北海道開拓者の人生を描く――そんな新作が始動します。
迷っていたなつが、天陽の描いた絵でめざめる。
開拓者魂が動き出す。
そのなつを、イッキュウさんと優。そして仲間達が応援するのです。
決意は開拓者魂とともに
イッキュウさんは、北海道で日本の開拓者魂に目覚めていました。
開拓者は、西部劇の中だけじゃない。北の大地にもいた――。
それを描けるのは、開拓者魂を目にしてきた、奥原なつだけだ。
そう信念を持っていて、企画もマコに必ず通すと言い切ります。
なつが作画監督ならばやると返すのです。
下山も、神っちも、作画監督・奥原なつを待ちわびている!
「私が作画監督でいいの?」
イッキュウさんは、自分が演出してなつがやってこそだと誓います。
そして、天陽の魂を引き継いだと認めるのです。
「やってみたい! やりたい!」
「この絵を、きみが受け継いだんだ……」
こうして、なつは決意したんです――。
父がそう言い切ります。
カッコいい。
本作は謙遜しない。
そこが、とてつもなく、カッコいい!
『半分、青い。』の【スパロウリズム】には、しびれました。
ヒロインとヒーローが並列で並び、同じ場所で世界を見ている。ここまで来たんだな、って。
本作も同じ場所に二人が立ちます。
彼女はもらい泣くわけじゃない。
もらい笑いするわけでもない。
つきあうんじゃない。
自分の足で、並んで、歩いて行くのです。
だからこそ、優しいあの子がすごいんだ。
あなたが師匠でよかった
なつは、東洋動画へ。
マコ曰く「泣くわよ……」という職場へ、重い足取りです。
話がある、と仲を呼び出すのですが、やっぱり本人を前にしては躊躇がある。ドヤ顔退職のイッキュウさんと神っちとは違いますわな。
「実は……やめたいんです」
仲は衝撃を受けつつも、アニメーターそのものを断念するのか? と案じています。
仕事は続ける。
なつはきっぱりとそう言います。
「他でやりたいということか。そうか、君もか……」
やはり【魔王】マコがいろいろやらかしているようです。
申し訳ないと謝るなつ。
まぁ、神っちならば「今さら謝られても知らん! 是非もなし」とドヤ顔してそうではある。
「どうして謝るの?」
「仲さんのおかげで、続けることができました。それを裏切ってしまう……」
「なっちゃんは、それを裏切りだと思っているの? だったら、その選択は、裏切りじゃない」
なつは本音を打ち明けます。
マコさんのところへ行く。どうしても、やりたい企画がある。
「それでいい。アニメーターは、一つの会社でなく、一つの作品にこだわるべきだ」
「私、仲さんの弟子でよかった」
「これからも、そのつもり? であるなら、話が違う。それは裏切りだよ」
げーっ!
驚いていると、冗談だと取り直されます。
なつは仲さんには冗談が似合わないと笑います。そういう雰囲気を出していかないと笑えないのか、と仲はにっこり。
「今まで生きてきて、気づかないから、今度から、そうしてみよう」
「ふふっ……」
師弟は笑い合います。
あぁ、なんて美しい絆なんだろう。
さて、そんな仲さんはダントツ、本作屈指の人格者ですが。
この仲さんを誤解した挙句、噴水に突き飛ばした野郎とか。
自分を除け者にしているんだと被害妄想に突っ込んでいった野郎、いましたよね。
しかも主人公周辺で。
咲太郎とイッキュウさんだよ!
人間的な欠陥からも逃げない――だからこそ本作はクールなんだ。
彼女の代わりはいるのだろうか?
仲はいいんです。
山川社長と佐藤部長が顔面蒼白になりそうなほどでして。
「どうか、お許しください!」
なつの懇願に、アワアワしております。
特に佐藤が痛々しい。
出番はそこまで多くはありませんが、心の底から漫画やアニメを愛している。そういう気のいいおっちゃんではありませんか。
これが橋本じゅんさんというところが、いいんだな。
『おんな城主 直虎』では、あの小野政次を死に追いやった。もみあげをむしりたい!
