もくじ
漏れそうな思いはアニメへと向かう
「早く新しいアニメを作りたい……」
家へ帰る道で、坂場はしみじみとそう言います。
仕事のことじゃないんだな。
なつは、心の中から語りかけます。
「天国のお父さん、お母さん、元気ですか?」
「元気で、ここにいます。はい、わかってます。お母さんもここにいます」
「未来のことはまだわからないけど、私はしあわせです」
そう語り合う、親子なのでした。
結婚より考古学が気になる義父・一直
さて、なつと坂場は結婚報告を、坂場の両親にするわけですが。
父:一直(関根勤さん)
母:サト(第14作『鳩子の海』ヒロイン、藤田三保子さん)
坂場の父・一直は、結婚生活云々よりも考古学語りを一方的にしています。
母のサトも、嫁ジャッジは一切なし。
夫のことをあたたかく見守り、フォローをしている感が半端ないのです。
歴史の話に夢中で、なつが、すき焼きのことを気遣っても気づいてすらいない。
そして、一久は清々しいまでに父の話を聞いていない!
興味すらない、顔と仕草に完全に出ている。そこを隠そうとしないし、照れもない。
親であり、同じ枠の二人だからマシなのです。
教師や上司にやらかしたら……どうなるかという話でしょう。
坂場の父は、寛大どころか、もっと別の何かを見てしまった気がする。
戦災孤児?
→どうでもいいことです。
柴田家に先に挨拶?
→それよりも私は考古学が大事でしてね!
そんな雰囲気が漂っておりますよね。
息子がどちらに似たのかはっきりしていますし、なつの未来も垣間見えた気がします。
ついでに言うと、泰樹の亡妻も。
ただ面白いだけじゃない、かなり重要な場面です。
本作には、ただ面白いなんだか奇妙だと思える場面がありますが、作劇上の意味を感じるのです。
教えあい、導きあい、助けあってきたんだね
そして、今週のクライマックスが訪れます。
泰樹が乳を搾るところに、なつがやってきたのです、白無垢姿で。
「そったら格好でここまで来たら、汚れるべ」
綺麗だと褒めない、順番がおかしい。それも彼は彼だから。
なつは、ゆみも待っていると急かすわけですが。
「慌てることはねえ、式にはまだ間に合うべ」
彼には彼独自のやり方があるのです。
「じいちゃん、長い間、お世話になりました……」
なつが感極まった顔で、涙を目に滲ませます。
「ありがとうな……」
泰樹も感極まった顔で、やはり目が光っています。
育ててくれたのだから、それは違うとなつが否定すると、こう来ました。
「わしも、お前が育ててくれた、たくさん……たくさん、夢もろた……」
「じいちゃん、ありがとう……」
「おめでとう、なつ」
「じいちゃん、本当にどうもありがとうございました!」
天陽の「お互い様」にせよ、どちらかが偉いとかではない、平等の思想を感じるのです。
これを繰り返しているということは、本作のテーマなのでしょう。
上下がないメビウスの輪だからこそ、無限につながるものがある。
そんな心を感じます。
もしも、泰樹の策通り、なつが照男と結婚していたら?
この日は訪れなかったのだから。

たんぽぽと幸せが咲く
そしていよいよ、姉妹の結婚式へ。
昭和42年(1967年)春、たんぽぽが咲く季節。
北海道のなまら賑やかな結婚式です。
なつは白無垢、夕見子は黒引。
この黒引は、当時でもちょっと古いトレンド。母譲りかもしれません。
衣装ひとつで、その境遇もわかります。
なつの場合は、母の衣装は空襲で残っていないのでしょう。
客は、今まで見た懐かしい顔がズラリ。
ちなみに北海道の披露宴は会費制です。
ウェディングケーキにも、たんぽぽがあしらわれています。
なつをスキー大会で争った照男と天陽が、しみじみとしています。
「なっちゃん綺麗だな……」
気持ち悪い執着心がないところもよいですよね。

信哉は、妻・道子(第79作『だんだん』ヒロイン、三倉茉奈さん)と出席しておりました。
彼女が気にしているのは、参列者家族のこと。
なつの美貌に嫉妬するようなことはありません。本作は、そういう描写を避けています。
倉田先生と番長もおりまして。
番長がオイオイと号泣し、「なんでお前が泣くんだ」と先生に突っ込まれているのでした。
咲太郎と光子も来ています。
ん?
亜矢美ではないのか。引っかかるな。
ここに千遥が来てくれたら……と、なつは思うのでした。
ものすごく感動的ですが、主役である坂場がおかしい。
ひたすら食べる、食べる、食べる。これも坂場の個性なんだな。
そして、写真撮影!
