上方落語の月の井一門には、兄弟弟子の団真と二代目団吾がいました。
団吾を襲名した天才肌の二代目に対して、劣等感を抱いていた団真。初代団吾の一人娘であるお夕は、その団真に惚れ込み、駆け落ちを持ちかけます。
しかし、お夕と駆け落ちした団真は地方のドサ回りをするしかなくなり、困窮した挙げ句、弟弟子の団吾を名乗って「偽団吾」に……。
そんな団真とお夕と出会ったのが、大阪・天満で寄席を経営する主人公のてんと藤吉夫妻です。
仲違いした団真とお夕を復縁させるため、てんは団真と団吾の競演させてお夕に見せようとします。
もくじ
団真の高座に団吾がやってきて……
出囃子が流れる中、団真が高座にあがります。
すると観客が騒ぎ出しました。団吾がやって来たのです。
すかさず、てんが満面の笑みを浮かべます。
ここは、団吾と団真の衝突を懸念して、ハラハラした顔になるのかなぁ、と思ったら「計算通り」という表情で、拍子抜けというか、やっぱりなぁというか。ここも神視点が発動していて、てんには不安などないかのような不自然さです。
観客席の中には、心配そうなお夕の姿も見えます。
ここで団吾が盛り上げたところで、
「男女の愛も、永遠の契りも信じてない。恋敵の兄弟子に演じてもらう」
と言いだしました。
団吾は扇でトントンと団真の背中を叩きます。
かつて緊張を隠せない団吾をリラックスさせるようにした団真のおまじないとのことです。
突然、団吾が団真を応援するようになっています。一体いつ何をキッカケに団真を応援するように心変わりしたのか?
そんな大事なシーンを見逃してはいないと思うのですが、気づかなかっただけ? カス芸人と一緒の高座なんか絶対に上がらないと睨んでいたのは、さほど昔のことではないと思うのですが、
つい最近まで団真の落語をバカにしていたのに
そしていよいよ、団真が「崇徳院」を演じます。
ここはいかにも感動させたいBGMとヘラヘラ笑う藤吉とてんの顔が邪魔ですが、北村有起哉さんの熱演で大変見応えがあります。
藤吉は「流石団吾師匠の兄弟子や……」って、さすがに今更過ぎて……。
ここで思い出して戴きたいのが、先週団真が「崇徳院」を演じた時の藤吉の態度です。↓
団真の落語を聞いた藤吉は、ぶすっとふくれ面で、つまらなそうな顔をしておりました。
それが突然、なんですか、この掌返し!
結局、こういう人なんですよね。
芸を見る目は誰にも負けへんというのはあくまで自称であり、誰かが貼ったラベルをなぞることしかできない。
中身が同じでも、
・先週は「偽団吾」
・今日は「団吾の兄弟子」
というようにラベルが変わったから、やっと面白い、と自信を持って言葉に出せるわけです。
嫌味とかではなく、脚本の狙いも本当に芸の分からないダメ席主として描いていきたいのかもしれません。
※まぁ、その場合、よっぽど吉本せい役のてんがデキる人じゃないとまずいと思うのですが
ホント、お夕まで残念な人にしないで(´・ω・`)
団真が演じ終わると、お夕がやって来て古女房のようにしっとりと、羽織をたたみ始めます。
お夕のこの仕草は文句なしによいと思います。
そうは思うのですが……唐突というか、ついこの間までいろいろ厳しい発言等を思い出すと、なんでしょう。団吾からもらった高い帯しめてますし……。
ここでてんと藤吉が、
「やっぱり夫婦やわ。われても末に逢わんとぞ思うやな」
と笑って、この件は終了。
揉めに揉めた月の井一門の三角関係もアッサリ終わりちゅうことらしいですわ。
そこへ借金取りに追われた団吾が逃げ込んで来ます。
かばうてんと藤吉。
すると団吾が突如言い出します。
「おもろい高座をやりおるし、けったいな女子もおる。よっしゃ、出たる。あんたらのところでやったらおもろいもんできそうや。契約金1万でええやろ! 今すぐくれや!」
何がなんだかわかりませんが、北村笑店は月の井団吾をゲットしました。
団真は新聞記事に掲載されて、これで落語家としては復活を遂げたようです。
どつき漫才も開始確定。
ここでナレーションが、この無茶苦茶な展開を無理矢理まとめます。
「こうして北村笑店は、笑いの新時代を引っ張って、一層輝いていくことになるのでございまぁす!」
そして、てんもカメラ目線になって、ドヤ顔で一言。
「おきばりやす!」
え、えぇ……? なんだか大事なことがすべて唐突すぎて、もうダメだ><;
今回のマトメ1「藤吉とてんの夫婦喧嘩が圧倒的不要」
とっちらかった一週間。ラストに落語のうまい人を出してなんとなくまとめるというのは、第7週の焼き直しです。
団真役の北村有起哉さんは本当に素晴らしかったと思います。
が、ストーリー展開は破綻しまくってて、もう無茶苦茶。
致命的なのは、この三角関係の当事者の心理状態が不明であることでしょう。
団真は途中で逃げ出すほどの心理的な弱点を、どうやって克服したのか。
団吾のまじない一発でなんとかなるとしたら、お夕の存在意義とは一体何だったのか?
