あさが来た 89話「開拓使官有物払下げ事件」描写が歴史修正では?

店の前で千代たちが毎日、往来を防ぐようにままごとをしています。

子どもの遊びをどうこう言うのも何ですが、客商売の家の子として生まれながら、客の出入りを邪魔する位置で遊ぶのはいかがなものでしょうか。

もっともこれは子どもの責任ではなく、保護者の問題です。
千代は母親の商売を理解しない――今後そう描くつもりのようで。客の邪魔をしてはいけないということすら躾けていなければ、子どもが理解しないのも当然です。

「1400万がなんで39万になりまんのや?」

大阪に戻った五代は、大阪商法会議所で会頭を引責辞任すると表明。
これにおさまらない大阪商人たちの怒号が飛び交います。

あれほど有能で雄弁で、英語混じり、立て板に水でビジネスについて語っていた五代であるのに、何故か今日ばかりは頭を下げて「辞める」の一点張りです。

「皆掌返したように……」
「信じていたのが裏切られてがっかりしているのですよ」

そんな、あさと榮三郎のやり取りがここで入りますが、数分後、まったく同じ台詞が私の頭の中を駆け巡ることになります。

「政府から格安で払い下げを受けて、私腹を肥やそうとしていたのは本当なのか?」と追及される五代。
問い詰められても五代は言い訳をするつもりはない、辞任するとしか言いません。

これには大坂商人がおさまりません。

「1400万がなんで39万になりまんのや?」
という台詞にも、回答なし。

ここであさが立ち上がり「裏切られたかどうかはまだわかりまへん!」と言います。
いや、裏切るも何も、経緯をちゃんと説明してなかった、マスコミ発表からしばらく姿を消していただけでも五代アウトっしょ……とつっこみたいのですが。

情けに訴えるブラック企業的な

このあとのあさの台詞は、波瑠さんの演技の巧みさもあってなんとなくよい台詞に思えますが、大変問題があるものです。

要約すると「これだけ世話になったのに掌返しか、あほんだらだす! 大阪商人は、そないな意気地なしになってしもたんだすか!」と、五代ではなく大坂商人を罵倒し責めるというもの。

情けに訴えるわけですが、それってつまり……ブラックですよね。

◆ブラック企業でよくある退職引き止めの5パターン:退職者の情に訴える

「今まで育ててやったのに…」、「一緒に働いてきた仲間たちを見捨てるのか」といったセリフがこれに当たります。しかし、ブラック企業やその経営者、上司 があなたの望む人生や将来のキャリアを実現してくれる保証はどこにもありません。情に流されず、ビジネスライクに考えることが大切です。

情に訴え、判断力を鈍らせるのは卑劣な手ですよ。
それを言うなら大坂商人だって五代に尽くしてきた面はあるわけで、「五代がそれを裏切った」と先ほどから彼らは怒っているわけです。

五代も「あささん……」とか目をハートマークにしている場合じゃないでしょ。
不正を糾弾されているときに、その相手に目をかけられていて、傍から見たら恋愛寸前くらいの濃い交情のある人間が、やたらと感情的高圧的に庇うのって、一番してはいけないパターンの気がするんです。

そもそも出資者は、取引不正をされたら相手に問い質すのは当然です。

あさの啖呵が今まで爽快感があったのは、不正に対して悪いものは悪い!とキッチリやりかえしたからです。

不正を問い質す相手を頭ごなしに「あほんだら!」と怒鳴りつけるのは、もう啖呵ではなくただの罵倒であり、恫喝ですってば!

北海道開拓使は赤字まみれ

ここで新次郎、謎の帳面の写しを参加者に配り出します。

開拓使の経理がいかに赤字まみれか?そんな状況が一目瞭然の会計書類です。
リーク元は五代側近の三坂。いつの間にそんなに三坂と仲良くなって、いつの間にそんな機密書類を複製したんだと唖然。

「ジェバンニが一晩でやってくれましたわ」

新次郎がそう言い出しかねないと思いましたね。
それにしてもそんな重要書類を複製とか、セキュリティもコンプライアンスもガバガバすぎやしませんか。

この資料が漏れてマスコミの手に渡ったらどれだけの人が火だるまになるか?
開拓使官有物払下げ事件では、情報をリークした疑いがもたれた大隈重信が下野する羽目になっています(明治十四年の政変)。

帳面を見た大阪商人は、北海道開拓使は赤字まみれとわかります。
だから安かったと新次郎は説明するわけですが、そんなこともわからず出資を決めていた判断の甘さにびっくりぽん。

新次郎は「利益が出るかわからん事業に払う金としては精一杯なのでは」と言うわけです。
でも、それでは結局、五代はそんな危ない事業に大坂商人を巻き込んで手出ししようとしていたのか、と別方面から炎上します。
この流れ、残念ながら当然かと。

浅はかな一言にナゼ心を動かされているのか?

