てんと藤吉が経営する、開業4年目の寄席「風鳥亭」。
藤吉は、その大看板として「通天閣と並ぶ大阪名物」こと売れっ子落語家・月の井団吾を迎えたいと画策します。
団吾に破格のギャラを用意すると聞きつけた他の芸人たちは、不満そうです。
てんも気を揉みますが……。
もくじ
借金取りに追われているから人力車が「火の車」
迫る芸人たちに怯えるてん。
結構な年数が経っているのに、いつまでも女学生のように怯えて眉間に皺を寄せるだけでのリアクションは、ちょっと頼りないぞ!
一方で藤吉は、団吾と交渉するため料亭へ向かいます。
旦那衆と待っていると、そのうち一人がこう言います。
「今日会えるかもわからん」
「そんな……」
てんも頼りないのですが、藤吉も大概です。そういう破天荒な人だとわかっていて、席にいるはずなので。
ここは「そんな殺生な~」と苦笑いしつつ、内心「なんや、それっ!」と舌打ちする図太さが欲しいです。
待ってる間に団吾のエピソードを聞きます。
人力車が赤いのは借金取りに追われて「火の車」だから、というシャレだとか。
するとそこへ、赤褌姿の男の脚と後ろ姿がチラリと映ります。
「水もしたたるええ男の登場やで~!」
障子に穴を開けてガラッと開けつつ、団吾がついに登場。西陣織らしい、キンキラキンの派手な着物姿です。
「道頓堀に飛び込め言われたんで、飛び込みましたわ~!」
「贔屓の一人から、戎橋から道頓堀に飛び込め言われたんで、飛び込みましたわ~!」
そういうと、飛び込む真似をし出す団吾。
藤吉が震え声で挨拶をすると「今日のお勘定払うてくれる人?」とからかい、懐からもらったばかりらしきご祝儀を取り出し、バーッとバラ撒き始めます。
ゴクリ……。
品はないけど、迫力のある団吾。
こんな男相手に、震え声でおずおず切りだす藤吉が話をつけられるとも思いません。
飲みの席での藤吉は、いつもこんな調子なんですかね?
毎晩のように飲み歩いて、何年間も席主をしておいて、もっと免疫ついてても良さそうなものですが。
口説き落とせるのか、不安でたまりません。
芸人四人組が労働争議
風鳥亭では、赤い鉢巻にたすきをかけて、芸人四人組が労働争議をはじめます。
「労働党員のまねごと」と作中では言っておりますけれど、どう見ても「日本共産党員のまねごと」のようです。
そういえば再放送中の『花子とアン』の、花子・父も、プロレタリア系の左翼政治活動をしていると思わせる箇所がありましたが、NHKはあんまりそういうのを見せたがらないですよね。
『ひよっこ』には左翼青年が脇役で出てきていましたけど。宗教系と政治系はやりたがらないんですよね。
当時はロシア革命前後で、世界各地で「労働者の時代だ!」という熱気がありました。
キースあたりがそういう知識を持っていた設定ですが、私もちょっと調べてみました。
大正4年(1915年) 第9週 隼也の節句
大正6年(1917年) ロシア革命
大正11年(1922年) 日本共産党創設
大正13年(1924年) プロレタリア文学雑誌『文芸戦線』創刊
昭和4年(1929年) 小林多喜二『蟹工船』発表
ものすご~くタッチの差ですが、風鳥亭で労働争議を持ち出すのは少し早いかなぁ。
キースは外国の活動まで知っていたのかしら? 重箱の隅をつついて申し訳ないんですが、ちょっと違和感がありました。
まぁ、歴史好きしか気にしないようなところですし、そもそもドラマですからいいんですけど、一応、後学のため。
藤吉はん、ふてくされるのは堪忍でっせ
必死で訴える芸人相手にふてくされ「働きたくないんやったら、好きにせえ」とむくれる藤吉。
ここは視聴者の反応も分かれるかもしれません。
席主らしくドッシリ構えるようになった。
好意的に捉えればそんな感じでしょうか。
しかし、他に芸人がつかまらないときに「お友達枠」で採用したのも藤吉自身なんですよね。
第6週から第7週の開業当初にも、
「私たちだけでなくて、みんなの夢を叶える場所です!」
みたいな綺麗事を言っており、彼の方針がよくわからなくなってしまいます。
いかにも強欲そうな寺ギンが
「適性のない芸人は辞めさせて、田舎にでも返す」
と、自らが嫌われてもきっちり言い切るというスタンスを見せており、そっちの方が実は真摯な対応に見えてしまうのですから辛いです(第9週)。
カッコイイことをカッコイイ顔で言うアドバイザー栞
風鳥亭の客席では、寺ギンの元で集金を担当している風太が、「団吾はなびかないもんや」とダメ出し。