そう憎まれそうで、結果的にそうならなかったのは、彼の陽気な持ち味のおかげでしょう。脚本や演出も冴えておりましたが。
いやあ、ほんとうに、佐藤を見ているのが辛かった。いいおっさんなんですよね。
困る、困る、大事な戦力離脱が困る!
『魔界の番長』は最後までやるとなつは宣言します。メインの作画監督をつとめると。
後任者はどうするのかと慌てる佐藤に、堀内が立候補します。
代わりにはなれないかもしれないけど、埋めるって。堀内も、いい奴だな。
堀内ならできるとなつも太鼓判を押して、なんとかおさまるのですが。
【できる人からやめる!】と佐藤は泣きそうではあります。
なつは感謝しますが、堀内はこれぞチャンスだと思ったと喜んでおります。
ここまで来たんだね。
でも、ずれているんです。育児ゆえの退職で、マコプロに行くとは想像できていない。
マコプロで、妥協のないアニメを作り上げるためとは、気づかなかったのです。
これが、落とし穴かもしれない。
このあたりも、うまいっちゃそうですよね。
なつのことをなんのかんのと叩く投稿は想像できますが。
あいつらを忘れちゃいませんか?
夕見子、そして神っちだッ!
【情緒ケア】を踏みつけて生き抜くあいつらが、どこまで残虐非道なスタイリッシュ退職届提出をやらかしたのか……。
想像するだけで、私はもう、もうっ!
そこを描かない本作は親切なのよ。
※正しい道に歩むと宣言するついでに、無駄無駄無駄無駄ラッシュする系……
※続きは次ページへ
いたいけな少女が健気に逆境に耐える。うら若い女性が雨の中で土下座する・・こうした光景が未だに一部の朝ドラファンにとっての大好物であることは否定できないでしょう。
で、こうした人たちに限って、ヒロインが自分の人生を歩み始めたり、少しばかり成功をおさめたりすると、途端に非難を始める。やれ「少女編が良かった」だの「素朴な田舎娘のままがよかった」だの・・・「なつぞら」も「半分、青い」も「ひよっこ」も同じ。いや、「おしん」の頃から変わってません。
まあ、ドラマの楽しみ方は人それぞれとは思いますが、無力な少女や若い女性が虐げられる姿を娯楽として消費するのは、非常に不健全なことだと思います。
なつが素晴らしいのは、とにかく生きる力に溢れていること。困難にも周囲の善意にも、卑屈になることなく背筋を伸ばして堂々としていることです。体幹が非常にしっかりしている広瀬すずさんの佇まいとも相まって、これからの朝ドラの、新しいヒロイン像をしっかり表現していると、私は思います。
なつの「仲さんの弟子で良かった」に応えて、仲さんが口にした「なら、裏切りだよ」の言葉。
あとで冗談だとごまかしていましたが、あのときの仲さんの顔は真顔でした。自分の許をなつが去っていく寂しさは、掛け値なしの本気だったのでしょう。
なつが自分の作り上げたい作品に出会い、信頼できる仲間も見出だしたこと。これまでの東洋動画での悩みなども仲さんは知っているからこそ、「一つの会社ではなく、一つの作品にこだわるべきだ」と、背中を押したのでしょうが、それはそれとして応援しつつ、やはり去られるのは…と複雑な気持ちもあったでしょう。
こういう描写は、『なつぞら』では変わらず秀逸。最後のひと月も走り抜けてほしいです。
要はミソジニーとウィークネスフォビアですね。
こういう人々は、理論武装なんかやめて堂々と本心をさらけ出した方がまだ潔いですよ。
「男に文句を言うと怖いし仕返しされるから、絶対に勝てる女を叩くしかないんだよ!!」みたいに。
それならこっちもキッパリとサヨナラできるし、「ならこういう輩を生んでしまう構造を変えよう。」と思考チェンジができるから。