まんぷく 100話 感想あらすじ視聴率(1/30)俺のスープが飲めねぇのか!

この世にないスープを作ろうとしているようだ

中華で食の発明をしたスゴイ人がいることは確か。
例えば「老干媽」の辣油です。

我が子二人を抱え、夫に先立たれた陶華碧さんが、経営する食堂のために工夫して作った辣油。
そんなシングルマザーの発明が大ヒット!
今では中国屈指の実業家にまで上り詰めたんですから、こりゃスゴイでしょ。彼女こそむしろ朝ドラ向きだ。

本当に美味しいので、皆さんも機会があったらお試しくださいね。

老干媽の風味豆豉

スープに話を戻しますと……万人が食べて、感動するほどおいしいスープ——。
残念ながらそんなものは、この世にありません。

本作は、いわば【魔法の絨毯作り】に挑んでいるような、バカバカしいドラマです。
そんなもん、メアリー・ポピンズでやれよ、案件。

それならわかる。
魔法で、飲んだ瞬間にその人が一番好きなスープになるわけ。

どんな美味とされるものでも、苦手な人はいるもの。
そんなの当然ではありませんか。

『あまちゃん』の花巻さんから、こんなセリフを届けましょうか。
「分かる奴だけ分かればいい」
そんなものでしょう。

『マッサン』のウイスキーにせよ。
『べっぴんさん』の子供服や食器にせよ。はじめにあったのは、作り手の納得です。

ここまでやったからには、わかる人には伝わるはず。そう考えて売りに出していたものです。
万人受けは二の次でした。

それを台無したのは『わろてんか』と本作です。

「批判する側が意地悪なだけだもーん!」
おてんちゃんがそうやってブー垂れてましたね。あのときは検閲官が相手ですから、今にして思えばまだマシでした。

萬平と来たら、ダネイホンにせよラーメンにせよ、まずいと口にした側をジッと睨み付けますからね。
怖い。サイコみたいで怖いんですよ。

こんな素晴らしいものの良さがわからないお前は、邪悪で、マイノリティで、鼻つまみ者で、世間から嫌われているんだ!
お前の存在なんか認めない、くだらない、とっとと消えろ!
こういうスタンスでしょ? 何だソレ。

そんな萬平を見ても福子は隣で「もぉぉ〜!」。
克子と忠彦も、咎めるような目線で見つめる。
世良に至っては「追い出せ!」。

ワガママかつどんな独裁主義ですか?
ろくにコダワリも説明しないまま、反対する側を弾圧するだけなのです。

まぁ、勉強嫌いな本作では、コダワリの裏付けがないんですよね。

脚本家は、一度でも、自分でラーメンを作ってみました?
例えば扇風機を作るなら技術者に取材をするしかありませんが、ラーメンならできないことはない。もし私だったら絶対に試してみる。

実際に作ってみることで、いくらでも見せ場のシーンや理屈は増えてくると思うのです。
やっていないなら、作り手としてサボりすぎです。

鶏は、食のタブーに触れなかった

さて、もう一度史実をたどりましょう。
チキンラーメンのチキンスープが結果的に正解であったのは、食のタブーに接触しなかったことが大きいとされています。

豚肉であれば、イスラム教徒やユダヤ教徒に避けられてしまう。
牛肉であれば、ヒンドゥー教徒でやはり避けられてしまう。

結果的に、そのタブーに抵触しにくい食材である鶏肉であったからこそ、世界的なヒットにつながりました。
そういう偶然で得た、多数に受け入れられるスープで充分なんですよ。

そのチキンスープだって、ベジタリアンやヴィーガンの方は食べられませんからね。

本作のような、誰でも一口飲んだ瞬間に、
「うんまぁーい!」
って、それこそカルトじみていて気持ち悪いだけです。

『まんぷく』内に流れる価値観が絶望的に古いと思うのも、このあたりなんですよ。

現在、ハラル食やヴィーガンフードへの関心が高まっています。
海外から来る方が、そういう食品があるのかと頭を悩ませていることも多いもの。アレルギーもそうですね。

いわば、食の多様性も求められる。
そういうニーズに応えてこそという時代なんですね。

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そんな時代に、
『誰もが美味しいと認める味!』
の追求が、いかに古くて危険か、想像できないのかなぁ。

