【受忍論】の残酷さ
千遥の家出。
再会できない奥原きょうだい。
一体何が悪かったのか?
いじめた川合とし?
迎えに行かなかった咲太郎となつ?
結論からいえば、戦争そのものでしょう。
しかし、だからこそ責任の所在が曖昧にされました。
「国民全体が苦しんだのだから、そういうものだと思うしかない」
あまりに酷いこの突き放し方は、【受忍論】とされて来ました。
「戦争犠牲、戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかったところであって、これに対する補償は憲法の全く予想しないところ」
俊一は障害を負ったとはいえ、それを抱えて生きていかねばなりません。
働けなくなった傷痍軍人が、募金集めをして生きていかねばならない。
そういう社会であったのです。
左腕を失った彼も、その一人。
『ゲゲゲの女房』の再放送がスタートしますね。
彼のような成功例を見ると、
「そっか、たくましく生きていけたんだね!」
と、思いますが、あれは彼のずば抜けた才能、努力、マイペースぶりもあったのでしょう。それに彼は元軍属であり、成人していたという点も大きいのです。
なつたちと同じ戦災孤児たちの境遇は、もっと厳しいものでした。
咲太郎が言うように、奇跡があった。
しかし、恵まれなかった戦災孤児もいます。
その一例が『はだしのゲン』における、ヤクザの鉄砲玉になって惨殺されるムスビです。
※山守ぃぃぃ!
朝ドラなのに、なんでそんなに広島ヤクザを貼るんじゃい枠になりつつある、『仁義なき戦い』。
これだって、国が保証しない復員兵と戦災孤児が、抗争に駆り出されるという、実に悲劇的な話なんですよ。
どこの国でもそういうもの――確かにそんな見方はできます。
アメリカでも、ベトナム、イラク、アフガニスタン帰還兵が現在でも問題になっています。
※『ランボー』だって、ベトナム帰還兵の悲劇なんだ
それはその通りです。
ただ、同時代の他国と比較しても、日本の戦死者遺族や戦災被害者への補償は貧弱なものがありました。
そのことは、意識しておいてもよいでしょう。
※『キャタピラー』は軍神と崇められる兵士の家族が全然救われない話です
そういう非情な現実があった。
にもかかわらず、戦争で苦しんだ若者を集めて、コキ使って、戦争で成功した俺らはウヒャヒャ〜!
戦争中、すいとんで苦しむ甥っ子姪っ子をさしおいて、夫婦でラーメンを啜ってキャッキャうふふしていた、****の*ちゃんと**さぁんは絶対に許されないと思うのです。
※朝っぱらから山守夫妻を見せやがって!
理解こそが、奇跡かもしれない
なつは、自分が幸せであったことに苦しみを覚えています。
千遥とは、どこで違ってしまったのか?
なつを保護した剛男は、復員後すぐに仕事復帰できた。
戦災による身体的損傷はありません。心理的にも、深刻な後遺症は表面上はありません。
「よくぞご無事で」
戸村父子は、剛男にそう声を掛けました。
剛男が牧場で、牛を撫でるあの場面には、そんな意味もあったのでしょう。
北海道十勝にある酪農地帯は、艦砲射撃や空襲による被害も少なく、家屋や財産は無事でした。
そのため、なつの級友は東京の惨状を理解しておらず、そのことで東京から来たなつや天陽は、理解されにくかったものです。
北海道は、本州よりは全体的に余裕がありました。
調理器具が供出されたとぼやきつつも、工夫でアイスクリームを作れた雪月も、恵まれていたのです。
なつの味わった柴田家の食卓、そしてアイスクリーム。
咲太郎が啜って涙した、藤正親分の奢ってくれたラーメン。
千遥が食べていた、幸子たちより少なく、粗末な食事。
なつは周囲の人々が、彼女が本心を隠して笑っていることを見抜きました。
「あの子、腹立つ!」
夕見子は幼い頃から鋭い知能でそのことを見抜き、そこに苛立ちを感じていました。
泰樹は、こう言いました。
「もっと怒れ、怒っていい!」
柴田家の人々は、それぞれの鋭さでなつを受け止め、開放してきたのです。
それが、としや幸子にはできませんでした。
笑う千遥を、バカにしていると思った。平気なのだと思った。
これは咲太郎も、恵まれていたのです。
亜矢美も、マダムも、藤正親分も、咲太郎の強がりをちゃんと理解しています。
十勝や新宿の人は気持ちが優しく、賢いのか?
