時は2011年。
楡野鈴愛と萩尾律は東京で【スパロウリズム】という会社を設立。
試行錯誤を経てついに「そよ風の扇風機」を完成させました。
しかし、完成してから律の衝撃発言が……。
価格が高い!
少なくとも3万円はすると見込んでいます。
そして律は、一度、扇風機を盗もうとした津曲に、この製品の販売を頼み込むのでした。
【150話の視聴率は22.9%でした】
もくじ
獣の嗅覚でグリーンクロワッサンを探知!
恵子は緑色のカゴに入れたグリーンパン2号を抱えて、【スパロウリズム】を覗いています。
結構美味しそうに見えて来たこのグリーンパン……NHKのスタジオを見学すれば食べられます?
てか、コラボカフェありませんかね。できれば五平餅も一緒に食べてみたいんだよなあ。
教室の入口には「会議中」の文字。
恵子が遠慮して立ち去ろうとしたそのとき、鈴愛が飛び出して来ます。
「待って! パン食べます!」
この戦国武将的なヒロインは、兵糧の気配を察知するのが早いのだ! どうやって察知した!
【資 金 調 達 計 画】
『エヴァンゲリオン』風味の字がどどーんと出る中、会議中です。
いいなあ、こういう遊び心。これも時代の雰囲気を投影させているのかも。いや、エヴァの放送からは結構年月が経っていますね。直撃世代は長く直撃しっぱなしで、使いたがったもんなのです。
電博堂の課長まで務めたんだぜ
津曲は、鈴愛をお嬢さん呼ばわりした岩堀の工場を抑えておりました。
投資家集めも絶対できるとノリノリ。こやつめ、昨日加入とは思えない存在感を発揮しおって。
電博堂の課長まで務めたんだぜ、とやる気まんまんの元業界人です。ゴルフもこなして、人脈作りだけはバッチリ。律はそういうのが苦手なんだ、と感心しております。
このへんもうまいよなあ。
律と津曲の息子・修次郎って同じ創造性重視タイプなんですよね。元業界人の津曲ならば、こういう息子のことを理解しないか、ハッパかけてもおかしくないと思います。
「友達を作らないと駄目だぞ〜。人脈は大事だ!」
って、そんな風に言いそうですよね。
それが、自分と違うタイプを理解したからこそ! 昨日の名言ラッシュ。理想の父親になれたのです。
津曲も、成長している!
同質ばかりを求めるではなく、自分と違うものを受け入れることは、人生を良いものにしてくれますよね。
イコイノバでの洒落たプレゼン
津曲は、プレゼンなら動画、スライドショーが必要だとペラペラ喋り出します。
プレゼンの前に食べ物やシャンパンを出したりしたら、と恵子も乗っかってきました。
一瞬、鈴愛と律は【サンバランド】のプレゼンとを思い出すのですが、「それは間違っている」と恵子がツッコミを入れるのです。お、おう、まさかあの【サンバランド】がまた出て来るとは。
プレゼンはこのオフィスでやる。
【イコイノバ】を使おうと言い出す恵子。いいね、いいね。洒落ていて、素敵なプレゼンになりそうです。
これも時代性の違いですよね。
バブルのイケイケドンドンで取り込もうというものではなく、オシャレでスマートな雰囲気をアピールする――そういう方向性ですな。
そんな妹の提案に、冴えているなあ、と喜ぶ津曲です。
なんせ当初は、恵子を恥ずかしがって紹介したがらなかったほどですからね。全身緑の変な奴扱い。それがここまで変わったんですから、津曲が一番成長しとるがなっ!
おそろしい……最終週直前なのに、脇役の成長まで描く本作。底が見えんぞ。
鈴愛だけが折れてくれたら……なんてゴリ押ししない
ここで津曲、問題は動画だと言い出します。
動画投稿サイトとSNSも隆盛している時代、確かにそれは大事です。
そういう時代の流れをきっちりと入れてきます。
「あの……涼ちゃんに頼むのはどうかな」
そうか、そう来たか!!!
