半分、青い。140話 感想あらすじ視聴率(9/11)看板を求めちまう俺たち、根性ねぇ!

2010年――東京で奮闘中の楡野鈴愛と萩尾律。

【おひとりさまメーカー】経営者になった鈴愛は、癌に罹った母の晴に「今、ビッグな商品開発中だ!」と大見得を切ってしまう。

一方の律は、勤務先の菱松電機でロボットエンジニアを続けられず、慣れない管理職に苦悩の日々。原点の「ものづくり」に生きることを夢見ていたが、鈴愛からキツイ駄目だしをされて、二人は喧嘩別れしてしまった。

母の晴に相談した鈴愛が律に謝罪をし、ふと出てきた言葉が「そよ風の扇風機」。
その瞬間、律が目を煌々と輝かせるのだった。

【140話の視聴率は9/12に発表です】

 

叱られを受け流し「岐阜弁になっとる」

「そよ風の扇風機を作るんや!」
そう思いついた律は、鈴愛に絵を描いてくれと頼み込みます。

ビジョンだから、まずはイメージが大事なのです。
確かに、そういうところから思い浮かぶアイデアもたくさんありますよね。

花野のテストが終わるからと、出て行こうとする鈴愛に頼み込む律。珍しく強く迫る感じで、鈴愛も描くと約束します。
おっ、おっ、何かが始まったゾ!

さて、花野ちゃんですが。
二問目までしか解いておりませんでした。

この子も、段々と単なるイイ子ちゃんじゃなくなってきたな。

「これしかできなくてごめんなさい」とかなんとか言わず、鈴愛が岐阜弁になっとると生意気かわいい指摘をするのです。
なんというか、この子役までもが、型にはまっていない感じが好きだわ~。

 

言うならば真実の扇風機

テストを見てみる鈴愛。
小学校二年生の問題なのに、全然わからんと言い出します。

「まあいいや、あんたはスケート選手になるんやからな」

きたきた、この言葉よ!
翼の教育に命を賭けていた、より子との差がすごい!
こういうところなんだよな。

お母さんとしてみたら、より子の方が優等生に見えてしまいます。
しかし、そういうお母さんが子供にとっていいとも限らないし、律とも合わなかった。

凸凹ゆえに、完璧な律に合わないと身を引いたように思える、そんな鈴愛。
エリート律にぴったりのように見える、より子。
それでもこうなるんですよね。スペックで、結ばれる相手を決められないこともあるのです。

鈴愛が扇風機の絵を描き出すと、花野が説明を求めて来ます。

「そよ風の扇風機や」
秋風羽織風に言うならば、真実の扇風機。そう口にした途端、羽織のことを思い出します。

秋の風を羽織るという名前だった、師匠。
うわっ、ここで秋風先生の名前が効いてくるの?

「一見余計なことをする時間も、回り道も、あっていいと思います。いろんなことがあって、すべてが、今につながっていく。あなたのように、感じたり考えたりして生きていくのなら、それは、実りのある時間だと私なんかは思います」

心の中に、そんな師匠の言葉が蘇ります。
あの秋風塾の時間は、やっぱり無駄なんかじゃなかったんだぜ!!

 

「すぐにはついていけんが、いつかはついていける」

律は、既に考え始めています。
エンジニア魂に火がついた彼の周囲には、工具やアイデアを書いた紙があります。

あー、わかるなあー。もう止まらなくなっているんだなー。
こういう夢中になる時間が、エンジニアの幸せなんですよね。

まぁ、エンジニアだけでなく、誰だって「夢中になる」「熱狂する」、その時間はいくらあっても足りませんよね。

その律の携帯電話に、鈴愛のスケッチが届きます。
「ふぎょぎょ」
「ダメやった?」
そう聞いてくる鈴愛。

そこにあったのは、花のかたちをした扇風機です。
花が回るという鈴愛に、律はこう言います。
「すぐにはついていけんが、いつかはついていける」

花があって、小人もいる。そんなぶっ飛んだアイデアです。

「ほんとに考えられるんか」
思わずそう突っ込む鈴愛に、律は言い返します。

二十歳から、ずっとロボットをやって来た。扇風機なんて解体してみたけれど、ロボットと比べたら大したことなんてない!

