マコは、千夏に寒いからマコプロに入るように促します。
千遥はコートを着ていますし、季節は秋なのです。
「マコさん、ちょっとすみません」
なつはマコに頼み、姉妹二人になるのでした。
なつの届けた誇り、受け取る千遥の決意
なつは千遥を迎えます。
「また来てくれたのね」
「先日は、ありがとうございました」
「こちらこそ、おいしかった」
千遥の料理を味わうことで、なつは安心していました。
どんな誇りを持って作っているのか。
そのことが伝わってきたのだと。
「私も奥原なつの作品をずっと見てきて、強く生きているとわかりました。ソラを見ていても、わかる」
「千遥に届いたなら、ほんとうにうれしい」
「だから私も、食べて欲しかった。私がちゃんと生きてきたと、わかって欲しかった」
「それはちゃんとわかったよ」
「お姉ちゃん!」
いいなぁ、この姉妹!
夫のスペックではなくて、まず自分たちが誇りを持って働くことに、主眼を置いている。
女性だって、仕事で自分を証明できるはずだ。
そう思い、戦っている人がいること。本作の中にも、戦う女性はいるのでしょう。
このクレジット名に誇りを刻む女性の物語。
OPにある名前のことも、真剣に見てしまいます。彼ら自身の誇りがそこにはあるのでしょう。
でも、千遥の運命は辛い。
「私、あの店を辞めようと思う」
理想の男はクリストフとイッキュウさん、そんな時代に
ここで、イッキュウさんが出てきて一礼します。
なつは千遥に断ると、イッキュウさんにこう告げます。
「千遥と話す時間が欲しい。少しの間、千夏ちゃんをお願い」
「うん、わかった」
イッキュウさんは素直にうなずきます。
どうしてこんな短くて、どうでもよさそうな場面を入れるのか?
NHk東京は、ここまで到達したか……。
姉妹が話すことのできる時間は、どうして確保できるのか?
それはイッキュウさんのおかげです。
「男は解決脳!」と、割り込んでくるとか。
「子育ては女のすることだろ!」と、千夏の面倒を嫌がるとか。
イッキュウさんがそんな態度であろうものなら、姉妹の対話は成立しません。
これは『アナと雪の女王』におけるクリストフと同じですね。
◆「アナと雪の女王」のクリストフはなぜ業者扱いなのか? 夏野剛×黒瀬陽平×東浩紀の3氏が男性視点で新解釈
『アナと雪の女王』の評価は、男女で割れたと指摘されています。
いろいろと理論武装していますが、まぁ、まとめると簡単なんですよね。
「男を前面に出せやーーーッ!」
「女だけで完結するなーーーッ!」
王子様=男が仕切って解決して、キスでお姫様を蘇らせる。
そういう下駄履かせサービスからディズニーが撤退したことに、心理的な打撃を受けている。
だからこそ、あんなもんは嘘だ、駄作だ、もてはやす女はバカなんだと怒る。
でも……彼らのそういう意識は深層心理だから、本人自身もなかなか気づかないんですよ。
だから、こういう意見にはこれでいいんです。
「すこーしも寒くないわ♪」
※“男にとっての完璧な女の子”とはさようなら♪
姉妹が見せる、究極の愛と誇り
「散らかってるけど、座って。最近ここもほとんど仕事場」
なつは自宅へ、千遥を招き入れます。
そして姉妹は語り合うのです。
「優には我慢させてる。生まれた時から、仕事ばかりして」
「私も同じ」
「仕方ないよね」
ここの広瀬すずさんの笑顔よ。
ただのかわいいスマイルじゃなくて、いろんな要素を感じさせる。
・強さ:世間はいろいろ言うけれど、これが私の生きる道だ
・誇り:優に仕事を見せられる誇りはある
・愛:でも、私の家族、そして仕事への愛は強いから、私は負けないんだ!
