明治43年(1910年)京都。
日本一の「ゲラ(笑い上戸)」娘ことヒロインの藤岡てん。家を捨て、船場の米屋・北村屋の長男藤吉と駆け落ちします。
しかし、藤吉の母・啄子(つえこ)は既に許嫁の楓を用意しており、てんは女中として働くことに。
啄子は「楓とてんと商い勝負をして勝った方が嫁だ!」と言い出します。
結果、路地からインド人を出現させる主人公専用チートコマンドを駆使して、てんは勝利をおさめたのでした。
もくじ
商売を教えたいのか、家から追い出したいのか
しかし、スグさま嫁になれるわけでもなく、相変わらず女中として働くてん。
間違って古米と外米を買い付けるという失態を犯した藤吉は、汚名返上のために産地へと買いつけるため出かけてゆきます。
てんは不平も言わずに、女中として啄子にいけずに耐え続けます。
するとそこへ風太がやって来て、てんの女中姿に驚くのでした。
それにしても「朝ドラいけずあるある」ですが、業務の指示をろくに出さずに仕事をやらせるのはいかがなものでしょうか。
しかも今回の場合、営業として外回りをさせているわけで、ろくに経験のない人間にそんなことをさせて失敗させたら、商売の信用に関わるわけです。
2017年の大河ドラマ『おんな城主直虎』のように、バックヤードで雑務をやらせるのならば理解できますが。
しかも啄子は「商いは顔を覚えてもらってなんぼ」と言っています。
追い出す算段をしているてんの顔を覚えさせて意味があるのかなぁ……。啄子はうっかりと商売の秘訣を喋ってしまうために「ただのいけずではない」という擁護もあるでしょうが、確かにその通りです。
「脇の甘いいけず」ではないでしょうか。
「それでも男か! 惚れた女も守れんと、ただのぼんくらか!」
風太がてんと話していると、啄子がやって来ます。
風太はてんの案内で、女中部屋を見て回ります。そして二人きりになると、りんの手紙を渡しました。
りんの祝言が決まり、てんは「そうか~そうか~」と喜ぶだけ。
いきなり家をブン投げてりんに押しつけたからには、「すまんなあ、苦労かけて」くらい言って欲しいなぁ……。
こんなことなら京都に帰ろう!とてんに迫る風太。しかし彼女は笑顔で返します。
「この家は笑顔のない家や、いうておった。うち、みんなに笑うて欲しいんや」
仕打ちを考えると、明るくいるのにも限度ってものが……。
トキはトキで、風太に「何とかしろ」と言われても既に手詰まりなのでした。
てんは頼子が家捜ししているのを見かけます。頼子によると、啄子は父が嫌いだったと言います。
口の軽い頼子は、啄子は行商人の娘だった、苦労人だったと漏らします。
過去に苦労したからって、人にいけずしていい理由にはなりませんが……。
藤吉は米を抱えて意気揚々と戻って来ます。
そこに風太が突っかかり、藤吉に鉄拳制裁をします。
「それでも男か! 惚れた女も守れんと、ただのぼんくらか!」
いいぞ、風太! もっとやれ! このぼんくら、簀巻きにして淀川に放り込んだれ!
学業優秀で背が高くイケメンだけど……
そこに啄子がやてきました。
どうしてこんな事態になったのか? それを追及することもなく、藤吉をかばうのですす
「この子にもいいところはある! 学業の成績優秀で、背が高いイケメン」
なぜ風太が怒っているのか。殴ったのか。
それも確認せず「あいつにもいいところがある」と言う庇い方は、母親の姿勢にも藤吉の人格形成で問題があったのではないか。
そんなことも考えつつ、同時に「既視感もあるなぁ」と思っていたら、わかりました。
第三週でキースがやらかした時、藤吉が「あいつもええところある」と言ったやつですね。
これ、謝罪としてどうなんでしょう。
犬が噛みついた相手に「でも、うちのジョンはいい子で、お手もできるんです」と言うか、言って何か変わるのか、って話です。
このへん親子ですね。
というか、物語としては、きちんと似たもの親子の性格が描かれているのかもしれません。
藤吉もかっこつけて「お母ちゃん、もうええよ……」と言います。
何一つよくないと思いますが、更に男らしいセリフを続けます。
「約束した。覚えるか。俺は男の約束いうもんは、命を賭けてするもんやと思うてる。もし違えたらその時は好きにするとええ。おてんちゃんは、命にかえても幸せにする!」
いや、今、そのおてんちゃんを女中扱いといけずから救い出せない奴に言われてもな~!
階段の上り下りで息が切れている人が「俺、トライアスロン完走する」って言うようなもんでは?
過去の積み重ね、藤吉の病的な嘘の付き方からして、どうせ守れないと思っている奴、約束を破っても気にしない奴ほど、かっこつけるよなあ、と思ってしまいます。
それでもてんはうっとり&ニコニコして「りんの手紙、おおきにな。久しぶりに話せてうれしかったえ」と風太を送り出すのでした。
りんの性格次第では姉妹絶縁もありえる?
