なつぞら107話 感想あらすじ視聴率(8/2)才能や肩書を愛したわけじゃない

昭和41年(1966年)、夏。

坂場一久初監督、長編アニメーション映画『神をつかんだ少年クリフ』公開。
そして興行成績は記録的大失敗でしたーー。

難易度が高すぎた……

失敗の理由は、難易度の高さでした。

哲学的すぎて、理解できない子供たち。
クライマックスシーンでは、退屈になった子供たちが館内を走り回るほどの惨状だそうです。

その失敗ぶりは、社内でも笑い者になるほどになっており、なつは暗い気持ちで、その噂を聞いていることしかできません。
惨敗は惨敗ですので……。

ここで、なつがこういうことを言わなくてよかった。

「何を言っているんですか、あの良さがあなたにはわからないんですか!」

そう割って入ったらベタといえば、そうです。

「ダーリンは天才! その世界を理解できる私はいい女なのぉ♪」

なんてアピールはしなくてよいのです。

坂場は、社長室に呼ばれました。

東洋動画始まって以来、最低の興行成績。
制作期間も予算も倍近くかけておきながらの大失敗でした。

胃が痛くなるような、シリアスな演出です。
怒鳴ったり机を叩いたりするのは、むしろ坂場の方ですし、社長は淡々とした表情で事実を突きつけていきます。

それもこれも、坂場が会社の忠告を無視したため。
信念を貫いたことが、裏目に出ました。

根本的な戦略ミスであり、作画その他の工夫でどうこうできたものでもありません。

「わかっています」

坂場はそう言い切るのですが……チームメンバーの昇給停止やボーナスカットまで言い渡されてしまうのです。

「責任は、私一人にあります」

坂場は繰り返します。
ここでの彼ですが、一切言動に忖度が感じられません。

相手の情けに取り入ろうとはしていない。
負けを認めたと言えばそうなのですが、潔いを通り越してふてぶてしくすら思えます。

これも人物特性として、わざとそうしているのでしょう。

「どういうことか、きみにはわかるかね?」

一人では済まされないことを、井戸原が淡々と指摘します。

映画部長である彼だって、もはやポジションを維持できません。更迭です。
もう、自由も失います。
親会社から監視役が送り込まれ、裁量にも制限が加えられるのです。

そう言われて、坂場は彼なりの理解を示します。
彼が社長の前に置いたのは、退職願でした。

「よろしくお願いします」

そう頭を下げる坂場です。

これには驚きましたね……こんなかっこ悪い、全ッ然よくない、ひどい退職願シーンは見たことがなかったぞ!

いや、けなしているんじゃないんです。
むしろ、ありのままにすごいことをしてきましたね。後述します。

無駄だからしないんだ無駄無駄ァ!

なつは喫茶店の席で、アイスコーヒーを待っております。

そこへ坂場がやって来て、彼も同じものを注文します。

8月15日生まれのなつ。
千遥に会えなかった以来の、暗い誕生日になりそうではありませんか。

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「出てもいいけど……コーヒーいる?」

なつは、目の前に来た坂場にそう気遣います。
坂場は話があると暗い顔。

「映画がすごく不入りみたいだ」

それでもいい映画を作ったとは、今も思っているそうです。
負けず嫌いでもないし、敗因分析でもない。

これがもし、もっと空気が読める性格ならば、ちょっとはしょげかえったポーズだけでも取れそうなものですが……。そうすれば、印象もマシにはなるのですが……。

なつも今までで一番いい映画だったと思っている。
そうきっちりと言い切ります。

「宣伝で、大人でも見られるよって言えばいいのに」

これもなつの性格ですよね。
慰めるわけでもなくて、改善策を自分なりに出して悔しがるのです。夕見子あたりに、具体性のある策を出せと鍛えられた成果かな?

そういえば、夕見子と高山のやりとりからは、彼女が情緒ケアをせずに対策を出していた気配が漂っていましたっけ……軍師め……。

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情緒ケアできない枠の坂場も、なつの提案を一蹴します。その理由が……。

「僕にはもう作れない」

「どうして? 次はもっといいものを作ればいいのに」

「会社、辞めてきた」

皆にこれ以上迷惑かけられないし、自由度も下がるし、もう辞めるだけだ。

なつは困惑します。
仲や露木さんに相談したのか、と、確認します。

「僕は終わった。もう終わったんだ」

もう決めた。
それ以上話し合っても無駄。
無駄だから無駄無駄無駄ということになります。

※無駄無駄してもいいのは、相手が敵のときだけなんだって……

なつは困惑を押し隠し、こう言います。

「そう……」

「だから結婚はできない。僕のことは忘れてくれないか」

あーッ、それを言ったらいかんぞぉおおおおおおお!

なつの反撃オラオララッシュ!

