なつぞら36話 感想あらすじ視聴率(5/11)世界一残酷な武器に刺されて

そこへ、照男が姿を見せます。

「大丈夫だ、なつ、なんも変わらない。何も変わってないから」

照男はダメだったと言い切ります。
そんな風には、どうしても思えなかった――。

「なつはやっぱり、妹にしか思えないよ」

じいちゃんをがっかりさせたくなかったから、今まで言えなかった。
なつのことはなつに任せよう。そう言い出してしまうのです。

なつはあんなにめんこいから。きっと嫁にしたいだろう――そう思い込んだのか。
照男は言いなりになるような性格じゃない――そう思い込んだのか。

完全に読み違えている。
愛はひとつだけじゃない。
そこを泰樹は完全に間違ってしまった。

ここでなつは、じいちゃんの気持ちも少しはわかってやれと照男に言われます。

「じいちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「謝るな、謝るな……」

なつは悪くない。
全ては愛を読み間違えた自分が悪い。

誰もが読み取れるはずのない、愛を評価しようと思い上がった。軍師が愚かだった……。

あろうことか、なつを傷つけて、家族にヒビを入れてしまった。そして自分自身も血を流しているんだ……。

じいちゃんを一人にしてやれ。
そう気遣われる泰樹。なつは、少し時間を置いたら天陽のところへ行かなくてはと言い出すのでした。

もう泰樹はズタズタだ。
世界一残酷な武器である愛に刺されて、血まみれなんじゃあああ!

白魔の恐怖

なつはスキーを履いて出かけるのですが、嵐にあって遭難してしまいます。

これも、北海道ならば避けて通れない描写でして。

「そんなに天気が悪いなら出かけなければいいじゃない」

そう言えるのは、雪国を知らない人だけです。
嵐は突然やって来ます。

なつの出かける時間がもう少し早かったら、そこまで危険でなかったかもしれない。

雪をなめるな!
そんな恐ろしい描写が、そこにはあるのです。

八甲田雪中行軍遭難事件~マイナス20℃ 真冬の青森で登山そりゃ遭難するわ!

受け入れてこそ家族でしょ

泰樹は、自室でじっと考え込んでいます。
そこへ富士子がお汁粉を持ってくるのでした。

「もう、勝手に話すから」

「すまん……もう元に戻れんかもしれん。なつの言うとおりだ。もう戻らんかもしれん」

ここで富士子はにっこり笑います。

「何があっても受け入れる。それでこそ家族でしょ」

と、泰樹がお汁粉を口に運び、富士子はホッとした表情を見せます。

愛に刺されて倒れた人を、救うのも愛だからね。
タイウィンと違って、娘の富士子はサーセイじゃない。

これもいいセリフだと思いますね。

『アナと雪の女王』を今朝も思い出しました。

世間が受け入れないから、あなたの特質は隠して生きていきなさい。
家族が困りますからね。それでこそ皆が幸せになるのです。

そう教えられて、育って来たエルサ。

能力にせよ、性的嗜好にせよ、結婚願望以外にせよ。
隠し通して、いい子でいなさい。それが幸せだから。

そう言われ続けて来た人が、世界には存在します。

そうして苦しんできたエルサを受け入れる。そんなアナ。
その想いこそが、本物の愛なのだ。あの作品は、そう描きました。

それと相通じる深い愛が、この作品にもあるのです。

しかし、なつがいない

しかし、それはそれとして、なつは絶体絶命のピンチでして。

山田家も心配しています。天陽の父・正治はこう言います。

「この雪ではもう来られないべさ」

剛男もやっとのことで帰宅すると。

「なつの足ならもう、山田家についているべ」

と言う照男のセリフが怖い。
本当に不穏な空気を演出するのがうまいなぁ。

ここで、夕見子がイジワル軍師っぷりを発揮します。

「天陽君のところにいるなら今日はもう帰ってこないかも。天陽君の家の人になっちゃうかも」

おいっ!
相変わらず、こっちの軍師はピンピンしおってからに。

戸村父子がたしなめる中、夕見子は結婚というキーワードが出て、異変を察知します。
チビ軍師になりつつある明美とともに、不穏な気配を察知して探って来ます。

どういう性格なんじゃ!
えぇ、直江兼続です。

そのころ、なつは謎の人物に介抱されていたと判明します。
木彫りの熊に囲まれて、目覚めるなつ。

ああ、なつよ。とりあえず生きていてよかった。
ここがどこだかわからないけど、来週に続けよ――。

と、気になるところで終わりじゃああ!