しかも本作では、マズイと言う側、食べられない側を貶める描写と表裏一体なんです。

まるで
「俺の酒が飲めねえのか!」
と、言い張る飲みニケーション上司ですわ。

もしくは
「昔はアレルギーなんてなかった! 食べて治せ」
と、アレルギー児に食べさせてはならないものを無理矢理与える困った人ですね。

「ハラルってうるさいよ。日本に来たらそんなもん周囲にあわせればいい」
「ベジタリアンだと? 動物だけじゃなくて植物だって生きているんだぞ〜、バカじゃないのか!」
と、食のタブーを無視することをジョーク扱いする人。

そんな姿を連想させて、ハァ……うんざり。

もう、目上の人の顔色をうかがいながら何かを食べる時代じゃありません。
好きなものをとことん食べていいんです。

『半分、青い。』の秋風先生みたいにね。

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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

立花福子のモデル・安藤仁子の生涯

※レビューの過去記事は『まんぷく感想』からお選びください

まんぷくモデルである安藤百福の記事、ならびにラーメンの歴史もリンク先からどうぞ!

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3 Comments

塩ラーメン好き。

発明家様が下記のようにコメントしておられますが、
>技術は適切な時間頑張れば必ず発明されると考えているかのようだった。
スタッフや考証に食品系や技術者の方がほとんどおられないか、
考証の方がいても企画、脚本の段階でほとんど介入できてないのかも。
その点、半分青い。は
素晴らしかった。
その世界の第一人者の方々が
考証に加わっていて、あの方が
考証ならきっと大丈夫、
やっぱりちゃんとしていた、
とにんまりするような表現が、
とても楽しかった。

通りすがりの者

百福さんについてそれほど詳しくはないのですが、聞きかじった情報を自分なりにまとめてみると、どう見ても発明家ぽく無いんですよね。実業家か起業家って感じ。でも、それだからこそ戦時中、戦後に捕まった話や金融業に首突っ込んで大やけどしてどん底を見て、そこから復活するストーリーが生きてくると思うんです。
でも、ドラマは、稀代の発明家(あるいはマッドサイエンティスト?)に改変しておきながら、その他のエピソードはオリジナルを適当に面白く改変しているだけだからまったくつじつまが合っていないんですよね。悪いのはプロデュ―サーか脚本家か演出か、あるいはすべてか。

あと、企業関係者の成功物語は終盤、会社が大きくなっていかなきゃいけないのに、朝ドラの家族中心フォーマットだと登場人物の数も限られ、いつまでも家内・中小企業感が抜けず違和感ありありになるので、その点から見ても朝ドラでの事業成功者ものは止めた方がいいですね。
近年だと、あさが来た、マッサン、べっぴんさん、わろてんか。
とと姉ちゃんは雑誌会社なので規模感小さくてもギリギリセーフか。

発明家

 だれかがあるとき「即席ラーメン」をこの世に生み出したいと思ったとき、もっとも重要で必要不可欠なアイデアはやはり「乾燥させて常温で保存でき、お湯をかけるだけで食べられるようになる麺」だと思うのです。

 問題はそれをどのようにして作るか。劇中ではまだ世界にはないのだから、何百時間考えても思いつかないかもしれないし、そもそも当時手に入る技術と適切なコストでは実現不可能かもしれない(ちょうどお湯をかけたら出来上がるカレーを目指した場合のように)。そこの技術がまだ影もないまま、手間とお金をかけて究極のスープを作ったところで、作ったスープが麺とは合わなかったり、麺と一緒に運搬して調理するのに向かなかったりしたら、また一からやり直しになる。

 理想はあるとして、その実現のために問題解決の手をかける順番が明らかにおかしいいし、誰もそれを指摘しないのもおかしい。だいたい、そういえば「まんぷく」の発明はいつもコンセプト先行、名前先行で、技術は適切な時間頑張れば必ず発明されると考えているかのようだった。

 と今日も思いましたが、最近よく空想します。もしもこの作品が、キャラクターの知識、経験による合理的な発想として納得できるように、技術や発明を正しく取り扱っていたら。また、すべては「チキンラーメンの発明」という瞬間に至る道として、そこから逆算して、細かなエピソードをすべてそのために積み重ねていたとしたら。その中でキャラクターもすべて有機的にがっちり結び合って「これはチキンラーメンが生まれるしかない」という納得感があるものだったらどうだっただろう。

 そうしたらおそらく、私はこの話を好きになっていただろうし、もしそうなら、発明者を日本人にしてしまったとか、センスが古いとか、そういった欠点は小さなこととして無視してしまったかもしれない。
 現実、そうはなっていないので楽しんでレビューを読ませていただいておりますが、本当にそうだったら、どうなっていたでしょうね。

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