昭和31年(1956年)、新宿。
アニメーターを夢見たなつは、東洋動画試験で不採用となります。
あまりに辛い初夏。
そんななつを、ルームメイトの佐知子が見守っています。
「絵の練習をしているの?」
「手紙を書けなくて……」
そうこぼすなつなのでした。
まさかの不合格を聞くマダムと野上
その不合格について、マダムに告げねばなりません。
仕方ないと笑みを浮かべつつ、彼女は聞いてきます。
「これからどうするの? うちで働く? どうしたい?」
「わかりません……」
なつは無策でした。どうしたいのか、わからないのです。
落ちた時のことを想定していなかった。
無謀な挑戦だったと落ち込むなつを、マダムは励まします。
そういう挑戦だからこそ、悪いことは考えないものだったでしょう、って。
「だけど挑戦した。そうでしょ?」
そう励ましながら、正式な雇用を提案したのです。
このなつとマダムのやり取りを聞いている野上の反応がいいんですよ。
なつの無謀さに呆れつつも、マダムの温情に流石であると感服している。そして、横からアシストします。
なつの真面目な勤務態度を評価している、よい店員になれるだろうと。
そして宣言します。
「甘やかしはしませんよ」
いいですね!
泰樹と年代的に一回り下あたりと推察できる彼です。この年代の、甘やかさない教育を受けてきて、その経験を生かしていることがわかります。
彼らは無駄に怒鳴ったり威張ったりしない。中身のある叱咤激励をします。
雪次郎を指導する杉本もそうですね。
しかし、なつはそれをよしとはしません。
「帰れません、このまま帰るわけにはいきません」
ここで野上が、マダムの好意を踏みにじるのかとちょっとムッとします。
彼のよいところは、怒りがマダムへの忠義由来とわかることですね。
彼が厳しい時は、川村屋ブランドやマダムに傷が付くとなった時が多いものです。漫画映画への理解には乏しすぎますけれどね。
そういう忠誠心がお見事です!
そんな野上を制して、これからどうするかはなつが決めるとマダムは言い切ります。
マダムと野上の醸し出すこの雰囲気、実によいです。
思わず紅茶が飲みたくなりますね。揺るぎない関係がそこにはあります。
※娘くらい年の差のあるマダムを見守る、そんな執事がたまらんのです!
試験から一ヶ月を経たが……
一方、十勝では――なつから便りがない、と泰樹がそわそわ。
しれっとすっとぼけるのが剛男です。
「東京は遠いですし」
いつの時代だよ。江戸時代じゃないんだからさ、一ヶ月も届かないってないわ。
これだからこいつは……そんなセリフひとつに、人物の個性をこめる構成に隙がありません。
富士子は明るくこう言い切ります。
「便りがないのは良い知らせ!」
しかし、なつの性格的にそれはないと突っ込みが入ります。
照男は電報だってあると冷静です。
ここで剛男が、すっとぼけた俳句調の手紙を書こうと言い出します。二度目のボケには、周囲からすかさずツッコミが入ります。
そのボケ手紙も、なんだか気持ちを誤魔化すためだとか。
なんなんだよっ!
剛男が戸村悠吉から、ちょっと残念な人扱いされる理由がわかるわ〜。
結論としては、農協から川村屋に電話することに決まりました。
一ヶ月経って電話って、北海道のおおらかさなのか。柴田家特有なのか。
そこで明美が言い切ります。
「落ちたらどうするの? 帰ってくんの?」
うわっ、誰もそこを考えていなかった!
まぁ、視聴者も考えていないようなところありますから。
明美は不合格ならまたなつ姉ちゃんと暮らせると、ちょっと苦い嬉しさがあるのかもしれませんね。
夕見子がここにいて、毒舌で引っ掻き回す様子を見たかったかもなぁ。
柴田家にすっかりそこまで思い入れが湧いてしまっています。
北海道の大自然が美しい。そこに暮らす人々も素晴らしい。
そんな場面が癒しとなりそうです。
新宿に舞台が移っても、これは北海道のドラマなのです。
風車ではアウェー感がある雪次郎
新宿の夜――キャバレーらしき店の勧誘を振り切り、雪次郎が風車の暖簾をくぐります。
笑顔で出迎えた亜矢美に対し、咲太郎に会いにきたと雪次郎が要件を伝えると……。
「つまんなぁ〜い」
とリアクションの亜矢美。あっ……こりゃ夜の新宿を生き抜いてきた女の手練手管練ですわな。
相手を落とすかどうかはさておき、ともかくこう言い続ければ、何人かは「この女将の顔を見なくちゃ❤︎」と落ちるでしょう。
『いだてん』の小梅にもこういう所作がありますよね。頑張っていますね!
