子連れの出戻りヒロインでも、天下に挑む!
鈴愛、37歳は、祖父直伝の五平餅で、実家の「つくし食堂」2号店の経営に乗り出しました。
しかし祖父の仙吉は、孫に五平餅の全てを伝えた直後に大往生。
【2号店の名前】を誰に伝えることなく亡くなってしまうのでした……と思ったら、なんと、ひ孫の花野にだけは伝えているというではないですか。
ただし、その花野は曽祖父との約束を守って店名を一向に明かしてくれません。
律にまで電話をかけて、いよいよ聞き出せたのは「ご、へ……」の二文字。
何だ? その先は、一体何なんだ!?
【120話の視聴率は22.2%でした】
もくじ
あの格言から付けられたのは第二希望だったか~
花野が2文字だけ話したところで、ピンときた鈴愛。
「五平五升か!」
あまりに美味しくて、凄まじいペースで米がなくなってしまう――そんな脅威の米消費マジックから付けられた格言です。
当たり、やったね!
しかし、第二希望だそうで……。
ここでココンタが偶然転がってしまい、花野にとっては「約束を守ろう」の警告にも見えてしまいます。
しかも晴からお風呂に入ろうと急かされてしまいます。
オープニングのあと、「ともしび」でブッチャーに顛末を愚痴る鈴愛。
配偶者以外の異性相手に外で愚痴る朝ドラヒロイン、実は珍しいんですよね。
やっぱりちょっと『真田丸』の真田昌幸ぽいし、永野芽郁さんが草刈正雄さんぽく思える。
これが演技だ、ドラマの凄さだ!
ブッチャーは一通り愚痴を聞いたものの、名前はどうでもいいから来月キッチリ店だけは始めろと言います。
理由は家賃収入が欲しいから。
あの濃厚な父に似て、不動産業者として手腕を発揮していそうだわ~。
さすが地元名士、コマーシャルにも出るだけはある!
今日も服のセンスが派手!
そんなブッチャーに「鬼!」とつぶやき睨む鈴愛でした。
食べ物で釣ろうとしたのがバレてガッカリ
そのころ「つくし食堂」では、豪華なカラフルかき氷を前に、花野が上機嫌です。
出してあげたのは、健人。
言うことを聞いてくれたら、
「ガムとコロのドーナッツを作ってあげる」
とまで!
風の日限定の美味しいモノですね。これは食べ物で釣る策っすわ~!
しかしカンちゃん、簡単には引っかかかりません。そう、彼女は手強いのです。
花野はかき氷すら押し返し、こう吐き捨てるのでした。
「健人には、ガッカリや」
人格否定された、と悲しく切々と訴える健人。どうやら宇太郎と晴の策だったようです。
そぅ……子供は手強いんですよ。
特に独身男性の方は、飲食店やスーパーで騒ぐ子供と、それに困る親や保護者を見て、
『うるさいなあ、言うことくらい聞かせろよ』
と思ったことありませんか?
子供というのはそんなに甘いものじゃありません。
翼の初めての一枚はカンちゃんだった
そのころ、萩尾家では。
弥一が1984年ドイツ製カメラを、孫の翼に見せております。弥一が一番好きなカメラのひとつなんだそうです。
撮影しないよう釘を刺していると、和子が弥一を呼びます。
なんでも弥一が好きなお笑い芸人『オードリー』がテレビに出ているのだとか。
ちょっとあきれたような反応を見せつつ、実はうれしそうな表情。
お茶を淹れようかと言い出します。
本作って、平成舞台だからそうあるべきですけど、男性がさりげなくお茶やコーヒーを淹れますよね。
元住吉祥平の、キリマンジャロサーブはカス感が浮かび上がりましたけど、弥一さんは気配りできる人格者です。おそらく団塊世代の彼らがさらりとお茶を淹れるのって、実はスゴイことですよね?
いや、こんなもん、男女関係なく、そのとき手の空いてる方が淹れりゃいいだけなんすけど。
翼は、弥一のカメラを首にかけて店内をレンズ超しに見ております。
そこへ
「こんにちはって言おうとしたら、知らない子がいたから」
と言いながら花野が登場。
思わず、弥一から止められていたシャッターを切ってしまう翼です。
弥一からイチゴのショートケーキがあるよ、と呼ばれるまで驚いたままの、翼の時間が切り取られます。
って、んんっ?