これ、結果的にはなつが助かりますけれども。

自分のせいで出発が遅れ、なつが死にかけたわけですから、泰樹の胸に、また刃が刺さったと思いますよ……勘弁してくださいよー。

軍師の完敗か、それとも勝利なのか?

いや、だからなんで、朝ドラを見ていて『ゲーム・オブ・スローンズ』級のショックを受けてのたうちまわってんの?

血は流れないけどさ。
精神的にさ、もうズタボロなんじゃあああ!

おのれ……何をするのだーっ!

辛い。
これはもう辛い。

大森氏、怖い。何をするんだ。
怖すぎるわ!

北海道編MVP、伝説の白い大魔導士レベルの人物として泰樹を出して来て。

その泰樹をこんなズタボロにするなんて。
ボコボコにするなんて。
しかも、それも泰樹の自滅ゆえだなんて。

愛を求めて迷走し、愛を得るために策を練り、その愛に刺されてぶっ倒れる。
そんな泰樹。
だからこその草刈正雄さんなのでしょう。

策を練っているからよいというだけではない。
失った愛を求める。それゆえに策を練って暴走迷走破滅する。

そういう魅力を真田昌幸を通して見せた草刈さんだからこそ、こういう泰樹を描けたんですね。

昌幸は流刑先で悶々と苦しむわけですが、その姿にも魅力はあったもの。
苦しむ姿をそう見せる。これも、演技力あってのものです。

おめでとうございます。
あなたはもう、日本版チャールズ・ダンスです。

彼にもお茶目なところはあるんだよ

「萌え」を燃やしに来た本作

今日、重要なところ。
アニメの原点回帰を目指している本作は「萌え」を燃やしにかかって来ました。

本作って、アニメを全肯定するつもりはない。
むしろ、世界のトレンドを追いかけている部分があるのでは?

どこで「萌え」を燃やしたのか?
それはなつの、照男にそう思われただけで気持ち悪いという否定です。

「妹萌え〜」

「えっ? 憧れのあの先輩と、きょうだいになってしまうの?」

こういう漫画やアニメって、男女双方をターゲットにして、もう主流になりつつあるのですが。

個人的には、まったくわからん!!

正直なところ、家族に性欲を向けるって……個人的には無理でして。
****でさんざん突っ込んでおきましたね。

なつのセリフって、漫画やアニメにありなちだったモヤモヤ感へ、キッパリと否定を突きつけていると思います。

家庭内、家族内の異性を静的な目線で見てしまうと、気持ち悪くて仕方なくなる。

「あんなに美人な妹(または娘)がいたら、ムラムラしない?」

こういう冗談にも、
「失礼だよ!」
とキッパリと言い切りましたよね。

#Wetoo の時代のドラマとして

朝ドラというフォーマットであるからには、いろいろ制約はあるでしょう。
それでも本作は、時代の流れを推進力にしていると強く思います。

家族の一員に、性欲を向けること。それは危険なことです。

逆らえない。
恩知らずだ。
誰のおかげで生きていけると思っているんだ。

そう縛り付けて、抵抗力を奪い搾取する。極めて邪悪なことです。

◆裁判官に人権教育と性教育を!〜無罪判決に、抗議の「#MeToo」〜(雨宮処凛) 

それがいかに悪質であるか。
柴田家は、そういう卑劣なことをしていません。親が子に学費その他で恩を着せ、性的な目で見つめていた前作****とは違います。

愛と性欲とは、関係があるようで別物です。

「エロいあの子といいことをしたい」
「大事なあの子が幸せでいて欲しい」

違いますよね?
支配欲と愛は、別物です。むしろ対極にあります。
支配欲を向けることで、押さえつけることで、誰かを傷つけて心を壊してしまうことがある。

本作は、支配欲と愛を混同しがちな、最近のアニメや漫画、フィクションと違う。
きっぱりとそう言い切りたいような、潔さを感じさせます。

泰樹が、支配欲でなつを縛り付けていたら?