北海道から来た雪次郎がタジタジになっていると、亜矢美はにっこりと笑います。
「奢るから待ってなさい」
しかも、つけちゃうのはこっちの客だと言います。それに常連客は怒るどころか、ニヤニヤしております。
そんな女将の茶目っ気が味わいたくてここにいる。そういう顔です。
いやいや、亜矢美が女将のおでん屋なら、こっちだって常連になるわあぁああ!
それにしても、この飲食店の温度差が面白いですね。
そりゃ健全な菓子店と、お酒が出るおでん屋だから当然違うっちゃそうですけど。
この軽妙さ、雪月ではありえないじゃないですか。
あの、正面切って来る総大将・とよババアと、知将・妙子にはない。あの店はむしろ修行道場です。ただの癒しの場ともちょっと違う。
朝ドラ名物・溜まり場になる飲食店でも、カラーがまるで違っている!
そこでの雪次郎の戸惑いが面白いんですよね。
飲食店の息子で、十勝の高校時代は軽妙洒脱なオシャレボーイだったのに、新宿ではウロウロするウサギちゃんみたいになっちゃって。実に面白い!
咲太郎が聞いてしまった
亜矢美は、咲太郎のことはわからないんだそうです。
新劇をやっているのではと言われたところで、それだけでは食べていけないでしょうと、なんとも頼りのない答え。
それでも、なつと出会って以来、何かを考えてはいると付け足します。
咲太郎は、なつのために危険な借金返済手段を考えて、逮捕された前科があります。
そこまで悪どくないかもしれませんけれども、博打のカタで手っ取り早くどうにかしようとしたのは、グレーゾーンなんですってば。
思えばあの時点で、やる気を出すと危険なことになると示されたのかも……嫌な予感がします。
そしてここで、その咲太郎が登場します。
「なんだおめえ」
いきなりこれかよ!
江戸っ子はしょうもねえなぁ。挨拶もなしにこれだよ。江戸っ子ぉぉぉ!
咲太郎は、雪次郎を自室へ上げ、グイグイグイとグラスのビールを飲み干し、ドンとちゃぶ台に置くわけです。
すごいものを見せられている……なんだこの、昭和のおじさん習性とも言える、ビールをぐい飲みして満足感をにじませる仕草は!
岡田将生さん!
なぜこんな仕草できるんですか? 完全に昭和仕草ではありませんか。
すごいことになってきた。菅原文太さん路線、いけるんじゃないですか。
「落ちたか……東洋動画を落ちたか」
雪次郎からの知らせをそう受け取る咲太郎です。
雪次郎は、なつが健気に振舞っていても、気落ちしているのがわかると告げるのです。
なつはこれからどうするのか。それすらわからず、悩んでいる。
そう雪次郎から告げられるのでした。
よし、兄貴の出番です!
と、安心して言い切れないのがなんとも……。だってこれですよ。話を聞くにしたって、ビール瓶がすぐ横にあるし。
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「いいクスリやろうか」って、
大薮春彦の小説の世界かよ!!
でも以外と本作新宿編は、戦後の混沌、海外引揚者や戦災孤児の身の上など、大薮春彦の作品群とも重なりあう世界観があります。
咲太郎タイプの主人公が、東京のとある街で私立探偵をして活躍するという作品も、大薮春彦作品のなかにあったような気もします。
岡田将生さんは「昭和元禄落語心中」での渾身の 有楽亭八雲 以来、役者さんとしての凄みや色気が断然増したように思います。今 注目している役者さんの1人です。
この先、物語にどのような風を巻き起こしてくれるか楽しみです。