「仕方ないよね」とは言うものの、強くて迷いはない。
まっすぐな笑顔なのです。
確かに、古い世間――アップデートできていない人たちは色々と言うでしょうよ。
なつは優に自分の理想のアニメを見せて、誇りや楽しみを彼女に与えているのです。
大成功ではありませんか。
母性神話を破壊する、そういう笑顔だと思います。
なつぞら126話 感想あらすじ視聴率(8/24)保育園落ちた、日本……なつは座り、促すのです。
「千遥のこと、何でも話して」
千遥は、語り始めます。
18歳で「杉乃屋」二男に嫁いだ。
そこは神楽坂、政治家も使うような料亭であった。
以前は、芸者の卵(半玉)として、お座敷に上がっていた。
なつに相手を好きだったのかと問われて、千遥は照れ笑いするようにこう言います。
「明るくて、優しい人……」
はっきりと彼女は言わないけれど。
そこに愛はなかったんでしょうね。そんな表層的な印象では、愛はわからないものです。
お金持ちで、見るからに極悪非道でもない。ルックスもイケメンだ。
その程度で、嫁ぐ女性はいる。アナがハンス王子に惚れるようなものです。
「でも、今は一緒にいないんです……別の女の人との、暮らしがあるみたいで。あの店があるから、我慢してた……」
今は亡き義父・春雄。
料理人の親方だった彼は、嫁である千遥に料理人としての才能を見抜きました。
そして、鍛えたのです。
彼こそが、千遥の親方でした。
調理師免許を取らせて、店も任された。嫁いだ千遥を一番受け入れた。
そんな義父でした。
泰樹や仲と同じです。エロ目線はそこにはない。
自分の何かを伝えるために、真剣に向き合った。たまたま相手が年下の女性だっただけ。そんなカッコいい男性の姿が、そこにはあります。
千遥の調理では、出汁をとる場面が多かったもの。最低でも三箇所はあったと思います。
その理由もわかります。
「店の味は、出汁で決まる」
春雄がそう語っていたから。
これだけの出番で、彼がどれほどの料理人なのか、わかるというものです。
強奪した材料を使う。
食材を熱湯へ乱暴にぶん投げる。
ガサツにぐるぐる回す。
それでドヤ顔しながら、味へのこだわりと語る酷いドラマがありましたっけ。
いくら番宣材料で、主演女優がわざとらしい笑顔を浮かべて、食事をしている写真を使おうと。
ああいう演出と脚本では、悲しいかな、説得力はゼロです。
あのドラマを褒めるということは、いかに食へ無理解であるかアピールするようで、私は御免でした……。
あの店は大事だけど
千遥は語ります。
「だから、あの店はとても大事。別れたら、続けられなくなる。結婚を続けるべきか、迷ってた」
そう、彼女の愛は仕事と誇りと義父へのもの。
夫はまったく言及されていなくて、清々しいほどです。
「でも、別れる決意がついた。千夏と二人で、どうなるかわからないけど」
その決意は、なつや咲太郎との再会のせいかもしれません。
千夏を連れてマコプロに来た時。
誇りと共に仕事をする姉を探してたどり着いた時。
決意が芽生えていたのかもしれない。
そして姉妹で仕事の決意を交換しあったとき、それは花開いたのでしょう。
これが究極の愛。
まさしく、エルサとアナのような姉妹愛があります。
アップデートできない男性にとって、それがいかにムカつくか。理解はできます。
ハンス王子を放り出して、クリストフは協力者で、姉妹が抱き合って【究極の愛】。
「俺の出番はー!」
いや、だからクリストフでエエやん。
ハンス王子になったら放逐一択やで。
千遥の夫は、さしずめハンス王子だな。
だってなつは止めるどころか、こうだもの。
「千遥が別れたいならそうしていい。千遥は何も悪くない」
この前の雅子と比較しましょう。
彼女は待機して、夫を受け止めればいいと受け流す術を伝授していましたね。
なつぞら147話 感想あらすじ視聴率(9/18)101作目も勇敢に続いていけよ「そのうち目がさめるわよ」
「私の所に、戻らないと思います」
「そんなこと言ったって、この店は、清二のものですからねぇ」
千遥の決断が大事で、悪くないと同時に言い切る。
なつとのこの差!
本作が大嫌いで、怖い人の気持ちはわかるんだな。
先日も指摘したんですけど、本作を苦々しい思いでご覧になられている方は、律とより子の離婚でも激怒していませんでした?
なつぞら139話 感想あらすじ視聴率(9/9)自分の幸せは、自分で決めなさい!女がありのままに自由に振る舞うこと。
それは彼女らを閉じ込めておけないということ。
閉じ込めておきたい男。
閉じ込められている事実を、無視して生きていきたい女。
本作は手加減なし。男とは、手柄すら女のものを簒奪していることもある。そういうところまで、告発してきた。
彼らにとっては、いちいち人生と価値観を逆なでされるようで、激怒することはもう宿命です!
でも、本作は止まりません。
覚悟はいいか?
私はできてる。
また家族になってくれる?
しかし千遥には、迷いはあるのです。
「だけどお姉ちゃん、私は自分の過去を隠して結婚した。浮浪児であること。きょうだいがいること。置屋のお義母さんにも迷惑かかるし、親権もどうなるか……」
なつぞら83話 感想あらすじ視聴率(7/5)戦災孤児の境遇を浮き彫りに千遥は悩んでいる。
もう限界だった。
「千夏にまで嘘をついて生きるのはもう嫌……私は堂々と生きられるようになりたい。そのために、本当のことを話して、あの人と別れようと思います」
「わかった」
なつは、妹の決意を受け止めます。
「お姉ちゃん、また家族になってくれる?」
「そんなの当たり前じゃない!」
「お姉ちゃん……」
「千遥はもう自由になっていい。堂々と生きていい。また一緒に、生きよう」
お姉ちゃん。千遥。ありがとう。別れていた姉妹は、またひとつに戻ったのです。
嘘をついて生きること。その苦しさ。
それはやっぱり、よくないこと。
誰にも悪意はなかったとは思います。
芸者にしてくれた千遥の義母・なほ子は、ずっと黙ってそのまま生きていけば波風が立たないと思っていた。
それは雅子もそう。
自分を押し殺して、じっとしていれば、女将として生きてはいける。
けれど、もう、そんなことはできない!
なつが自由に生きてきたからこそ、説得力があります。
※続きは次ページへ
個人的には千遥の夫にのしかかっていたであろう「男らしさの呪縛」も感じました。
・男(長男)だから、イヤでも料理の才能がなくっても店を継がなくてはいけない。
・男(長男)だから両親の進める好きでもない女性と結婚しなくてはいけない。
・男だから妻を持ち子供をるのは当たり前
…等々。
どんな旦那なのか、気になります。