時は2010年――。
【おひとりさまメーカー】の経営者になった鈴愛は、菱松電機を退職した律と共に会社を設立。
「そよ風の扇風機」開発に取り組みますが、これがなかなかウマくいきません。
解決できそうで、すぐまた次の課題が浮き彫りになる難題を二人は克服できるのか?
そんな折、廃校内に事務所を構えた【スパロウリズム】に、業界人で今はラーメン屋・津曲を訪ねて、息子の修次郎がやってくるのでした。
【147話の視聴率は9/20に発表です】
もくじ
こんなにイイ曲を作るんだからなんとかなる
息子の修次郎に対し、津曲がドヤ顔でそよ風の扇風機について説明をしていると、鈴愛がニヤリと顔を出します。
この不敵でイタズラっぽい表情がエエわ~!
そして修次郎に向かって自己紹介。
「お父さんにはお世話になってます」
おっ、おっ!
ヤツの芝居に付き合ってやるつもりか! 咄嗟のお芝居に救われ、津曲は礼を言う他ありません。
どうやら息子さんはあまり学校に行っていないようで、心配しているようです。
津曲はな~。そうだなろうなぁ。
そういうことで判断しちゃうよな。
しかし、鈴愛は違います。
こんなにイイ曲を作るんだからなんとかなる!と太鼓判を押すのです。
まだ中学生ながらの創造力に着目しているのですね。
すかさず鈴愛、津曲に頼みごとをします。
アルカイックスマイルで癒すだけじゃない、したたかさがいいぞ、いいぞ!
津曲は「取引?」と露骨にめんどくさがりますが(オマエなぁ!)、鈴愛はめげずに「そよ風扇風機」を作ってくれる工場の紹介を頼むのでした。
「お嬢ちゃん、この業界長いの?」
場面は工場へ。
岩堀という工場長らしき男性は、疑わしそうです。
「資金あんの? 売れんの? 払えんの?」
そしてダメ押し。
「お嬢ちゃん、この業界長いの?」
こういう場合の”お嬢ちゃん“は、年齢関係なく、女性を見下すあるあるっスよ。社会に潜む女性蔑視を本作はうまくあぶり出します。
フツーの朝ドラだと、後半のヒロインなんて大女神様だから笑って過ごしりゃいい。蔑視になんて遭遇しないもんです。
工場長の冷たい対応に、思わず鈴愛は【チヤホヤ粉】とか【まああかん袋】等とつぶやくのできすが、直後に自ら「いや、いいです」と取り消すのでした。
そして赤ん坊やお年寄りにもいい――というそよ風扇風機の説得にかかります。
そこへ、フットワークの軽そうな、岩堀の息子らしき青年が登場しました。
「おもしろそうじゃん、出資しちゃえば」
軽い。そんな調子だから、父は息子に対して、三流大学を五年で卒業したバカチンが、と叱りつけます。
息子はこれに、反発。
「こんなチンケな工場、やってられねえんだよ!」
朝ドラでは斬新な男親と子の価値観
本作の親子関係も面白いですね。
岩堀父子も、津曲父子のような世代間による価値観の差を感じさせます。
思い返せば、老舗商家の息子であるボクテもそうでした。
保守的な価値観で、家業を継いで堅実に生きて欲しい父。
津曲の場合は、明るく社交的であってこそ成功者であり人気者、ということでしたね。
しかし、子の世代になると、自らの発想や創造力で生き抜きたい。
家を守る、社会的な人気者としての成功よりも、そちらを重んじているのでしょう。岩堀息子にだって、何か野心があるはずです。
こういう男親と子の対立、朝ドラでは斬新なんですよ!
朝ドラ定番の親子対立は、「働くお母さんが自分に愛を注いでくれないんだもん~」と子供がウダウダ言い出すパターンがほとんどです(現代物ですと、そればかりでもありませんけれども)。
朝から、働く母親に呪いをかけて何が楽しいんか!と全力で突っ込んできた私からすると、本作はにっこり、笑顔になりますわ。
ドラでありきたりな偉大な親にひれ伏す子という図式でもありません。
いいなあ、価値観がアップデートされているなあ!