場所をめぐって総大将同士(泰樹vsとよ)がプロレスをしていることは、さておき。こういう演出が細かいなぁ!
細かいといえば、真剣な顔で坂場がネクタイをなつに確認してもらっているところ。
「天国のお父さん、お母さん、見守ってください」
なつは今日、結婚しました。
私も映りたかったけど、やめておいた。
ああ、なつよ、未来永劫幸せになれよ――。
テーマソングが流れる中、結婚式が締めくくられます。
軍師に食事の支度をやらせようチャレンジ!
ただのレビューでもよいのですが、せっかくだから軍師・夕見子に家事をやらせようチャレンジを考えてみました。
「結婚したら料理ぐらいはやるでしょ〜」
とは一般的に言われることですが、あの軍師がそんなに素直とも思えません。
ガン無視する予感があります。
そんな時、彼女をスムーズに動かすにはいかがすべきか?
対策を考えてみました。
1. 実験思考誘導
「ほれ、この材料で、この組み合わせで作ると、どんな味になるかわかりますかな〜」
「ほう?」
→好奇心で誘導して、実験感覚で作らせてみよう!
2. 【三顧の礼】方式
「新レシピを考えられるのは、学識豊かな夕見子殿をおいて他はおりませんからのう……いかががかな?」
「左様。北海道の食の歴史をふまえ、かつ、ヨーロッパ視察経験も生かすとなるとやはり!」
「フッ、お任せあれ」
→女だから、妻だから、嫁だから。そうではなくて、あなたしかできないと乗せることです。
【三顧の礼】ですな。
3. 挑発
「豚を生で食べてはならん、これしきのこともわからぬのか、ふははははは!」
「うぬぬぬぬ……! それくらい生物(※家庭科じゃない)で習ったわ!」
→無知と言われると、何がなんでも食生活関連知識を仕入れる。
食中毒は発生させない。キノコ狩りでも山菜採りでも便利だぞ!
4. 兵糧管理は任せたぞ方式
「雪次郎め、暴飲暴食するなと言ったはずだ!」
「ヒィ!」
「全部、記録に取ってこい……それで体調を崩すとなると、我が知略に疑念を抱かせんからな……」
→食事をただの生理的欲求ではなく、戦術だと思い込ませましょう。
ただし、その結果が厳しいことになるかも。世間から見ると気遣う愛妻なので、ある意味余計にタチが悪い。
これが今なら、GPS付きスマホで外食場所まで絞り込まれるぞ!
まぁ、「尻に敷かれる」と言われがちな話ですが、そこは発想次第です。
「あの軍師を制御できる、我こそが名君……」
という、劉備の気持ちで。
一方、言ってはならない禁句はこんな感じですね。
【軍師への禁句】
「料理は愛情❤︎」
「料理は女が作った方がうまい」
→科学的根拠がない。裏付けがない。
原稿用紙50枚ぶんくらいの反論を提出しかねないので、禁止。
「料理しない女は、世間から笑われるぞ!」
→私を認めない世間が悪いと開き直った上で(以下略)
「適当にちゃちゃっと作って」
→適当の定義が把握できない。混乱する。
「今晩はザンギ(※北海道の唐揚げ)にしてって言ったけど、昼に食べちゃった。別のさっぱりしたものにして」
→聞いた瞬間から策を練って、下ごしらえまで完璧にこなすことに喜びを見出している。それがダメになったら激怒しかねない。
「おにぎりを手で握ってこそいい女❤︎」
→そんなことを言おうものならば、食中毒事例を微生物写真付きで出してきて高笑いしかねないので、絶対にやるなよ、いいな、やるなよ!
それが身を守るすべだ……。
士気さえ高まれば、おいしいものは作れると思うんですよね。
多分、きっと、たぶん。
まぁ、こうなりそうではある。

「二人とも料理を作って、おいしいほうが作るのがいいでしょう!」
と、妻の提案。
NHK東京のテーマは、生と多様性の魅力では?
今回、坂場と天陽の会話で思い出したのが、秋風羽織のトークショーでした。
思えば、圧倒的な塩対応でしたね。

「ええと、一言で言うと漫画とは何でしょうか?」
「……言いたくない。一言で言えるようなものに人生を賭けているわけではない!」
うっわ、うっわ~、めんどくせえええええ!