てんは藤吉を手当てしながら、
「藤吉さんを一人前にするまで支えるのが私のつとめ。ごりょんさんの厳しい押し込みのおかげどす」
とこれまた美辞麗句を並べます。
楓は、そんなバカップルに怒り、筆を執って何かを書き出します。
その後ろ姿を見た啄子は何か思いついたことがあるようです。
てんは、りんの祝言まで決まったという手紙を読んで喜びます。りんは姉が家出してから一週間ほどで祝言の日取りまで決まりました。姉に祝言にも出て欲しい、姉が恋しいと綴っています。
それでも大丈夫、この家のことは安心してください、と健気に綴ります。
器量よしでしっかり者のりん。
縁談がたくさんあったのは、確かでしょう。
しかしそれは嫁入り前提ではなかったですか。
てんに来ていた婿入り縁談をスライドしたのでしょうか。
りんは健気だから丸くおさまっていますが、これはりんの性格次第では姉妹絶縁もありえる流れだと思うわけです。
りんの手紙を読んで喜ぶてんの元に、啄子が決意を語ります。
一日も早く、藤吉と楓の祝言をあげる、と。
それでもここに居続けたいなら、楓のお付きの女中になるしかないで、と啄子。
啄子としては、楓がコトの一部始終を実家に手紙などで訴えたらアカンと判断したのでしょう。
確かにこの酷い顛末を聞いたら、楓の実家どころか船場一体が「北村屋はあかんやつや」と思われてもおかしくないのでは?
そういう非常識な大迷惑行為をしていると、てんと藤吉はわかっているんでしょうかねえ……啄子は気づいたようですが。
藤岡屋では、風太からてんがいけずされていると聞かされたしずが、驚きます。
しずは旅支度をするのでした。
今回のマトメpart.1
本作のチャームポイントは笑顔であり、笑いなのでしょうが、それがだんだんと怖くなってきました。
ホラー映画のジャケットって、微笑んでいるものがわりと多いんですよ。
『時計仕掛けのオレンジ』、『シャイニング』、『IT』……。
マクドナルドのマスコットのドナルドも、あの笑いが不気味ですよね。
TPOをわきまえず、理由もよくわからないまま微笑んでいる顔というのは、どこか不気味です。
本作の新一は笑いのプラスの効能を語りました。
しかしマイナス面もあるのです。
真剣な話をしているときに笑う者がいたら不謹慎だと相手を不快にしますし、相手が真面目ぶっている時にわざと茶化してふざけて、挑発や侮辱をすることもあります。
そういう笑いのマイナス面も、第一週では一応描いていました。
しかし現時点では、ノルマがあるからともかく笑わせる、状況も読まずにともかく笑わせる、そんな変な脚本演出になっている気がします。
言うまでもなく、葵わかなさんは可愛らしい顔をしています。
ドナルドと比べるのは失礼です。
それなのに、今日私は、てんの笑顔にゾッとしました。
それは笑う理由とタイミングが、なんだかよくわからないからなんです。
てんには、あるようで喜怒哀楽がないのです。
ここは怒っても仕方ない、あるいは哀しい顔を見せても仕方ないというところでも、ニコニコしています。
りんに苦労をかけたことを思ったとき、風太に出ていてくれと言うとき、そんなとき普通はもっと別の顔があるかと思うのですが、あのメインビジュアルと同じ笑顔を浮かべるのです。
泣き笑いのような、何か深みや陰翳のある笑顔ならばまだよいのでしょうが、いつも“同じお面”をつけているような笑顔なんですよね……正直言って、てんが怖いです><;
今回のマトメpart.2
ヒロインが怒っているところや哀しがるところを見せたくなくて、風太に代理をさせているのかもしれません。
しかし、ヒロインの怒り顔だって哀しい顔だって、心理をきちんと描けば魅力的なはずです。
ヒロインの喜怒哀楽がよくわからないため魅力に乏しくなるというミスは、大阪NHK製作の前作『べっぴんさん』でもそうでした。
陰気なすみれとは違い、てんは陽性ではあるのですが、それでも鈍感でよくわからない人物に見えるという点で一致しています。
同じように主人公がいびられている大河ドラマの井伊万千代(菅田将暉さん)と何が違うのか?
それを考えて見ました。
『おんな城主直虎』の井伊万千代
・理不尽な状況に万千代が怒っていることが、視聴者に伝わる
・この扱いがいつまでも続くわけではないと、本人も視聴者もわかっている
・見えない努力を理解する上司がいる
・理解者である小野万福やノブ(本多正信)との対話がある
・万千代の機転で切り抜ける描写が理解できて、カタルシスがしっかりとある
『わろてんか』のてん
・どんなに理不尽な状況でも笑っているばかりで、何を考えているのかわからない
・この扱いが好転する見通しが見えてこない。藤吉と結婚しても苦労は続くと思われる
・てんの努力の結果が報われるともあまり思えない
・理解者であるトキは存在感が希薄
・ピンチを切り抜けるてんの機転は不可解で、運や偶然頼みに思える
こんなところでしょうか。
もう少し、描写の積み重ねを丁寧にして、笑顔以外のてんだってあってもいいのでは。
そうじゃないと『シャイニング』状態だぞ!
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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