なつぞら38話 感想あらすじ視聴率(5/14)嘘と鎖

「何も言わんでもいい」

「もしかしてなつがやっと言い出せたのかも知れんべや……」

照男はそう気遣います。

「照男を巻き込んですまんかったと思ってる」

そう言い、一人、牛と向き合うしかない泰樹。

泰樹ジジイ……ここがジジイの悲しさです。
本音を受け止め、なおかつ粉砕できるのは、あの人くらいしかいねえよ……。

とよババア無双だ。
明日「雪月」で甘いものでも食べて、吹っ飛ばされて来い!

申し訳ないなんて思うな

このあと、なつの説得を家族が始めます。

照男は、とりあえず学校を出るべきだと主張。退学の方が学費の無駄――という夕見子による現実的なツッコミもあります。
学校を出ることを申し訳なく思うな、そう彼は言い切ります。

これはその通り。
教育の義務というのは、受ける子供の側ではなく、受けさせる側の大人の義務なのです。教育を受けた子供たちこそが、将来社会を支えるのですから。

学費を出してもらってずるい〜、感謝しろよな〜という考え方時代、前時代的です。

****では娘相手に、
「誰が学費を出してやっていると思っているんだ!」
と毒づく愚かな父親が出てきました。

あんなものは問題外です。
ああいうセリフを、受信料で作ったドラマで言わせるNHK大阪の罪は極めて重大です。

一体あんたらは、いつの時代を生きているんですか?

※学費ゼロのスロベニアに迫る『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』

ここで、チビ軍師として知略をあげつつある明美が、こう提案します。

軍師姉妹が戦況を変えるのじゃああ!

「咲太郎兄ちゃんを北海道に呼ぶのはどうかな?」

明美ちゃーん、すっかり賢くなっちゃって。
このままじゃニ兵衛クラス(黒田官兵衛・竹中半兵衛)になれちゃうよ。

本当に本作って、老若男女の賢さを描くのが上手ですよね。
子役もしっかりそこをふまえて演技をするから、ものすごく賢そうに見えるんです。

****は老若男女すべてが知略平均12くらいだったからね。あれに出てくる自称天才児との落差が激しいです。

かしこかわいい!
かしこくてかわいい!
明美ちゃんはなまらめんこいべさ。

そして、ここが重要です。
知性は、対策は、提案は、幸せをもたらすとは限りません。

発言者側が本心を語っていないと、事態がよりややこしくなるんじゃあああ!

なつは内心、しまったと言いたいことでしょう。
周囲も、なつに考えさせようと言い出すのです。

ここで、イジワル軍師・夕見子が負けてはいられません。

「なつが自分で納得してこそでござろう。今すぐ出て行っても、納得しているとは限らん」

「また姉上は難しいことを……」

「難しいことを考えるなと申したまでのこと」

「ありがとう。自分勝手でなんだか恥ずかしいよ」

「はっ、今更気づきおって」

「夕見子の大事な時に、騒いでごめんなさい」

「ふっ、何をいう。このそれがしが、これしきのことで負けると思ったら間違いよ……それでは勉強と参ろうかのぅ」

限られた時間で、直江兼続ぶりを見せつける。

あっぱれ、夕見子!
抜群の仕切りです。これをきっかけに、皆寝るなり、茶を飲むなり、日常に戻れます。

夕見子は厚かましいことをズケズケと言います。
一言多い。
めんこくねえ。

そのせいで、気まずい思いをする人もいるでしょう。
友達が多いとも思えませんし、嫌う人は嫌うタイプだとは思いますが。

それも、環境次第です。
こういうイジワル軍師にも、役割はあります。
空気を読まずに無駄話はこれまでじゃと真っ先にどこかへ向かってしまう。

そういう軍師を見て、それもそうだと周囲が気がつくきっかけになる。
適材適所なんじゃああ!

