千遥、お前を離さないからな
差し出された受話器を持って、千遥は力が抜けたように座ります。
辛そうな、そんな顔……。
「もしもし……」
「千遥? 千遥なの? 千遥、お姉ちゃんだよ!」
「お姉ちゃん……」
「千遥! 千遥、千遥、ごめんね……よかった」
亜矢美と咲太郎が、感無量の顔で見守っています。
「ご迷惑おかけして、すみませんでした……」
「何言ってんの、千遥!」
ここで咲太郎が、たまらず電話を替わります。
「千遥、俺だ! 兄ちゃんだぞ!」
「お兄ちゃん?」
「そうだ、咲太郎だよ。お前の兄ちゃんだよ! あの家に預けて悪かった! すぐ行く、お前を離さないからな!」
家出された苦しみを乗り越え、咲太郎はそう誓います。
しかし、千遥は怯えたように電話を切ってしまうのでした。
「大丈夫? 何かあったの?」
富士子は電話を切った千遥に声をかけます。
その口から、戸惑いが語られました。
「私、昔のことは、姉や兄と一緒にいたころのことは、あまり覚えていないんです……」
ところどころは覚えている。
いつ、どこでどうだったのか。細かいことは思い出せない。
そう語りますが、それも仕方のないことでしょう。千遥は当時、5歳でした。
「忘れてしまいたいこと、辛いことも、多かっただろうな……」
剛男もしみじみとそう語ります。
しかし、です。
千遥は、それなのに、声を聞いた途端、姉と兄のことだと理解できたのです。
「そのことに何か驚いて、何といえばいいか、わからなかった……」
ここで泰樹がしみじみとこう言います。
「相手の顔が見えん電話は、わしも好かん」
彼らしいと言いますか。直接ぶつかるスタイルなんでしょうね。
そして、相手だって驚いているのではないかということになり、もう一度かけ直すことになります。
「もしもし、千遥!」
「先程は、すみませんでした、お姉ちゃん」
「声がすっかり大人になったね。それはお互い様か。千遥、お願いだからそこでまってて。今すぐ行くから。お願いだから、千遥に会いたい」
「私も会いたいです……」
ここで父が、こう告げるのです。
なつよ、その瞬間にはっきりと、家族の時が繋がったぞ――。
電話の普及
先週最後で、電話の普及が描かれました。
それを踏まえての今週です。
千遥が帰ろうとした時、そこに剛男が登場しました。
これも電話の普及によって彼が呼びされたタイミングがあります。
もしも千遥の到着が、電話で十勝と新宿がつながる前であれば。
電報にせよ、郵便にせよ、こうはならなかった可能性が高い。
通信手段は、本作のキーポイントでもあります。
・なつが大事にしている父の家族の絵は、剛男が軍の検閲を通さずに持ち帰ったもの
・なつは咲太郎と文通のやりとりが途絶え、苦しんでいた
・信哉が千遥の居場所候補を探し当てたのは、年賀状があったから
・千遥が柴田牧場にまでたどり着いたのは、咲太郎の手紙があればこそ
郵便から、電話へ――。
技術の発展と家族の縁を重ねて、時代の変遷を感じさせる。秀逸な構成です。
『ポケベルが鳴らなくて』
という、今からすればそういうものか……となる歌もあるものですが。
こんなふうに、通信手段はさまざまな生活に反映されるものです。
当レビューでは、前作****におけるナンバーディスプレイつきとしか思えない電話のような、無茶苦茶な描写があるとやたらと突っ込みますが。
そういうところに手抜きが出てくるからなのです。
背中を押す勇気
電話だけではなく、きょうだい再会において大きな役割を果たしたのが、咲太郎です。
咲太郎も、なかなか難しいところがある男でして。
なつを助けたいと空回りしながらも、突き放したこともある。
千遥のことも、そうしたような宣言をしていました。
それでいて、今日は「お前を離さないからな!」宣言です。
お前はどういうことだよ〜!
