階段でよろめいたなつを、助けた坂場。
スローモーションでロマンチックな演出です。
しかし「大丈夫?」のあとにこれだから。
「勘違いしないでください……」
顔がいい、親切なこともある。
それゆえ、相手から勘違いされるとか。周囲から冷やかされるとか。そういうことが面倒くさくてたまらかったと思われる発言です。
前作****教団のゲス男どもは、女に唾をつけてこそ男だという気持ち悪さ全開でしたが、世の中には坂場タイプもいます。
そういうことがめんどくさい奴。
なつも変人ですので
しかし、なつの驚いた顔は、恋愛由来ではありませんでした。
坂場も察知します。
「ん? なんですか?」
なつは腕をくるくる回しながら、こう叫び出すのです。
「これこれこれこれ! あーっ! おーっ!」
どうやら何かを察知したようで、なつは慌てて、そのまま自席に戻ります。
階段から落ちかけて腕を振り回した経験から、馬の動きを思いついたのです。
そのインスピレーションを描くべく、ペンを走らせます。
ここでも嘶きのSEが入ります。
思えば天陽の絵が動いた時もそうでしたね。
天陽の出番がないとお嘆きの皆様。
彼の笑顔は見られませんが、馬の絵を通して繋がっていますよ。
「よし、できた……」
なつはそう満足げです。
なつよ、何ができた?
早く見せろ!
そう父も急かすのです。ここまでがアバン(※オープニング曲前の導入部分)でした。
納得ができる、面白い動画ができた
なつは下山とマコに、ドキドキしながら見せるのです。
「どれどれ〜?」
下山、たまらず笑い出します。
「面白い!」
「そですか」
面白いと言い、マコにも見せる下山。
確かに面白いことは、その表情でわかります。
あの軍師マコの頰に、子供のような無邪気な笑みすら、ふっと一瞬浮かぶのです。
貫地谷しほりさん、いいなぁ〜!
「前脚、4本描いたの?」
真顔になって、マコは分析開始!
そこがポイントでした。
前脚を4本にすれば、タメを作っても、一連の動きを殺さない。残像です。
そういう効果はあるものの、ここまではっきりした残像は、下山も初めて見るそうです。
マコはどうしてそんなことを、なつが思いついたのか。気になって仕方ないようです。
「ちょっとしたはずみで、思いついたんです」
そう語られて、マコはちょっと悔しそうでもある。
理詰めガチガチ軍師からすると、こういうはずみで思いつくなつが羨ましいのでしょう。
けれども、その才能を認めて嬉しそうな、面白そうな、そんなふうにも見えます。
これぞ、演技の見せ所ですよね。
マコはそこは認めるのです。ライバルだから、気に入らないからと、評価を曲げません。
「私は、面白いとは思うわよ。ただ、仕上げでの色付け次第という気もします。やってみないとわからないってことね」
マコぉ〜〜〜!
これが彼女らしい着地点なのでしょう。認めてはいる。けれども、完成品を見るまでわからないと牽制もする。
マコは下山のように手放しに褒めるのではなくて、挑発や牽制もするタイプです。
そこは十勝の夕見子と、軍師同士一致しますね。
なつがマコの言い方につっかからない、凹まないのは、夕見子で鍛えられたおかげかもしれません。
本作のよいところ。
馬を通して天陽、軍師つながりを通して夕見子。
そういうなつの人生が出会ってきた大事な人のことを、きっちりと思い出させるところでしょう。
死んだ父親を、結婚相手としては低スペックだと貶すだけ。
親友はATM。そういうゲスな人間関係だった****とは真逆です。
かくしてなつの絵は、井戸原と仲まで届きます。
彼らも興味津々といった様子。
なつはホッとしています。やっと馬の動きをつかめました。徹夜でも、思考でもない。
階段から落ちそうになって気がつく。これがなつのタイプなのでしょう。
マコはそんななつの後ろ頭を、原稿でバサッと叩く。
「あなたのせいで全体スケジュールが遅れているんだから、早くしなさい」
そう急かしながらマコが繰り返しますが、イジワルなだけではありません。
嫌われマコになってでも、現場を引き締める。そんな黒い軍師ですね。
なつのこういう思いつきって、なんだかカッコいい。
けれども、試行錯誤や理論あってのものなんですよね。
いきなりポーンと思いつくのも、積み重ねがあってこそ。
宗教的悦楽を得て踊る妻を見て、大ヒット商品を思いつく――そんな****教団のデタラメとは根本的に違います。
坂場は崖から蹴り落とす
このあと、なつは喫茶店でモモッチと語り合うことに。
急に坂場と二人きりになって、モモッチはびっくりしたそうです。
ここでなつは、モモッチが坂場を嫌いになったのではないかと聞きます。
モモッチは、「そんなことない」と笑い飛ばすのです。
なつは、自分の苦手意識を告白します。
「しゃべっていると崖っぷちに追い詰められているみたいだから、苦手……」
これも坂場の厄介なところですが、本人は夕見子やマコほど狙って追い詰めてません。
理屈っぽさが周囲からするともう、ウザいからやめろレベル。
しかし、本人は好奇心や納得を求めて話しているだけで、無自覚です。
つまり、生きているだけで表裏比興……。
モモッチは、その気持ちはわかると言いますが、何か嬉しそうです。
パフェからチェリーを持ち上げて、なつの前にかざします。
「その崖から落ちた時、恋に落ちてたりしているかもよ……」
「なにいってんの。そんなことあるわけないっしょ」
これはどういうことかな。
モモッチが恋に落ちているのかもしれませんよ。
気持ち悪さ、ウザさ、そっけなさ、不器用さ。そこを乗り越えれば、これはよいかも!