夕見子は偉いぞ。ある意味偉い。彼女を理解し、きっちりと使える環境がこれからもありますように……。

ここで、ナレーションはこう言い切ります。

なつよ、きみはまだ肝心なことを言っていないな――。

アニメのセル画がぴょこんと動く中、次回へ。

ぶち壊すヒロインたち

今日のシーンあたり、NHK東京『半分、青い。』の楡野鈴愛描写もふまえているのかと思えてきました。

野生児で、少女漫画とは程遠かった鈴愛。
それが秋風羽織の作品に惹きつけられ、読み漁り、トークショーに押しかけ、漫画家に突き進むわけです。

その過程で、周囲はどうして就職できないのか? と戸惑う。

この鈴愛の爆発的な言動と比較すると、なつは考えています。
性格だけではなく、血縁関係もあるのでしょう。

ただ、これだけは指摘したい。

『半分、青い。』で家族をぶっ壊してでも地方を突き抜ける。
そういう鈴愛あっての『なつぞら』ではないかな?

破壊的なエネルギーの朝ドラヒロインもあり。
そう『あまちゃん』なり『半分、青い。』なりで示したNHK東京だからこそ、集大成としてぶつけてきたのでは?

『まれ』のような失敗例もふまえているのでしょう。

ただ、なつには問題があります。

嘘をついていること。

今日の展開は、肝心の数人が嘘をついています。そして、だからこそこじれてゆくのです。

なつはどうして嘘をついたの?

なつはどうして嘘をついたのか?

そこまで思い出していないし(皆無ではありませんが、アニメのほうが考えていますよね?)、連絡も取れない。
どうして、そういう兄のことを持ち出したのか?

それは、女性の身勝手でも動機が【家族愛】であれば許されやすい。
そういう偏見もあるのではないでしょうか。

2013年大河ドラマ『八重の桜』のヒロインである八重は、弟の仇討ちだと怒り、彼の軍服を身につけ戦いました。
後半は、夫・新島襄の夢のためならば強気で進むヒロインでした。

それに反して、2017年『おんな城主 直虎』がより画期的とされたのは、生涯独身であったから。
複雑な愛を抱えた小野政次すら、刺殺してしまうヒロインでした。

あの場面はやりすぎ、衝撃的と賛否両論でしたが、個人的には、あれでこそ意義があったと思います。

女の動機は愛だけじゃねえんだ!
そう槍でブッ刺した幕開けが、あの直虎でした。

朝ドラでは、2013年『あまちゃん』のヒロインも、恋愛よりも同性への友情や夢を意識していました。
2018年『半分、青い。』は、最愛の萩尾律よりも夢を選択するヒロイン像でした。

なつも、その延長上にいる。
ただし、アキや鈴愛と違って、まだそこまで吹っ切れていない。

だから彼女は、嘘をついたのです。
女の鎖から、自由になりきれていない。

これは朝ドラもそうでしょう。
冷酷で悪逆非道の愚か者・****の*ちゃんが免罪されているかのように思えたのは、
「*ぅあんぷぅえぇいぃすぅあぁん〜〜!」
という、夫への愛。それが動機でした。
男への愛があれば、どんな悪事もオッケー♪ ってか。

それ、『ボニーとクライド』にも言えんの?

泰樹はどうして嘘をついたの?

もう一人の嘘つきは、泰樹です。

彼は、なつに出て行って欲しくない。お願いだから側にいてほしい。
こんなに愛しているのだから――。

愛で縛り付けたくない。
そこは彼自身、似ていると評価している天陽と同じなのです。

先週の土曜日、本音を出してしまった彼はそう言い切っていました。

なつぞら36話 感想あらすじ視聴率(5/11)世界一残酷な武器に刺されて

それが言えない。言えなくて、一人で泣きそうな顔になっている。

そこが軍師の悲しさなんじゃああ!