そう突っ込みたくもなりますが、素直になれないのでしょう。泰樹もそういうややこしさが出ていますが。
守るからには、全力でなければならない。
そうできないとなると、苦しくて辛いけれども、それを出すわけにもいかない。
咲太郎は悪い奴じゃないんだ……。
雪次郎を、あれだけ応援できるところからも、人情の篤さを感じます。
彼の妹二人は、臆病なところがありました。怖がってしまっていた。
そんな妹の恐怖を取り除き、電話をかけあえと背中を押した咲太郎。だからこそ、縁が繋がりました。
やっぱり彼には、何か特別なものがあると思うんですよね。
がんばれ、咲太郎!!
飢餓状態だった人に大量に食べ物を与えてはならない
今朝は演技が圧巻でした。
セリフを聞いていくと、わりとシンプルです。
訥々としゃべっている。
絞り出している。
そういう短いフレーズが多い。
こういう感動的なシーンで、とぎれず、立て板に水、スピーチ原稿を読み上げるように長いセリフを喋らせるパターンもあります。くさいフレーズも満載ね。
感動させるBGMもガンガンと流し、ライティングもテカテカバッチリ。
女優は目をウルウルさせて、上目遣いです。
「さぁ、ここで泣いてください!」
そう丸わかりのやつ。
前作****の留置所夫婦再会シーンがこの典型例でしたね。一体どういう会話をしている夫婦なんじゃい、と突っ込んだものです。
一方、今日は、特に千遥の清原果耶さんが圧巻でした。
緊張でガチガチしていて、パニックになっていて、どうしたらいいかわからない。
感動するどころか、怖くてたまらない。
そういう演技と演出。
それもそうだと納得できます。
別れた時は5歳、記憶も曖昧。恐怖の方が勝る。そこに記憶が蘇って、うれしいよりも前に、恐怖が襲ってきてしまう。
考えてみれば、千遥は心理的な虐待によって、内心と感情表現が逆転するほどのショックを与えられていました。
うれしいと思っても、それが反応に出てくるとは限りません。
飢餓状態にあった人に対して、いきなり飲食物を大量に与えてはならない。
その感情版だったのかもしれません。
なつもそうでした。
柴田牧場に来た当初は、どこか笑顔を作っていた。
咲太郎だって、藤正親分からラーメンをもらうまで、本音を言えませんでした。
これは重要なことですよ。
目下の者に、いきなり心を開けと要求する人っていますけれどね。
相手だって人間です。
操ろうとしない、思う通りにしろと思わない方がよいでしょうよ。
喜ぶ顔が見たくてプレゼントをあげたのに、ひきつった笑みになってしまうとか。
誰もが泣いている卒業式で、一人だけどうしても泣けないとか。
そういうちょっとずれているだけで、冷血だと心無い評価をされる人がいますが、感情の表出だって個々人によって違います。
そこで非難しないようにしましょう。
思えば本作は、帰還した剛男相手に、明美が嫌がっていたあたりから誠意を感じました。
当時の明美からすれば、実父だろうと記憶がないため、見知らぬおっさんでしかありません。
再会して、きょうだいで通じ合って、いきなり泣き出すとか。
感動的なBGMをガチャガチャ流すとか。
それでもってワーッと盛り上がる。
「泣けた!」
「感動した!」
というSNS投稿をまとめたネットニュースが、午後イチで流れるとか。
そういうお手軽なインスタント感動でも、まぁ、見る人にとっては悪くはないのかもしれませんが。
本作はもっと丁寧なアプローチのようですね。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
いししのしし様、ご賛同ありがとうございます。
管理人様、早速のご対応に感謝です。
元々BUSHOOサイト愛読者で、「半分、青い」のリンクを踏んでからこちらにもお邪魔するようになりました。
ですから、多少の誤字や誤植等は、前後の文脈からの脳内変換に慣れてしまってますので、本当に気にしてません。
あれ?、フォローのつもりが、物凄く失礼に、、、(笑
あれだけの量の記事やデータを無料で開示して頂いてるんで、多少の事はご愛嬌と考えてます。
お城野郎さんや馬渕センセの記事も好きです!