それを聞いたトキは反発するようで「いつになったらおてん様を卒業するの!」と言うという、所謂ツンデレキャラぶりを出して来ます。
この二人が結婚するフラグでしょう。
ツンデレは、漫画やアニメならともかく、実写でやり過ぎると変な人、不愉快な人になりがちですので、さじ加減が難しそうですね。
伊能栞は、異母兄から「いつまでも活動写真なんかやるなよ」と釘を刺されています。
父が退任し、兄が後継者になったという設定のようです。
これもちょっと違和感がありまして。
小林一三は異母兄弟に事業を任せているというのもあるんですけれども。この時代は同族経営が多いわけです。なんだかんだで一番信頼できるのは兄弟だという理屈です。
吉本興業も、小林一三の経営系列会社もそう。
そういう時代背景と真逆のことをされてもなあ、と感じてしまいます。孤高の栞様という演出かもしれません。
栞のもとへ、兄と入れ替わりに藤吉がやって来ます。
ここで栞は、
「団吾はぼくたちと同じ改革者だ」
「止まらず前に進まねば」
と、カッコイイことを言いつつ藤吉の背中を押します。
カッコイイことをカッコイイ顔で言う、ただの便利なアドバイザーと化してしまった栞……。
こんなん、辻占い師に占って貰うのと何が違うんや……高橋一生さんで視聴者を釣りたいだけやん!
藤吉が団吾を狙ってると聞き、寺ギン、顔色変える
翌朝藤吉は、団吾にアピールするには寝起きに行けばよいと、朝食も食べずに出かけてゆきます。
「労働争議は無視してええ」
と、てんに言い残して。
うーん、無視できるものではないのでは?
栞には、むしろ、その対処法を相談すべきだった気もしてます。
「俺の団吾への思い入れってどうなん?」
程度の悩みなら、それこそ気が済むまで下駄でも投げて、表裏の結果で決めてしまえばいいんじゃないですかね。
一方の寺ギンは、風太たち配下のスカウトマンを、謎の座禅で鍛え直しています。
風太に「団吾を取ってこい」と発破をかけると、風太は、
「風鳥亭の席主が今ごろになって団吾を狙っている」
と言います。
顔色を変える寺ギン。
てんは、風鳥亭の側で行き倒れた女性を介抱して、明日の放送へ。
今日のマトメ「団吾に遊び人スキルを押し付けすぎ?」
今日は「大正のクズ男」と「平成のクズ男」が揃ったというところでしょうか。
札束をバラ撒く豪快な団吾。
「飲む・打つ・買う」の三拍子揃い、明治大正までにいた、芸は出来ても人間的にダメな遊び人という感じがします。
藤吉のモデルとなる吉本吉兵衛もそういう人物に近く、山崎豊子『花のれん』等の作品でも同じような設定。愛人宅の布団で死んでいます。
本作では、そうした本来藤吉に当てられるエピソードを団吾に振ったかのように思えてきました。
現在の視聴者にはどぎついと思ったゆえの配慮ですかね。
しかし、そうした配慮の結果が、平成のクズ男・藤吉を誕生させてしまったのですから皮肉なもんです。
この改変がよかったのか。
ちょっと難しいところだと思います。
昔の駄目男を豪快に、関西男のチャラさと柔軟さをもって演じた団吾には愛嬌がありました。
やっていることはどうしようもないけど、「まあ、しゃあないわ」となると言いますか。
その団吾に圧倒されて、震え声でむすっとしている藤吉に、愛嬌がないのが残念至極。
芸人を無視して「勝手にせえ」という所なんて、何の可愛げもないんですよね。
自分の主張だけ必死なんだけど、相手に強く出られると何も言えなくなって、信念というか気持ちの強さを感じられない。
そういう一面とダメな一面が組み合わさって初めて愛嬌が生まれるのだと思います。
ゆえに本作では、はじめから藤吉の路線を間違ってしまったんでは?と。
今回、団吾が出てきて、あらためてそう感じてしまいました。
例の「労働争議」もああいう茶化し方はどうですかね。
“ツマラナイ”という芸人の自業自得の面があるとはいえ、生活をしている以上は切実な話ではあります。
前述の通り、藤吉は伸び悩む芸人に対して無策であり、寺ギンのように引導を渡すわけでもなかったのです。
それはおそらく藤吉を悪く見せたくないがゆえ。
そこで、あのおちゃらけ労働争議にしたのでしょう。滑っている印象です。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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