スカーレット140話あらすじ感想(3/17)都合のいい感動はもうええ

武志の周囲は見守っている

「ヤングのグ」では、武志がちょっとダルそうにしています。

ここでカッコええ店長が、こう言い出します。

「来週から二日か三日にしよか。つらいやろ。立ち仕事つらいんちゃうか? 三時間か四時間にしよか」

武志が大丈夫と言っても、店長はこう言い切るのです。信楽の人が武志のことは知っているのでしょう。

これもつらいものがあります。
武志は変わらない日常を生きたい。けれども、周囲はそうはできない。

「ほやかて普通やないやろ。すぐに疲れてよっかかったり座ったりしとるやん。今日は暇やし、あがってええよ」

こういう店長みたいな、普通の人の善意があたたかい作品です。

武志が「ほな失礼します」とエプロンを外して降りていくと、真奈がいました。

「だいじょうぶ?」

「なんで、ここに?」

真奈は「約束してへんけど会いにきたんよ」と言います。検査のお礼がまだだったと武志が言うと、真奈はドナー一致せんかったと言います。

いや、ありがとう。力もろたで。ほんま感謝してたで。そう返す武志。見舞いのお礼も敬語で言うと、真奈は距離感を覚えたようです。

「あの見舞いから避けとる。なんで避けとるんや? 嫌いですか?」

「……まあ、そういうことや。とりあえずな。約束してへんから帰るな。ほな帰ってください。お元気でさいなら」

そう言い、去ろうとする武志に真奈はこう言います。

「待てや! どうでもええけど、さいならはやめてほしい。さいならは言わんといて」

「じゃあ……ほな」

「またな」

「またな」

「あ、そっちどうするん」

「あ〜……この辺いとく」

「ははっ、こ……この辺て。悪いけど、ほんまもう帰るな。ごめんな」

「お疲れ様でした」

「お疲れさん」

かくして、二人は別れます。これもつらいものがある。先の見えない自分と深い関係になれば、真奈を傷つけかねないという武志の決意。その垣根を乗り越える真奈。ほんまええ子や……。

言葉の使い方

ここも、関西弁のうまい使い方ですよね。ほんまに水橋氏は半端ないわ。

これが標準語、かつ女言葉だとどうでしょう?

「待って! お願いがあるの。さようならは辞めて。さようならって言わないで……」

お願いするポーズは出てきますよね。

「待てや!」は結構強い。ギョッとした方がいてもおかしくない。でも、だからこそ味があるわけです。

日本語の話し言葉、方言には男女の区別がハッキリしていないものも多いものでして。「俺」もかつては男女双方の主語でした。方言の「オラ」はそうですね。『あまちゃん』のアキも使ってましたっけ。

それを明治以降【女性は女性らしい】言葉が人工的に作られました。そこは後付けなので、令和現在、バリバリの女言葉を使うのは結構上の世代だけになっております。

これは突っ込まれてもいる。翻訳文学、字幕、吹き替えで、どう考えても原文では気の強い喋り方、しかも若年女性が、なんかまだマダムめい話し方をしていたりするわけですよ。

例えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』のアリアが、

「私、絶対殺すリスト作ったの。毎晩寝る前に、そこにある名前を唱えてきたわ」

みたいなこと言ってたら「なんか悪いもんでも食ったんか……」となるわけです。

◆ ‪王女の字幕セリフも「車を送ったよ」 女性語はいま

本作は言語の使い方が綿密です。何せ、滋賀、大阪、京とことば指導が別にいるわけです。

年代、性格、立場、出身地でも言葉がかなり違いますね。年代が上で、女中で、かつ出身地が京都寄りと思える大久保は柔らかい言葉遣いです。マツもかなり柔らかい。

お願いするニュアンスは使わないようにしている。そこを読み取れていないのか、あらすじで喜美子がお願いニュアンス濃厚な女言葉を使っているのを見ると、違和感が半端ないものがあります。

そこも考えんとな。

一瞬を生きること

そんな真奈を振り切ってまで、武志はどこへ向かうのか。

それは智也の元でした。眠る智也に、こう声を掛けます。

「おう、起こした?」

「う〜ん……」

「あ……ごめんな」

「ははっ嘘や!」

智也は眠ったフリをして、武志を騙してやったと笑います。それからこうです。

「来てくれたん?」

「うん」

「ありがと」

「調子よさそうやな」

こう白血病の二人は語ります。このあと、庭を見る喜美子の姿が映るのでした。

【感動ポルノ】はもうええ

※Eテレもよろしくな!