それで彼自身は満足するかもしれない。
けれども、富士子が指摘したいように、それほど残酷なことはない。そういうものなのです。

なつぞら35話 感想あらすじ視聴率(5/10)ヒロインはトロフィーじゃないんだ

本当の家族や、愛を求めること。
結果、今日の泰樹のように心に深い傷を負い、倒れることもあるけれど、その先でしか、得られないものがきっとあるから――そこを目指し、本作は駆け抜けていく。

フィクションの力を信じているからこそ、理想の世界を目指す人々の姿を描きたい。
100作目の朝ドラには、そんな作り手の愛が詰まっています。

あ、そうそう。
なつの決断を「わがまま」だの「自分勝手」だの「おとなしく結婚しろだの」という雑な記事が出たら、全力で対抗していきたいですね。

※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!

【参考】なつぞら公式HP

 

17 Comments

それでも照お兄ちゃんかっこいい

なつぞらの感想を読みたくてこのブログを見つけました。他作品にまで考察が及んでいて、なつぞらをさらに深く味わうことができました。私自身、初期ディズニー作品の白人男性至上主義には違和感を覚えますが、女性の描き方という点でなつぞらはすごく現代的な作品なんですね。なるほど。

照おにいちゃんの気持ちを思うと切ないですが、なっちゃんの「恥ずかしいよ!」っていうセリフはすごくよかったですね。確かに現代日本の作品では妹を恋愛対象として普通に受け入れてしまってますもんね。アイヌの親子と出会う回でも、18歳の彼女を、いい意味で子どもとして尊重してあげる姿勢が感じられました!

904bis2型

『なつぞら』が始まった頃、泰樹のルーツについて、アイヌ民族との関係性の可能性も、当レビューでは触れられていたと思います。
その後の物語の展開のなかで、泰樹自身は富山県出身ということが明らかとなりましたが。

今回、なつを助けてくれた人達が、ひょっとするとそうなのかも。
週明けが待たれます。

あねもね

ナルビク部隊 様

お気遣いさせてしまったようですね。
ありがとうございます。

これからもレビュー・コメントともに楽しく読ませていただくつもりです。

ガブレンツ奮戦

丁度今、『いだてん』では、二階堂トクヨ先生が永井教授を「時代遅れ」とやり込めてましたね。
爽快。

約半世紀後の本作『なつぞら』で登場する女性たちは、皆それぞれに自己が確立し、自らの考えをしっかり表明できる人物として描かれています。

女性に焦点があたってはいますが、これは男性登場人物であってもそう。

『なつぞら』も『いだてん』も、自己が確立した、ぶれない登場人物が魅力です。

ナルビク部隊

前後しましたが、私の一つ前のはもちろん匿名氏向けの発言です。

ナルビク部隊

ま、だから
お越しにならない方が良いでしょう。

あねもね

なつと泰樹の心象を映すような雪嵐
今週は切ない展開でした。

そんな中、山田家の牛はあの時の発情を逃さず妊娠していたんだと密かに嬉しくなりました。小さなシーンにも色々な意味がある北海道編は素晴らしいです。

発情や妊娠を無邪気に口にするなつ。
柴田牧場で愛されて育ったことが良く分かりました。苦労して生きて兄妹は行方知れずだからこそ、自分を恋愛や性から遠い存在と思いたがっていることも。

周囲は愛しいと同時に心配でもある。
特に泰樹は。だから先手を打ってしまった。
大きなしくじりですが、なつの成長には必要だったかも知れません。
泰樹もまた変わると信じます。

女子の意思が無視または軽視される。
意思を示せば貶められる。
当たり前と思い込んでいる輩に悪気がなかったりする。
生まれ育って40年近く確かにずっと感じています。
過去にあって、今もある。
だからこそ新たに作られる作品として相応しい作品を朝ドラに望みます。

匿名

ナルビク部隊様
塩ラーメン好き。様

価値観・感性の違いだけなら良いですが、こちらのレビューは事実をねじ曲げて書いています。
モデル騒動にしても、娘達は「モデルなら私がやる」とは言っていましたがヌードモデルをやることについては拒否していましたし、忠彦も家族にはさせないと言っていました。
それを娘達が「ヌードモデルやりたい」と言ったように書いていることを指摘しているのです。