ここ、すごく気になるんですけど。
見ようによっては、鈴愛の子である花野と、律の子である翼が、運命の出会いをしたようにも思えてしまう。
やはり鈴愛と律には、運命の何かがあるのでは、と思えてしまうのです。
こういうところ、本当に気になるなあ。
聞こえんでも聞こえるフリして生きてきた
楡野家では新店舗について話し合い中です。
草太は、2号店の人手として、鈴愛だけではなく健人もヘルプで入れようと言い出します。
あの面白アメリカンキャラ、大好きなのでこれは嬉しい。
晴も賛同します。左耳が聞こえない鈴愛は、接客に向いていない。
と、そこで鈴愛が反論します。
100均の大納言で働いたこともあるし、うちも手伝って来たのだと。
「この世は両耳が聞こえる者のために出来ている。私のためじゃない」
聞こえんでも、聞こえたふりをして生きていくほかなかった。
37年間生きてきてそれがわかった。
そんなことより、店の名前だと言い出す鈴愛です。ぬいぐるみのココンタにすら、すがりつくような鈴愛が面白いです。
一方、萩尾家では翼の写真を弥一が現像中です。
「カンちゃんもやりたい!」
そう、翼初の写真はカンちゃんが被写体でした。って、これやっぱり特別な絆では?
鈴愛と律の関係。
子供同士が運命の相手……それはそれでありかもしれません。
仙吉さんが残してくれた五平餅ノート
晴さんが、仏間で天袋(てんぶくろ)を捜索中です。
バランスを崩して思わずひっくり返ってしまう彼女の姿を、遺影の仙吉が見ていて、慌てる表情が面白いですね。
亡くなった人も見守っている――昨日の台詞からのメッセージ性を感じます。
死者が物語を作っているわけではないから、生きている者の思いというだけかもしれない。それでも、すごく優しくて、そうだといいなと思えてきます。
生きているヒロインが自分から鈴を鳴らして死者を呼ぶ前作とは根本が違います。
半日もかけて晴さんが探していたのは【店の名前】に関連するメモ類でした。
そこで発見したのは、五平餅レシピノート。
よくあるノートに、入魂の筆跡と絵入りで解説されております。
鈴愛が、ここでレシピ本を見て「理屈を学んだ」と口走り、また真田昌幸顔というか、まるで秘伝の兵法書を見たような顔になるのが面白い。
レシピを抱きしめて「おじいちゃんありがとう!」とか、そういうかわいい仕草を期待するもんじゃあーりませんよ! 鈴愛は戦国武将系ヒロインなのだから。
草太は、妻の里子と息子の大地とともに、姉の鈴愛を半額高級外食に誘いますが、行かないようです。
2号店の名前決めが気になっているんですね。
早く決めないとオープンできない。看板とか他の装飾とか、あるいは印刷入の皿やコップが必要になるケースもありますよね。
草太は、鈴愛の携帯電話が常にスピーカーフォンだということに気づきます。
左耳が悪い鈴愛にとってはそれがよい。
こういうところ、うまいと思います。
鈴愛みたいな女性が、常にスピーカーで携帯電話を使っていたら、どういう印象をいだきます?
うるさい、馬鹿女!
と、叩く心の狭い人も残念ながらいるかもしれない。まぁ、健常者には、まずわからない状況ですもんね。
前述の通り、この世界は強い人のために出来ています。
弱い人は、工夫で乗り切ろうとしています。
そういう工夫を「強い人とは違うから」と叩く、そんな残酷さがこの世にはある。
本作は、そう指摘しているのではないでしょうか。
今、電話をかけたらアカンやつや!
草太は、自分の携帯電話をなくしていました。
着信モニタに記されたのは「アホあね」の文字。建人が笑いながら受話器を取り、変な声の自称神として話し始めます。
「鈴愛さんの日頃の行いには……」
と、言い出す神様。
本当に神様か、黄泉の国につながったのかと言い出す鈴愛ですが、健人だと判明します。
鈴愛に人格否定されて、思わず抗議したくなったのかな?
健人のおかげで、草太の携帯電話は食堂にあると判明しました。
そこへ花野帰宅。
和子さんがちゃんと帰宅確認のために電話をするあたり、流石です。よどみなくストーリーが流れていきます。
萩尾家では、律が妻子とともに帰宅しておりました。
「健人……ココンタ…スピーカーフォン…はっ、思いついた!」
一方で、策謀も辞さない戦国武将系出戻りの鈴愛、何かを思いつきます。
やっぱり戦国ぽいドンドンという音が入るBGMをかけつつ、萩尾家に電話!
