昭和32年(1957)年8月16日。
帰宅したなつに声をかけてきたのは、信哉でした。
なつはバースデーケーキのお礼を言います。信哉は、ちゃんと出社できたのか心配していたのです。
そんな信哉に「あがってって」となつは促すのですが。
おおっ、信哉?
これはなつに恋をしている? 工藤阿須加さんのこの真剣なまなざしよ。
しかし、なつは天陽との間でも証明されましたが、この手のことに鈍い……。
ダンディ茂木のギフト
風車のカウンターには、会社帰りのサラリーマンが並んで座っておりました。
ちょっと浮いているのが、ダンディな茂木社長です。
服装からして違いますね。こういう明るい色のスーツに帽子というだけで、粋なのです。
その茂木が、
「女の子がいる店にも行かずに待っていたんだよ〜!」
と、亜矢美がからかいながら説明します。
なつがアニメーターになったというのをマダムから聞いて、お祝いのために待っていたのです。
そして茂木が取り出したのが、アニメーションの教科書です。
ディズニーアニメーターによるもので、わざわざ取り寄せたそうですよ。
なつは喜んでめくり、全部英語だ……と戸惑います。
茂木は、英和辞典もセットでプレゼントするのでした。
流石、社長! センス抜群で、こうきた。
新宿のベーカリー&カフェ「川村屋」で記念写真。オーナー・前島光子役の比嘉愛未さんはこの日にクランクインしました。マダムと呼ばれる女性の役に、とても緊張したそうです。#朝ドラ #なつぞら #広瀬すず #松嶋菜々子 #リリーフランキー #近藤芳正 #比嘉愛未 #工藤阿須加 pic.twitter.com/2KgiMth3LD
— 【公式】連続テレビ小説「なつぞら」 (@asadora_nhk) April 30, 2019
「『白蛇姫』は色っぽくてよかった。日本でも頑張れるんだね」
子供のモノと見下さずに、ちゃんと見て、そして大人で粋な社長らしい感想を言ってくれる。具体性があるのがいいですよね。
ただぼんやりと、
「すごぉ〜〜〜い!」
「よかったですぅぅ〜!」
みたいなことを言われると、おだてているのかな? って、疑心暗鬼になってしまうタイプもいるでしょう。
この一言、実に茂木らしいと思います。
女の子のいる店が大好きで、すぐにその方面へと向かって行く。そういうダンディプレイボーイらしい。
それに、日本でもいける、とサラリと言うのです。
トレンドに敏感な彼としては、そういうこともキャッチしなくちゃなりません。なんせ書店の経営者ですからね。
なつは辞書を抱え、一生大事にすると誓います。
健気といえば健気ですが、ここで茂木が照れるのです。
「買い換えてよ。それが商売なんだからさ」
自分の贈ったものを大事にされるのはうれしい。
けれども、そこを素直に認めないような、そういう感じですね。
マダムといい、茂木といい。
咲太郎やなつ相手に疑似恋愛をするような気持ちは、かすかに滲んでいると思います。
けれども相手は「子供」。
決して本気ではなく、憧れられる、そんなカッコいい大人でありたい。そういう粋を感じるのです。
千遥の生きる力を信じているから
信哉はなつの自室にあがります。
「僕にできることがあれば言ってくれ」
彼は千遥のことをふまえてそう言うのです。
今日は、なつが心配で仕事も手に付かなかったのかも。
なつは千遥のことを口止めして、周囲には心配をかけないように黙っておくと静かに告げます。
けれども、北海道には知らせておくと。手紙の住所をたどって行く可能性を考えているのです。
「暑いね」
ここでなつは窓を開けます。
現代にはない、新宿で夏の夜に窓を開けると涼しい――そんな時代があらわれています。
なつは静かに語り始めました。
「たった6歳の子が、字もろくに読めないのに、大人から逃げ出すなんて。そんな勇気、よく持てたよね。お兄ちゃんも私も、そういう千遥を信じてる。私は千遥の生きる力を、信じてるから」
「僕も信じてる」
「ありがとう」
そんなことをして無謀だった、考えなしだった、そう罵るわけでもない。
大人の上から目線ではない。
子供なのに、そんなふうにできるなんて勇敢だ。そう褒めるなつ。
やっぱり彼女は、アニメーターは向いていると思います。
上から見下すのではなく、子供の持つ力を信じているのだから。
そう静かに語る広瀬すずさんの顔も、受け止める工藤阿須加さんの顔も、力強く素晴らしいものがあります。
