天衣無縫が認められる
天陽の作品が帯広の展覧会で受賞した――陽平がそう語ります。
そして舞台は十勝の山田家へ。
授賞式のスピーチで、天陽はそのかざらない人柄を見せます。
畑を耕し、牛も育てている。生きるためにやっている。絵を描くことも、そう。
農作物はその時々で値段は違う。そのことを受け止めざるを得ない。
けれども、絵はそうではない。
「僕の絵だけは、変わらない。社会の価値観と関係ない、絵を描いてゆく」
そう言い切るのです。
これぞ天衣無縫の世界。
陽平のように、テクニックを誰かに習わなくともよい。
倉田の指示が大雑把でもよい。
それが彼の世界です。
いちいち世のためにだの。セレブ発明家になるだの。画伯の絵はこのお値段だからいいだの。
そういうことをみみっちく言い合っていた、****のような濁った水の世界とは違う。
透き通っていて、手を浸せば冷たい。
北海道の清流のような……そんな世界が、天陽にはあるのです。
けれど、そのままではいられなくて
そんな天陽に、なつは手紙を書きます。
やっぱり受賞作は馬の絵だったんだね。
この「やっぱり馬の絵」というところに、二人の思い出が詰まっているところが奥深さでしょう。
なつをアニメに目覚めさせた瞬間。
それは天陽の馬の絵を見たことだったのだから。そんな彼の大きな目標を誉めたたえます。
届いた手紙を、タミから夕食時に手渡される天陽。
すぐには読まずに、横に置きます。それがタミと正治からすると意外なようでして。
こういう手紙をすぐに読むかどうか。性格次第でしょう。
心の準備ができるまで、放置してしまう。誰かが居るところで読むと集中できない。
そういうタイプもいます。メールでもSNSでも同じこと。
タミは、なつは正月にも帰って来ないのかと気にしています。
陽平ですら、多忙でそうなっているのです。東京に向かうにしても、牛の世話がある限りできません。
もうここから動けない。そうタミは天陽に言い切ります。
動けないのは、牛だけではなくなっちゃんもそうなのだと。
天陽の気持ちをわかっていて捨てた。タミはそう言います。彼女の目からすれば、そうなるのでしょう。
そこは本人同士でしかわかりませんからね。
いくらキャンバスの中、絵でつながっていても。
現実で結婚して過程を築かねば、社会的な意義はありません。それが現実。
ここで天陽は戸惑います。
「待ってねえ! そんな心配すんなよ!」
ここで正治も、タミの言葉を補うのです。
自分がここまでやって来られたのは、妻子がいたからこそ。
「早く家族を作れ。なっちゃんのことは忘れろ」
そう言われてしまう天陽なのでした。
自室に戻り、なつを描いたスケッチをじっと見つめ、手紙を書き始める天陽。
外は初雪が降り始め、畑が真っ白になった、そんな十勝からの手紙です。
絵を描く時間が増える冬。
認められたくて絵を描いているわけではないけれど、認められて嬉しい。そう本音を告げます。
それに対して、なつは自分の絵は認められねばダメ。
けれども、それはおいしい牛乳で喜ばれたいようなことだと語るのでした。
私は単純すぎるのかな?
俺も好きな絵を描くだけ。それが一番難しい。
泰樹が大地を切り拓くように、ベニヤに向かう。
なっちゃんも、試験を頑張れ――。
いかがでしょうか、このやりとり。
思いを告げることはなく、絵について語るだけ。
そういう恋もある。切なさ、美しさが詰まった、手紙のやり取りでした。
そして試験へ
いよいよ12月の試験です。
8時間という制限の中、最低15枚は描かねばならない、ハードなもの。
眼鏡をかけた受験生を含めて、女性は2名でした。
周囲は皆6ヶ月学んで来た者たちです。
そこへ、特別枠としてなつも参加すると告げられます。あの眼鏡の女性は、なつに対して興味津々の様子。
ここで、なつと天陽の絵に挑む姿が重なります。
なつよ、頑張れ。
だけど丁寧にな――。
父がナレーターとして応援しています。
雑になること。これは父も認めた彼女の弱点かもしれません。感性に身を任せて一気に描くタイプなのでしょう。
マコが圧倒的な変人だ
マコの変人ぶり、小野政次っぷりが炸裂!
