バブルに翳りが見えそうな、平成2年目の1990年。
岐阜県東美濃市に暮らす仲良し四人組「梟組」は、卒業を目前にした受験シーズン真っ只中です。
上京して漫画家育成塾「秋風塾」に入ることの決まった楡野鈴愛。
律を追って京都の大学へ進学するブッチャー。
服飾系専門学校を経て、稼業のブティックを継ぐナオ。
そしてノーベル賞を目指している萩尾律は、どうにもセンター試験に失敗しそうで……。
もくじ
犯人はフランソワだったか!
今日は廉子さんが
「ゴールデンウィークはいかがでしたか」
と尋ねるところから始まります。
律は、センター試験に大失敗……。
やってもうた、ってレベルじゃないです。やっぱりそうなったか!
それなのに「ともしび」でお祝いをしています。
結局、東京の私立大学に合格したそうで。こうなっちゃうのか〜!
結果的に鈴愛と律は同じ東京に向かうという着地なわけです。
とはいえ、律は素直に喜べません。
自分は完全にファイルの事を把握していたはず、それなのにどうしてなのか。そう考えてしまうのです。
律は、どうして入れ違いをしたのかと分析し、犯人はフランソワだと結論付けます。
ナオはすかさず、フランソワはキューピッドだ!と。
「きっと二人を結びつけたいんだね!」
その一方で、京都に進学するブッチャーは、
「俺はどうなるんだー!」
と叫んで動揺しております。諦めよう!
ブッチャーは淡いピンクの服を着ているのですが、これを着こなせるセンスはすごいと思います。
彼を演じている矢本悠馬さんだから似合うんですよね。ナオちゃんもブッチャーも好きだから、こちらも別れが辛いです。
受験票はなくてもテストは受けられたハズ
楡野家一同は、律の受験失敗の件で、萩尾家に謝罪に来ます。
スーツ姿に、菓子折り持参で頭を下げる楡野家一同。
ここで鈴愛が中学受験失敗について思い出すと、仙吉が
「今度は私が犬のかわりに! 犬は事故だったけど、こちらはただの貧血なのに!」
と平身低頭謝ります。
うん、まあ、前の晩に夜更かしして『宮本武蔵』をぶっ通しで見なければこんなことになってませんもんね。
「いえいえ、私が受験票を持って行ったばかりに! あれが決定打でした!」
鈴愛も頭を下げます。
ここで弥一は、おもむろに語り始めます。
「受験要項には受験票を再発行できると要項に書いてあるんですよ」
まぁ、そりゃそうなんですよね……。
そこは気になっていました。律にも落ち度はあります。
・サンバランドファイルの中身を事前に確認しておくべきだった
・受験票を諦めて、紛失したと会場で言えば受験できたはず
そこに尽きるのです。
東大も京大も無理だったかもしれない
あのクレバーな律に限って、どうしてそこに気づかなかったのだろう。
人生の一大事ですから、受験票がなくともまずは会場へ向かうべきだったでしょう。
そして弥一もそこには気づいていたのです。
「さあ、お掛けください」
弥一にすすめられるまま、楡野家の面々が腰を下ろします。
「彼は東大から京大に志望校を変更しました。弱気になっていたんだと思います。あのままでは京大も危なかったのではないでしょうか。彼は、心の底で逃げたかったんだと思います」
「律は逃げたってことですか?」
ややムッとした和子から聞かれる弥一。
そうではないだろうけど、心の底ではほっとしていたのではないか、と。
弥一は、自分も心底ほっとしていたんだ、京大を落ちていたらフォローする自信がなかった、と言います。
周囲の期待を受けすぎて、いっぱいいっぱいだったんじゃないかと。とてもじゃないけど、滑り止めの私立を受けたいとは言えなかったんだ、命拾いしたのだろう、と。
3歳でかけ算九九を暗唱し、梟町の神童とまで呼ばれていた律。
そのプレッシャーから解放されたことに、弥一はほっとしているのです。
実を言うと、律は京大の判定もあまりよくなかったそうなのです。
そこも、視聴者から突っ込まれていましたね。東大がE判定ならば、京大だってそこまで判定はよくないでしょう。
「あの子の心の真ん中がつかめないんですよ」
「まあ西北大学も私立の名門ですもんね、いよっ、都の西北!」
ここでそう調子に乗って言う宇太郎。
西北大学のモデルは、脚本家さんの出身校である早稲田なのでしょう(「都の西北~」というのは校歌の歌い出しで有名)。
あるいは慶応とセットでイメージされているかもしれません。
「でも、この話はここだけにしてください」
そう念押しする弥一に、楡野家の面々は戸惑います。
晴は、鈴愛の口は羽根より軽いと言ってしまうのど。しかし鈴愛はこれだけは言わない、と即座に断言します。
「さすが鈴愛ちゃん、世界一の山チョモランマより高い律のプライドをわかっている」
「世界一はエベレストではないですか?」
「エベレストとチョモランマは同じ山です。国によって呼び方が違うんです」
ここで、さりげなくトリビアが入ります。
弥一はどこかホッとして、我が子ながらつかみ所の無い律の弱いところを、やっと見られた。そういうことなんでしょう。
和子は、
「あの子の心の真ん中がつかめないんですよ」
とこぼします。
鈴愛以外は、そんな心の真ん中なんておいそれとは見せるものじゃないだろうと内心ツッコミますが……鈴愛は別です。
ショックでした。
じゃあ私が聞いていたのは端っこ?
