半分、青い。26話あらすじ感想(5/1)鈴愛は東京に出るしかない

ときは1989年。
高校三年生の楡野鈴愛は、厳しい就職活動をなんとか切り抜け、堅実な農協に就職が決まりました。

しかし、そんな折、憧れの漫画家・秋風羽織から
「弟子にならないか」
と誘われます。

なんとしても羽織の弟子になりたいと思い詰めた鈴愛は、ついに母親の前でその思いを口にしてしまいます!

 

そしてスーツは破けてまった

スーツを脱ぎながら、内定を取り消してくると言い出す鈴愛。
東京で漫画家になる、秋風羽織の弟子になる、と言います。

しかし、興奮気味ですし、元々そういうことも得意ではありませんし、鈴愛の説明は無茶苦茶です。

楡野母娘の修羅場に巻き込まれてしまった幸子は、スーツを持って帰ろうと、その場を収めようとします。

「置いてって! お代も払っていないし」
そういう晴ですが、幸子はもともと就職祝いでプレゼントするものだから、と誤魔化そうとします。

「いい、私が払う!」
強がる鈴愛。
それに対し、晴もプッツン。
「自分で稼いでもいないくせに何言っているの!」

母娘でスーツを引っ張り合い、ビリッと嫌な音が……。
調べると袖がほつれてしまいました。

律相手に作戦会議していたのに、スーツを買ってもらった罪悪感から最悪のタイミングで、しかも最悪の相手である晴に打ち明けてしまった鈴愛。
どうなってしまうのでしょうか。

 

「親に挨拶もないのか」の宇太郎に菱本が本気でムカッ!

楡野家は、すっかり息苦しい雰囲気になってしまいます。

そんな時、秋風羽織の事務所「オフィスティンカーベル」から楡野家に電話が。
かけてきたのは、マネージャーの菱本若菜です。

ピンクハウス風の甘ロリータ服が特徴的な菱本。こういう服が好きな人って、見たまんま甘くてガーリーな性格の場合もありますが、どんな服装だろうと好きだから着こなす、鋼の意思の持ち主である場合もあります。
菱本は後者ですね。

ここで電話を取ってしまったのが、宇太郎でした。

宇太郎からすれば、かわいい一人娘をたぶらかされたようなモノ……ではあるのですが。

「あんたたちねえ、うちの一人娘を貰うのに、親に挨拶もしないってのかい。こちらからすれば、赤子の手を捻られたようなもんだよ。うちはすったもんだになってんのよ」
あーあー、言っちゃったよ。思ってもそれはいかん。
でも、言いたくなる気持ちもわからなくもないかも。

と、同時に、菱本が本気でムカッとするのもわかります。
まるで詐欺師みたいに言われて何だこれ、ってなりますわ。

「おっしゃる意味がわかりません」
「あんた日本語わかるの?」
挑発されて、完全に怒りで頭がカーッとなった菱本。
ただ、宇太郎とは違って、テキパキと立て板に水で話しかけ、相手を圧倒するタイプです。

 

メガネを外し、立て板に水のように追い込む菱本

「あれは相当怒っているな」
このヤリトリを横で聞いて、羽織はそう呟きます。

「日本人ですから日本語はわかります。秋風羽織は、秋風塾をやるつもりです。全国から少数精鋭の者を募り……」
「何が言いたい?」

こう言われて、菱本は眼鏡を外します。
うわっちゃ! これは本気を出すぞ!

「赤子の手を捻るとおっしゃりましたが、鈴愛さんはもう18です。右も左も分からない栃木の女の子を、アイドルにするといってスカウトしたわけではありません!」

ネームにつまっている羽織は、アシスタントのボクテにそう話しかけます。

羽織は今日もいい味を出していて、「ごへいもち」と書いた紙を掲げて、菱本に自重を促しています。
ただ、ヒートアップした彼女を止めることはできません。
「自分で作れ!!」と返事が来て、怒りの炎に油を注ぐような展開に……。

「きみはいい匂いがするね。コロン変えたか?」
そうボクテに話しかける羽織。
ネーム、かなり詰まっているようですね。

そして菱本は最終通告を……。
「東京で漫画を描くのは無理ですね。1週間電話もありませんでしたし。この話はなかったことに」
「上等やないか!」
売り言葉に買い言葉。アシスタントとして給与をもらいながら漫画の勉強もできるという、破格の条件を提示したのに、宇太郎は断ってしまいました。

「やってまった……」
電話を切ってからそう悔やむ宇太郎ですが、時すでに遅し。

羽織は、あまりにヒートアップした菱本をたしなめます。

しかし、
「だって秋風ナントカって言ったんですよ!」
「それは頭に来るな」
と、菱本に同調するのでした。

 

嘘つき家族や!

場面変わりまして。
律は、「ともしび」でおみくじ機の内部構造を観察中です。現実逃避かな?

