信作、女難の相出とるで
照子ちゃんは、それで周囲の人に【いけんこと】のあれやこれやを聞いてしまったんでしょう。
大人からはごまかされたとは思いますけどね。やらし〜わ〜。
ここで、信作登場です。喜美子が見つけます。
「あ、ようきたな。熱あるんちゃうの」
「もっと向こうやし、こっち来て〜!」
浮かれた照子は先に走ってゆきますが。信作の顔は暗いね。
「来いひんかったら、もっと熱出そうやったから……」
「ほなごゆっくり〜」
明るいのは照子だけです。
「ほんまいうて、もうつらいねん。考えるとしんどい。もうやめてって言うて欲しい……」
おう、信作。
この歳で女難の相がでとる。これは辛い。
「自分で言い、自分で!」
喜美子はそう突き放すようで、できないのです。
墓地まで向かうと、照子に帰ったと告げます。
「帰った? なんで? ここまで来といて」
「いけないことしたないんちゃう、てるちゃんとは」
いけないことのせいで、笑えるからつらいんですけど。
「うすうすわかってたわ。窯元の娘と雑貨屋の息子じゃ身分が違いすぎる……」
これはもうあかんやつや。
身分差ゆえに引き裂かれる悲恋のヒロインになりきっとる。伊賀忍者棟梁の娘と、甲賀忍者棟梁の若君が、恋に落ちる系のやつや。
※『甲賀忍法帖』は昭和34年の作品です
「今日、お兄ちゃんの誕生日やねん。挨拶してったや」
ここで、照子の置かれた状況がわかってきます。
唐突なセリフや展開でもないのです。戸惑う喜美子に、照子は説明します。
「うちのお兄ちゃんが眠ってる。お骨はないけどな。がくとなんとかで戦争行って、帰ってきいひんかった。歳の離れたうちのこと、信作のこともよう可愛がってくれた。去年までここで、おめでとう言ってくれたのに」
墓の前で手を合わせて祈る照子。そして喜美子です。
窯元の息子として、大正の終わりころ、冬に生まれたある青年。
学徒出陣で戦死し、遺骨も戻らなかったのです。
戦死する場面はない。けれども、信楽の里で生まれ、妹や近所の子供をかわいがっていた青年がもういない。そう考えると、切ないものがあります。
死そのものでなくて、生きていた頃を、生き延びた人を通して描くこと。そういう戦争の描き方もあります。
『なつぞら』の主人公両親がそうでしたね。
で、そういう後継の兄が亡くなってしまったことで、照子が婿取りをしなければいけなくなったと。幼いなりに、そういうことを感じてはいるんでしょう。
信楽から離れられない。
親や周囲の言う通りに結婚しなければいけない。
そういうお姫様の苦しみですわ。
いけないことする日が来るんやね❤︎
ここでしんみりとだけさせていないのが、本作の恐ろしいとこやで。
二人は湖の見えるところまで走ってゆきます。
「ここやで! お兄ちゃんはちょうどこの木に寄りかかっててん。あのへんからうちのぞいてたん。遠くて、相手の女(※本作の関西弁では女でおなごです)の顔はよう見えんかった」
そのざっくりした説明に、喜美子はどういう配置かと突っ込んでおります。
ロマンスにドキドキする照子と、細かい位置関係が気になる喜美子。ええコンビちゃう?
「お兄ちゃんはこっちで、女はこっちや」
そう二人でいけないことのシミレーション。なんでやねん!
「あ〜、こんないけないことしてたん……」
喜美子がそう言うと、照子はこう言い出しおった。
「もっといけないことよ」
チュッ!
キスシーンやぁあああああ!
いや、どういうことかようわからんけど、同性同士のキスシーンって朝ドラ初か?
どういうこっちゃあああああ! 役者同士が実際にしてるかどうかわからんけど、設定的にはしとるやろ。
「こんな感じやったんよ、いつかうちらもこんなことする日が来るんやね❤︎」
しかし、喜美子からすれば、ばっちいだけや。
てるちゃん、こういうことは事前に許可とろうな。
「絶対こんなことようせんわ、なにしてくれんねん! もう帰るで!」
「楽しかったなぁ」
「楽しないわ!」
「楽しかったから、お友達になってもええよ」
「いらんわ! べーだ!」
「まってえ!」
「またへん!」
なんだかすごすぎて、脳みそ沸騰してついていけへん。
とりあえず、照子ちゃんはあかん子や。
ここ数年の朝ドラではぶっちぎってあかんやつや。
・兄との思い出、兄への追悼
・信作への恋心
・禁断の恋に酔いしれている
・性への目覚めを喜美子相手に感じてしまう
・友達ができない(そらそうや)、そんな自分でも友達できそうで喜美子にそわそわ
・なんだかよくわからないロマンチック気分で大暴走
めんどくせええええ!