お夕はいったん団吾の元に行き、そこで買って貰った帯のまま団真の羽織を畳むという、ぶっとんだ復縁。
一体彼女は何を考えていたのか。
一番の問題は団吾です。
あれだけ毛嫌いしていた団真をあっさりと許し、まじないまでかけてやって、お夕も手放した。そうした心境の変化がまったくわからない。
そして寺ギンとまと2万でまりかけた契約を蹴り、半額で北村笑店にする心理状態がわからない。
寺ギンが芸人を大量解雇すると行った時、一瞬、嫌そうな顔をしたのが伏線といえばそうだけれども、さすがに弱い。
どう考えても時間が足りなかった。
てんと藤吉のニヤケ顔と喧嘩シーンを全部カットして、月の井一門の話をじっくり時間をかけて描いていたら、それなりに面白かったはずです。
扇でまじないをかける場面なんてかなりよかったですし。
団真とお夕もベストカップルでした。
それなのにこんな展開って……。
そもそも団吾を加入させるのに、二週間も使って三角関係、しかも中途半端なものを描く必要があったんでしょうか。
いや、三角関係だけに絞れていればまだよいものを、てんと藤吉の喧嘩と和解まで入れた結果、どう考えても尺が足りなくなっています。
吉本興業の成立史はどうでもよくて、自分の得意分野に引き寄せつつ、落語ネタをからめてやりたいという意図は強く感じます。
第9週から今週までの3週間、そういうことをしたかったのでしょう。
その結果、芸能史に残る「しゃべくり漫才」の発明がひっそりと葬られ、「どつき漫才」にまでタイムリープするというとんでもない結果に。
今回のマトメ2「てんがキュートとかどうでもええ」
しわ寄せは来週以降も続きます。
史実的には、本来、寺ギンのおちゃらけ派も、文鳥の伝統派もとっくに崩壊して、北村帝国に吸収支配されている頃です。
それを来週は、寺ギンの陰謀で北村笑店が潰されかける話になるようです。
武田勝頼が織田信長を追い詰めているような、架空戦記レベルの展開となりそうで。
そしてラストの、唐突過ぎて違和感すらあったてんの笑顔。ヒントは以下の記事かもしれません。
◆来週の『わろてんか』は寄席と夫婦仲の危機! てんがキュートに踊ります
大人気放送中の朝ドラ『わろてんか』。来週の見どころを紹介します!
三味線に合わせて舞うキュートな、てん(葵わかな)。もしかして、芸人として寄席デビュー!? でもその腕前は、お世辞にもうまいとは言えないようで……。
なるほど。違和感の正体はこれです。
作っている側は、てんをキュートだと思っている、と。
だから見所として、てんが甘ったれたブリッコ口調で話したり、下手くそな踊りをしたり、深刻な場面でもニヤニヤしまりなく笑う顔を見えたがるわけです。
って、主演女優のプロモビデオじゃないんだから……。
吉本せいをモデルにして、いつまでも成長しない、女学生みたいな女の子の未熟な芸を見せるというのがもう、根本的にズレているのではないでしょうか。
立志伝系と可愛い女の子を愛でる系は別物のはず。もっと真面目に作って下さい。
「おきばりやす!」
ってハリセンで頭をスパーンしたいのは、こっちやで!
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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