そういう単純なことでもないでしょう。
北海道の柴田牧場近辺は、衣食住がまだしも恵まれていたから、心理的な余裕があったのでしょう。
新宿には、図太く生きる人々が集まっていた。
それこそが、咲太郎の言う奇跡かもしれません。
千遥が十年遅く生まれていれば。こんなことにはならなかったのに……彼女のせいではないのに。
サバイバーズ・ギルトを抱えて、表現して
さて、なつの苦しみですが。
なつはストレートに出して来ます。
これがきっと作品につながるのでしょう。
そういうクリエイターの例は、あります。
先にあげた水木しげる氏は『総員玉砕せよ』という、戦争体験を作品にしました。
自分は生き残ったけれども、そうできなかった戦友が描かせたのだ。彼はそう振り返っています。
『仁義なき戦い』も、監督の深作欣二氏と、脚本家の笠原和夫氏が、自分なりの戦争体験をどう作品に取り込むのか。
そこで熱く議論したそうです。
この年代の、戦争経験者の苦しみは、作品を通して伝わってきます。
アニメ化された漫画『シグルイ』の原作は、南條範夫氏の『駿河城御前試合』です。
徳川忠長が暇つぶしのために思いついた試合のせいで、主人公たちが理不尽な残酷に放り投げられ、ひたすら殺し合います。むーざん、むーざん。
やはりアニメ化された漫画『バジリスク』の原作は、山田風太郎氏の『甲賀忍法帖』です。
「正社員みたいな武士の殺し合いで、将軍家の世継ぎを決めたらよくないっすよね。でも、忍者なんて派遣や契約みたいなもんだし、あいつらに殺し合わせて決めちゃえばいいじゃないですか」
そういうふざけきった徳川家の動機のせいで、忍者が殺しあう。殺伐とした世界でした。
動機が無茶苦茶。偉い人のしょうもない思いつきのせいで、下々の者が殺しあう。あまりにひどい話です。
感想として、こういうものを見たこともあります。
「なんかひたすら殺しあうだけで、救いも何もない」
まぁ、その通りなんです。
殺し合わずに解決しろって話です。
それができません。
これは、戦争を味わってしまった世代が、創作を通してセラピーをしていたんじゃないかと思うんですよ。
そこまで深く考えようがなかったし、自分の意見が通るはずもない。
そんなお偉いさんが決めたことで、無茶苦茶な殺し合いに巻き込まれた。
そういう怒りや恨み、どうしようもなさ、だからといって国が慰めるわけでもない心理状態を、創作を通して血や内臓をぶちまけて、分析するなり解決するなり、模索していたのではないかと。
そして、それを本人すら恥辱があって、認めていないんだろうな……と思います。
水木しげる氏は、片腕切断のおかげでそれ以来前線に行かなかったのだから、むしろ幸運であったと語っています。
『火垂るの墓』だって、主人公のモデルである原作者・野坂昭如氏は、あんな立派な兄ではなかったと語っています。
病弱で徴兵されなかった山田風太郎氏の戦中日記の出版タイトルは『戦中派不戦日記』。
戦中派なのにろくに死すら見ていないと自虐的に語っているものの、状況的にちょっと信じられません。本当にそうだったとは思えないのです。
彼らほど有名ではない生存者も、証言を読むと、
【生き延びた自分を笑い飛ばすような、生きていることそのものに恥を感じているような】
ものすごくずっしりと来る悲しみがあるものです。
戦中派は、生き延びたことを恥ずかしく思っているような、どうにも自虐的なことを言い残してしまう。
『ひよっこ』の宗男や、『半分、青い。』の仙吉からも、そんな照れ混じりの経験を感じさせました。
そこが秀逸だと思うのです。
戦中派の語ったことを、真正面から受け取って、
「なぁんだ、こいつ戦っていないじゃん! 楽してたんでしょ」
とは言わないように。正面切って受け止めては、いけないのです。
もっと彼らの気持ちや状況を、想像しないと……なつとその創作を通して、本作もそこを伝えてくるのでしょう。
真田信尹「ここから先は読まんでいい」
はい、最後にオマケです。
◆フジ月9出演も決定 「なつぞら」母親対決は山口智子に軍配(日刊ゲンダイ)
この軍配をあげているのは誰か?
女性をジャッジできる俺はスゴイと思い込みたい、この媒体読者のおっさんです。
そういうセクハラめいた、女性部下にハイヒールを履かせて、どうこう言いたい。
【ファイナルオヤジファンタジー】への迎合です。
毎回毎回、こうです。
・女優へのダメ出し
・女優がヒステリックに焦っていると言い出す
・女優は美人すぎてもダメ、そうでなくてもダメ。どうすればいいんだよ?
・現場で女優同士が対立している「女の敵は女」ファンタジー剥き出し
・若手イケメン俳優もジャッジする「おじさんに認められなきゃダメだぞ!」願望である
・視聴率が低下すると、「テコ入れに濡れ場orヌードか?」とエロ願望を持ち出す
もっと他のパターンを考えてくれーい。
芸能、特に大河と朝ドラ記事に関しては、何か得体の知れない病にでも罹ってしまったのか。
そう疑いたくもなる。それがこのメディアです。他は結構いいものもあるのに。
『西郷どん』を大ヒットすると言い切った前例を、私はしつこく覚えています。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
営業スマイルは東京焼け野原を生き抜く知恵だったのに、まさか裏目に出てしまっているとは。千遥も兄姉を探しているけれど、手紙をなんらかの事情で紛失していると思いたいです。世話をしている子供と一緒に見た漫画映画に「原画・奥原なつ」を見つけるとかいう胸熱展開こないですかね~。
P.S.
祝、日本のアニメーションを築いた人々 復刊!!!
なんと、単なる復刊ではなく増補改訂される模様。新たに池田宏さんらのインタビューが加わるようです。東映動画の小田部さんの同期にして、任天堂に動画技術を持ち込んだレジェンドです。
まさかの、あまりに重い真実。
そして
ドラマ版『火垂るの墓』の再現のような悲劇。
予告編での二人の涙の意味はこういうことだったのか。
重すぎて、言い表す言葉が見つかりません。