「あんさん、何をいうてまんねん」
鈴愛は、そんな父子の喧嘩を止めに入ります。
しかし、取引は不発だったようで、オフィスに戻り、埼玉の工場はどうだったかと聞かれ、
「行ってすぐだから、通うよ」
と報告する鈴愛です。
「もっとガシッとできていれば。迷惑かけて申し訳ない」
エンジニアらしい悔しさを表現する律。
完全にこの二人、エンジニアと外回り含めた営業で、別れてはおります。
ただ、律が外回りしたほうが、結果的にはよいのかもと思えてしまうのが辛いです。名門・西北大学を出て、菱松出身で男である律ならば、あの岩堀みたいな男ならば、へこへこしたんじゃないか、と思うのです。
いきなり仕事を持ち込んだ相手を、「お嬢さん」呼ばわりするような奴は、エリート男に弱いものですからね。
これは、鈴愛と律が悪いわけじゃない。世の中がおかしいのです。
「あんさん、何をいうてまんねん」
鈴愛、ここで光江みたいなあやしい関西弁になってそう突っ込みます。
こういうのはお芝居みたいや、『一杯のかけそば』みたいな、夫婦が手を取り合って喜ぶ系だと語り始める鈴愛。
あー、朝ドラっぽいよねー。わかるわー。
「夫婦じゃない、程遠いけど」
そう濁す鈴愛。
いやいやすごいよ、本作。そういう朝ドラなら、ラスト二週間なんて夫婦でニッコニコなのに、この二人その手前のままなんだもの。
「程遠いか」
そう言い出す律。ん? ここでどうにかなるのかな、と思っていたら花野の学童があるからと、鈴愛は立ち去るのでした。
ここで廉子のナレーションです。
現実は厳しい、仕事という怪物はお金を減らす。
そうなんだよなあ。この二人、あっさりと再婚しちゃえ~というルートに行けないのは、ビジネスパートナーになったこともあると思います。
だがそれがいい!
ビジネスもお互い共有する戦友で、かつ深い何かがあるところが好きだから!!
朝ドラ定番の夫婦共同事業とはちょっと違うんですよね。
史実で夫婦が経営者でも、名義的には夫だけのものだったり。妻がいくら経営にタッチしていようが、ドラマではアルカイックスマイルでエールを送るだけの存在にされていたり。
夫婦で共に戦う――そういう感じはあんまり出ていないんですよね。
そこが本作の良さであり、個性です。
「人生はわからんもんや。人生は面白いわ」
岐阜での晴から、鈴愛に電話が入ります。
晴は弥一の写真教室に入って撮影にハマっているのだとか。孫の大地もうまく撮影できるようになったそうです。
これが晴さんのやりたかったことか!
教室には、貴美香先生、マナの母・幸子、ブッチャーの母・富子らも来て楽しんでいるのだとか。金華山で野鳥を撮影し、楽しんでいるそうです。富子も付き合ってみるといいひとなんだとか。
「人生はわからんもんや。人生は面白いわ」
そう語る晴。
良妻賢母として誰かを支えてきた晴が、誰かのためだけではなく、自分の創造力を発揮して、それを伸び伸びと楽しんでいるのでしょう。
みんな創造力を楽しんでいるなあ。こういう楽しみ方、ありますよね。
夫婦で寄り添って同じ方向を眺めるだけが、正しい姿のように思われがちですけれども。
夫が創造性を発揮して妻が見守るのも、ありってされがちですけれども。
妻の創造性を夫が見守る形でも、いいんですよ。
そこまで描いてくれましたか。
本作は、父や夫という一家の大黒柱以外の構成員が持つ、創造性をうまく表現できていると思います。
妻子は大黒柱が創造性を発揮して羽ばたく姿を後ろで支え、見守っていろ、そういう朝ドラが多いのです。過去舞台の立身伝系はだいだいこのパターンです。
『とと姉ちゃん』のようにクリエイター女子の立志伝すら、
「ヒロインは本来良妻賢母タイプです。彼女が輝けるのは、寛大な年上男性の引き立てのおかげです」
と弁解するような展開で、がっかりしたものです。
本作は、そういう朝ドラにつきまとう、保守的家族像だけが正解という像を、うまく壊してゆきます。
「そよ風の扇風機、どうなった? いつできる?」
一通り写真について語ったあと、そう聞いてくる晴。
「あっ、もうすぐや! 楽しみにしといて」
即答する鈴愛。本当にぃ~?