あのファッションは、ああいう狙いらしい。
ゴシックか!
そういえば、秋風羽織もやたらと黒かったっけ。
無頓着、空気を読めない→なつ、楡野鈴愛
独特のこだわりがあるかぶき者枠→マコ、泰樹(戸村父子とは違います)、亜矢美、秋風羽織、ひしもっちゃん、藤村姉妹
狙いすました正統派オシャレ枠→夕見子、マダム、茂木、ユーコ
マコは、口も悪いのです。
しかも、あきらかにおかしい。つっかかり、謝り、確認し、挑発する。
なつに対して興味津々なのに、まずジャブを放ちながら、ウロウロしてしまう。
変人だなぁ〜〜〜!!
絶対にこいつ、友達少ないでしょ?
ぼっち飯がもはや習慣でしょ?
勘が鋭いからこそ、そこがなんだか気持ち悪い。
暗くておとなしそうな子だし、ちょっとランチに誘ってみようかと思った相手を、毒舌で返り討ちにして終わる。
せっかく寂しそうだから誘ったのに、あいつはなんなのよ!
そうロックオンされて、ぼっちに戻る。そういうものか、と本人は終わる。
そしてこう思っているのでしょう。
「侮辱ではない。事実を指摘しているだけなのなのだが……」
そういう奴だな!
※指摘と侮辱の違いが理解できていない例
なつだから許される。
なつの「田舎者自慢の指摘」だって、相手によっては激怒することでしょう。むしろそれが多数派。
「そんな絵で受かるかよ!」
ってのも、ひどいです。なつだから奮起して激励になりますが、どちゃくそ感じが悪いでしょう。
この狙いすました変人アーティスト枠は、あの秋風先生以来でワクワクして来ます。
彼も問題行動だらけだったからね……丸く収まったけれども。
ああいう癖の強い人物を、朝ドラで出してくるって、相当な覚悟だと思います。
『半分、青い。』は、ああいう一般社会からみれば、どちゃくそ感じが悪いいじめられっ子属性に、光を当ててくれてほんとうに助かったんですけれども。
あの変人でも生きていけスピリットを、本作は受け継いでいて素晴らしいと思います。
空気を読む奴、読めない奴
これを上っ面だけ真似たのが前作****です。
あのドラマでは散々指摘しましたが、**さぁんも*ちゃんも、ちゃんと空気を読んでいますからね。
「世間のために!」
と、周囲の目をやたらと気にする。
テレビコマーシャルに自分から出る。
政治家に付け届けをして、根回しオッケー♪
いかに強い奴に取り入るか。弱いものを踏みつけて威張れるか。
そういう顔色と空気を読んでいるくせに、困った時とサボる時だけ、クリエイターの変人を偽装する。そういうゴミ溜めのような駄作でした。
この流れの原点はどこか?
私は『あさが来た』ではないかと思います。
『カーネーション』の糸子は、空気を読まない変人クリエイター枠でした。
『マッサン』も、ドラマでかなり崩れていたとはいえ、史実の竹鶴政孝はそういう系統のエンジニアタイプ。
そういう緻密な積み重ねがなくても、瞬間的に売れるんだ。
その転換点はどこなのか?
『あさが来た』の五代様でしょう。
他のキャラクターも造形がよかったものですが、ともかく五代はすごかった。
あのわざとらしい変人ぶり。
時代考証に混ざる粗さと御都合主義を、ディーン・フジオカさんのカリスマもあって、うまくまとめました。
史実では接点がほぼなかったにも関わらず、ヒロイン・あさとのカップリング妄想も捗りましたっけ。
そのキャラ萌えにズブズブになったせいか、死を後ろに倒して、作劇は荒れに荒れたものです。
それでも視聴者は、五代様に酔っ払ってメロメロ。
そういう粗は指摘されません。指摘しにくい空気がありました。
私には違和感しかありませんでしたが。
制作サイドからすれば、
「よっしゃー! キャラ萌えでメロメロにすれば、緻密な作劇はいらんのやでぇー!!」
って話で、同年の大河ドラマ『花燃ゆ』の松下村塾では無残にも失敗したとはいえ、朝ドラ下半期では大成功ってことでしょう。
『わろてんか』も、ここを雑になぞりました。
『おんな城主 直虎』でヒットを飛ばした高橋一生さんに、五代様の焼き直しのような人物を演じさせる。
これでもう、いくら手抜きしてもウハウハやで!