パンの耳みたいなもの?
そう思ってしまうのです。友達なのに、親友なのに、言ってくれなかったのか、と。
鈴愛だけには語れる真意、清流の国のあの川で
律は、鈴愛と川縁で語りあいます。
鈴愛の左耳が聞こえなくなったあとも、この川の流れを見つめていました。
鈴愛は、律に本音を語ってくれと迫ります。
「また和子さんに何か言われたのか」
そう愚痴を言いながら、本音を語りだす律。
彼には二つの挫折がありました。
海藤高校の受験失敗。もうひとつは、中学二年生で天啓を受けた「永久機関は作れない」ということ。
「それは天啓だとおかしい」
と鈴愛がツッコミますが、そこはフィーリングでわかってくれと。
この世界には不可能がある。
律は、皆の期待に応えて、海藤高校から東大ルートを目指していました。それが失敗したのだと。
朝露高校でも、期待に応えるために、東大を目指していたんだと。
「これは鈴愛だから言うけど、俺はそんなに出来ないんだ」
「チョモランマのより高いプライドはいいのか?」
実のところ律は、成績が伸びなくなっていました。海藤に通っていたら、西北にすら入れなかったかもしれん、と言います。ずっと一番だった。上に人がいると弱いんだ、と。
律は、小さい頃から、周囲の期待を受けすぎていたのです。
東大だって心の底から行きたいわけではなく、犬を助けて高校受験に失敗したけれど、それでも最終的に目標に達成できると証明したかったんだ、と言います。
律には夢がない。あるのは、周囲の期待でした。
「鈴愛だから言うけど、俺はそんなにいろいろできん」
この言葉を受け鈴愛は、マグマ大使の笛を捨てようとします。自分が律をマグマ大使というヒーローにして、圧力をかけていたんじゃないかと感じたからです。
「やめて、捨てないで」
律に止められて、鈴愛は笛を吹きます。
ピーッと音が川縁に響きます。
「り、つ……」
「これは捨てないでください」
「了解、いたした」
もう、何を言っても余計ですね。
二人は幸せであることを、おばあちゃんは空から祈ります、とナレーションが響きます。
この場面の絵が綺麗です。
小さい頃と同じく、川縁に立っている、そのシルエットがよいですね。
清流の国・岐阜ともそろそろお別れですが、ロケでたっぷりと岐阜県の良さを味わうことができました。
今日のマトメ「中学までは無敵の神童あるある」
こんなニュースが。
どんなに出来の悪い作品でも、ラッピング電車のような公式タイアップは行われます。
そうでなくて、地元が人気に便乗してグッズを作るということは、地元民に愛されて便乗されるということで、よい傾向です。
『あまちゃん』でもそうでしたね。
NHKのスタジオパークでも、五平餅を食べられるようにすればいいのに。
どうなんでしょうね。
今日は、なかなか切ない優等生・律の本音です。
海藤に行かなくてよかったかも、というのはあるあるの気がしますね。
中学までは無敵、しかし地域一番の進学校ではあまりに上が多すぎて沈む、というパターンはありがちです。
特に律のような、田舎の子だとそうです。
彼の自己分析はなかなか的確ではないですかね。
【鶏口となるも牛後となるなかれ】
という故事で説明できるかと思います。
期待が大きすぎてそのあたりが見えない和子と、我が子のためにはむしろよかったと分析する弥一の親心も深いものでして。
このあたり、よく練られた脚本だなあ、と思います。
律という息子は一人しかいませんが、親からは違う側面が見えていたわけです。
マグマ大使の笛を捨てようとして、子供っぽい口調や敬語になる律もよかった!
周囲からの期待には疲れていて、無理だと思っていても、鈴愛のヒーローであること、守る存在であることはやめない、やめたくないのです。
やっぱり特別な存在なんだよなあ。
また川縁で二人になる場面があったら……そのときはお互い特別な存在だと、ちゃんと気付くのかな?
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
>そう思ってしまのうです。友達なのに、親友なのに、言ってくれなかったのか、と。
>海藤に言っていたら、西北にすら入れなかったかもしれん、と言います。
>律という息子は一人しかいませんが、親からは違う側面がみ見えていたわけです。
この回、テレビで見たかった…と思わせてもらいました。ありがとうございます。
弥一さんの役、谷原さんでピッタリですね。ただの品が良いお父さんじゃない、息子のことをよく見てるし、考えが深い。谷原さんだから無理なくハマって見えました。
それにしても、北川悦吏子さんの脚本、思った以上に(失礼)毎日楽しませてもらってます。ひよっこ以来の嬉しい日々です。
・『宮本武蔵』昔、原作本を夢中になって読んだのを思い出しました。確かに途中でやめられなくなるかも。
・川のシーン。いいところですね。実際に行ってみたくなります。五平餅も食べてみたい。