ユーモアセンスがあって、浮気もめんどくさいからしないし、よく考えているし、親切なところもある。
モモッチは、そう思っていませんか?
この動画を描いたのは誰だぁっ!
作画課に露木が乗り込んで来ました。
「これはなんだ? この動画は誰が描いた!」
露木が手にしているのは、なつの前脚四本でした。
「残像を絵に描いたら不自然に思われるだろう! 問題は誰が描いたかではなく、誰が許したかだ!」
作画課の皆が一人一人、立ち上がります。
下山も。
マコも。
仲も。
井戸原も。
茜も。
堀内も。
露木は、仲と井戸原が許可したことを知り、怯むのです。井戸原は、正々堂々、とりあえずやってみましょう!と宣言します。
「東洋動画は、ディズニーのような予算も人手もない。あるのは若い情熱だけ。世界の壁を越えるなら、そこに賭けるしかないじゃないですか、露木さん」
仲が静かな情熱を込めて、そう加えます。
「わかったよ。そこまで言うなら、いいだろう。今回はこれでやってみっか」
井戸原は、こう提案します。
「せっかくだから、このまま打ち合わせやってみましょうか!」
こうして打ち合わせに入る中、あの坂場はなつも見ているところで、馬の前脚の動きをしてみせるのでした。
坂場こそ表裏比興よ……
『信長の野望』は、パラメータが見えます。
知略99と知略78の戦術ならば、前者を採用しようという気持ちになるわけですが、現実は違います。
言動を吟味して、どういう設定か見極める一手間が必要です。
実はこの場面は、露木と坂場の比較ができるのです。
・アニメーターへの対応
→露木は面倒だと思い、坂場に任せたほど。
坂場は面倒であることすらわかっていない。
・説得のテクニック
→ドアを開けると、いきなり怒鳴り始める露木。
坂場は、挨拶をしてから理論を語り出す。
露木は自分の役職、地位、そして怒りを見せることで、場をコントロールする傾向がある。
・舌戦スキル
→露木は仲と井戸原が反論するだけで、すぐに持論を引っ込めてしまう。
坂場は理詰め。相手が怒っていようと、自分が納得できなければ引き下がらない。
こうして両者を比べると、坂場の方が備わっているものがあるとわかります。
・理論
・舌戦スキル
・図太いメンタリティ、度胸
・礼儀正しさと謙虚さ(ただしズレている)
空気を読まないだけに、恨みを買ってしまう。
本人は気づかないところで、相手を怒らせたり、プレッシャーをかけたりしてしまう。
そういう欠点だけではなく、坂場には何かがあるとわかるのです。
もう一人自分が欲しい
なつは、雪次郎の部屋を訪れました。
母の妙子が笑顔で出迎えます。
「あがって」
部屋には『演劇革命』が置いてありました。
なつは演劇を許したのか?と、不思議に思います。
妙子によれば、まだそこは未解決ではあるそうです。
「それでも、この部屋で生きているのだから」
そう思い、妙子は部屋を綺麗にしているのでした。
どんな進路になろうとも、部屋掃除は必要ですもんね。
雪次郎は語ります。
雪之助は川村屋で、自分が間違っていると思ったと。
迷ってはいる。けれども、夢を諦めると言う雪次郎です。
すかさず、なつが、迷っていたらみんな困ると言います。
雪次郎は苦しげに語ります。
「父の夢は自分の夢。ただ他のことは後悔したくなかった。自分がもう一人いれば……」
妙子はここで、きょうだいを産めなかったことを謝ります。
「そんなことは言ってないって!」
そう雪次郎は返すのです。やっぱりいい子だなぁ。
女性に何人子供を作れという、そういう暴論はあります。
女子ばかり産むから「女腹」なんていう酷い言葉もあるほどです。
こんな妙な話もないんですよね。
・胎児の性別を決めるのはY染色体、つまりは父側の要素である
・妊娠そのものが男女双方によるものであり、責任を求めるのであれば男親にも追及せねばならない
脱線してしまいましたので、よろしければトリビアとして今後お役立てください。
知将・妙子のことですから、我が子の優しさは踏まえているのでしょう。
そこをチクリとつけば、これ以上は言えなくなりそう。そのくらい、知将ならば考えかねません。
妙子は賢い、いつも賢いから。演じる仙道敦子さんから、漂ってくるんですよね。
そんな妙子が言うには、雪之助は川村屋で我が子が戻るまで、居場所作りをしているとか。
これも夫婦の適材適所です。
理論よりも、誠意で突破する。ジッとしていられない、そんな猛将・雪之助は体を動かさねばならない。
知将・妙子は、その優れた知性で事態の緩和をはかる。
今できることをやる。
ん、あれ?
総大将はどうした?
※続きは次ページへ
板場は、恋愛には鈍い自分ですら勘違いされるかもと感じたあの階段でのハプニング(ものづくりに没頭してた夏虫駅でのスズメにでさえ後に致命的なダメージを与えてた)に際してもなお、純粋にものづくりにしか意識が向いてないなつに逆に好意を持ったと思います。この人となら一緒にアニメの世界を(“下世話”な恋愛感情に左右されずに)開拓していける、と。それがその後の露木さんが怒鳴り込んだシーンでのお茶目な振る舞いにつながったと感じます。2人の、少し他とはステージの違うものづくりの展開が楽しみです。