「どうして……仕事と結婚は別でしょッ!」

「僕は監督として、きみの才能を誰よりも輝かせたい。演出家になれない。きみを幸せにするだけの才能が僕にはなかった」

「そっか、そういうことか」

「そういうことです。きみには申し訳ない」

涼しげな顔でそう言い切る坂場。
もう、吐き気がしてきたわ……。

「おかしいと思った。考えてみれば、一度も好きと言われたことがない」

なつは愕然としてそう言い切ります。
ここで、立ち上がって泣いて立ち去ることはできない。

怒りを爆発させることに関しては、総大将泰樹ととよ仕込みだから。
心がしばれないためにも、怒りは炸裂させるぜッ!

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※オラオラオラオラオラ!

なつは、いつ坂場のことを好きになったのか、ずっと考えて来ました。

これも気が付けば、本作の特性でした。
第一回冒頭の信哉といい、天陽といい。彼ら側からの好意は示されていましたし、少女漫画のようなベタなシチュエーション演出もされていました。

しかし、なつ側の好意は特にない。
あったとしても、そこまで積極的ではありませんし、アニメーターとしての夢が優先されました。

そういうベタなシチュエーションがあれば、スイッチを押したようにくっつくわけじゃない。そういう決別ですねぇ。

はい、そんなわけで、なつの恋心探し。

短編映画を作っていた時?
夜に家まで来たし、徹夜で作業もした。

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それとも階段でのアニメ問答?

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ありえないようなことを、本当のように描く。
ありえないことのように見せて、本当のことを描くこと。

そう言われた瞬間だーーなつはなつなりに、そのことに気づいたのです。
それを悟るまで、時間がかかったけれども。

「あれには本当に参った。それ以来、私はその言葉に恋をした」

ありえないことを、本当のように描くこと。
なつの人生は、そんなことばかりでした。

空襲で親を失い、信哉のおかげで命拾いした。
そして、ありえないような素晴らしい家族に育てられた。

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ありえないような、自然の中で育って来た。

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その信哉が十勝にやって来て、兄・咲太郎とも再会できた。

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妹・千遥だって、幸せになったと信じている。

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アニメーターになれて、これ以上の幸せはないと思っていたから。

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「やっぱりこれ以上はありえるものでないと、文句は言えないけど、私は……私は、あなたの才能が好きになったわけじゃない! 言葉が生きる力になった、あなたを好きになった! ありえないくらい!」

なつは続けます。

「だけど、あなたは違った……好きでないことを、才能のせいにしないでくださいッ! そんな人とは一緒にいたくない。さよなら!」

なつの心理的【抹殺パンチ】がオラオララッシュで決まり、呆然とする坂場。
朝から何が起きているんだ……。
※続きは次ページへ

4 Comments

わんわんわん

昨日の話ですが、じいちゃんの名誉のために書かせてもらいます。

>牧場も、カリスマ性がある割には小規模。信頼できる戸村親子しか働いていない。

ドラマをざっと見た感じ10頭以上はいたんじゃないでしょうか。あの時代に10頭以上いれば十分大規模です。(統計では昭和35頭の北海道での1戸あたりの頭数は3頭だそうです。)

それに「戸村親子しか」って書いてありますが、当時は(今もそうですが)農家は家族経営が圧倒的に多いのに、人を雇ってるだけで十分すごいです。
柴田牧場ではじいちゃん、父さん、母さん、長男、次女、なつと働き手がいるのに、さらに二人も雇わなきゃならない。どんだけ繁盛してるのよって感じですよ。

裸一貫で入植して、ここまで発展させたじいちゃん、やっぱり凄い! ということで。

あしもと

空襲から始まった本作ですが、坂場さんの顛末をみると、火垂るの墓を作るまでを見たくなります。

今回の失敗は、制作する人間の恐怖ですが、それを恐れて自分や周囲に妥協すると、決して作れない作品があるんですよね。

凡人には超えられない、そこを超えられる坂場さんは天才の資格を持っていますよね。超えたからといっても、全く成功は保証されないわけですが。

あしもと

凡庸な悪、は、おぞましさに鳥肌が立ちます。

穴やブツブツの集合に強い嫌悪感を感じる「トライポフォビア」という症状がありますが、それになったような感じ。

オートマティックに無自覚に疑問を抱かずに、淡々と増殖するものの恐ろしさですね。

しろばにあ

なつぞら(半分、青いもですが)を見ていると、本当にADHDや自閉症スペクトラムを研究しているなぁと唸らされます。
どの場面も全て「あるある」ですもの。
坂場くんの退職シーンや別れを告げる所、なつの慰めではなく改善点を出すどころなんて、リアルすぎて驚きました。
「私(すみませんADHD者です)もおんなじことしてる!!」と。
いいぞ!もっとやってくれ!!

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