早速、鈴愛から連絡を受けた三オバは作戦会議をしております。
「どうしていきなり会ってくれなんて」
めありーは、許してやろうと思ったのではないか、と言い出します。
しかし、麦はシビアです。
安く腕のいい映像監督を使いたいだけではないか。
と、最終的に、光江が、どちらでもいいと意見をまとめます。涼次が鈴愛と花野に会うことができるならば、それでいいじゃないか、というものです。
そういえば光江は、鈴愛に対して一度提案したものの、すぐに引っ込めておりましたね。まず元夫婦が仲直りしてから、親子再会もできるのだという、前向きな提案です。
この元夫婦、ともかく鈴愛が折れたらいいという風に、ゴリ押ししなくてよかったなぁ。
鈴愛があくまで許せるまで待っています。和解って、そういうものだと思います。
花野が父親と会える状況を作らない鈴愛に、批判があったことは知っておりますけれども、ヒロインは人間です。
どんな状況でもひたすら許せという、そんな押し付けを感じない本作、よいと思いますよ。
「詫びる気持ちと感謝の気持ちしかない!」
こうして鈴愛と涼次は、和解の席へ。
「お久しぶりです」
「あの時は本当に申し訳なかった! 僕は勝手で、許してもえらえない!」
挨拶する鈴愛に、頭を下げる涼次。
今回声を掛けてもらえてうれしかった、できることならば何でもすると言い切ります。
「詫びる気持ちと感謝の気持ちしかない!」
そんな涼次に、「売れてよかったね」と声を掛ける鈴愛です。この鈴愛の表情が、素直に喜んでいるようには見えない。そこが本作らしさです。
こうして涼次がプレゼンムービー担当者となり、オフィスにやって来ます。
そよ風の扇風機から風を浴びて、柔らかいと確認。そこへ律も登場しました。
「初めまして」
「初めまして」
挨拶をする二人。
より子を遠くから見た鈴愛のような反応はありませんし、結局鈴愛と離婚してはいるわけです。
律、どう思ったのかな?
表情からすると余裕たっぷり。
どうでもいいのか、考えないようにしているのか。ちょっと真意は測りかねますね。
同業者としての悔しさ嫉妬が先に来る
涼次がほぼ実費だけで作り上げたという、プレゼン映像を見る鈴愛と律。
鈴愛は涼次への複雑な思いを語ります。
「才能あったんだな、って思う。嬉しいような、悔しいような」
律は「悔しさがあったんだ」と言います。
「漫画家の端くれだった」
そう語る鈴愛。このあたりが彼女らしさです。
鈴愛と結婚したままなら映画監督の妻だったのに、とは思わない。元夫への未練や愛情については語らないのに、漫画家としての才能が欠如していた、成功できなかったことについては悔しさを滲ませます。
鈴愛はこういうヒロインです。
成功する夫の妻になることが、ゴールではない。
自分で何かを作りあげること。常にスタートを切り続けてこそ。そういう人間なのです。
こういうところが斬新なんですよね。
女は恋愛のことばっかり考えているという偏見も世の中にはありますが、本作はそうじゃない。
鈴愛はこうです。より子は再婚するし、津曲妻は出世に邁進しております。
むしろ律、正人、津曲あたりのほうが、別れた相手に未練があるかもしれません。
心理的にも女性の方が、恋愛については切り替えが早いという話がありますし、実際に周囲を見ていてもそう思えます。
ただ、そういう女のリアリティあるサバサバ感を、フィクションで描くと、そういうのを認めたくない層もいるわけで、そこを盛られるわけですよ。
仏壇前で鈴を振る度に死んだ夫が出てきて、そのアドバイスがないと先へ進めないヒロインとか……。
本作はそういうことをしない。
妥協しない。
盛らない。
そこがいい!
「持つべきものは才能のある別れた元亭主!」
そう吹っ切ってしまう鈴愛です。これぞ本作らしさじゃないですか。
「鈴愛は悲しくない。マグマ大使の笛がある」
「立ってるものは何でも使え。自分を捨てた旦那すら使う。私らしいでしょ。転んでもタダでは起きない!」
続けて言い切る鈴愛に、律は涼次と和解のきっかけが欲しかったんでしょ、花野のこともあるし、とソッと告げるのでした。
「俺は鈴愛が悲しい。鈴愛がどんどん悲しい」
律はそう言います。
辛い過去すら振り切って茶化す。本音を隠しているように見えたのかもしれません。そんな風に強がって、素直に悲しみを表現できない鈴愛が悲しい、そう見えたのかな。
しかし、鈴愛は力強く言い切ります。
「鈴愛は悲しくない。マグマ大使の笛があるから。あれがいつだってあるから。吹けば律が来るから。ちがう?」
「ちがわん。あってる」
そうさそうだ、これぞ本作の集大成だ!
鈴愛と律、離れていてもどこかで繋がっていた!
だからここまで来られたんですね。
鈴愛の悲しみを消してくれる、それが律。だからこそ鈴愛は、悲しくなんてならないのです。
2011年早春3.11――あの日が訪れた
そしていよいよ【そよ風の扇風機】プレゼン当日――。
恵子が飾り付けを担当し、律もスーツを着用。
沢山の人が来ました。これも津曲効果かな?
