初対面かつ、これまたなかなか濃い野上相手にも一切退かない夕見子の強さよ。
しかも双子って。これも興味深いところです。
さんざん指摘していますが、運命の双生児的なところがこの二人にはあります。
そんな野上は雪次郎にこうチクリ。
「よくこの敷居をまたげましたな……」
これも彼の性格ですね。
なつのアニメを暇人のお絵かきと一刀両断したほどです。
なつぞら49話 感想あらすじ視聴率(5/27)詩人になるか、死人になるかマダムを裏切ったうえでお芝居なんて、堅実な野上からすれば許しがたいのでしょう。
冗談にせよ、野上のこの無理解はむしろ興味深いもの。
坂場がここにいたら、こういう硬派な大人こそ、落とし甲斐のある観客だと思うかもしれませんよ。
そこへ現れたウェイトレスのさっちゃんが、衝撃の告白をします。
なんと結婚するそうです。
「咲ちゃんを待てなかった……」
ということでマダムに紹介してもらい、お見合いをしたそうです。
「いい人だし、生活も安定しているし。咲ちゃんには悪いけど」
このセリフに対し、なつと視聴者皆さんが突っ込んだと思います。
さっちゃんは悪くない。むしろ悪いのは咲太郎。魔性の男ですから。
放っておいた咲が悪い。案の定そう突っ込まれています。
レミ子も諦めましたし、そろそろ咲太郎も何かあるのかもしれません。
ひねった本作ですから、ここまででフラグが立った以外の誰かが相手でしょうかね。おもしろいなぁ!
そして、注文へ。
「注文は?」
「バターカリー三つ!」
雪次郎が戸惑いますが、奢りと知るとホッとしています。お金がないんでしょう。
話題はさっちゃんの結婚に。
「つきあってもいないのに、待っていたなんて……」
雪次郎にそう言われるさっちゃんと咲太郎。それが魔性の色気の恐ろしいところです。
悪用すると、最悪の場合は刃傷沙汰になりましょう。「女難の相」なんて言葉がありますが、咲太郎はそうでしょう。
しかし、この言葉って言われる側にも得てして問題がありますからね。咲太郎もそろそろ落ち着きましょうか。
なつはしみじみと言います。
「でもよかった……」
なつは咲太郎の魔性に警戒心があります。
被害者現象を喜んでいるように思えなくもありません。なつには、血縁もあるのでしょうが、この魔性は通じない。
結婚を、疑えッ!
ここで、夕見子が来おったわ。
ゴオワッ!
「結局女は、結婚で安定した生活を得るのが大団円とな?」
め、めんどくさい……。
そして独自理論を展開します。
「結婚にこだわっていかがする。結婚せずとも、ずっと二人でいればいいのよ。結婚するかどうかは、別のこと」
夕見子の、2025年から吹っ飛んできたのか。
いやいや、金子文子か伊藤野枝か、ってな結婚観ですけれども。
そういう理想論ではない、現実を雪次郎がいいます。
「(夕見子は駆け落ちで)結婚できないからじゃないのか?」
高山には許嫁がいて、家族を押し切れない。
そういうグズグズした状況で、夕見子を騙しているのではないかと。そこまできつくは言いませんが……。
それでも夕見子は「だがそれがいい!」と意気軒昂です。
ここでふと思い出したんですが、【表裏比興】にも弱点があって、総大将・泰樹すらそれに刺されて倒れたじゃないですか。
愛情です。
本当に夕見子は騙されていないのかな?
なつはここで考えてしまいます。
「したら結婚って何?」
本当になんなんでしょうね、結婚って。
本作って手強いなぁ。
何度でも指摘しますが、前作****の第一週は「結婚はまだまだ先!」でしたからね。
時期と相手はいろいろあっても、
【結婚をして当然】
だと、疑いが1ミリもなかったわけです。
本作はそうではありません。
マダムがクールに登場
ここでマダムが軽やかに登場します。
亜矢美のかぶき者とは違ったシックな衣装で、出てくるだけでモダンな風が吹いてくるようですね。まるでアールグレイの香りみたいな。
「大学合格したとき、新聞に載った! 家族期待の星ね」
そう言われた時の、夕見子の反応。ちょっと気まずいところが出ています。
家族の期待を浴びて大学進学しながら、そうではない方向に向かいそうなこと。そこを気にしているのでしょう。
さすがにそこは無視できませんね。
なつみたいに正面切って問い詰められると反論できますが、マダムのような好意からの言葉だと不意打ちになってしまうのでしょう。
マダムは、さっちゃんの結婚についてこう言います。
咲太郎から、幸せにしろと言われていたとか。そんなことを言われなくてもそのつもりだったとか。
咲太郎ぉおおお、自分の口からさっちゃんにそれを言えっ!……って、期待するだけ無駄か。
これはあんまりいい話ではないと思います。
それでもマダムは偉いのです。
さっちゃんは戦災孤児です。
戦災孤児、しかも女性となれば結婚への障壁は色々とあるものです。そこをふまえてのお見合いかどうかはわかりませんが、マダムが太鼓判を押して縁談を進めたのでしょう。
千遥の女将同様、偉いといえばそうなのです。
「咲ちゃんは会社をたてたんですって? 危なっかしいけど、たいしたものじゃない」
なっちゃんの開拓精神が背中を押したと、マダムは褒めます。
「なんも……」
北海道弁でそう謙遜するなつです。
狙ってというより、魂が開拓精神に染まっていて、無意識なのかもしれませんね。
「ゆっくりしていってね」
そう声をかけるマダム。
夕見子もギラリとしてきます。
酪農には鼻も引っ掛けなかった夕見子ですが、開拓者精神はあるのじゃあああああ!
