なつは家に帰り、仲から差し出された封筒の中身を見ています。
そこにあったのは、キアラのデザイン案でした。
これが言葉にできないような絵。
儚いようで、憂いを帯びているようで、強さもあるようで。そしてちょっと、なつ自身にも似ているような……。
キアラの魂を描く人
そして、長編映画班の会議が始まります。
主人公・クリフと死神のキャラクターデザインは決定。
そう坂場が告げると、次にキアラのデザイン進捗を、なつに尋ねます。
「描けませんでした……ある絵を見て、それ以上のものは描けないと……」
「ある絵?」
坂場が興味津々の顔になります。
「これです」
なつが、仲のキアラ案を差し出すと、坂場は取り憑かれたようにジッと見入っています。
皆に見せるとか、回すとか、そうではない。とにかく自分が納得できるかどうか……完全に没頭しているようにも見える。
気になった皆が立ち上がり、その絵を坂場の背後から確認します。
「これは誰の絵ですか?」
「仲さんです。仲さんが、託してくれました」
仲は、こう言って差し出してきたのです。
「参考になればいいと思って……気に入らなければ無視していいから」
仲はこういう性格ですよね。
咲太郎みたいな、アッパーな任せておけオーラは出ない。
マコのように気が強いわけでもない。人格者なのです。
そのせいか、時に気弱だと誤解されるけれども、信念の人なのです。
井浦新さんが演じるべき役であり、演じて本当によかった役でもある。
坂場は興奮して、こう言い切るのでした。
「私は今やっと、キアラに出会いました! ずっとこれを待っていました」
茜と堀内も納得感を見せていますが、一番濃いのが神地です。
「キアラに一目で恋をした」
こいつも傍若無人ですが、どこか偉そうで、キザ。
「この俺に惚れさせるなんてよぉ〜」
そんな謎の上から目線すら、うっすらあります。
ダンディという感じですかね。
モデルのことを踏まえても、役作りに納得感があるんです。
セリフがそこまで多くないのに、ここまで存在感を出してくる染谷将太さんもさすがとしか言いようがない。
なつは訴えます。
「悔しいと言いながら、仲さんだけが、キアラの魂を描いたんです」
下山もしみじみと言います。仲はイッキュウさんを嫌っていない。陰ながら応援していたのだと。
「仲さんほど、自分が自分を超えたいと思っているアニメーターはいません。同じアニメーターとして、心から仲さんを尊敬します!」
なつがそう告げると、坂場も何か思うところはあるようです。
仲さんがいてこそできる! 反省はそのあとです
そして坂場は、清々しいほどにズカズカと、仲に向かって行きます。
何かにぶつからないか、つまづいて転ばないか、心配になってくるほどで、仲の周囲だって驚くでしょう。
「仲さん、お願いします! 仲さんの力を貸してください! この作品を完成させるには、どうしても、仲さんの力が必要なんです! どうしても、キアラを描いてください! 仲さんしか描けません!」
仲は驚き、なつが提出したと悟っています。
ここも坂場特有の動きで、直線的にいきなり仲に突進して、頭を下げるわけでもないのです。
経緯を説明するでもなく、単刀直入に唐突に言い出します。
しかも、背筋を丸めるわけでもなく、ピンとさせたまま立ちっぱなし。
その横を見ると、なつと下山は頭を下げて、お願いのポーズを取っている。
神地、坂場がやっと話が煮詰まってきたところで、気がついたように頭を下げるのです。
はい、出ました、【表裏比興】。
夕見子も、やりました。
帰宅した理由や経緯や手段を説明せず、立ったままでいきなり「この家は男尊女卑で話にならん!」とダメ出しをかましました。
言動の順番がおかしいのだ。
この「全くわからん!」にしたって、こういう順序で喋っていればそこまでおかしくないのです。
「織田信長が討たれて、各地の大名が蜂起するだろう。
かといって明智光秀の味方もしたくないし。
困ったな、源三郎はどう思う?」
それができんのですね……。いきなりシャウトして、肩を掴むから困る。
仲も、感無量の表情です。
よかったね、仲さんが寛大で。
「わかったよ、ありがとう。採用してもらって、うれしいよ」
ここでやっと、坂場はこう来ました。
「生意気言って、すみませんでした!」
頭を下げて、心の底から申し訳ないと言います。
そんな彼を受け入れ、ポンポンと気遣う仲がもう、聖人君子のようでちょっとウルウルしてしまう。
このハードルを乗り越えて、映画制作はピッチをあげて進み始めます。
キアラが結婚条件となる長編映画製作を止めていたと考えれば、仲が【仲人】かもしれません。
しかし、そうは上手くいかないもので……。
普通じゃない挨拶とな?
