「つくし食堂」の2号店「センキチカフェ」をオープンさせ、五平餅を焼く、楡野鈴愛37歳。
幼なじみ「梟会」の協力を得て作り上げたのが、マスコットの「岐阜犬」でした。
律の技術協力で、母・和子がお客の悩み相談に応じるというもので、早速、女子中学生やブッチャーの母・麗子の話に応えます。
しかし和子は病を患っており、長生きできない――そこで鈴愛に託したのが律の育児日記でした。
【125話の視聴率は23.1%でした】
もくじ
細い黄色いネクタイなんて有名人でしょ
梟町に突如現れた、iPhone初号機を持つ男。
2007年発売で、日本でブレイクしたのは3Gからですな。いかにも業界人って感じで、演じているのは有田哲平さんでした。
その男、「つくし食堂」でカツ丼を食べています。
草太は思わずテレビに出ている有名人かと思い、確認すると
「なんで?」
と聞き返す業界人。草太がそう思ったのは、細い黄色ネクタイです。
そこで男はニヤリ。もと電博堂にいて、今は独立したんだよねえ、と自慢しながら名刺を渡してくるのでした。
【ヒットエンドラン】という会社社長の、津曲(つまがり)雅彦という男でした。
休憩中だった鈴愛は胡散臭さを感じ取ったのか、ささっと着替えて去ってゆきます。
これも、このドラマ、戦っているよなあ。
電通と博報堂、二大広告会社がモデルって露骨やーん!
※本サイトの編集人、日本でのiphone発売直後、博報堂の知人が「会議で机に携帯置いたら全員iphoneで~w」という話を聞いて以来嫌いになり、未だにシャープの地味スマホ使っているようです、ワケわからんw
「僕とどっちが胡散臭いですか?」
センキチカフェに向かった鈴愛。
業界人・津曲が胡散臭いんだよ、と健人に報告すると
「僕とどっちが胡散臭いですか?」
と聞き返されます。
でました、健人話法!
決して台詞が多いわけじゃないんですけど、一発勝負がいつもいいんだよなぁ、健人くん。
ドラマにイケメンさえ出しておけば視聴者ホイホイだって? そういうニュースもありますよね。
でも、違うから!
本作はイケメンに個性が程よく加味されているのが面白い。
涼次と元住吉祥平はクズ感。
健人はアメリカンキャラと、この語録があってこそなんですよね!
そこへ胡散臭い津曲登場。
手には五平餅無料チケット持参です。
ふむふむ。こういうチケット展開もしていたんですね。
ちゃっかり一回300円を要求
五平餅はサービスだけど飲み物は有料――そう聞いた津曲は、
「ちゃっかりしてんなもう、ハハハ」
と笑います。
なんなんだよ、このオッサン。いるよね、こういうリッチなようでセコい、この手の男。
ここで津曲は、岐阜犬に話しかける女子中学生に気が付きます。
友達作らなくてもよいと言ってくれてありがとう、と御礼を言う彼女を見て、津曲はこう言うのです。
「彼女、大丈夫か?」
尋ねられた鈴愛は、岐阜犬について説明し、ちゃっかり一回300円と要求します。もちろん無料サービスであり、その後言い直しますが、こういうところが好きなんだよなぁ。
鈴愛って、嫌いな人、胡散臭い人に塩対応しますよね。
でも、そういう朝ドラヒロインって珍しい。
『あまちゃん』や『カーネーション』は別として、他はみんな天使対応ばっかりだから。
津曲はどうせカンタンな録音音声が答えるだけだろぉ〜、という感じで小馬鹿にしながら話しかけます。
露骨にムッとする鈴愛が可笑しい。
離婚と仕事は分けて考えなさい
「こんにちは、いい天気ですねー」
「でも明日から崩れるって言います」
えっ!
と思わず興味を惹かれる津曲。これは単なる録音じゃないな、と悟ったようです。
そして唐突に愚痴りだします。最近仕事もうまくいかないし、別れた妻ともイマイチしっくりこないとか。
「別れた妻って、養育費とか?」
もぅ、ほんとに鋭いなぁ。
そうそう、離婚後の問題って愛情問題とされがちですけど、ほとんどはお金の話ですよね。
養育費を別れた相手に払うくらいなら、新しい交際相手に払いたいよ、と言いたがる人もいますけどそういう話じゃありません。
受け取る側は生活がかかっています。深刻な問題です。
ここで和子さん、仕事と元妻のことは分けて考えなさいとアドバイス。岐阜犬のできる応対に驚いた津曲、思わず血液型を尋ねます。
O型と答えたら、なぜか大喜びの津曲。
「犬にO型はいないんだ!」そうです。うぜぇなぁ~。あのな、そもそも人の言葉喋る犬、いないだろ?