ブッチャーは、律の受験がかなりマズイらしいと鈴愛に打ち明けます。

「だからこれからは俺に相談しろよ。マグマ大使の笛、3回じゃなくて2回で呼び出せよな!」
「うん! わかった」

そう即答する鈴愛ですが、本音は秒で、ブッチャーではダメだと思ったと、ナレーションで説明します。
秒でというのは一二秒ですよ、と廉子さんが若者らしい表現を説明してくれます。

鈴愛は、帰宅して宇太郎の話を聞きます。

呆然としてから、こう言う鈴愛です。

「やっていいことと悪いことがある! 子供の夢を潰して、それでも親か!」

するとここで晴は、あんたのために働いて育てて、と口を挟みます。
「そんなこと頼んでいない! 許せん!」
即座に言い返す鈴愛。

ここでちょっとびっくりしたのですが、興奮した時の喋り方が、子役と本役でそっくりです。

子供時代の母娘喧嘩の場面と連続性があります。
あの子が育ってこうなった、と思えました。

「18にもなって自分を鈴愛と呼ぶような娘のくせに! どこにも就職できんで、誰のおかげで農協決まったと思っているの!」
ここで晴は、口止めされていた仙吉のコネで農協に就職が決まったことを、話してしまいます。

「おじいちゃんまで、グルか!」
感謝どころか、慌てる祖父に対して怒りを見せる鈴愛です。

「草太はそれを知っとったのか!」
「いや俺は、そんなことやないかとは思っとったけど」
鈴愛の怒りがますます激しくなります。

「嘘つき家族や! コネなのに、祝いまでして、やっとれん!」
鈴愛は家を飛び出し、夜の商店街を歩きます。

萩尾家まで来たものの、勉強中であろう律を呼び出すことはできません。
笛を握りしめ、うつむく鈴愛でした。

 

今日のマトメ「鈴愛は東京に出るしかない」

今日は辛い。
対立する人が出てきたわけですが、気持ちはわかります。

菱本がカチンと来るのは、あの場合当然ですし、宇太郎の気持ちもわからなくなありません。

晴の不安もわかります。

コネで就職決まったのに、それを隠してお祝いをされた、という鈴愛の屈辱感。夢をぶち壊しにされた怒り。
これもよくわかります。わかるからこそ辛いのです。

今回、コネを暴露されたとき、鈴愛が激怒するのを見て、彼女は絶対に東京に出なければ、と思いました。

鈴愛を落とした企業、そして家族ですら、鈴愛は東美濃で社会人として生きていくには、適性に乏しく、劣った女の子だと思っています。
可愛そうだけれども、それが現実。
農協で野菜を売るにせよ、食品加工工場できゅうりの漬物を作るにせよ。鈍臭くて頭もあまりよくない、個性的で要領の悪い鈴愛は、ダメな子ということになります。

可愛らしくて、要領がよくて、気が利いていて、反発せず、セクハラはうまく受け流し、数年で寿退社する女の子。
それが、田舎娘の理想形なのですから。

羽織が見出した、画力、イマジネーション、天才とまで言った個性。
そんなものは、残酷だけれども東美濃ではまったく意味がないのです。

故郷は優しくて、あたたかい。
そういうぬくもりが今まで描かれていましたが、18の鈴愛が遭遇するのは、むしろ偏狭で嫌な部分です。

このあたりは2013年の『あまちゃん』でも描かれていました。
あの作品における南三陸はあたたかい場所で、都会になじめないアキにとってはパラダイスでした。
しかし、アキの親友のユイと、アイドルの夢をみつけたあとのアキにとっては、狭苦しく自分たちを理解しない場所となったのです。

2017年『ひよっこ』と本作の違いも、はっきりと出てきました。
あの作品でのみね子は、父親が失踪せず、あのまま故郷にいても幸せに暮らすことができたのでしょう。
彼女が東京に出なければならないのは、あくまで家庭の事情でした。

鈴愛は、みね子とはちがって、才能と個性を見出されるために、故郷を出なければならないヒロインになってゆきます。
オフィスティンカーベルは、彼女の個性と才能を持て余すどころか、大事にしてくれて、伸ばすことでしょう。

あの風貌と性格の秋風羽織。
あの年齢で甘ロリ服の菱本。
コロンの匂いを変えるボクテ。

彼らも田舎では、個性を持て余されがちな人物なのでしょう。

個性が強すぎて、大人になりきれない彼らは、いわば現代版ピーターパンです。
彼らを受け入れるティンカーベルがあのオフィスなのでしょう。

田舎に適応できない人間にとって、東京は詮索されずに生きていける場所です。

インターネットが発達した年代ではこの状況も変化しますが、平成が始まったころの当時、彼らのような人間は都市部に出るしかなかったのです。

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

4 Comments

roko

>菱本がカチンと来るのは、あの場合当然ですし、宇太郎の気持ちもわからなくなありません。

>可愛らしくて、要領がよくて、気が利いていて、反発せず、セクハラはうまく受け流し、数年で寿会社する女の子。

寿退社ですよね?

匿名

コネのどこが悪いのか、さっぱりわからん。

しおしお改め、七歳上

ちょうど同時期に(鈴愛より七歳年上だけど)無理クリ東京に出たので、胸が痛かった。親に反対され、眼の前でスーツのブラウスを破られた(わざわざ)。
地方の子、東京行きたいアルアル過ぎて、自分的にはこの脚本すごい。

ビーチボーイ

いやー、松雪かあちゃん今回は「やってまった」じゃ済まない大失態ですよ。娘の反抗に逆ギレしたからって「どこにも就職できないアンタをお祖父ちゃんのコネで農協が拾ってくれたのよ!」は最大級のタブーでしょ、残酷過ぎます。「アンタ本当はうちの子じゃないのよ」に匹敵するメガトン級の衝撃です鈴愛にしてみれば。粗忽とか浅慮でしたで許されるレベルじゃない、人の子の親として失格だ、これは。
…と最初は思ったけど、実はここまでレッドラインを踏み越えてもなお後ですぐ修復できちゃう、それが20世紀の庶民の家族像だったよなあ、としみじみ思い直しました。何の気づかいも不要なベタベタな親子関係、良くも悪くも、ね。
やっぱり本作は《昭和末~平成初期》時代にタイムスリップできる本物の1.5世代前ホームドラマなんだな、と凄く納得いきました。

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