律を呼び出しました。
まずい。まずいって。
ここには律の妻・より子もいるわけです。
電話を取った和子に、律を出して欲しいとはしゃぐ鈴愛。そこへ律とより子がやって来ます。
和子は慌てております。
和子から電話が変わった鈴愛は、はしゃいでいます。
名前を聞く方法を言い出そうとする鈴愛。そこで電話に出たのは……。
「萩尾律の妻ですが、主人に何のご用でしょうか?」
より子でした。
今日のマトメ「弱者は強者のフリして生きてゆく」
世界は強者のためにある。そんな世界で、弱者は強者のふりをして生きてゆく――。
今日はやっぱりこの台詞ですよね。
深い。
障害のあるヒロイン像は、その時点で揉めたことでしょう。
病気にかかったような人すら、出しにくい。
本作は「親の介護みたいな問題がない」という突っ込みを見たこともありますが、そういう弱者要素を朝ドラに出すことがどれだけ大変か、考えてみましょうよ。
NHK大阪お得意の企業創始者モノなんて、日本でも屈指の大金持ち、強者、成功者のお話です。
それを無理矢理庶民ぽくしているのです。
朝ドラヒロイン風のスマイルを見せるヒロインたちだって、史実では豪胆そのものです。
そもそも資産家であったり、お嬢様だったりしたから、彼女らは強くて、反論する相手すらろくにいないような状況でした。
本来、そういうスーパーレアカードのような女性を、嫁いびりだの育児苦労だの入れて、
「庶民にもわかるお話でございます!」
と、朝食のお供にしたのが朝ドラです。
NHK大阪が好きな企業創始者モノに、ここで突っ込んでおきますけど、戦前生まれのお嬢様が自分で育児なんてそんなにしないから。
育児担当者雇用するから。
その点、本作の鈴愛はとても弱いところが、複数あります。
男女の雇用体系、賃金格差に泣かされ、漫画家キャリアでは一般労働者としてのキャリアも短い。
彼女は出戻り、シングルマザーです。
この社会で、屈指の苦しい層です。
しかもシングルマザーって、
【良い母が苦労して我が子に愛を注ぐ】
みたいな、これまた単純な像が好まれますよね?
女が夜なべして子供に手袋編んでくれた……みたいな。
もうさ。
いつの時代だよ。
他人の生き方を、自分の価値観だけに当てはめて矯正しようとするな。
シングルマザーがどんな生き方してもエエやろ!
※倍賞千恵子 かあさんの歌
死別ならともかく、夫と生別したシングルマザーの場合、
「男を見る目がない!」
とも叩かれる。
鈴愛もこのケースです。
仙吉も「出戻りのわりにはデンとしている」と突っ込んでました。
鈴愛は、そういうシングルマザーのあるべき姿を否定しているように見えます。
幼い子を連れた母親が、
「こんなうるさい子を連れて歩いて、迷惑掛けてごめんなさい」
と謝る像も期待されがち。しかし鈴愛は違う。
それでいいんですよ。
んなもん、戦時中の防空壕じゃあるまいし、周りの大人が余裕をもって見逃せばよいだけですよ。
世の中には、うるさいおっさん、ばあさん、普通の大人だってゴッソリいるのに、そういう場合は、
「このうるさいおっさんを育てた母親は誰だ!」
と突っ込まずに、見て見ぬ振りでしょ。
特に、相手が暴力団関係者みたいなおっさんだったら、誰もつっこまないでしょ?
要は、自分が上から注意できるときだけでしょ?
しかも鈴愛は、障害者です。
障害者というのも、コソコソと善良な障害者像を期待されがちです。
以前、車椅子ユーザーが航空会社と争った際、車椅子ユーザーを叩く声が大きくてびっくりしました。
これも、
「五体満足じゃなくて社会に迷惑かけている障害者は、気弱でうつむいて生きればいい」
という、社会の歪んだ声なのだなあと思ったモノです。
そして律との愛でも弱いのだと、最後で突きつけられました。
子供を産み、良妻賢母型のより子。
朝ドラヒロインとして好感度が高く、百点満点に近いスコアを取れそうな、そんな女性です。
それに引き換え、鈴愛は。
子供のころまんまの天真爛漫さ。真田昌幸みたいなわがまま戦国武将ぽさ。成長しないと叩かれる。
そもそも律の妻じゃありません。律の子を産んでもいない。出戻り。態度の大きいシングルマザー。
こんなの、ヒロインとして全敗やん。
でも、だからといって、ここで鈴愛の持つ思いを全否定して引っ込めと言えますか?