本日の放送は、感動しかありませんでしたね。
泰樹じぃの「電話は好かん!」も、千遥の為になんか言わんと!感が満載でした。
休みの相談を受けた下山が、「他人の話」としてしか聞いて無いはずの妹の話を察してのリアクション。
その後のマコの、一見そっけないリアクション。
全部に、感情が見えるんですよね。
と言うか、そうこちらに考えさせてくれる演技なんですよね。
だから、面白い。
あと、風車のカウンターに立つ山口智子さん。
「居酒屋ゆうれい」思い出します。(笑
>ひろぶ様
誤字のご指摘ありがとうございます!
修正させていただきました。
有料化はないです^^
今後もご愛顧よろしくっす!
ひろぶさんのご意見に賛同させていただきます。当作では、ストーリー展開がやや出来過ぎ、「半分、青い。」のようなキラキラとしたセリフ回しは無い、などありますが、ブレないキャラクター設定や細かな状況補填には目を見張るものがあります。例えば昨日出た「姉に会いたくないのに何故来たのか」という疑問には、本日しっかりと答えています。それも想像以上の表現で。途中で電話を切ってしまったことに対しても、その後の説明が合理的で自然と入ってきます。武者さまのお書きのように、ガチガチで隙の無い脚本ですね。
清原果耶さんの演技は、「三月のライオン」や「透明なゆりかご」で拝見し、とても注目していました。今回、前発表無しの登場で、大きな期待が感じられます。今後の展開も楽しみです。
レビュー及びコメント欄を閲覧だけにして、自分発信はせずに置こうと決めていたのですが、本日の清原果耶さんの電話での素晴らしい演技に思わず投稿してしまいました。(笑
広瀬すずさんは言うに及ばず、周りを固める泰樹じぃや富士子かーちゃんに明美、亜矢美さんと咲兄ぃ、なにより千遥の、それぞれの反応にやられました。
いちいち自然です。
そうなるだろうな~、そうであってほしいな~って反応です。(自分的には)
なつが電話で語りかける表情からすでにやられ気味でしたが、千遥からの返信時の涙が落ちるタイミングで、晴れてアウトの号泣でした。(笑
清原果耶さんのモデルプレスのインタビュー記事をたまたま見つけたんですが、現場では、あえて広瀬さんや岡田さんとは会わないようにしていたそうです。
その上、なつぞらのオンエアチェックもして無かったんだとか。
すべては、兄姉の事を知るよしも無かった千遥に合わせる為だったとか。
だからこその、あの演技だったんですね。
咲太郎との会話もろくにせずに電話を切ったシーンにはちょっと笑いかけましたが、それもあっての感動です。
やはり、演技指導もあるんでしょうが、総じて良いストーリー展開、脚本だと、役者さんも乗ってくるんでしょうね。
私としては、このように観たままのうわべだけの感想を述べる事しか出来ません。
他の方のように、背景の細かな部分(建物や乗り物、景色等)を年代に照らし合わせて、合否を論ずる知識が無い為です。
地域差もあるんでしょうが、この年代ならこんな感じだろうと思って観ています。
でも、そう思えるのも、このドラマを共感を持って楽しく観ているからでしょうね。
前作のような場合は、反感からついつい細かなとこまでツッコミたくも、、、
すみません、なつぞらには関係無いですね。
ともかく本作品は、今の所自分的には、背景は気にならない程面白く視聴出来てます。
大河には腹に一物あるんですが、コメント欄は恐ろしすぎて、閲覧のみです。
ハンドルネームなしの「匿名」の方々の自由さと恐ろしさときたら、もう、、、(笑
意見を遡って探されないから恐い物無しなんでしょうかね?
ちなみに、千遥役の名前の漢字を間違われてるようですが、ブショー歴史サイト共々、誤字は脳内で変換してるので気にしてません。
修正の為に人を雇っちゃえば、有料化されちゃうかも。
その方が恐ろしいですから。(笑
一言、「なるべく減らして下さい」だけです。