「律、感じ悪いよ」
鈴愛に指摘される律。
うんうん、感じ悪いよね。でも、そこがいいんですよね。

律がこんな天狗みたいなことを言うところ、久しぶりです。まぁ、相手が鈴愛じゃないと無理だろうな。会社はもちろん、より子にも。
他の人の前だと律していることが多かったのに、鈴愛の前だとリズムになっているのです。

 

我々の見ていぬところで磨きに磨いて来たのだ

後日。
律はついに、はめ殺し窓のオフィスで退職届を出します。

上司は、予算カットやリストラは辛かっただろうと労いつつ、2年間我慢すれば研究所所長に戻れると引き止めにかかります。

「一エンジニアに戻ります」

スッキリした顔でそう宣言する律。
上司は君のような人材が辞めるとは残念だ、と言うのでした。
引き留めかな? そういう心境に追い込んでおいてなにを今更、とちょっと言いたくなったりして。

律、鈴愛、正人の三人は屋上で風を測定しています。

「何が起こる? 楽しそうだ」

この手のデータ測定とは無縁だった鈴愛と正人は呑気なものですが、そこに突っ込むのはエンジニアの律です。
そうかそうか、律はエンジニアとしてこんな生き方をして来たのだな。

鈴愛が秋風塾で鍛え上げてきたように、律も磨きに磨いて来た――そんなエンジニア魂を感じます。頬が緩んでしまいそうです。

三人は、津曲ラーメン店に移動して実験続行中。
自然の風と人工の風の違いを見極めています。

それを見守る津曲はけなるそう(岐阜弁でうらやましそう)、と突っ込む廉子さん。

「津曲の相手はしませーん」
と廉子さんが宣言すると、思わず津曲も「なんで!」とツッコミ。

 

変わりつつある 本当の律に戻ってきたんだ

自然風のほうが範囲が広い――三人はそんな結論に至りました。

鈴愛が『タイタニック』ポーズをとっていたよねえと話す正人。
律がこの映画を知っていることに驚く二人。思わず「俺を何だと思っているんだ」と言い返すわけですが。

※「タイタニック」予告編

ここも、うまいなあ。
鈴愛と正人にとって、律は映画もろくに見ないで研究ばっかりしているような、そういうエンジニア気質に思えて来ているってことじゃないでしょうか。

三人の間にある温度も、ちょっと違ってきた!
そうだ、律が変わりつつあるんだ、本当の律に戻ってきた!
マーブルマシンを自慢していた、ツンケンした口調の、感じ悪い時もある、あの頃の律だ!

鈴愛はここで、花野を迎えにいくために帰ることになります。
鈴愛はここで本を律に返し、新しいものを借りてゆきます。

「理解できとるのか?」
「失礼やな! 私は風を知る!」

以前、鈴愛は。律がロボット工学に惹かれたとき、それについて語る彼の話を熱心に聞いていなかったし、本も読みませんでした。
花野向けの問題すら、全然わからない。

それでも、風については知ろうとする。
彼女の知能というものは、興味関心や情熱によって、左右されるのでしょう。でも、それが人の本来ある姿だとも思います。

鈴愛が部屋を出ると、律と正人は歌い始めました。

※さよなら – オフコース

背後でそれを聴きながら、昔のことを思い出す鈴愛。
かつて、この二人相手に苦しみ、傷つき、泣いて来たこと。そうしてできた傷が、消えていくのです。

生きていくと、辛いことも笑い話になるね、そう思う鈴愛です。

鈴愛は玄関に出て、風を感じます。
「窓開けて! この風や!」
そう電話する鈴愛。律は、窓からの風を感じるのでした。

そっか、中学校を再利用したシェアオフィスって、こういうことね。

なんだかドラマ初っ端の、律が鈴愛に傘を渡して走り去っていくシーンも甦ってきました。

 

家の匂いっていいよね リンゴの匂いもいいね

岐阜で晴は、風鈴の音を聞いています。そこへ草太が入ってきました。

「息を吸い込んで、うちを味わっとく」
自宅の臭いを吸い込む晴。草太も理解を示します。

来週には入院です。リンゴをすりおろす草太。

「そうちゃん、あー、ええにおい」
うっとりする晴です。そうかー、もう入院が迫っていますね。

鈴愛が去り、正人と二人きりになった律。
退職届を出したとき、フリだけかもしれないけれど部長に引き留めるような念押しをされ、その一言に救われたと語ります。
もしそれがなかったら、転職して見返してやる気になったかもしれない。

分かる気がする、と正人も同意。
もっと自由だろ、と律が言うものの
「男は割とみんなそうだよ」
そう語るのです。

「正人、人生ってのは根性なんだ」

律は、心のどこかで扇風機が失敗したら、転職しようと考えていると言います。キャリアがあるし、大手とは言わずとも、そこそこでできるだろうと。
「律くん正直」
「俺は根性ねえ」
「俺も根性ねえ」
二人で自嘲しいあってますが、正人の根性のなさとは、アラフィフのアキコと結婚できないこと。
プロポーズとなると「まってまって!」となってしまうのだと本音を言います。

正直すぎて、好感度下がると岐阜弁で指摘する律。
なんで岐阜弁や、と突っ込む正人です。

深夜、花野と寝ていた鈴愛のもとに、草太から急な電話が入ります。

「明日帰って来れるか? 急変して、お母ちゃんが家で倒れた!」

風雲急を告げる一報でした。

 