鈴愛もフォーマルなドレス姿で、プレゼンを開始して、自然の風を再現する、そう魅力を語ります。
そこへひらひらと、蝶々まで飛んでくるのです。
「そよ風の扇風機に惹かれて、蝶々まで来てくれました」
そう語り出す鈴愛。
涼次のプレゼン映像も流れて始めました。
しかし、ここで異変が!
映像が映っているテレビが揺らぎだします。
青い綺麗な蝶々も飛んでいってしまいます。
時は2011年早春。
3.11――あの日が訪れたのです。
今日のマトメ「全員が当事者じゃないのか?」
本当に来週が最終週……なの?
あらすじやサイトを見て、信じたくないような、信じられないような気分で一杯です。
本当に鈴愛は、何でも使いますね。
ここで涼次が出て来るとは!
人生の凸凹道が生きている。そんな力を感じます。
この元夫がらみも、鈴愛らしさ全開です。
彼女が悔しがるのは、恋愛の成就よりも才能を発揮できるかどうか。涼次に未練はゼロなのに、漫画家としての成功についてはまだ心残りがあるという、そんな描写にぐっと来ました。
鈴愛は「かわいい」ヒロインではないですか?
いや、鈴愛はかわいいですよ。晴も言う通り、かわいいところが一杯あります。
けれども、世間の求める「かわいいヒロイン」とは違う。
従順で、言い返さなくて、ゆるふわ癒し系で、声が高くて、動きもゆったりしている。そういう「かわいいヒロイン」ではないです。
もしもそんな性格しているならば、涼次にもっと未練タラタラでしょう。いや、ふんわりと許しにいくかな。
そういう「かわいいヒロイン」というのは、ひっかかない猫、噛みつかない犬のかわいさを要求されているのだと思います。
見ている相手が、こんなヒロインならば御しやすくて、言い返してこなくて、脅威になんかならない。ナメきった対応をしても大丈夫。そういうふうに安心できる像です。
鈴愛はそうじゃない。
御しやすいヒロインじゃない。
いや、むしろ律しか手に負えない!
そう思わせる魅力があります。
こういうヒロインが朝ドラで見られるなんて、素晴らしいとしか言いようがありません。ああ、でも、来週が最終週かorz
ドラマが終わっても、鈴愛は私の心に住み続ける!
それは間違いないな!
ラストで起きたあの展開について。
「軽々しく震災を扱わないで欲しい」
という意見もあるようです。
この手の意見ってどうしても出ますよね。
リーマンショックもきっちり描いた本作です。
むしろ2011年を描くというのに、あの震災を避けたらばそれはそれでバッシングを受けたことでしょう。
そこから逃げるような作風とも思えません
【当事者でもないくせに震災を語るとは】
という的はずれな批判に至っては、1ミリも気にする必要はないでしょう。
それならばもう朝ドラ(どころか、あらゆる作品)がダメになってしまいます。
朝ドラにおける関東大震災、太平洋戦争。これは当事者が描いていないうえに、事実誤認と歪曲が酷すぎてどうかと思うレベルの話ばかり映像化されています。
どの作品でも『カーネーション』まで達成しろとか、『ごちそうさん』レベルの史実取り上げをしろとまでは望みません。
しかし、見るに堪えない酷いものもありました。
前作『わろてんか』における、関東大震災をダシにした陳腐な母子再会劇、中国大陸慰問、戦時検閲のデタラメ、空襲時間ずらし、ロングヘア兵士。むしろ、正確な描写が一つでもあったのか?と突っ込みたいレベル。
当事者でなくとも、真摯な取り組み、調査があればわかります。
まっとうな描写ができます。
それこそ脚本家はじめスタッフたちの苦労の結晶でありましょう。
もうひとつ引っかかる点。
そもそも当事者というのは、被害の大きい県民の方を指すのでしょうか?
これもどうかと思います。
東京を含めた関東地方だって、揺れて被害も受けています。
経済規模を鑑みても全国で流通に乱れが生じたり、映像を見て心理的負担があったり。
あの震災の当事者ではないと言い切れる人が、果たして東日本、いや日本のどこにいるのでしょうか?
