演劇部の再会
雪次郎が気を利かせて倉田先生を呼んでいたのです。
他にも友達はいるであるところに、敢えて彼であるということは、大きな意味があるのです。
倉田は、なつの漫画映画を全て見ていると力強く語ります。
そして、息を吸ってから、感慨深げにこう言いきりました。
「『神をつかんだ少年クリフ』、素晴らしかったよ! お前の魂を感じた、はははっ!」
「ありがとうございます!」
思わず笑顔になる坂場。
監督だと紹介されて、倉田はさらに力強い言葉を続けます。
「ああ、きみが、あの映画の……そうか、あれを作ったきみならば、奥原なつを安心して任せられる! なつをお願いします!」
思えば、倉田先生の天陽への魂を描くというざっくり指導が、起点になっている部分はあります。
彼は魂を見抜く目があることは、劇中でしっかりと示されているのです。
そして次は……番長とよっちゃんです!!!
結婚しておりました。やったぁ!
よっちゃんは番長にめんこさを感じていて、一度はフラれたとはいえ、番長も熱い告白をしたふたり。よかったなぁ。
「私を置いてなして結婚したの〜!」
「なっちゃんがいなくて、つい魔がさした」
なつはよっちゃんを揺さぶります。
結婚の順序で女が焦るとしたら?
ここにも、本作のこまやかな気遣いがあります。
なつ&夕見子
「負けず嫌いだから、先んじられて怒ってない? 問題は順番。女としての魅力云々じゃない」
「それはそれ、これはこれだから」
なつ&よっちゃん
「私を一人にしないで〜、大好きなのにぃ!」
「なっちゃんがいないんだもん❤︎」
いずれの場合も、女自身がどう思うかというところに主眼があって、男はどうでもいいんだわ。
現に番長が「なんじゃそりゃ顔」になっておりまして。
「いいじゃん、一緒になれたんだから」
と、慰められております。
しかし、ここで、ちょっとヒヤリとする発言も。
天陽のことです。
なつとのことを気遣い、その話は出すなという空気になるのですが……坂場は気にしないんだな。
「僕も天陽さんの絵は好きです」
それはそれ、これはこれなんじゃあああ!
倉田があれも立派な画家になったとしみじみと語ります。
「職業的な画家、という意味ではない」
コンクールで賞を取ること。絵に高い値段がつくこと。そういうことじゃない。
それに、倉田は天陽の才能を見抜いていたわけです。そこを誇りに思うわけでもないのです。
自分には見る目があると、自慢することはない。そういう人なんだ。
倉田は天陽を褒めます。
生きることそのものが、立派。耕し、牛を飼い、その中で絵を描くこと。絵を描くことが、生きること。生きることが、絵を描くこと。
それでこそ純粋な画家!
そんな天陽は男児の父になったと告げられます。
番長とよっちゃんは二児どころか、なんと三人目もお腹の中にいるんだとか。くうーっ、幸せそうだなぁ。
すると妙子が、雪次郎にも相手を探さなくちゃと、やんわり釘をさします。
妙子は、世間一般の良識の象徴のよう。
それでも押し付けない、賢くてやさしい人なんだなぁ。
とよとも渡り合えるし、雪次郎の役者志願の背中を押したし、これは理想の姑……?
やっぱり、あのイジワル軍師を受け入れられる寛大さが、ここにあるのでは?
おのれ、国の横槍だと!
さて、場面は、農協組合長室へ。
扉がバーン! と開いて、軍師が入ってきます。
農協総大将こと田辺組合長の元へ、本当に軍師めいた演出でやってくる。それが夕見子です。
「殿ッ、国から横槍が入りましたッ!」
「なにぃ!」
口調は脚色していますが、だいたい雰囲気的にそんなところでしょう。
ここで、状況を確認しておきましょう。
劇中では、剛男も頑張っていましたね。あの温厚な剛男ですら、露骨な妨害に怒り心頭なのです。
十勝の農家が、農協とともに自分たちで乳製品を作る
↓
そうなると、打撃を受けるのが乳製品メーカー
↓
乳製品メーカーが、国、そして政治家に何らかの手段で訴えて来た
↓
政府による妨害工作
これって、前作****と比較すると、わざとやっているのかと思うほどなんですよね〜。
ちょっと比較しますと。
競合メーカーが邪魔になって来た前作****教団
↓
何らかの策が必要となった(※ドラマでは競合メーカーの責任にしていましたが、そんな話じゃない、あれは脚色)
↓
政治家を接待する(※ドラマではごまかしていましたが、そんな綺麗な話じゃない)
↓
政治家介入によって、業界内で****教団がトップになる組織を作り、めでたしめでたし♪
この辺の流れを把握されたい方は、高杉良氏『燃ゆるとき』をおススメしますね。
Kindle版なら即読めますよ。
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『三国志』で言いますと、曹操が献帝を掲げて一歩リードするような構図。
閑話休題。
さて、国の策がえげつないんだわ。
農家宛に「集団酪農地域指定」をチラつかせる。受け入れれば支援金をもらえる
↓
受け入れた農家では、工場を作ることはできない
↓
回答期限は明後日、つまりは日曜日。実質的には時間がもうほとんどない!
えげつない。
それに、伝統的なやり口なんです。
例えば『いだてん』三島弥彦の父・三島通庸。
彼は会津の自由民権運動を取り締まる際に「会津帝政党」という政党を結成させ、支援金をチラつかせたのです。
会津戦争で痛めつけられていて、食べることもままならない。
そんな士族を金で釣り、弾圧させる政党を作った。
困窮した相手を金で釣り上げ、自分たちで決めたことにする。そういう汚い手段なんですわ。
それを朝ドラ主人公側がやるんじゃないよ! と、前作****では散々突っ込んでいたのです。まぁ、あれはあれで史実準拠ですけどね。
こうした卑怯なやり口に対し、十勝の人々はどう出るか?