ここで榮三郎が出てきてとどめ。

「赤字出るかもしれないけど、大阪商人ならきっと何とかできるやろ」

うーーーーーん。
なんだかよくわからないがとにかくすごい自信です。
この前、襲名したばかりのペーペーの若造に何ができるというのでしょう。
熊虎さんとか、地道にコツコツ開拓に関わっている人が聞いたらどう思うのか。

雁助さんをこの場に連れて来てもいいです。
彼なら苦い顔で「それはちゃいますやろ!」と言ってくれるんではないかと。

しかもダメ押しで榮三郎まで情に訴え、皆すっかり改心。って、マジか???
掌返しばっかりで、烏合の衆にしか見えない……。

本当にこの計画、世論の反発で潰れてよかったですね。下手に成就していたらアカン未来しか見えません。

新次郎は
「外野がガタガタ言わないでこの話まとまっていたら、誰も損せず大阪も政府も日本もええ思いできていたかもしれませんのにな」
と言うわけですが、まったく説得力ない。

「この事件って何だかわからなかった」という声

北海道を舐めすぎでしょう。
『マッサン』で主人公が地元の人々に受け入れられたのは、きっちりとウイスキー作りに向いていてリンゴをつなぎに使えると確証を持ち、地元の人を雇用し経済を発展させ、腰を据えて誠意を持って取り組むと示せたからだと思います。

軽佻浮薄でふらり〜としていて、よくわからないみたいな自信だけある連中が手出ししたら、北海道はとんでもないことになっていたんじゃないですか。
史実はともかく、本作の大阪商人は北海道の土を踏まずに済んで正解です。

そんでもって感動的な音楽が流れて一本締めしましたが、結局、何も解決していませんよね?
このあと、冷静になった大阪商人たちが事後対策をする場面でも入れたらマシですが、ナレーション処理でした。

『結局、ドラマを見ていてもこの事件って何だかわからなかった』
そんな感想を見かけましたけど、わかるように描いていないのだから、それもそうだと思いますよ。

大阪商人は気分がよくなって丸く収めていますけど、結局、五代も会頭留任しています。
対外的には無意味ですし、自浄作用のない不誠実な集団だと思われても仕方ないでしょう。

今回の言い分をざっくりマトメます。

不正な手段で格安訳あり物件を手に入れたけど、自分一人で私腹を肥やすつもりではなく、うまくいったらみんなで分配するつもりでした。ものすごくリスクが高い儲け話を、リスクについてろくに説明もしないまま皆さんに勧めていたことは事実ですが、みんなで頑張ったら何とかなると思っていました。今までの御恩に免じて許せや! おまえらそんなに薄情じゃないだろ?」

ということです……戦国時代の地方豪族とかヤクザならまだしも、近代国家の商人がやる話じゃないんですね。
一体どうしちゃったのか。これじゃあまるで五代が山師だ。キャラ崩壊が酷い。

【キャラ別マトメ】

あさ:ヤクザ恫喝。筋を通さず情でゴリ推しするようになる

新次郎:商売のことはわからなかったはずが、北海道の件では何でもお見通しに

榮三郎:根拠の自信の持ち主に。あさとは違って博打はしない慎重派ではなかったのか

五代:立て板に水の雄弁キャラが、いきなり何も言えなくなる無能ぶり

三坂:煙たがっていた加野屋関係者に、極秘文書をあっさり部外者に渡す

大阪商人:商才が消え去り、烏合の衆に

総評

ここまで書いて
「おまえこそ掌返しがひどい!」
と言われそうな気がして悩みました。

辛いです、本作が好きだから。
作劇としては悪くありません。むしろ巧みです。

ここまで無茶苦茶なのに、要所要所に感動的な台詞を混ぜ込んで、盛り上げてきました。

感動したと言う人も多いんです。
朝から政治闘争なんて見たくない。
出勤前に元気になれればいいという意見があることも確かです。
NHK大阪は、固有名詞をいじって史実より人情重視のドラマだと逃げ道を用意しています。

しかし今回は、ちょっとやり過ぎではありませんか。

本作を見て、五代の開拓使事件を【マスコミのでっちあげ】だと勘違いしている人が既に出てきております。
歴史修正をやってしまったとも言えるかもしれません。

それはやっぱりしてはいけないことだと思うのです。

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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

※レビューの過去記事は『あさが来た感想』からお選びください

あさが来たモデル広岡浅子と、五代友厚についてもリンク先に伝記がございます

【参考】
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1 Comment

まゆ

五代様の人気が高まって、もっと出せという要望にお答えして、脚本書き換えたと聞きました。直前に現場がパニクったのかもしれません。

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