NHK大阪のノリで、笑いにくるめて、なんだか力で押し切る、そういう暴威を感じるけれども。
第一週でなんてことしてくれんねん。
あかんやろ、あかんやろこんなん!
照子のこういうところを、兄の死を面白がっているとは捉えないようにしたいところです。
本当にいけないことをするくらい、大人になったら。
胸のときめきだけではなくて、出征前日にいけないことをしていた、そんな兄の悲恋も思い出す――。
そういう日が待っているのです。
そのとき、照子は兄の無念を改めて噛み締めるのでしょう。
借金取りが家におる
そんな照子を振り切って、帰宅する喜美子ですが。
「ただいま。お昼なにするん?」
「おかえり。お風呂焚いてくれる? お客さん来とるで」
おおう、いきなり不穏です。
来客?
男の靴が二人ぶん?
「琵琶湖の向こうまでいかされてな。体えらい冷えてもうて」
「お父さん帰ってくるまで、いさせてもらいます」
大阪からきた借金取りの本木と工藤です。
革ジャンで、感動的なまでに大阪のチンピラぽい。
ジョーカス……借金取りが表札確認したなら、こうなるってわかとったやろ!
喜美子は風呂を焚きつつ、考えています。
「どないしよう」
震える思いで、懸命に考えるのです。これもジョーカスのせいや。
そのころ、信楽に向かっている人がいました。
狸の置物が写り、今週は終わりです。
総評:NHK大阪は、やっぱり本気や!
『なつぞら』が終わり、心に穴が開いたような気分にはなっておりました。
番宣を見る限り『スカーレット』も素晴らしそうで。それでも信じたくない気持ちもあったんです。
ここ数年のNHK大阪朝ドラは、京阪神企業広告ドラマステーションになっていて、失望ばかりでした。
もう何の期待もできないと諦めていた。
いい意味で、やられました。
自分だけかと思っていたのですが。
「草間宗一郎を見ていて、NHK大阪の朝ドラでも良心のある人物を出せるんやなと感動した」
という意見も聞きました。やっぱり、なんか今年は違いますよね。
不思議なことではあるのですが、関西弁を思い出して来ています。
関西の知り合いのことも、喋り方や表情まで脳裏に浮かんでくる。ここ数年のNHK大阪朝ドラではなかったことなのです。
『半分、青い。』の岐阜。
『なつぞら』の北海道もそうだった。
作り手のその土地に賭ける思いが、ドラマを通じて届いているんでしょう。
プロット、役者、キャラクターの設定。
それ以前に、その土地に足がしっかりついている。そう伝わってきます。
ただよいドラマだけではなくて、大阪ならではのよさも追求している。それがユーモアのセンスだと思いました。
ジョーや喜美子のような、メインの人物もおもろい。
それだけでなくて、慶乃川や紙芝居のおっちゃんもおもろい。
照子や信作は、本人としては別に笑いを取るつもりではないだろうに、おもろい。
直子すら、わがままなだけでなくておもろい。
つらい時代なのに、ユーモアがあって。ジョーはじめダメな人物もいるのに、憎たらしいだけでなくて。
「萩尾律やイッキュウさんみたいに、カッコよくてデキるええ男は、NHK東京に任しといたらええねん! あかんやつらを出してこそ、NHK大阪や!」
そういう謎の主張すら想像してしまうという。
テンションの高さとユーモアセンスはここ数年でもトップクラスで、このまま息切れしないで突っ走って欲しいと思います。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
3月まで「スイちゃん」として毎日のように見ていた川島夕空さん。達者な子だなぁと思っていましたが、ドラマでも凄いですね!
台所事情の悪さが生々しくて切なくなりますが、その分見応えがありますね。当時の庶民の暮らしやマインドを知る、いい勉強になります。
まだこれといった名言も泣ける場面も出ていませんが、面白いです。
至福のお風呂 濃い人が揃ったテルマエロマエ思わせました。風呂焚きできみこ鍛えられる。