十勝農業王国建設戦、軍議開始!
この一大事を、じっと柴田家で聞く坂場。
これまた腕組みをして「むむむ」と言い出しそうな雰囲気ですわ。
「世の中の仕組みを変えることですからね……」
坂場なりの、論点整理をしているようです。なんだかんだでやはり知略は高いのですね。
ここで、策が出されます。
明日午前中に届け出を出すこと。当時は週休二日制導入前、半ドンの時代です。土曜日は午後から休みでした。
劇中は金曜日です。
こんな図式ですな。
【十勝農業王国建設戦】
農協
vs
政府・乳製品メーカー連合軍
農協勝利条件:土曜日午前中に、諸将をまとめあげ、決議書を提出すること
君主:田辺
軍師:夕見子
専務将軍:剛男
酪農大将軍:泰樹(配下に戸村親子他多数)
在野武将:なつ? 坂場?
なんでコーエーテクモさんのゲームめいているのか。
そこはまぁ、整理したかったんで。
かくなる上は、明日の午前に決起集会を開かねばならん!
「わしらにできることはあるか? 明日の朝、できるだけ集める!」
酪農大将軍・泰樹が、出陣の支度を整えておりまする。
これは頼りになるぞ!
※よっしゃー!
そして、ワクワクした顔の坂場も、なつと共に参戦すると言い出すのです。
一応、動機として、なつが好きな酪農が知りたいからと付け加える坂場。あの……今、考えてない?
「勝手にすればいいべ」
泰樹はそっけないものでありますが、もしもこんな人だったら? そうはいきません。
・無職の孫の婿なんて、世間様に恥ずかしくて顔向けできないんだわ……
・生意気なことを言いおって、目上であるわしの決めることに口を出すな!
・部外者は黙ってろ!
泰樹は泰樹で【表裏比興】の柔軟性を全開であります。
そういうことで、みんな農協へと向かうことになります。
と、その前に。
坂場は菊介に謝っております。
酪農のことを知らないくせに、上から目線で偉そうなことを言ったと丁寧に頭を下げるのです。うん、やっぱり素直だね。
むしろ、菊介側が一瞬なんなのかわからず戸惑っていたようです。
「皆さんのことをずっと応援しています!」
そう言いきる坂場。
彼なりに何かの策があるのかもしれません。
ここで父ナレーションがこう言います。
なつよ、この人は、こういうことが本当に好きなんだなーー。
こういうことって?
さぁ、その答えは明日にあるぞ!
火曜日は毎週波乱があるのですが、ぶっちぎって乱世出陣感がありますね。
しかも、坂場がこのノリが大好きということは、これからもバリバリにあるのでしょう。
どういう朝ドラなんだよ!
すごい配役だ……
田辺組合長が何かありそうだと思っていたら、十勝酪農王国の君主になっていて、驚きました。
この制作チーム、絶対コーエーテクモさんのシミュレーションゲームが好きでしょ。
まぁ、私だけかもしれませんけど。
びっくりしたのが、この田辺なんです。
演じる宇梶剛士さんのルーツをふまえると、彼が十勝王国を支配するって、ものすごい意味があると思えてくるんですね。
◆宇梶剛士、ルーツのアイヌに触れる 舞台「永遠ノ矢-」公開稽古
すごいことになったな……こういう仕掛けがあったんだな!
もう一人、すごい配役はおなじみの草刈正雄さんです。
『真田丸』あっての彼であることは言うまでもない。
それは出た瞬間に謀反を始めた栗原英雄さんもそうですが。
『真田丸』の真田昌幸は、生き方そのものが不謹慎ジョークのようだし、反抗的だし、ともかく「これだ!」と決めたことのためにはとことん策を練りました。
参考 真田昌幸65年の生涯をスッキリ解説武将ジャパン本当に、泰樹の前世なんですよね。
しみじみと、彼あっての役なんだなぁ、と。
これを書くのは気がひけるので、今までそれとなく遠回しに書いていたんですが。
草刈さんは、もう一人の総大将であるとよの高畠淳子さんとは違って、長いセリフをハキハキと読むタイプではない。
それよりも、黙った状態からボソリと面白いことを言う――そういうタイプが似合うと『真田丸』で証明されたわけでして。
子供のような無邪気さ。
いきなり物騒なことをしれっと言う。
ろくでもないことを時折やらかす。
めんどくさそうに短い言葉で済ませようとする。
ぼけーっとしているようで、頭の中がぐるぐる回っている。
そういう【表裏比興】枠の個性を、完璧に、日本一うまく演じるとしたら、彼だとしみじみ思うのです。
どの役にもそういう適材適所感があって、考え抜かれていて、本作は見ているだけで頭がスッキリする。
得難い傑作だと、自信を持って言い切れます。
毎朝楽しい!!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
田辺組合長らの工場設立構想の波乱。
モデルと思われる よつ葉乳業の公式サイトの「沿革」では、事実が淡々と述べられている感じ。
この経緯を他のサイト等で見ても、「酪農家による生産工場設立を認める方針を農水省が示したことにより…」といったことが記されているくらい。
しかし、そこに至るまでには、利害が相反することとなる乳業メーカーとの間で相当な確執があったであろうことが想像されます。
本作は、もちろんドラマ作品としての脚色が行われたもので、実際のいきさつとは異なるところも恐らくあるでしょうが、それでも引き込まれて見てしまいました。
酪農家の取引地位強化のための力の結集としての工場設立。
その延長上に、生産者の生乳出荷取引安定のための制度の設定があります。