年の、生前葬までされてバカにされ続けた武士の娘。
コメディだのなんだのそういう扱いにしていましたが、私は、心底、おっとろしいもんを感じ取った。
あれを許す作り手にも、SNS投稿する側も、それを集めてネットニュースにする側も。
敬老精神も、歴史に学ぶことも、先祖のことを知りたいという気持ちも、1ミリも感じられませんでした。
ただそういう人々をバカにして、笑い転げて自分が気持ちよくなればええ。そういう身勝手さと幼稚さが怖かったのです。
……と、感じ取ったんはNHK大阪局内ドラマ班にもいたんやろ? せやな!
今日は、親を思う子の気持ちを感じた回です。
戦争で辛い目にあった世代は、我が子を戦地に送ることだけはしたくないと願ってきたものです。
お花畑だのなんだの嘲笑的な意見もある。いざというときは戦うだのなんだの勇ましいことを言う、絶対に前線に送られない年代の声もあるわけですよ。
軍隊は19、20が兵士として最適で、30過ぎれば古参兵。三十路過ぎで「兵士になるで!」は、志願してもまずはねられます。将校は別やけど、そんなもん、革命でもない限り、いきなりはなれん。なったとしても、大敗する可能性が高くて危険。
彼らを見ていると、親の願いが通じなくて断絶したんやろなぁ……と、どんよりした気分になるもんですが。
戦時中の憲兵拷問をただのセクシー提供のチャンスとみなし、「私の推しも同じ目にあって欲しい❤︎」と、一日中投稿しまくる……そんな昨年の放送事故とその反応を見て、心底げんなりしたもんですが。
NHK内部にも危機感はあるんだとは思います。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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