リリコとシローが上海に向かい、隼也とつばきが駆け落ちしてから、4年……。
昭和14年(1939年)。
北村笑店も29年目を迎えました。
ただし、お笑いにとって世の中の環境は万全ではありません。
戦争が拡大しつつある厳しい時局であり、その中でどうすればよいか。
てんは、変わらず奮闘を続けます。
勘当というより遠方の若夫婦では……
時は流れまして。
おてんちゃんの着物もシックに。このくらいでちょうどよいと思います。
セーブポイント仏壇前で、風太が「名無しから手紙が来とるで~」と音読スタート。
送り主は隼也でした。
川崎の工場で働きながらつばきと暮らし、藤一郎という2人の息子さんはハイハイもできるようになったそうで。よかった、よかった。
でも、定期的に手紙は来るあたり、なーんか全体的に対応が軽くありませんか?
これ、単なる遠方に住む息子夫婦やないの。もう許しちゃえばいいじゃない。
この調子なら中之島銀行の頭取も
「孫の顔が見れてヽ(´ー`)ノ」
とかなりそうです。
乗り気の男性 渋る顔の女性
北村の事務所では、陸軍の少佐が従業員前に訓示中です。
おそらくや「戦争が迫っている」という緊迫感を言いたいのでしょう。
この段階ですと、まだ極端に悪化しているわけではなく、エンタメが愛国戦時色一色になる手前ではあります。
ですので、今のところは応接室で社長相手に噛んで含めるぐらいの方が自然な気がするんですよね。
愛国芸能にしてくれと言われて、アサリと万丈目はまんざらでもない。
一方でてん、トキ、楓といった女性は乗り気ではありません。
女性は絶対に戦争反対というパターンですね。
そんなに単純な話でもないと思いますが。まぁ、この辺はどのような描き方をしても難しいですよね。
栞も国策映画に巻き込まれているようで、看板女優が軍人と写真を撮っています。
栞は軍部に協力する不満をペラペラとおてんちゃん相手に愚痴るのですが、そりゃカッコ悪いってもんでしょ。
「恋愛映画作れなくて嫌だ。こういう時代こそ恋愛が必要」なんて調子ですからね。
そうではなく、
「おかみに都合のいい娯楽しかできないようじゃあ、本物の芸術は育たないんだよ!」
ぐらいのことを言えばいいじゃないですか。
コワモテの軍人相手にチクリと反撃するから、見た目が優男でも筋の通った気骨を感じさせられるわけで、地蔵のようなおてんちゃん相手にスカしたこと言ってるだけなら、単なるスケコマシでっせ。
もう、モデルとなった小林一三氏のことを持ち出すのも嫌ですけど、本作の栞様には芸術や娯楽への造詣の深さや、情熱というものが感じられないのです。
おてんちゃんはかつて栞が撮影していた、『マリアの恋』がよかったとか相変わらずなトンチンカンを言い出します。
チラッとポスターが出てきただけで、何がよかったのか、こちらは全くわかりません。まぁ、マーチン・ショウの実態すらやらない本作ですので……。
新聞社からの依頼「お笑い慰問団を作って」
北村笑店に、楓の新聞社時代の上司が来ました。
なんでも「お笑い慰問団を作って欲しい」とのこと。てんは芸人に危険が無いのかと心配しています。
ここで当時のニュース映像もチラリと挟まれました。
乗り気ではないてんですが、風太は前のめり。北村の宣伝もできればいいと言い出します。
まぁ、ある程度は見えてきましたね。
軍部への協力は全部、風太やその他の男性陣のせいにしようという流れでしょう。
てんは仏壇前で隼也の手紙をわざとらしく読み上げます。
と、そこへ風太とトキがやってきて、慰問団の話に。
トキは震災の時みたいに心配するのは嫌とか何とか。飛鳥のためにも行かないで、とか。
風太はむしろ飛鳥の自慢になりたいから行くと言い出します。
ここで風太とトキは喋っているのですが、北村最高権力者のおてんちゃんは難しい顔をした地蔵です。何も言わずに「むむむ……」顔をしているだけです。
考えていることは全部ナレーションが説明してくれますが、それが聞こえるのは視聴者だけです。風太とトキには伝わりません。
一体いつになったら地蔵の呪いは解けるのでしょうか。
今日のマトメ「ヒロインの戦時協力どうする問題」
以前「育児描写は魔のターン」と書きました。
今度は、いよいよそれを上回る大波「戦争」です。
『とと姉ちゃん』や『べっぴんさん』のように、戦時中のヒロインが若く、流されるしかない……それならばまだしも、本作のようにある程度権力を持った、実業家女性だと厳しいですね。
ちなみにヒロインの戦時協力が消されるのは割とよくあることで、再放送中の『花子とアン』でも、村岡花子の戦時協力はなかったことにされています。
おそらくや本作も「平和を愛するおてんちゃんは嫌がったのに、風太に流された」路線でしょう。
そうやって一切の手も汚さない人物像を作り上げた結果、おてんちゃんはただの地蔵になっているというのに。
ちなみに近年、ヒロイン戦時協力ということをぼかさずに、きっちり取り上げたのが『ごちそうさん』でした。
・愛国婦人会のタスキをかけて、ノリノリで戦時協力
↓
・戦争の影響で物資が不足。料理こそ命であるヒロインは、節約レシピで作った料理が不味いことに怒る。戦争は駄目だと気づく
↓
・息子も戦死してしまい、戦争の厳しさ、哀しみに傷つく
とまぁ、上記のような流れで、この二段階目がうまいと思うんですね。
日本人として、お国のためならばよいものだと思っていた戦争。
しかし、自分にとってかけがえのない「食」の楽しみを奪われ、その悪に気づく――ドラマの根幹となる「食」が戦争反対の動機にからんでいる。巧妙な展開でした。
もう、恥も臆面もなく、そのへんを真似したらどうなんでしょう。
「国のためになる慰問団ならええやん!」
と派遣もするし、協力もする。
それでできた落語も漫才もトコトンつまらないもので、人を笑顔にするどころではない。
気がつけば、焼夷弾で家も寄席もすべて焼き尽くされ、笑顔どころか流す涙すら奪われてしまう。
しかし!
ドン底から、戦後の笑いを取り戻すために奮闘する――これでダメなの?
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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