いや、軍師というよりも、男の悲しさですね。
男は家族愛よりも、大義である仕事や何かに尽くしてこそ――そういう価値観があります。

男性が、妻の出産に立ち会うこと。

男性が、弁当を我が子に作ること。

男性が、我が子を迎えに行くこと。

現代を生きる男性が、上司や社会からダメで甘いと言われてしまうのは、そういう偏見があるからでしょう。

そういう偏見にまみれた広告代理店の失敗例が、こちらです。

◆「牛乳石鹸」広告が炎上、「もう買わない」の声 「意味不明」「ただただ不快」批判殺到

「俺も親父みたいに、我が子のことも家庭のことも無関心で生きていたいよな〜」

「いつの時代だよ!」

そういうことです。

しかし、それでいいのでしょうか。

『半分、青い。』では、ここに挑みました。

愛妻のために食事を作る弥一。

愛妻の趣味を見守る宇太郎。

孫娘の決断に助言する仙吉。

我が子や花野を見守る律。

そこには幸せがありました。

そういう『北風と太陽』の太陽戦略があのドラマならば、本作は冷酷です。

いわば北海道十勝を吹き荒れる北風なんじゃああああ!

不幸になるぞ。
突っ張って素直になれない、愛を認めないと、泰樹になるぞ!

「男は背中で語る……悲しいよねえ」

そうニヒルを気取った相手の背中を、
「おっ、ここを刺せってことですね」
とぶっ刺しに行く。
そういう冷酷さがそこにはあります。

背中で理解しろとか、甘えてるんじゃねえぞ。そう突きつけてきます。

なつを縛る女の鎖。
泰樹を縛る男の鎖。

もうすぐフィナーレを迎える『ゲーム・オブ・スローンズ』も、ここを破ってきました。

母であるサーセイは我が子の愛に縛られていたものの、空を駆け回るデナーリスは愛で縛られていません。
それがよいことかどうかは、まだ判断できませんが。

一方で男のジェイミーは、愛にがんじがらめにされ、愛に殉じる男でした。
弟と姉から、あなたの愛が救ってくれたと語られる男。お前は愛の化身だったのか……そういう生き様を見せてくれました。

わかる解説シーズン8第5話!ゲームオブスローンズ感想あらすじ

2019年――フィクションは、そこに挑んでこそなのです!

愛の反対って何?

愛の反対は何か。
憎しみか、無関心か?

アメリカのベル・フックスは、こう定義しました。

「愛の反対とは、家父長制である」

家父長制とは、一言でやや雑にまとめますと、父親の言うことに従えということです。

◆昔ながらの「理想の父親像」が、児童虐待を隠している

夫が妻を殴ること。
親が子を殴ること。
それはしつけ。
父、そして親、年長者の命令にともかく従えばいい。そうすれば、社会は回って行く。

DVも、性暴力も、児童虐待も、かつてはそういうものと見逃されてきました。

映画の題材になったとある児童虐待事件。
被害者が死ぬまで、近所の人々は誰も通報しませんでした。

「きっとしつけなのだろう」
「まさか、そんなはずがない」
そう見逃してしまったのです。

ガートルード・バニシェフスキーによる少女虐待死事件は、明るみに出ることでアメリカの犯罪史を変えました。

この事件を題材にした映画のタイトルが『隣の家の少女』、『アメリカン・クライム』(アメリカの犯罪)というのは、象徴的です。

隣の家のお嬢さんが虐待されていようが、それがアメリカ社会。
そういうものとして、見逃されてきた。

それこそが犯罪ではないか?
そう明らかにされたのです。

近年、児童虐待の件数が増えているのは、社会が変わったからなのです。

今の親が問題なのではありません。
かつては見逃されていたことが、犯罪として認識&計算されるようになった結果です。

本作は、極めて巧みに家父長制の罪と向き合います。

泰樹や富士子の暴言暴力を隠せばいい。
そういう単純なことでもありません。

罪悪感で縛るくらいならば、憎まれた方がまだまし。
学費で恩を着せるつもりはない。申し訳ないなんて思うな。

あの子が初めて言い出せたことかもしれない。
あげた声を大事にしよう。

一緒に暮らすことを考えてみよう。
当事者が納得しなければ、何の意味もない。

柴田一家のセリフの数々は、なつを縛らずに、恩を着せずに、生きていってほしいというあたたかい願いが詰まっています。

縛らない愛。
受け入れてこそ愛。
そういう家父長制の罪と荒廃に、きっちり向き合っているのです。

なつはじめ、本作のヒロインは魅力的です。
なぜなら、そういう愛のある世界で生きているから。

男から感情をもらい、夫や父の顔色を伺い、性的な魅力を親族相手にプレゼンしなければならなかった前作****。それは家父長制のザ・ワールドでした。あの作品の人物に自分や家族を重ね、絶賛する女性を見ていると、なんとも悲しくなったものです。それってまるで、奴隷の手枷足枷自慢じゃないですか。