こういう幼稚なことでマウントするあたり、クソな業界マンだわぁ〜。
しかし、直後にのっぴきならぬことが起きます。
岐阜犬が苦しそうな呻き、続けられないと謝ります。
「和子さん、どうしやった?」
母の死は近し されど日常は日常なり
苦しむ和子を察知した鈴愛は、健人に店を任せて和子の元へと走ります。
駆けつけると、キミカはいつもの発作だと言い切ります。
弥一と律も、和子を見守っています。
「悪かったね、鈴愛ちゃん」
「悪かった、鈴愛」
そう言う二人。
キミカは、弥一と律にこう告げます。
「今回は大丈夫だったけど、いつでもおかしない」
和子は、鈴愛に迷惑を掛けたことを気にかけながら
「ほうや律」
と、何か伝えます。
店では弥一が写真の作業をしておりました。
「イチゴ買ってくる」
「この季節に?」
どうやら和子が、朝ご飯に食べたいのだそうです。
律は、外国産のイチゴが入荷していたものを見つけ、2パック購入。そうそう、日常ってこういうものですよね。
母の死が近づき律は嘆いていますが、八百屋のおかみさんは明るい。
何もかもが、暗くなるわけじゃない。
それがリアルです。
あなたの息子で本当に本当に、よかった
律は帰り道、センキチカフェに立ち寄りました。
五平餅が完売したようで店は閉まっていますが、中には入れました。
無人のカフェで、律はメモに
「本日はサンキュ」
と記し、イチゴパックを一つ置いておきます。こういう気遣いが萩尾親子(自分だったら絶対気づけない><;と編集人が嘆いておりました)。
そしておもむろにイチゴを一つ取り出し
「酸っぱい……甘い……」
と味わう律。
酸っぱさと甘さが混じっているのは、イチゴの味だけ?
手持ち無沙汰で
「よっ、岐阜犬」
と話しかけました。すると
「ワン、岐阜犬だワン」
と返事がかえってきます。
思わずたじろぐ律は「イチゴを二個食べたところです」と報告。
「お疲れ様」
「俺、和子さんの子供で幸せだ。幸せだった。し、幸せだ」
幸せであることを、現在形と過去形を混ぜて迷うところ、切ない。
「あなたの息子で本当に本当に、よかった。大好きだ。
面と向かって言えなくてごめん、ありがとう。
今何をどうしてやったらわからなくて、わからなくて。
不甲斐ない息子で、申し訳ない。
弱虫の息子で、ごめん」
涙ながらにそう語る律。
岐阜犬の和子は、こう返します。
「もう遅いよ。帰っといて、ワン! 律、私、あのときの律が、カンちゃんと一緒に歌ってくれた子守歌、すごく嬉しかった」
「そんなのいつでも歌ってやるよ。歌ってやるからさ、お母さん……」
やっとそう語る律と、そして廉子さんの悲しいナレーション。
8日後、満月の夜、和子さんは逝きました。
今日のマトメ「岐阜犬がいたからこそ」
まずはTwitterでの【#半分青いプラス】タグ、誕生おめでとう、ありがとうございます!
私は嫌いなドラマ、前作にも今期大河にも無情極まりない酷評を書いてきましたが、そのとき気をつけていることがあります。
それは、致命傷を与えるべく、急所だと見極めたところをブッ刺すことです。
当たっているかどうかはともかく、幕末の四大人斬りとか剣士とか、そんな気持ちです。
本気で批評に向かっている以上、こちらも真剣なのです。
ゆえにどうしても許せないのが、本作への批判で、あまりに的外れなものです。
もちろん好き嫌いはありますから、何を言おうが自由ですけど、
【脚本家が自分と同じ片耳失聴を、ヒロインに適用した】
という批判は酷い。
なんじゃそりゃ!