今日のマトメ「エンジニア魂炸裂するも看板には未練あり」

律のエンジニア魂が炸裂しました。
プラス面だけではなく、感じ悪いと言われるくらい高飛車なところ、ちょっと偉そうなところも復活しています。
そうそう、こっちが本来の律なんだよな。

しかし、律はマーブルマシンやゾートロープの頃とはちょっと違います。
鈴愛が漫画家に向けて疾走していたころとは違い、専門書を読むようになったように。
根底にある魂は同じでも、ちょっと違う。

【根底にある少年の心+おっさんの本音とプライド】
これが重なっている。
ですから、失敗したら戻ってまえ!と思う。童心にかえってやると思いつつも、おっさんとして積み重ねたプライドを刺激されたら、そちらには行けなかったとも語ります。

少年の心を貫くことこそ「根性のある人生」ということかもしれません。
んで、これが実は、女である鈴愛にはない。生まれついての性別というより、社会の女への扱いゆえではないか?と思うのです。

確かに鈴愛は、漫画家経由という特殊例です。
しかし一般的に女性は、いくら学歴や職歴を積み上げようと、鈴愛ぐらいの年代になると「オバサン」とひとくくりにされがちで、雑な扱いを受けることもしばしば。

産休育休から復帰した女性がぶち当たるこうした壁は
「マミートラック」
と呼ばれます。

“マミートラック” 働くママの落とし穴|けさのクローズアップ|NHK おはよう日本

ですから鈴愛の場合は、童心におばちゃんのプライドを重ねようとしても、律とは違ってくるわけです。
正人が根性がねえとこぼすのも、このあたりと関係あるのでしょう。

正人のマイラバーが10歳年上と判明したときの、一部のゲス反応を思い出してください。

アキコの顔すら映らないし、正人の関係性すら登場しないのに、
「10歳上のババアを男が選ぶはずがない!」
として、制作側の願望を乗せたはずだとゲス妄想が飛び交いました。

ほーら、こうして女性は、歳をとれば「オバサン」とひとくくりにされて、プライドをヘシ折られるっていう、実例です。

正人がプロポーズできないのも、世間のこうした偏見との闘いに挑む根性がないのではないか、と思いました。

アラフォーの年上女性と結婚した健人は、アメリカナイズされているのか、そういう価値観なんて放置して愛を貫きましたけど。
それでも宇太郎やブッチャーすら、なんであんな女を選ぶのか?という疑念をチラっと見せていたものです。

モテモテだった正人。
そんな彼が、アラフィフを選んだら。
「子供も産めないババアを選ぶなんて、お前大丈夫か?」
という、無礼極まりないゲス妄想をする奴が湧いてくることでしょう。

正人はアキコを愛しているのに、そういうゲスと戦うための根性がない……そう自嘲しているように思えました。

律も、正人も、アラフォーの男として、世間が認める看板にやっぱりこだわりがある。

律はキャリア、正人は交際相手。
そういう看板を求めちまう俺たち、根性ねえ〜!
看板なんて、捨ててこそ得られるものがあるとはいえ、どうしてもそこにたどり着けないんだよ〜!とこぼすわけです。

こんな所に突っ込む朝ドラ。
そりゃ、看板にこだわりのある界隈からすれば青筋立ちますわ。

追記

月刊文藝春秋10月号に脚本家・北川悦吏子氏のインタビュー記事が掲載されております。

インタビュアーを担ったのが、本稿ライターの武者震之助。
天下の月刊誌に貢献できるなんてまさに震えが止まらないワケですが、同席させていただいた私(五十嵐)は、二人のトークについていくのが必死でした。

そう、それはまるで孫悟空とベジータが戦闘論を語り合っているようなところに紛れ込んだクリリンみたいなもので。
皆さんもよろしければご覧ください!(9/10から発売しております)

◆著者の連載が一冊の電子書籍となっています。

この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

4 Comments

あん

武者さま、夏休み中です。
138話レビューの最後で告知されてますよ。

校正委員

更新が滞っていますね。

武者様、また体調を崩されているのでは、と心配です。

いししのしし

お前とはそういうのじゃないもんな、襲わないから安心しろ、などの台詞が続いて、話の中心がビジネスの成功の方に振れてますが、いやぁ最後は期待してますよ。恋愛ドラマの神様はやってくれるでしょう。ドキドキするロマンティックなシーン、無い訳ないやん。

ビーチボーイ

深夜、枕元の携帯に実家の弟から突然の電話。そのバイブレーション音の不吉さが、そのようにして自分自身の親や身内の急を報せられた経験のある視聴者にとっては、きっとトラウマのように凄く苦くて嫌なものなのでしょうね。
ずっと前、東京に旅立つ前夜の鈴愛が、お母ちゃんの布団にもぐりこんで背後から抱きついて甘えた。ほろりとさせられたあのシーンを思い起こすと、胸が張り裂ける気持ちになります。晴さん、どうか死なないで、と祈るばかりです。

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