ポスターに名前を載せたい
なつが信哉と下に降りると、亜矢美がダシのしみたおでんを勧めて来ます。
そこへ咲太郎も帰宅。
亀山蘭子が、また東洋動画の声優をやると告げます。
『白蛇姫』が好評だったようです。
あの映画が大ヒットしている――と、子供がわざとらしく夢中になる場面を入れたわけではない。
それでも、茂木といい、蘭子の仕事といい、ヒットしたことはわかる。
大杉社長も浮かれていたっけ。
また、なつと仕事ができると、咲太郎は嬉しそうです。
紆余曲折を経て、きょうだいは助け合う関係になりましたね。こういう着地があるとは。
ここで咲太郎が、店に貼られた『白蛇姫』のポスターを見せます。
思わずハッとするなつ。
ポスターに名前が載ることに気づいたのです。
その名前を、千遥が見つけるかもしれません。これはよい着眼点です。
「ここに、私の名前を載せてみせる!」
当時のポスターは、今よりも大きく名前が載るものでしたね。
このポスターもアップになるので、小道具担当者はIllustratorを使っていてもわからないように、気を使ったと思います。
お疲れ様でした。素敵な昭和レトロポスターです。
亜矢美が浮かれ始めます。
彼女もムーランルージュの看板に名前を載せたくて頑張ったって。
そんな亜矢美に自身も頑張ると宣言するなつ。
それに続く咲太郎に、亜矢美はこう言うのです。
「お前だよー、がんばるのは!」
やっぱりこの人も、ムードメーカーで最高です。
亜矢美は華がありますよね。ちょっとキツいことでも彼女の言葉になると柔らかく受け止められる。
なつは自室で、茂木にもらった本を苦労して読んでいます。
顔の伸び縮みの部分を、熱心に翻訳しつつ……こんなことなら英語をもっと勉強しておけばよかった、って。
なつはまた、心の夢を追い始めたのです。
そのいつかを信じて――。
そう父が見守るのでした。
富士子は手紙を抱きしめる
富士子は、なつの手紙を一人で読んでいました。
お兄ちゃんと相談して、千遥のことはもう一度警察に届けました。
千遥のためにも、一生懸命生きます。
千遥にも、お母さんみたいな人がいることを、信じています。
お母さんも、一緒に信じてください――。
手紙を抱きしめる富士子。
そこには、まぎれもない母子の感情がありました。
なつが主役で、夕見子が祖父に似た不器用軍師ということもあるのでしょう。
それを抜きにしても、血の繋がりのないこの二人は、親子の情愛が強く描かれていると思います。
血縁だけではない美しいものが、そこにはあるのです。
比較するのも何ですが、養父母関係でも『マッサン』よりも濃密で巧みです。
まぁ、あれは史実で不仲という事情もありますが。
下山班でがんばろう
そして秋――。
『わんぱく牛若丸』の制作が始まります。
下山がリーダーの下山班に所属のなつ。
リーダー:下山
アニメーター:マコ、堀内、茜、なつ
女性アニメーターで交流できればよいという、そんな配慮で固まったと思われます。
まぁ、性別が同じでも気が合うわけじゃないんですけどね。会社あるあるで。
ここでなつはこう言います。
「責任を持ってがんばりましょう!」
「下っ端のあんたが鼓舞してどうすんだよ」
出た!
マコのパンチ、いきなり出た。茜は謙虚かつ、マコを恐れているようです。
すかさず、なつが
「足を引っ張らないよう、がんばりますっ!」
と言い直せば、マコはその殊勝さに納得したのか、フッと軍師の笑みです。こ、こやつ!
下山はリーダーらしく、ランチを奢ると言い出します。
マコがいるのに、穏やかなランチになると思いますか……無理だよ!
※続きは次ページへ
千遥の無事を祈ることと、なつの夢を叶えることを、一直線に重ねたことは見事でした。
なつは、千遥がそんな辛い目にあっていたのに自分だけ夢を叶えようとしていると葛藤していましたもんね。気持ちが反対方向に引っ張り合っていました。
なつの夢が叶ったときに、千遥と再会できる。いまは、気持ちが同じ方向を向いています。
本当によく考えられていると感心しました。
松嶋菜々子さんつながりで…
前世があの『火垂るの墓』の「鬼叔母」だった富士子の、手紙を抱き締める姿。
成り行き次第で、あの「前世」の繰り返しという事態だって、起こり得ないわけではなかった。千遥のことを打ち明けるなつの手紙を前にした、富士子の姿には何とも複雑な感慨を誘われるものがあります。
前世が「書店員」だった茜の今後も、注目したいです。