そこに愛はない。
愛のない世界を愛する理由も、こちらにはありません。

その対極にある本作には、どこを切り取っても愛があふれているのです。

※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

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【参考】なつぞら公式HP

 

5 Comments

こけにわ

武者さんのレビューの切れ味が鋭く、
なんだか怖いくらいです。
愛の反対は無関心だと、無知だと思っていました。
執着、支配だとは。
愛がある環境にいられることは、
なんて幸せなことか。

作家の創造力の元になるものが愛であるかどうかは、ちゃんと伝わりますね。
確かになつぞらは厳しい、愛に溢れた作品です。

なつを包む朝日が感動的でした。

でんすけ

今回もまた切ないですね~。

弟子と見込んだ9歳のなつにバターチャーンを見せて、照男と築く柴田牧場の未来図を語っていた泰樹爺さんですから、自身の失敗も含めた失望感の大きさは相当なものでしょう。同調圧の少ない温かい柴田家で育っても、まだ心の底から自分をさらけ出せない、いや、さらけ出してはないらないと自分自身を縛っているなつ。

泰樹おんじがなつの嘘を見抜いているというご指摘にはなるほど~と思いました。確かに。負い目で自分の本当の夢を言い出せないなつと、でも間違いなくそれを受け入れて応援してくれそうな柴田家の人たち。今週の後半にたっぷりと泣かされる覚悟を、今からしておく必要がありそうです(笑)

あねもね

十勝出身者(アイヌ子孫の妻)様

私も公式の人物紹介を読んで
それから自己紹介のシーンを観ました。

なので奥様がアイヌなのかな?
と思いました。
弥市郎が北海道から連れ出さなければ
空襲で亡くなることも無かったのでは、と。

アイヌの人々の信頼を得た阿川青年が
愛する女性と東京で暮らして、愛娘を授かった。それなのに妻を守れなかった。
計り知れない後悔と怒りを木彫に刻んでいる…

全て推測に過ぎなくてお目汚し申し訳ないのですが、阿川親子とっても気になります。

そして勿論なつと泰樹のことも!

904型

今回も、胸が破れそうな、苦しくなる展開。

そのような中でも、よく見ると、
なつが嘘の理由で上京を申し出たときの、目を伏せた泰樹の姿。
なつの言葉の不自然さを見抜き、語られた目的が本心ではないことを看破したのか。

それで、「本当のことを言えないようなことに、我々をダシに使うな!」と、気持ちが爆発したのか。

しかし、レビュー本文の指摘のとおり、嘘をついていたのは自身も同じ。

自身への腹立たしさもあったのか。

どうなるのか。
やっぱり明日の展開に目が離せません。

十勝出身者(アイヌ子孫の妻)

阿川さん、砂良さんは東京から十勝に移り住んでる(奥さんは空襲でなくなった)のでアイヌの方ではないと思うのですが。公式サイトでも娘と東京から移住してきたとはっきり書いてますし。アイヌ魂はかなりもってるとは思いますが。

以下公式サイトから抜粋です。

阿川弥市郎(あがわ やいちろう)
十勝の深い森に住み、木彫りの熊など民芸品をつくり、暮らしている。以前は東京に住んでいたが、あることをきっかけに娘と一緒に十勝に移住してきた。吹雪の中で倒れたなつを救い出したことがきっかけで、柴田家とも交流を深めていく。

阿川砂良(あがわ さら)
弥市郎のひとり娘。十勝に移り住み、父とふたり、ひと気のない森の中で暮らしている。自ら狩りや漁をして、朴訥(ぼくとつ)な父を支える働き者の美しい娘。やがて、なつの家族との交流を通して、外の世界との関わりを持ち始める…

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