女将の手つきが、あまりに母に似ていたから。記憶が蘇ったのかもしれないーー。
そう天丼の味に感激して「杉の子」を去る五人の客。
なつは、カウンターにそっと封筒を置きます。
「いろいろあったようで、変な人たちでしたね」
板前の上田がそう感想を漏らす中、千遥はそっと割烹着の中に封筒をしまい込むのでした。
店の外では、咲太郎がなつと信哉の肩を抱きます。
かつての戦災孤児たちが、こうして揃いました。
「いこうか」
「うん!」
そう語り合います。
そういえば、信哉にはきょうだいはいない。
それでも、彼には奥原三きょうだいがいるのですね。

やっと戻れたんだ
千遥は、封筒の中を見ます。
それは、父が三人の子供たちに残した手紙でした。

この手紙を受け取ったときは、この世にいない。
だけど、いつも一緒にいる。
やっとお前たちのそばに戻れて、一緒にいる。
やっと父さんは、お前たちのそばに戻れたんだ。
今、一緒にいるんだ。
千遥の目に、涙がにじみます。
絵の中には、父とはしゃぐ咲太郎、微笑むなつ、そして母の腕の中にいる千遥。
彼女は、家族をどこまで覚えているのか。
わからないけれど、やっとここで記憶がつながりました。
絵と、動く絵、そして味――奥原家は、やっと一つに戻ったのです。
乳搾り、やってみたいな
翌日、『大草原の少女ソラ』が放送されます。
今日も、いくつもの家族がテレビにじっと見入っています。ソラが妹を背負うセル画も飾られていますね。
レイの乳搾り。
なかなかうまくできないレイに、お父さんはこう教えます。
「指で数を数えるようにするんだ」

「あっ、でた、できた!」
その場面を、泰樹がじっと見ています。
かつてなつにそう教えた自分と、アニメのお父さんを重ねているのか。
それとも、かつてそう教えられた、自分とレイを重ねているのか。
アニメではキクというおじさんが、レイを褒めています。菊介がモデルかな。
俺のところで働くかって。
ソラは「レイは私たちと一緒に牧場を作るんだから!」ときっぱり断るのでした。
千遥だって、自分の乳搾りを思い出してしまう。

千遥の娘である千夏は、無邪気にこう言います。
「乳搾り、やってみたいな」
坂場家では、エンドロールが流れる中、優が感想を聞かれています。
「優ちゃんも乳搾り、してみたい!」
「今度、北海道に帰ったら、教えてあげる」
なつに約束される、そんな優でした。
イッキュウさんは、千遥のことを北海道に話したのか? と確認してきます。なつは、会ったことだけは話したそうです。明美もそうしたとか。
「どうして料理人になったかわからないけど、立派に誇りを持っている。それだけで、安心できた」
なつはそう語ります。
アニメーターとしての自分と、重ねているのでしょう。
その
【どうして料理人になったのか】
なんですよね。
風車の亜矢美と比較するのは何ですが、どうしたって女性の飲食店経営者は、そういう目線で見られると。
アニメーターとはどうしても違う。
誇りある仕事といっても、本人は同じでも、周囲の目が問題なのです。
そこにどう迫っていくか。
子供にしたって、育ってきた環境が違うとわかるような気がするのです。
千夏はハキハキとして、とてもいい子。
厳しいしつけと、人の顔色を伺う事を身につけてしまっている感が、少しでてきている。
優は無邪気で、とことんノビノビと育っている感がある。
突拍子のないことを言って、大人が困ることもある。