坂場はなつを風車まで送って来ていました。
「送ってくれてありがとう」
坂場は、仲の一件についてお礼を言います。なつあってこそ、打ち解けられたのです。
仲にきっちり謝ったことは偉い。坂場にそう告げるなつ。
指導者状態です。これぞある意味、正解なのかも。その分析は後述するとして、なつが偉そうだとか、上から目線だとか、そういうことでもありませんね。
「映画を完成させたい一心で」
そうポロリと言ってしまう坂場は、本当にどうかと思います。そこは素直に、人間として謝罪したかった、でいいでしょうに。まぁ、坂場なのでいいんですけど。
なつは、キアラのデザインで坂場をぎゃふんと言わせたかったと少し悔しがります。
しかし坂場は思わぬ返答をする。
「いつでも言ってる。きみにはぎゃふんと言わされっぱなしだ」
「それはお互いさま」
これもどういうことか、あとでちょっと考えましょう。
店内に入ると、亜矢美が喜びます。
おでん屋なんて客が来たらいつでもいい、開店だと言い出すのです。
そこで坂場が、咲太郎に挨拶をしたいと言い出すのですが、なつがそんなことはいいと止めると、こう来ました。
「普通の挨拶だから」
おっ?
勘の鋭い亜矢美がビビビッとキャッチします。
「普通じゃない挨拶もあるってこと? そういうこと!」
「普通じゃない挨拶も、させてもらおうと」
そう坂場も言い出します。
きたきたきたきたきたーーーーっ!
亜矢美には、二人がどういう間柄なのかわかってしまいます。
「一番に知るなんてもったいないわ、咲太郎を呼ぶっ!」
しかし電話に向かう亜矢美を、なつが止めます。
「普通の挨拶だから!」
普通じゃない挨拶は、長編映画を作り終えてからだ、とも説明します。
来年春に完成だと知ると、心の底から春を待つ顔になる亜矢美。
待ち遠しい! 本人たちより嬉しそうにも見えますね。
「黙っている自信がない〜!」
そうウキウキとはしゃぐ亜矢美が歌い始めます。そして乾杯。
「幸せなら手を叩こう! かんぱーい!」
この一連の場面における、亜矢美底抜けの笑顔と嬉しそうな言動、しぐさが本当に素敵でして。
亜矢美の凄絶な悲恋をふまえますと、彼女は誰かの恋を見て自分の傷を癒しているのだと思わされます。
なつぞら104話 感想あらすじ視聴率(7/30)癖がすごいプロポーズ「羨ましい!」
「私だって恋をしたい!」
「女と見られたい!」
そういう嫉妬やマウンティング、【女の敵は女】パターンとは無縁です。
演じる山口智子さんの無邪気な愛くるしさがたまりません。
※続きは次ページへ
武者さん、楽しく読みました。
坂場君より、なつ。
シャーロックより、ワトソン。
変わった天才がいたら、
理解者を探す癖が私にはあります。
自分をもて余す個性の持ち主が、
運命の理解者と出会えた時は、このお話良かった、って安心なんです。
その意味では、リスベットは悲しいです。かっこよくて強いですけど。
くじけないで生きれば、そんな出会いがある、活躍の場がある、そうであって欲しいです。
坂場君が末っ子なのも納得です。
さぞ可愛がられて育ったのでしょう。
気持ちは言わなくても伝わっている、って思っているところ、平気で駄目出しばかりできるところ、末っ子です。
(私が会った末っ子がそうでした、羨ましい。)
長女は私がしつけなきゃ、って思ってしまう。うん!わかる。
ワトソンが怒る時も怖かったし、面白かったなあ。
まだ前途多難な二人、頑張れ~。
今日のレビューの通り、不器用な二人の結婚を察知した亜矢美はとってもチャーミングでしたね。ナチュラルな演技の山口智子さん、素晴らしいです。歳を取っていくと、人生にはこんな素敵な経験があるのだよ、と教えてくれますね。
今回のアニメのモデルは「太陽の王子 ホルスの大冒険」でしょうか。
見たことはないですが、前に宮崎駿さんがヒルダという女の子のキャラ造形について、その後の宮崎アニメのキャラ造形を語る流れで語っているのを読みました…内容うろ覚えなので、書き込みは控えますが
本日の神地さんの恋で思い出しました。
また読みたくなりました。
NHK東京朝ドラ班は世界と未来に目を向けているのかもしれませんね。
これからのAl時代、勝ち組になるのは坂場や神地のような『才能に恵まれて社会に適応した”個性の強い脳”の持ち主』であり、そんな彼ら・彼女らを『大勢共同体内部に揃えているか』が、繁栄と衰退の鍵になりますから。
あとは我々とは全く価値観の異なる外国人が国内に大勢増えるということも。
「お前ら!こいつらを今からよく見て慣れておけ!!そしてこいつらと共存共栄するために変わるんだ!!」
「空気を読んで―とか言ってたら、坂場のような人材をヨソに取られて衰退する時代がもう来ているんだよ!!いや、もうすでに流出しているっ!!今からでも自分たちが変わって食い止めるんだ!!」
こう考えているのかもしれません。