「律の真ん中で、律を呼ぶ。なんちて」
花野は、鈴愛にドッジボールの審判をするといいます。
そこで『マグマ大使』の笛じゃなく、ちゃんとしたホイッスルを買ってあげると約束する鈴愛です。
花野は、鈴愛のワンピースはかわいいけど、ちょっと足りないと言い出します。
そして
「これ、つけていけば」
と差し出したのは、あの笛なのでした。
鈴愛がオフィスに行くと、律は眠っています。どうやら徹夜でもした様子。
律の顔に思わず顔を近づける鈴愛。キスしようとした?と思っていると、律がふと目を覚ましたかのように、鈴愛の手を握ります。
「おはよう」
「おはよう」
「今何時?」
「8時。まだ早い」
「入る?」
そう会話を交わしたあと、自身の毛布に入るよう、鈴愛を促す律です。
その腕に抱かれ、同じ毛布をかぶる鈴愛。
「何これ」
一人、目を開く鈴愛。
言葉は少ないけれども、その瞳が困惑だけではない、喜びも入り混じった表情を浮かべています。
首から下げた笛を唇で挟み、そっと吹く鈴愛。
「りーつー。律の真ん中で、律を呼ぶ。なんちて」
こんなロマンチックしかない状況でも、ちょっとおどける鈴愛。
窓の外からはクラクションが聞こえます。
「音は怖い。左耳が聞こえないから。何の音かわからなくて。音は怖く、風はやさしく、律はあったかい」
そういう鈴愛を、ぎゅっと抱きしめる律です。
ああ、やはりこの二人、昨日鈴愛が言った通り、お互いそのままでいられるんですね。
「そう?」
律はそう言い、ぎゅっと鈴愛を抱きしめます。そして、そのまま二人の唇が重なるのでした。
今日のマトメ「創造性を発揮せよ、人生の空気を深く吸おう」
進歩がないからこそ、そこがいい、それが律と鈴愛かも。
昨日、正人に、二人でいると変わらないでいられると語った鈴愛。
そうそう、いくつになっても笛で律を呼び出してしまうのです。
人付き合いの苦手な律にかわって、いろいろと奔走する鈴愛。これも、昔のまんまかな。
不器用で、子供っぽくて、それでも信じ合っている!
同じ毛布をかぶってキスまでする以上、そりゃ分類的にはラブシーンってやつですけれども。
なんだかな、それだけじゃ足りない熱くて深いものを感じましたよ!
そして今日散々書いて来たこと。
それは、家庭内で大黒柱を支える立場の人間が、創造性を発揮する素晴らしさを描いている点です。
津曲や岩堀、ボクテの父子関係。
そして晴と梟商店街の女性たち。
誰もが大黒柱である家長の腕から離れて、自分の創造性を発揮して、人生の空気を深く吸い込みたいと思っている。
そういうメッセージを感じました。
どうしても朝ドラって、よい家庭という中で、笑顔でいてこそ成功者という像が多いものでして。
自分の中にある創造性の輝きに焦点を当てた作品は、『カーネーション』や『あまちゃん』のように、ないわけではありませんが、ほとんど存在しないようなモノ。
本作はそこに迫ってきた!
ヒロインだけではなく、多くの人々のそういう部分に光を当てました。
うん、これはやっぱり朝ドラ革命だ!
あと少しで終わってしまうこの作品ですが、革命を起こした風がやむことはない――そう信じたいです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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