武志の枕を見た信作、その横の照子
「みんなの陶芸展」に向けて、喜美子と武志がそれぞれ作品作りを進めているうちに、12月を迎えました。
そこへ、照子と信作がやって来ます。
照子が時間あるかどうか喜美子に確認して来ると、照子は「あっ、うちやないで」と言います。
「俺?」
はい、この信作の態度。経緯を知るとどつきたくなりますが、信作は信作ということで受け流しましょう。
ここで二人は家に入り、武志はいるかと聞いて来る。八郎が水枕を持って、そこへ出てきます。微熱が出ているそうです。
顔見てええかと聞かれ、二人は奥の部屋に横たわる武志を見ます。二人とも、言葉を失って見るしかない。
ここで信作は、枕についた抜け毛に気づきます。
ボーッとしているか、観察眼が鋭いか。中間がない、そんな信作らしいところではあります。
信作は抜け毛を手に取り、目が泳いでしまいます。
照子は沈痛な顔。
信作は静かな動揺。
演技をわざとらしく作っていない。ただただ、その場にある悲痛を映す。そんな二人の演技に圧倒されます。この二人の顔を見るだけで、どれほどつらい状況か、わかってしまうのです。
本作は事前発表されるあらすじと、実際の描写にズレが生じやすいドラマでした。
照子と信作が、やつれた武志に驚く。そういうことは言われてはいた。てっきり病室か、泣くのかと思ったら、こんな静かな、夕日の中での場面でした。
喜美子と八郎は、そんな武志の体調について話しています。
腰がだるい言うてたのをさすってたら、寝てしもた。前の日、新婚旅行の話をしに来た学とはしゃぎすぎたんやろ。そう話し合っています。
氷枕の中身を取り替えて、喜美子が持っていって武志の頭の下に置きます。
喜美子が腰をさすってやると、信作がこうおどけます。
「俺もさすったろ!」
「おうありがとう……いらんわ!」
そう追い払って、喜美子は一人、我が子の腰をやさしくさすり続けます。
そしてそっと、額の汗を拭うのです。そこにいるのは、我が子を思うやさしい一人の母でした。
大野信作はいつでも本気やで
「寝た?」
「うん」
「ごめんな」
喜美子が出てきて、八郎と短く会話します。
八郎は仕事をどうしているのか。そんなツッコミもあるようですが、そういうことだから社会がダメなんやないかとは思った。
そら、難病の我が子を気遣ってバースだって退団帰国するし、骨髄ドナーが提供辞退する羽目にもなるわ。困った人が仕事をあけても回るようにしてこそ、ええ会社であり組織やないの?
仕事どうしてんの、とか、そういうツッコミはごめん被るわ。
ここで八郎が、照子と信作にお茶を出すのですが。不器用だけれども、いやいやではなくて、素直に出すおっちゃんくささがいい味を出しています。
喜美子と八郎は、親友二人にこう言います。
「今日みたいな日もたまにはな。ほやけど元気やで!」
「元気やで!」
「おう」
元気って……そんなわけないだろうに、強がる両親がつらい。
ここで、照子と信作の本題に入ります。
なんでも「みんなの陶芸展」、演歌歌手が呼べなかったってよ。信作は本気だったのかと突っ込まれ、こう返します。
「アホか! 俺はいつも本気や!」
信作な……最終週になってまで、ほんまに理解されにくい人物像で。
優柔不断、プレイボーイを気取ってみただのなんだの言われておりますが、クソレビュアーの解釈としはこうや!
信作とは?
・優柔不断! 本気でやっとんのか?
→アホか! 信作はいつも本気や! ただ、突拍子もない、状況次第で選択を変えるからそうなるんやで。
ちなみに戦国時代でそれをやると【表裏比興】(※状況次第で同盟相手まで変える真田昌幸のこと)言われてまうけどな!
・プレイボーイを気取ったのに、結局は百合子かよ
→遊んどるつもりはないんやで。むしろ襲撃されとった、災難やんか。百合子は「全人類苦手」と見抜いとったけど、それやで。思春期になったらモテるとええらしい。
そういう世間の規範に、伊賀の祖母の死を契機にコミットしようとして、迷走しただけや。わかりあえる人間の範囲が極端に狭くて、百合子しか対応できんのや!
滋賀県枠で、実力もある。そういう林遣都さん以外に、誰ができたのか。そういう難役を、100でやれと言われて200でやりきった。見事以外、言葉が見つからん。
林遣都さん最高や!
このまま滋賀の宝・石田三成役いけるで!!
ここでは信作のことばかり書きましたが、家庭菜園照子を演じ切った大島優子さんもほんまにええと思いました。この親友三人は、記憶に残る熱演です。
さて、信作は至って本気です。
ただ、なんで演歌歌手か理由がわからないわけです。別に演歌が好きという描写もないわけでして。やっぱり火まつりのしょうもないリベンジやろ? なんやその、無駄に執念深いこだわりは。
八郎はここで突っ込みます。
「そもそもなんで陶芸展に演歌歌手……」
おう、せやな!