日高も、まだ大丈夫やと喜美子に言いましたけれども。

嘘やん……根本的な白血病は治ってへんやん。そう言いたくなりますよね。

でも、いつか来る終わりではなくて、今を生きて楽しむことを大切にしているのだとは思えます。

本作はこんな状態になっても、明るいから不謹慎と言われる。昨今何かと話題の不謹慎。

それってどうなんでしょう?
それがグッと身近に思えるのは、世間全体が巻き込まれたからでして。

本作の圧巻だと思える点は、Eテレと総合枠の垣根を薪にして、穴窯で焼いたようなところかもしれない。

病人、障害者、犯罪被害者……そういう弱者は、お願い目線でおとなしくしていないと、叩かれるんですよ。

例えば性犯罪被害者は【魂の殺人】という呼ばれ方をした。深刻な影響を考えれば妥当な表現ですが、まだ生きて笑えるのだという反論が最近はなされているのです。せやな。性犯罪に苦しんだ人が、花持ってデモしてもええんやで。

なんでそんな縮こまらなあかんの? 救う側が気持ちええから。そういう話ですわ。

かわいそうな誰かを救う。これぞ【感動ポルノ】。嫌な話ですけど、テレビはそこで視聴率稼ぎするのが当然になっていた。

そこへ、Eテレは攻め込んだわけですよね。

◆ ‪『24時間テレビ』を“揶揄”するEテレ『バリバラ』が大反響…障害者の切実な問題に迫る

「朝ドラでつらい話せんといてや〜」

「難病ものらしくいつも悲しい顔しとったらええのに、無理に笑わそうとしてむかつくわ〜」‬

そういう意見には、これやで。

「それ【感動ポルノ】は自分の都合ええとき、都合ええ展開で見たいだけやん。やらしいわぁ〜」

もう古いで。

思いを込めて作品作って、恩返しをすること

思いを込めて作品を作って、恩返しすること。これは喜美子だけのことでもない。ドラマの作り手もそうでしょう。

『なつぞら』は、北海道開拓史とアニメ、両方取り込むために、敢えてモデルの経歴を変えております。

本作もそうで、喜美子の出身地、離婚の理由、家族構成を変えてあります。

こういう「モデル」ではなく「モチーフ」として変更を入れると、叩きが出ることは理解できました。

「なんやねん、モデル通りやれや!」

コレな……。
モデル通りにせんとあかんのであれば、創作の意味がないってわかっとります? んなもんドキュメンタリーでええやん……。

何度でも出します。
『ゲーム・オブ・スローンズ』な。

あれはイギリスの薔薇戦争が背後にあるとされております。けれども、現代社会に合わせて女性君主が増えていたり、問題提起のため庶子や障害者を主要人物として出す。

それに対して、

「なんやあのティリオンは。あんなんあの時代なら、赤ん坊の時点で殺されとるやろ。ブランみたいな歩けん奴が活躍するのもありえへん。アリア? 女のくせにあんな強いなんておかしいわ」

という奴がおったら、これやで。

「アホちゃうか!」

※アリア最高や!(ネタバレ注意)

いくらなんでも理解力なさすぎん? そうなるやんか。

大河でもそうなんですけどね。史料残ってないなら描くなとか、創作の意義を理解できんで文句つける人多すぎん?

「なんやそれやと、わし、あかんやん……」ホメーロス

「その理屈でいうと、俺も廃業ですわ……」シェイクスピア

「ワイもな……」羅貫中

「なんでそんなんを、歴史創作取捨選択のアレを言われなアカンのや!」曲亭馬琴

創作は、考証さえすれば自由にできる。そこに社会風刺をこめるとか。変更するとか。取捨選択するとか。それはむしろやるべきこと。

喜美子が想いを込めて陶芸するように、ドラマの作り手がしてもええんやで。

『三国志』のことを、正史だけ読んで語られてもあかん。『三国志演義』を勉強せんとあかんのよ。

古典でなくて、もっとあとのことを考えてみましょうか。

手塚治虫『どろろ』に出てくる「ばんもん」という関所は、板門店(※朝鮮半島の南北国境)やベルリンの壁がモチーフとされております。エンタメに政治情勢持ち込んどるやんけ。彼は東西冷戦を憂慮しとったんやね。

これはアニメ版でも踏襲されていると感じられます。

※2019年アニメ版

クリエイターはそうして、現代において直面する問題、自分の感じたこと、今描くべきだと思った想いをこめて、作るわけです。

創作の意味も考えずに、そこにケチをつける。

SNSの広がりで、誰もが意見を言えるようになったことはよいことです。

けれども、誤読していても発信できるし、叩きコメントを求めるメディアはそこに食いついてフィルタリングする。意見の妥当性よりも、発言者の肩書、属性で良し悪しを判断される。

未だに「こんなん(周囲が認めて、この名前さえ出せば賛同者が出る)『半分、青い。』と同じやで!(みんなそう思うとるやろ。いいねしてや!)」と、言い続ける人とかな。

それでええんか?

いかんでしょ。作り手も把握して、そこはフィルタリングして受け止めていると思いたいところではありますが。

ま、そんなこんなで、私はずっとこの先、“クソレビュアー“、妄想ばかりを言うアホという立ち位置で結構です。0点と言われようとかまへんよ。

ただし、本作における医療描写のようなことは、真面目に考えていくつもりです。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

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