今だって日本全体で続いている――あのことを描いてこそ、得られるものもあると思うのです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
毎日、本当に楽しみに拝見しています。
こちらのドラマ評は、私の思っていることをずばり表現してくれていて、いつも「そうそう!その通り」と思いながら、読んでいます。このドラマのメッセージは、スゴイなと思います。人生は、成功ばかりでない、失敗や神様どうして!!ということが自分の身にふりかかることもある、でも前を向いて進んでいこうという、ドラマの根幹にあるメッセージに勇気づけられる人は沢山いることでしょう。
離婚とかシングルマザーとか、今までの朝ドラで取り上げてこなかった人生を中心に据えたというのもいいですね。
こんなにはまったドラマは、初めてです。もう半分青いロスどうしようという感じです。
残り5回ですが、武将ジャパンさんのドラマ評を楽しみにしています。
先日の「あさイチ」興味深かったです。本作は当て書きが多いと知っていましたが、佐藤健さんは素顔もリツですね。お話の内容はとても知的で、脚本家さんの意図をしっかり理解し、熟慮して演技された様子がよく分かりました。時々見せるシャイなしぐさも魅力的です。それに対して、佐藤さんや北川さんが説明しても全く納得されない華丸さん、様々な受け取り方があることを改めて感じました。
少なくとも私にとっては全く違和感のない展開で、キラキラとしたセリフに陶酔できた稀有な作品です。武者様のレビューは大変参考になりました。書かれたように、伏線の回収もあるのですが、あと1週間になっても次々と事件が起こります。北川さんが、「しっぽまでアンコの詰まった作品」と言っておられました。また、「最後は皆さんの期待する結末」とありましたが、「出演者も驚くラスト」という情報もあり、一体どうなるのか、目が離せない状況です。
この回も、大好きした。
スズメの質問に、どう、律が答えるのか、と思ったら、岐阜弁でした。とてもしっくりきて、そうか、そういう風にきたか、と、感心しました。
ということで、あの場面は、
ちがわん、あっとる
で、お願いします!
毎日が濃くて、実に楽しませてくれるドラマだと思います。
漫画家編まではよかったけど、その後は展開が早すぎるとか、話がとっちらかってるとか、そういう批判もあるようですが。もともとこのドラマは「ちょっとうかつだけれど失敗を恐れないヒロインが、高度成長期の終わりから現代までを七転び八起きで駆け抜け、やがて一大発明をなしとげるまで、およそ半世紀の物語」という公式紹介の、その通りの物語なんだなーと、今つくづく思います。漫画家を辞めてから、結婚、出産、離婚、センキチカフェ、ヒットエンドラン、屋台、そして現在とまさに「駆け抜ける」スピード感がすごかった(笑)。でも要所要所でかなりスローで時間を使うシーンもあって、緩急がしっかりあるので物足りなさは感じないです。今週の律とのベッドでのシーンも、たっぷり見せてくれて、十分にドキドキ出来ました(笑)。
毎日、15分とは思えない濃さと満足感を与えてくれるこのドラマも、いよいよラストですね。どう締めくくられるのか、本当に楽しみです。
「半分、青い」残り一週間でこのサイトにたどり着きました(もっと早く知りたかった)。青春の挫折について、夫婦関係について、ものづくりについて、様々な考察ひとつひとつに深くうなづいています。
今回も、先週金曜日の、唐突に思えたユーコとのシーンの意味がわからずにいたのですが、ここにつながってたんだな、と(あの回のレビューがないのはネタバレになるから?)。「あまちゃん」の時はまだ記憶も新しかったし、もっと前振りがわかりやすく、それでもわかっていてもショックでしたが、あれから7年たってまたあの痛みを思い出しました。風化させてはいけない思いだな、と。ほんとに深いドラマだなと、改めて思います。
残り一週間、このレビューと共に味わいつくしたいと思います。ありがとうございます。
①津曲に対しても、涼次に対しても、あんな目に合わされたのに簡単に許しちゃうのは不自然で納得いかない、的な批判があるようですけど、それは本作とヒロイン鈴愛のハートを共有できず上っ面だけ見てる人の言い草でしょう。私から見れば、敵対する者・相容れない者をいつの間にか自分の陣営に取り込んでしまう鈴愛の痛快な姿は、昨年のおとわ井伊直虎をほうふつとさせます。見てるだけでアドレナリン出てくる感じです 笑
②一昨日のレビューに対するコメントで、スパローリズムの扇風機開発は進展するけどでもそこへ東日本大震災が間もなく来るぞ、と私は書きました。この展開予想を指摘したのはこのサイトでは私だけのようですな エッヘンオッホン (←お前は津曲か!と突っ込まれそうですね 笑)
あの日、都内で同様なプレゼンの会を16時から予定していました。震度5強だったかと。発表者も来れない人がいて、さすがに急遽中止になり、会場に泊まりました。家族との連絡が取れたのは、23時過ぎてからでした。
東大講堂での国家プロジェクトの成果報告会も途中で中止に至ったそうです。
製造業もガタガタになりました。
九州や東南アジアに逃げた知人もいました。
東北の方々とは状況は違いましたが、みな当事者だと思います。