そんなわけで、照子はもっとマシなゲストを考えて、そのうえで喜美子に頼みにきたのです。
恩返しをする そして恩人たちに、会いたい
それはジョージ富士川でした。
滋賀県枠の西川貴教さんがビッグゲストというあたりに、本作の技を感じます。
「いくら信作の頼みでも……功労賞取ってますます……」
陶芸教室は二つ返事で引き受けた喜美子も、これには迷いがあります。
ここで信作は、企画書を見たのかと言い出す。このプレゼン野郎! そう言わんで聞いてあげましょう。焼き物の街として、信楽全体を盛り上げるためのもの。すなわち……
「これは信楽からの頼みや!」
「ええなあ、信楽への恩返しや」
そう押される喜美子。こう言われては腹を括るしかありません。
幼い自分を受け入れて、ここまでしてくれた土地、それが信楽。その恩返しをせなあかん。
「また会えるかな、ジョージ富士川先生。会えたらええな……」
「今いくつになってんやろな」
「ますます派手になってんちゃう」
そう皆で彼への思いを語り合うのでした。
そのころ工房では、真奈がスケッチブックに向かい、武志を描いていました。それを見ると、あまりにへたっぴぃな絵がそこにはあります。たこ焼き、粘土、絵。不器用なんやね。
「ぶはっはははは! 何それ! 手ェがもうこんな!」
武志もこれには笑ってしまう。
喜美子の八郎の絵は、手抜きというだけで雑なりにセンスがありましたもんね。画力設定が丁寧なドラマやで。
純粋に下手くそなだけで、特に失礼なわけでもないし。誰を描いても下手になるんでしょう。
真奈はええ子やな。裏表のない、ほんまにええ子や。こういう子がここにいること。それが武志の幸せでしょう。
そして喜美子は、マツ譲りの達筆で、手紙を三通書き終えました。
庵堂ちや子
草間宗一郎
ジョージ富士川
喜美子の恩返しは続いていきます。
危難の時こそ、問われるもの
直子は、武志と真奈を励ましただけではない。
大事な愛に気づきました――。
と、綺麗にまとめてもよいのですが、めっちゃ怖くて、ゾッとした視聴者もいるとは思うのです。朝ドラ豪速球デッドボールは健在やで……。
そこで問題提起です。
それは何か?
布袋側の視点です。
これは彼の目線からすれば、なんやわけのわからんうちに別れを決められたことになりますよね。
しかも、自分としては【理論武装した正論】に、なんかちゃうとお気持ちで思われて、別れることになっとった。なんや掲示板やSNSで見るような【お気持ち】で団結して勝手にこちらを排除してくる女ども……って図式になりかねないわけです。
でも……せやろか?
ほんまに布袋は【理論武装】できていたのか?
過剰に骨髄移植を恐れる【お気持ち】が根底にあって、それを理論でコーティングしていなかったか?
その結果、直子の【お気持ち】を軽んじていた部分はありませんか?
男だろうが、女だろうが、【理論】も【お気持ち=感情】もある。
勝手に男脳、女脳、男は解決脳だの、右脳だの、ようわからん古いことを言うてるだけやないの?
3月ということもあり、思い出すのです。
震災の避難所で、妻子の分まで配給おにぎりをむしゃむしゃ食べてしまっていた男性のことを。これは阪神淡路大震災でも目撃談がありました。
あのジョーだって、喜美子と直子がポン煎餅すら食べられない中、酒を飲むカスっぷりを見せていたわけでして。
日本人だからとか。こいつが特殊だとか。そういう単純な話でもありません。
世界各地の被災地や貧困家庭で見られる現象です。
タイタニック号という【例外】が有名になりすぎて誤解がありますが、事故や災害でも批判成功率は成人男性が最も高く、女性や子どもは被害に遭う確率は高いのです。
支援団体はそれを防ぐために知恵を絞っています。
女性や子どもにどうやって物資を直接届けるのか?
それだけではなく、女性や子どもに学業やスキルを教え込み、給付だけではなく稼げるようにするとか。
布袋のことから話が大きくなりましたが、こんなときだからこそ、考えんといかんことはあるのです。
目の前の危難をなんとか乗り越えたのに、離婚届が待っていた。そうなってええんか? いかんでしょ。
ピンチの時こそ、相手の不安を抱える【気持ち】を考えたい。【理論】で【お気持ち】粉砕したとSNS投稿しとる場合やないで!
鮫島は、あのアホさがええやんな。顔もええけど、思いやりはいつもあって。直子探して走り回ったり、うな重頼んだりしてくれました。
気持ちに寄り添うことにかけては、賢いだけの布袋では追いつけないものがある。ほんでこういう男こそ、ピンチの時に助けてくれたりするものなのです。
鮫島ぁ、お前が必要や!
何がしたいのかとかなんとかいう、そういう外野は無視やで、無視!
これはおっとろしい問題提起だとは思います。
病気や災難そのものも怖い。
それだけではなくて、そこで人を粗末に扱ったからこそ、思わぬ落とし穴に落ち込むこともあるのです。
この状況を狙ったわけではないでしょうが、なまじ、深く丁寧に作っただけに、いろんな問題提起がある力作になっております。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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