時は1990年(平成2年)。
トレンディーな若者がディスコに通っていた――そんな時代に、岐阜県出身の楡野鈴愛は、変人漫画家・秋風羽織のもとで漫画家として修行をしておりました。
ある日、部屋を掃除していた際に羽織のネームを紛失してしまい、大騒ぎに。
大傑作のネームをどうするんだ!
見つからなければ腹を切れ!
と言い出す羽織。
鈴愛は切腹することになってしまうのでしょうか……。
【41話の視聴率は20.6%】
もくじ
羽織は身体が悪いのか?
「なんだ? 刀はどこだ?」
のっけから切腹させる気満々の秋風羽織。
「ナイフでやるのか?」
ネームは出てこなかったのです。
菱本が取りつく島もない。鈴愛は、クビにされて岐阜に戻ることになりました。
荷物を抱えて、鍵を返す鈴愛。
大都会の喧騒の中、東京タワーを背にして立ちすくむ鈴愛です。
そのころ、テトリスで遊んでいる羽織に、菱本が問いかけます。
「昼間、遺作とおっしゃりましたね。お体がよろしくないのですか?」
羽織、無言でテトリスを続けます。伏線かな?
正人の登場、話し方、演技、絶妙
鈴愛は、教えてもらった律のマンションの下で、あの笛を鳴らします。
近所迷惑な彼女の行動に私が鋭く突っ込めないのは、自分もあの年頃のころ、田舎のペースで振る舞って周囲から眉をひそめられていたから。そんな気がしますねぇ。
しかし、律はいない。
代わりに隣室の正人がベランダから顔を出します。
「君……誰?」
これねえ。
うまいと思うんですよ。
律が一文節話法をするとおかしなだけなんですけど、正人だと意味深でドギマギするような、そういう間がある。
中村倫也さんの演技が絶妙です。
律が関西弁もやや入り込む岐阜弁なのに対して、正人が北海道弁というのもあるかもしれません。
平昌冬季五輪・カーリング女子の「そだねー」も記憶に新しいところですが、北海道弁はゆったりとしたイントネーションで、一文節話法と相性がよいのだと思います。
正人が自分の個性を生かしてチューンアップしたモテテクを律が猿真似しても、きっとダメなのです。
律の服、借金の取り立て屋かいな
そのころ、律はおしゃれして喫茶「おもかげ」にいます。
喫茶店の店員にも精一杯背伸びしたファッションを褒められますが、似合っていないとも突っ込まれます。
律が手にしているのは、当時のモテマニュアル雑誌『ホットドッグ・プレス』がモデルらしきもの。このマニュアルをそのまま真似て、悲惨なことになっております。
律に正人から、喫茶店の電話で呼び出しがかかり、帰ってきます。
ここで律の全身が見えるわけですが。
うっわ、ダッセェ!!
美男は何を着ても美男とは言ったものです。
ただ、似合うとは限らない。
この変なパターンのシャツに紫のボトムスは、いたたまれなくなるレベルのダサさです。『ミナミの帝王』に登場させるならアリかもしれんですけど。
中性的な美男子である律くんには、こんな「ランバダ」かけて踊っていそうな服装ダメでしょ。
このドラマだと、仙吉さん、宇太郎さんならアリかもですね。
でも、萩尾父子が一番着てはいかんタイプだ。
このへんも、いたたまれなくなる! 胸が痛い! あるあるだ! 大学デビューしたてで雑誌そのまんま真似して火傷するパターンです。自分の個性に合わせないと似合わない――そんな知恵を身につけるのはもうちょっと先なのです。
「一晩だけでもいい、泊めてくれ! 襲わない!」
服装はさておき、鈴愛は律にクビになったいきさつを語ります。
「ネームってわからなかったの?」
「うん、丸めてカップラーメンの容器に突っ込んで捨てた」
「それは秋風先生に言わない方がいいな」
「もう岐阜行きへの夜行バスが行ってもうた。一晩だけでもいい、泊めてくれ! 襲わない!」
ツッコミどころ満載のセリフを言う鈴愛。
異性として律を意識しているか、していないんだか。
送り出した父母にあわせる顔がないと落ち込む鈴愛。
しかし律は冷静に、親は子供の夢より一緒にいる方が大事だから戻ってきたら喜ぶだろう、と言います。
慰めか、本心か。どちらでしょう。
「そしたら私の夢はどうなる? 漫画家になりたい、なりたかった。今もなりたくてたまらん。かけあみ、楽しかった」
短いし、この台詞がことさら目立つわけじゃないけど。
やっぱり北川さん、脚本のセンスが光ってます。
かけあみが大変だった、頑張った、辛かった、できるようになった。
そうではなく「楽しかった」。
鈴愛の漫画を描くことが楽しくてたまらない、そういう性格が出ています。
一方で律は、東大を目指したことにせよ、正人からナンパを習うことにせよ、清への憧れのために弓道をやってみたにせよ。やっている当人は、自分の意思だと思っているにせよ。
心の底から楽しんで、もう、それをしているとき時間を忘れて没頭するような、そんな【熱狂】とか【夢中】という状態は伴っているのでしょうか。
衣装担当の仕事っぷりに脱帽です