夫婦愛じゃなくても。正しく強い愛情じゃなくても。
弱くても、少数者のものでも。
この世界に存在する愛を、否定できるのか?
鈴愛と律だけの話ではありません。
秋風羽織と、菱元の絆。
同性愛結婚制度がないこの国では、結婚できず、生産性がないと政治家からすら罵倒されかねない、そんなボクテの愛。
本来の朝ドラでは見落としてきた、夫婦や親子の愛、それ以外の愛情。
この世界には、そういう愛も普通にあります。
そういうところに踏み込む本作からは、すごく大きな力を感じます。
本作は賛否両論が多いとか。
例のハッシュタグ、たまに私も見ていますよ。
でも、それでいいと思います。
本作は、全力で強くてキラキラしたヒロインを描いてません。
NHK大阪が好きな、日本屈指の大金持ちパターンの勝利マダムを描いていません。
そんなわかりやすくてツマラナイ、お決まりの展開にはならない。
みっともないこともあれば、挫折もある。弱さもある。
運命が用意していた絆すら、愛すら、もしかしたら失ったかもしれない。
そういう人である鈴愛と、その周囲の人々を描くからこそ、朝ドラとして革命的なのです。
◆著者の連載が一冊の電子書籍となりました。
ご覧いただければ幸いです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
rokoさんへ
「ガムとコロのドーナツ」の元ネタは、絵本『パムとケロのにちようび』に出てくる山盛りのこんがりドーナツと思われます。
機会があればご覧になってみてください。
■半分、青い。118話 感想あらすじ視聴率(8/16)夢の途中で去りゆくとも
で昨夜コメントしようとしてできなかったので、今さらですが書かせてください。
—
毎度のコメント失礼します。今さらでも宜しいでしょうか?しかも一度で済ませばいいものを…
それに比べ、みなさんのコメントはすごいなぁと感心しています。
いつもありがとうございます。
>おそらく音楽青年であった彼は、楽器店勤務をやめて、家業の食堂と継ぐことに。
食堂を でよろしいか?
昨日、思い出のメロディーで「ふれあい」を中村雅俊さんが歌ってくれてました。
その時にコメントしようとしたんですがエラーになりました…m(__)m
—
それから、もしもご存知でしたら教えていただきたいのですが、今回(8/18)の放送に出てきました「ガムとコロのドーナッツ」ってどんなのですか?私、知らないもので…。
私は、仙吉さんが花野ちゃんに告げた2号店の秘密の名前は「一瞬に咲け」、そしてそれでも鈴愛は祖父仙吉の名前をメモリアルとして店名に付けようとするだろう……と予想し、前々回のコメントに書きましたが、どうやらかすりもしない大空振りだったみたいですね。まだまだ青い、と言われちゃいそうです
花野と翼の出会いを見て、世にも奇妙な物語に、こんな感じの一編があったなと思い出しました(運命の相手とすれ違い続けるも、孫同士が巡り会い……)
ただまあ、親のノスタルジーというか、未練に縛られるような、大人しい花野ちゃんになって欲しくない気もしますし、鈴愛と成長した花野の対決なんかも、もしかしたらあるかな?!と少しばかり期待しています
スピーカーホンという技術の進歩を味方に付ける鈴愛と、ロボトミー技術部の律が恋愛とは別の絆でどう人生を交差していくか。あとひと月半ですね。
「わろてんか」の時にこちらのレビューを知り、それ以来、いつも楽しく拝読させて頂いております。
今回の「半分青い」も毎回の武者様のレビューに激しく同意しながら、楽しませて頂いております。
しかし「同性愛結婚制度がないこの国では、結婚できず、生産性がないと政治家からすら罵倒されかねない」という一文には同意しかねました。恐らく杉田議員の週刊新潮への寄稿についてのことだと思われますが、マスコミお得意の一部を切り取って世論誘導する手口にひっかかってしまわれているのかな、と思いました。全文を読まれたら、罵倒しているわけではないということがお分かり頂けるのかなと思いました。(「杉田水脈 週刊新潮 全文」と検索されれば、ネットでも見られます。)
これからも「半分青い」に加えて、「西郷どん」も楽しみにしております!ちなみに「西郷どん」はドラマを見ずに、武者様のレビューのみを楽しみにしております(笑)。
お身体に気を付けて頑張って下さい!