ガブレンツ奮戦

視聴する側も動揺しないわけにはいかなかった今回前半の展開。

でも、少し時間が経ってみると、この出来事は、なつにとって柴田家との家族としての関係を再認識することになったかもしれない。何の疑問もなく「家族」と思っていたからこそ、突然の照男との結婚提案があれだけのショックとなったのだし。

今回の出来事は、むしろ、なつが十勝を離れて上京してからも、十勝や柴田家との縁・絆を意識し保ち続けることをより強めることになったかも知れないなあと思いつつ、次週を楽しみにしています。

塩ラーメン好き。

>家族を性的な目で見ていた前作

あのモデル騒動で前作の視聴は
限界になりました。
ほんとに気持ち悪かったです。、

スカパ・風呂ー

ごく身近に接していて「異性」として意識していなかったものが、何かのきっかけから意識し始めてしまう…という作品は割とよくあるし、実生活でも、何歳になってもありがちなこと。

※もちろん、実の肉親等のことを言ってるのではない。

なので、逆に「今まで意識していなかった相手と、急に結婚することになる」というのも、一つのきっかけということもある。それで、今まで知らなかった相手の魅力を知り…という人生が始まったケースもあるので、そのような出会い自体を一概に良いとも悪いとも言えない。
人格を無視した強要等はもちろん不可だけど。

それに、貧しい開拓地や、戦後の混乱期の生活など、「生きるためには相手を選ぶどころではなかった」という時代もあったし。

なつと照男のケースは、やっぱり無理があった。

泰樹じいちゃんは、なつは「もうすっかり家族になっている」のに、それでも「『手放したくない』と欲張った」から、かえって失うことになってしまった。
こういう昔ばなしはあったような気がしませんか。

ナルビク部隊

大体、前作は女性の人格をまともに認めてなかったし。

ナルビク部隊

↓ 前作の「モデル騒動」なんか、その典型です。
  このサイトの前作レビューをよく読むべき。それでも「私にはそうは感じないんだけどな」となるなら、それは価値観・感性の差ですから、ここにはお越しにならない方が良いでしょう。

匿名

この回のなつの泰樹への言葉は良かったですし、今の時代や昭和の時代でも家族を性的な目で見るのはもちろん許しがたいことですが、家族を性的な目で見ていた前作なんてなかったんですけどね。
「****は嫌いだからまともにレビューしません」って書いた上で架空の****としてフェイクレビューするとでも明言していてくれたら、まだ笑って読んでいられましたよ。

匿名

今更なことですが、武者様は再放送されている『おしん』と『葵三代』について言及されないのは、やはり相当昔の作品なので学説と時代背景が違うから、色々と触れられないのでしょうか。

904bis型

また私事ながら。
私の祖父母の身近に、本作の富士子のような発言力のある人がいたら、あるいは当人たちもなつや照男のように考えを言えたら、祖父母二人それぞれにも違った人生があったかも知れません。…まあ、今の私も存在しなくなるんですが…

泰樹を見ていると、明治の人、開拓者、土に密着して生きてきた強さ、絶対とも見える自信…私には最晩年の姿しか直接の記憶にない曾祖父の人物像が、何となく浮かんでくるような気がします。

904型

泰樹の後悔。
もう、取り返しがつかない。
なつを受け入れる最大の力となった人自身が、なつが去る最大のきっかけをも作ってしまった。
運命の皮肉なのか。
それとも、必然の運命なのか。

私事ながら、私の祖父母の結婚のいきさつは、本作とよく似て、遠戚で兄妹のような間柄の二人が曾祖父の強い意向で結婚したところがありました(本作のなつは断りましたが)。
その後、家は私の代まで続いてきてはいますが。祖父母も曾祖父もそれぞれに苦悩や後悔、寂しいことも少なくなかったようです。両親を通じてよく聞かされました。

今週は、見ていて胸が苦しくなる展開が続きました。今回はまたしても、「朝っぱらから家族の前で泣いちまったじゃないか!」

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