そのとき、正人がドアを開けます。
「マハ……」
即座にドアをバタンと閉める律。
「マハリークマハーリタヤンバラヤンヤンヤン♬」
いや、流石にその誤魔化し方は無理がある。
「マハジャロ行くのか? その格好で?」
あっさり鈴愛に、バレました。
そりゃそうだ。しかも精一杯のおしゃれまでダメ出しされる律。
正人は、元カノの服を鈴愛に着せようと出してきます。
女豹系っていうか、いわく言いがたい、全面金色キンキラキンの服。
「すごすぎるのを着たほうが、気が晴れるよ」
晴れねーよ! そう突っ込みたい。
衣装担当者さん、いちいちこんな衣装を見つけて来るとは、仕事が出来るにもほどがあります。
話はなんだか結局マハジャロに行く方向に。
鈴愛はネームをなくす前の朝に行きたいそうですが、そりゃ無理あるしね。
律は正人に近づく鈴愛を警戒しています。
「正人くんじゃなくて、マア君でいいよ」
「ダメだ! マア君と呼ぶな! そう呼んだ女がどれだけ罠にかかったことか! 魔性だ!」
そのマア君のモテテクを学んで、これから女を引っ掛けようと思っているくせに、萩尾律、この野郎。
鈴愛、人生初のボディコン&お立ち台
しかし落ち込む鈴愛には、正人のフェロモンむんむんのモテテクも通用しません。
夢の島に電話したらネームが出てくるかもと、電話機を引っ張ってきます。
「ダメだよ。夢の島は230ヘクタール、東京ドーム49個分だ」
ここで、妙に細かい数字を引っ張ってきて止める正人です。
「まあいいよ。マハジャロにはひとりで行ってきな」
律がそう言い出すと、なんと鈴愛が一緒に行きたいと言い出します。
東京最後の夜、思い出作りだそうです。律にとってもはじめてのディスコデビューなんだ、一回きりだ、とも。
その前に、突っ込む鈴愛。
「恥ずかしいから着替えて」
そうか、やっぱり律のカッコ、恥ずかしいもんな。律は、恥ずかしいシャツの上に、ジャケットをオンすることに。
そしてマハジャロへ。
おお、もう、バブルって感じだ。
鈴愛もなんだかキラキラボディコンを着ています。
「律、音が……」
そう訴える律。
彼女の左耳にはきつーい環境です。
じゃあ外出ようか、と言い出すと、鈴愛自身が反対します。
「東京記念だ。お立ち台で踊る」
鈴愛はズンドコとお立ち台まで進み、正人が借りたあのド派手な羽扇を持って踊り出します。
廉子さんがナレーションで「これが本当に最後の夜?」と突っ込む中。
お立ち台で踊る鈴愛の姿に唖然としております。
今日のマトメ「服装だけでこんなに笑えて、胸が苦しくて」
前半と後半、たった15分でテンションが全然違う、そんな回です。
まず前半部のネームについて。
わかりやすいミスリードをしていますが、これは鈴愛が捨てたものはネームではないという終わり方になることでしょう。
鈴愛:丸めて床にあった紙がネームだと思った
羽織:ネームは、きちんと揃えて机に置いた
証言が食い違っているわけで、羽織が本物のネームをどこかに入れ忘れたあたりがオチかと。
あれほどネームに執着を見せる羽織が、カップラーメンのそばにネームを置くとも考えにくいのです。原稿の横にコーヒーを置いてしまう一面もありますけど、それは「ドキドキしていたい」という悪い癖だと菱本も説明してましたので、今回のケースとはマッチしないですしね。
後半は、別の意味で心にくるパート。
律の痛々しいモテテクコピーが辛いです。
キャラが違う正人、真似してもろくなことにならない雑誌を真似している様子は、これぞ黒歴史ってやつです。
笑いたくても笑い飛ばせないのは、自分の恥ずかしい過去を思い出すからです。
雑誌を真似して揃えたらおしゃれだと思っていたあの頃。
カッコいい俳優ぽく喋ればモテると思っていたあの頃。
朝っぱらからなんちゅうもん思い出させてくれるんだ! 若さほど愚かなものはない、なんて。
そして今日、いい仕事をしたのは前述の衣装担当者です。
あのバブリーボディコンをあれだけ揃えるのも大変でしょう。
普段は似合う服を揃えるのに、今回は佐藤健さんという最高の素材に、最低の調味料をぶちまけるが如きチョイスをしなければならなかったわけで。
そして、それをやり遂げた。
素晴らしい、あなたたちの仕事は本物です。どちゃくそダサくて、大変よかったです。
永野芽郁さんの個性にちぐはぐな、キラキラボディコンも最高でした。
あの姿で踊っているだけで、口をあんぐり開けてしまう、そんなインパクト。
服装だけでこんなに笑えて、胸が苦しくなるなんて。
よい仕事をされてますよね。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
>「マハーリクマハーリタヤンバラヤンヤンヤン♬」
全くミスはありません。
が、しかし、、私なら「マハリークマハーリタヤンバラヤンヤンヤン♬」としたいです。
m(__)m
すずめ、可愛かった。
スタイルめちゃよかった。
ナイスバディだった!!