そんな皮算用の悪臭がプンプンと漂っていました。
その悪しき代表が****でしょう。
色気のある俳優に、やたらとパンチラや入浴シーンをやらせる。セクシー拷問まで。
主演女優はカンヌで名声をかっさらった二世枠。
奇声と変顔をやらせれば、ブランドに弱い層はイチコロ……ってなんという手抜きでしょうか。
何も考えずに、タップをしていればクリアできる。努力も思考も大嫌い。
そういう層からすれば、寝ているだけで勝手に口の中に萌えが飛び込んでくる、最高の放置ゲーだったかもしれません。
しかし私にとっては違います。
あの作品は、奥歯でアルミホイルを噛みしめているような、不快感の極みでした。
空気を読み、京阪神の企業様を宣伝し、萌えだけかませばイケるで!
そうやって受信料を燃やしながら、突き抜けていったものです。
それに対して、NHK東京は空気を読めない者に深呼吸をさせて、新たな境地を切り開こうとしているように思えるのです。
着想から制作。何もかもが緻密。
100作目であることに対する答えを、彼らは見出しているのです。
運命の分かれ道
メインプロットだけでも緻密であるのに、今日は天陽となつを通して、さらに突き抜けて来ました。
好きとすら告げていない。
ただ、あふれるような相手への思いだけがある。
手紙。そして絵。そうして通じ合うだけ。
そこを見抜いて、諦めろと告げる天陽の両親は、残酷ですが当然とも言えます。
彼らの恋愛は、決して実らないとわかっているのだから。
天陽のようなものを、そんな世界から連れ戻すことが、どれほど残酷なのか。
短いながらも、本作は描いて来ました。
彼と今日、ペアになっているのが雪次郎のように思えます。
雪次郎は天陽と違い、地に足がついたよき凡人です。
演劇という芸術にうっすらと憧れていて、そのせいで咲太郎の魔性にも騙されてしまう。
けれども、彼は幸せなんです。
北海道には夕見子がいる。
とよババア筆頭に、力強い家族がいる。雪月は彼にとって最高の城になることでしょう。
なんだか、真田信之と幸村兄弟を思い出すような……。
城があればこそ、家を保ち、天寿を全うできた兄。
城がないからこそ、一瞬の輝き、永遠の軌跡を残した弟。
そういう運命の分かれ道を、感じるんですよね。
※その能力ゆえに不幸で美しい枠といえば、エルサもそうですね……
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
天陽君となつの手紙のやりとりのシーンは岩井俊二監督の「ラブレター」の最後のシーンを思い出しました。
天陽君が書き出した絵が気になります、
ブレザーの襟と肩までの髪の人物、
なつはおさげのセーラー服だったから
違う、よなあ。
次のカットでは下書きの曲線。
天陽君の気持ちは絵に出るはず。
なつの試験の絵は下書きの線が多い、
大丈夫?バサバサしていたなあ?
二人の絵にハラハラしました。
訂正します。
×驚異 → ○脅威
「再試験」と言っても、本来その試験は、6ヶ月間実務を積んだ人を対象としたもの。やっぱりそうそう甘い話があるわけでない。
「主人公補整」に慣れてしまうと、つい「今度は合格するのでは?」と思いたくなりますが、またひとひねりかけてくるかもしれません。
試験での隣席の女性(渡辺麻友さん演)も気になりますね。今後どう関わってくるかな。
マコのかけてきた言葉も、味があります。「敵ではない。でも利害は一致しない(←実はなつの能力の片鱗に驚異を感じ始めている)」という感覚のようにも受け取れました。
過程→家庭も修正した方が良いと思います。まゆゆがどんな演技見せるか注視したいです
「口を吹け」→「口を拭け」 揚げ足とられると嫌なので訂正検討してください
このコメントは、読まれたら削除お願いします