「きみとは会話が成立しない! だが作品は裏切らない、作品で会いましょう! それが私の、真実の言葉です」
と、一方的にトークショーを打ち切る羽織でした。
これも、司会者が坂場ならば、逆にうまくいったのかもしれない。
秋風先生は漫画に対する情熱も哲学もあるのですが、過去に理解者がいなくて、ガチギレしてしまい、こじらせたのでしょう。
司会者が丸めるとか、編集者がまとめるとか。
本作と『半分、青い。』(そして『真田丸』)には、ある明確な共通点があると確信できました。
その確信した材料をザッとあげておきました。
これをもし、その策を考えた方が読んでいればわかるのでしょうが、そうできなければいいのです。
明瞭にしたらそれはそれで、面倒なことになる。
だから、隠している。
わかる人だけがわかる問いかけが、そこにはあるような気がしてます。
****と比較すると、それもよくわかると思います。
『半分、青い。』
『アイデア』の歌詞には……涙がこぼれた音は、花が開く音とある。マイナスをプラスにとらえる。
秋風:トークショー問答、五平餅はじめブランドを指定するほど強い味覚への執着、地域によって和服になる謎のルール
律:マーブルマシン(ビー玉を転がすことが好き)、ロボット工学を専攻する、夏虫駅で鈴愛を完全に誤解している、より子と意思の疎通ができなかった
鈴愛:画才、飲食販売という職業選択、その他細かい言動
菱本:ピンクハウスに執着する、不倫男につけこまれた、愛想笑いをしない
『なつぞら』
『やさしいあの子』の歌詞には……氷を散らすような冷たい風でも、味方にできるとある。これもマイナスをプラスにとらえている。
坂場:不器用、ものをこぼす、結婚式でもひたすら食べる、興味のない話にはとことん無頓着、ぶしつけな質問を唐突にする、締め切りと予算管理が苦手、話がいきなり大仰になる、なかなかネクタイをうまくしめられない、人の前で読書を続ける
夕見子:牛乳嫌い(嗅覚か味覚か? ちなみにあんバタサンドはバター臭さを餡子で抑制している)、家事を無視する、女らしさに無頓着、挨拶の前に話すような唐突さがある、愛想笑いをしない、怒りっぽい
神地:茜へのアプローチがやたらと積極的だった、言動がきつい
泰樹:言動が極端(【抹殺パンチ】)、賢いのに時々抜けている、猜疑心で農協を信頼できなかった、甘いものに執着がある
おまけ『真田丸』(※史実ではなく作劇上の特徴)
真田昌幸:胡桃カチカチ
ただの個性か?
それとも意図してのものなのか?
今回、結婚式を見て確信できました。
※冠婚葬祭や学校行事は彼らのやらかしがちな場……
公式サイトには、登場人物の短所も書いてあります。
坂場の頑固さとトラブルを起こすこと。
夕見子が家事をせず、明美ともめていること。
そこはわかったうえで、明言しているのだと。
インタビューを読んでいて、役者さんやスタッフがどこまで把握しているかも、ちょっとわからないところがある。
ただ、脚本家さんは把握済みでしょうね。
大森氏の方が濃厚に出しておりますが。
明確に理解している人はいる。
そこを確信しました。
『SHERLOCK』放映時の日本語訳をする際にも、その方がいればもっとよかったかもなぁ。
私からは以上です。
このことが公式に発表されないうちは、尋ねられても答えることはありません。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
京アニの事件以来、しばらくなつぞらを観ることができなかったのですが、最近録画を観るようになって、やっとリアルタイムに追いつきました。本当に最高の回で追いついたなと思ってます。
またこちらのレビューを楽しみにしております。
なっちゃん綺麗だな、としみじみ語り合ったのは、山田兄弟でした。陽平くんと天陽くんですね。
天陽に「なっちゃんきれいだな」と言ったのは照男ではなく陽平ですよ~
田辺組合長の語った今後の構想。バターその他の乳製品の生産の他、将来は道外への飲用乳出荷も視野に入っていました。
加工原料乳より飲用乳の方が価格も高く、それだけ酪農家の収入も大きくなります。ただ、道外へは距離も遠く、輸送時間がどうしてもネックに。
青函トンネルが開通して本州との貨物列車の直通運行が始まったり、高速RORO船を就航させたりしてこれを解決した平成初期に、本州への飲用乳出荷が本格的に行われるようになり、首都圏や関西でも北海道産の飲用乳が販売されるに至ります。
十勝や道東地方の酪農家の経営に、この本州への飲用乳販売は大きく寄与しています。
今、青函トンネルについては、新幹線の高速走行に邪魔だと言って貨物列車の運行の廃止を主張する向きが一部に存在しますが、それがいかに愚かであるかはこのことからも明らかです。