いとこ同士ではあるものの、こんなに小さいものの、人間の基礎って、やっぱりできてきているものです。
やはり、こうなると、千夏をおとなびさせてしまう――そんな千遥の結婚生活が気になってしまうわけで。
卵をおいしく描くには?
そんな中でも、なつは仕事に夢中です。
外注から戻ってきた動画を、イッキュウさんと手分けして、チェック、チェック!
この二人は、会社ですと完全に仕事仲間です。
イッキュウさんは、
【お母さんが焼く卵がおいしそうに見えない】
と、なつにダメ出ししています。
これを見守るマコは、ハラハラ。
外注のそんな小さな場面で、凝りに凝ってどうする! そういう焦りが生々しい。
「多少の妥協は必要よ……」
「この卵は、ソラとレイにとって、初めての卵料理なんです!」
だからこそ、そこが大事。高揚感や感激までアニメに描かないと、いけないのだ。そうきっぱりとなつは言い切ります。
「卵は難しいわよ!」
困惑するマコです。
でた。倉田先生以来の【指示が大雑把なんだよ!】問題の究極系かもしれない。
「卵をおいしそうにする。大事だと絵で絵が描かないと!」
そんな数秒間のシーンを、どうしろと。
うひぃ、これは辛い! マコさん、胃薬持ってきましょうか……。
しかし、そこは凝りまくる。
神っちもノリノリで、なんとオフィスで目玉焼きを作り始めます。
しかも目玉焼きになるなんて一瞬。
「もう一回!」
「オッケー、いくよ!」
なつは見入って描いています。
神っちは、白身のトゥルントゥルンとした感じはでていると評価します。
このオノマトペといい、脚本やこのシーンを撮影するチームそのものが、卵まみれになっていても驚きませんよ。
でも、なつは納得できない。色の変化が大事だと思うから。線画だけではできない。
「色、色も同時に考えないと! 目玉焼きにする瞬間……」
ここで、色彩の魔術師・モモッチが色見本とともに呼ばれてきます。
そこを通りかかった下山と茜は、いい匂いだと言い、嗅いでいるわけです。
「もうすぐお昼だもんね」
「お腹すくね」
二人の顔を見ていたなつは気づきます。
「においを吸う、動作を加える!」
嗅覚で、おいしさを感じられるようにするのだ。
なつはそこに気づきました。
本作は五感を大事にしていると思います。
映像は、視覚と聴覚だけのもの。他はどうするのか?
触覚:指を折る搾乳
嗅覚:目玉焼きのにおいを嗅ぐ
味覚:目玉焼きがおいしそうに見えること
ふたつの感覚で、他の三つをカバーすること。これこそが、映像の作り手だと言わんばかりの本作です。
これは先日も指摘しました通り、天丼の描写でもいきてきています。

雪次郎のケーキもそうでしたね。

本作には、常においしい味があります。
雪次郎から夕見子へのプロポーズを泰樹が承諾するときにも、象徴的に使われていた気がします。
「うまいな、これ」
「問題ないみたい……」

五感を縦横無尽に使う人たちが、この世界にはいるのです。
そんなマコプロは。
「みんな、目玉焼き食べて!」
はい、このあとスタッフが美味しくいただきました。
ふと、どうでもいいことを思い出したんですが。
毒物って、味覚だけの問題ではないものでして。しびれるような感覚も伴うこともあるんですよね。場合によっては、悪臭や痛みも。
ですので、それに気づかないでそのまんま食品製造にする方は、その時点で適性に疑念を抱かれた方がよろしいかと思います。
そのまま、ドラマにしてしまう方も、見ていて疑問に思わない方も。ご注意ください。
◆無敵の毒ガエル「オオヒキガエル」を食べたらえらい目にあった
あの味を食べたくなる
それから三週間後。
マコが段ボールを抱えて、マコプロにやって来ました。
ファンレターの山でした。
あの卵のシーンが大反響だったとか!
大人も、もちろん子供も、卵焼きを食べたいと言い出して、大変だったと言います。
そのころ杉の子では、千遥がだし巻き卵を焼いています。
千夏がその姿を見ながら、アニメのようにくんくんとにおいを嗅ぐのです。
※続きは次ページへ
千遥は今日初めて父の手紙を見たのですね。なつと咲太郎がずっと心の支えにしてきた父の手紙を、千遥だけは見ることが出来ずに来た、そのことが千遥の今までの孤独をより感じさせられました。でもよかった、自分を大切に思ってくれる家族がいた事を思い出すことが出来たようだから。
このドラマは、柴田家の暖かさをたっぷりと描きながら、奥原家が失われた絆を取り戻す様子を、長いスパンで緻密に描いているんですね。つくづく、よく練られたストーリーだと思います。
大泉さんの登場にネットが沸いてますね。鈴愛は出ないのでしょうか。このなつぞらへ多大な影響を与えたであろう、あの名作のヒロイン永野芽郁さん、お待ちしてます。今録画をみても、ドキドキわくわくさせてくれる、あの東京班の意欲作はとにかく素晴らしかった。
目玉焼きで、確信してしまいました。
私だけかもしれないですけど、
パズーとシータモデルもいますね?
衣装も。
武者様の。朝ドラへの、物の見方、切り口、時代感と今後の展望等々、いつも興味深く拝見してます!勉強になります!
なつぞらは、凄い。物語として、幾重にも層がある。皆が、物語の中で生きている。
妊婦のリアルな造作、一つとっても。夫イッキュウさんの、家庭と子育てへの関わり方、一つとっても。
主張の柱があって、深く練られ、丁寧に調べているのが分かる。物語として、秀逸。面白い。
所謂、批判したいが為のネットニュース記事、変なエロで物語とは全く関係ない話題で煽る記事、記者の名前を見るようになりました…。
良妻賢母出ないヒロインならば、『ととねえちゃん」は、テーマ的には悪くなかったということですね。もう少し、全体的に、丁寧に作ることができればよかったのに。