「自伝的要素」や作品ってご存じですか?
それを言うならば『わろてんか』なんて実在人物の伝記的作品に、史実をねじ曲げて、
「私のドラマの恋愛要素を叩くつまんない連中いるのぉ〜」
とも読み取れる、どうしようもない要素をぶち込んでおりました。
そもそもNHK大阪の朝ドラ、大半が伝記ものですやん。
企業経営者の伝記はオッケーなのに、脚本家の自伝的要素はあかんの?
んなアホなw
鈴愛に反映された自伝的要素は、身体の障害です。
こういう話を、当事者以外が書くことは難しい、批判対象となる場合もあります。
実際に障害を持つ当事者が声を上げることを叩いてよいのでしょうか?
鈴愛の片耳が聞こえない描写で、その障害当事者の悩みも伝わった部分があるはずです。
当事者ゆえの、貴重な声です
鈴愛の障害は、彼女の人生に影響を与えています。
後半の岐阜犬のアイデアはこの障害への対処が根底にあります。
プロットにこういうふうに織り込める身体的特徴なのだから、よいのです
そもそも、当事者でもない人間が「お前の障害なんか黙っていろ、作品に取り入れるな」って言うことが、ものすごく意地が悪いことで、そのこと自体が傲慢だとなぜわからん!
と、怒りはこのへんにして【#半分青いプラス】を楽しみたい♪
本日、やはりグッときたのは、律と岐阜犬(和子)の会話でしょう。2人の場面へ繋げる役となった津曲(有田)さんも良かったけど。
ありがちな朝ドラって、母親を人間というよりもグレートマザー像にしてしまいます。
ニッコリと笑うお母さんがそこにいるだけで、世界がハッピーになる。子供たちも拝むしかない状態で、なんかの宗教です。彼女がいるだけで明るい世界でしょ、という感じ。
でも、和子と律は違います。
律は変な笑顔など浮かべず、自分の不甲斐なさを悩み、打ち明けます。
そこが、母相手だからとも言えます。
眠れなくても、何か寂しくても。
妻にすら弱音を言えない、鈴愛にもまだ言えない。そんな律。
それが涙をこぼし、不甲斐ないとまで言い切る。
和子の病に苦しむ弥一も、律も。本作の男性は、弱くなります。
その弱さを、こうして出せるのも、和子がグレートマザーではなく、生身の母親だからです。
命が短い母なのに、悩んでばかりで、せいぜいイチゴを買うことしか出来ないことへの悩み。
そういう悩み苦しみが、出ていました。
本作のよいところは、男も、女も、全員が開けっぴろげになれるところ。
こんなふうに、自分の弱さを打ち明けられる朝ドラの男性登場人物も珍しいと思います。
そしてこの感動の告白を呼んだもの。
岐阜犬です。
凸凹人生の鈴愛と、律はじめ梟会の協力を得て作られた岐阜犬。
この発明品が、誰かの人生をよい方へと変えつつあります。
あの糸電話の続きが、こんなふうに素晴らしい時間を届けてゆく。
その味わいをじっくりとこれからも楽しみにします。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
いつも楽しく拝見してます。
気になったところが…
ブッチャーの母、麗子
ではなく 富子 かと。
麗子は姉です。
初めて、「わこさん」ではなく「お母さん!」と涙ながらに呼びかけた律。それも面と向かってでなく岐阜犬に向かって。
切な過ぎます。胸ふさがれる思いです。
律のようなイケメンでもエリートエンジニアでもない私ですが、初めて律の心に自分が響き合った気がしました。同じ「弱虫な男」同士として。
本当に本当にその通りです!
酷評と悪態は違う。Twitterがある今、脚本家や役者さん達と繋がりながら見れるドラマ。
嫌いなら見なきゃいい、嫌いなら繋がらなければいいっていうわけではありません。ただ本人に向かって匿名で毒を撒き散らす人がいることに驚きます。
病気をして和子さんの気持ちがわかりました。病人でもできる仕事、何かがあることは1日の希望、明日への活力になる。なにもすることがなくベッドに横たわる絶望感、狂おしいほどの孤独。
わかってくれてる!鈴愛に、北川さんに半分青いにどれだけ救われたか。最後まで愛し続けてみていきます。
まだまだ暑い日が続きます。
武者さんもご自愛くださいね。