なつぞら43話 感想あらすじ視聴率(5/20)本当は凄い雪次郎受験への動機を聞かれて、夕見子は言い切ります。
「私の開拓者精神です!」
おっ、彼女なりに泰樹や両親の背中を見て、思うところがあったわけですね。
「ずっと新宿にいるかもしれぬ。私にも開拓者精神はあるッ! 相談がありまする。ここでジャズ喫茶を開けるかどうか!」
マダムは、この唐突な相談に乗り気であったと、なつがあとから語ります。
それを聞いた咲太郎はこうですよ。
「あいつは誰にでもそうなんだよなぁ〜」
「バチが当たるでしょ!」
なつが即座に突っ込みます。
10万円借金の顛末をふまえると、ちょっと咲太郎をに突っ込みたくなりますわな。
そして、このまま『夕見子の野望・喫茶』を放置できるのか? していいのか? というなつが亜矢美に相談する流れに……。
亜矢美は難しいと答えます。
友達だったら応援するだけでいいけど、夕見子の場合は北海道の家族関係もあり、もういい加減、なつ一人で悩んでいても仕方ないだろうと。
そうそう、精神的につながっていても、血縁がないと弱いところはありますもんね。
ここで亜矢美が、
「悩むことでもないんでないかい?」
と返答。
なつの北海道訛りがうつってますね。
波乱の電話
なつはとうとう、夜中に柴田家にまで電話してしまうのでした。
電気をつけて、富士子が受話器を取ります。
「なつ! こんな時間に、何かあったの?」
「夕見が……夕見子が。喋ったらもう来ないって言うから」
そう口止めをふまえ、夕見子の野望を断片的に語ります。
「よく知らせてくれたわね、なつ!」
「どうしようかと……」
「なつがいてよかった!」
「私にできることがあれば、何でもする」
どうするか考えなくてはなりません。
十勝からの連絡は、夕見子が警戒するので出来ません。
「お願いね! したらね!」
何かあればなつから連絡するということで、電話は切れます。
すると剛男と泰樹も起きてきました。
「どうしたんだ」
「誰からだ」
「なつがどうした?」
「何かあったのか?」
「なんも」
富士子はそう返すのですが、二人は収まりません。
時間が時間ですからね。酪農家の夜は早いのじゃ。
「なんもこったら時間にかけてきて」
泰樹は受話器を手にして、耳を当てます。
「もう切れてるわ」
「わかっとる」
電話をじっと見る泰樹。
草刈正雄さんがまさにナイスキャストで、これだけで圧倒的な不穏感があります。
なつよ、大丈夫だ。
みんなつながってるからーー。
と、ナレーターの父がうまいことを言います。
このお父さんのナレーションも、最近キレッキレです。
おもしろい。
しかも、よいヒントを出す時と、無力で特に意味のないことを言う時があって、これまた味があるのでした。
まぁ、今日のは気休め程度だよねっ!
全然大丈夫じゃないよねっ!
今日こそが激動の水曜日です。ゴゴゴゴゴゴゴ……。
似た相手を愛すること
夕見子の恋愛ですが、どうなのでしょうか。
雪次郎が、今日は結構大変なことを点いてきた気がします。
「夕見子、騙されていない?」
この問いかけで、一気に高山がゲスに見えてきたではありませんか。
許嫁はそれとして、でも本当に愛する人とも楽しみたいの〜、ってかぁ!
フランス王族貴族方式だな……。
前述の通り【表裏比興】は愛情が刺さります。
そしてこれも結構えげつないところで、夕見子と泰樹には似たところがある。
そんなじいちゃんと似た相手を愛するって、どういうことでしょうか?
愛?
自分と似た相手を見て浮かれただけ?
こうした傾向は危険だと思うんですよね。
自分とそっくりな相手を愛することってよいことでしょうか?
ちょっと思い出したのが、『ゲーム・オブ・スローンズ』のラニスター姉弟。
弟・ジェイミーは心底姉を愛しているのですが、姉・サーセイは自己愛の一面が大きかったのです。
※ネタバレ注意
双子だから自分とそっくり。だから好き。
そういう感情ですね。
あの二人はそれはそれで完結していたとはいえ、どうなんでしょう?
自分に似た相手を愛する是非に、夕見子が突っ込むと思うとワクワクが止まりません!
【表裏比興】四天王勢揃いか?
はい、注目はやはり泰樹です。
あの総大将が、あの受話器を握った顔をして、黙っているわけがありません。
月曜日にあの父ナレーションが、新宿に泰樹がいるわけがないと言いましたが、あれは引っ掛けですね。
新宿に総大将・泰樹が降臨するんじゃああああああ!
そしてこうなりましょう。
【表裏比興】四天王の勢揃いです。
イジワル軍師・夕見子
→思うままに引っ掻き回し、ジャズ喫茶の野望を抱くッ!
同志・高山
→ヒゲを伸ばし、モダンジャズを語り、意気軒昂だ!
総大将・泰樹
→わしを騙る若造を倒す!
社会風刺演出家・坂場
→えっ……僕はこのことに何の関係もありませんけど。数合わせですか?
というわけで、新旧【表裏比興】決戦に備えます。
朝からなんという濃いもんを見せてくれるのだ。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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