スカーレット35話 感想あらすじ(11/8)火鉢の絵付けに心奪われ

喜美子は笑顔で、明日からでもすぐにでも働くと言い出します。
新しい仕事に早くつきたくて、うずうずしているそうです。

働き者やなぁ。えらいなぁ。朝から元気もらえるなぁ。

あかん! マフラー両側から引っ張ったらあかんて!

そして仕事の初日。
晴れやかなBGMが流れています。

マフラーをつけて、出勤準備が整いました。

ここで喜美子の服装を見たジョーがうるさい。

「お前、荒木荘ちゃうんやで! 天下の丸熊陶業やん!」

このぉ……すぐに天下天下言い出す昭和のおっちゃんがよぉ!
マツと喜美子から、働きやすい格好でいいと反論されます。こちらとしても、何があかんのかわからん。

ジョーはついて行くと言い出す。
子供扱いだと反論される。
本当に、ジョーがわけわからないことばかりを言ってウロウロしている。なんやねんもう。

そしてマフラーを外そうとします。

「こんなん長いの邪魔や!」

「まだ寒いさかいいるわな!」

父母両方からマフラーを引っ張る。あかん、首に巻いてるのに何しとんねん!

「お父ちゃん!」

結果的に喜美子の首を両親が絞める。
NHK大阪は、どういう絵を追求しとるんや!
本作スタッフ、常にうっすらとやりすぎ感があってええと思う。

結果的に、ジョーが負けた模様。
喜美子はマフラーをして、新職場に到着です。その高揚感と音楽がぴったり重なっています。

本作は結構型破りなBGMだとはいう。
確かにしっとりとしている定番とはちょっと違う。

けれども、そこに魅力がある。
喜美子のワクワクした顔。気持ち。鼓動と重なるようで、使い方が秀逸です。

ここで、喜美子のお仕事へ。

重たそうなフライパン。前髪をしまい、油と汗が滲んでいそうな調理場面です。

八重子と緑という先輩もおります。
大量の野菜と炒める調理器具で、力仕事だとわかるところも細かいと思う。

力仕事だからこそ、プロの料理人は男性だと思われがちですけれども、実は、女性だって重たいものを使って大量の食事を作ることはある。

女性定番の仕事とされる水甕での水汲み。そういう力仕事を男性がやらないのはどうしてなのか?
性別と筋力の差、それと労働区分は適性なのか?
ここ、結構大事だとは思う。

仕事が忙しいのは、昼食の1~2時間のみ。
陶工がドヤドヤと食事をする場面が入ります。

テキパキとしていて、レトロで、当時の雰囲気が出ていて、ほんの少しでもこれまたいい場面です。

昼食の時間帯が終わると、後はお茶の用意だけ。八重子と緑は、菓子をポリポリしながら世間話をしています。戦前ちゃうと姑に反論した。そういう話。

この二人も、そこまで大きな役ではないと思う。けれども、お菓子を食べつつ愚痴るおばちゃんとして、完成度が高いのです。

・結構声がデカい

・話す内容も手厳しい

・お菓子の食べ方も、無造作でありのまま

・中身もリアリティがある。戦前を生きてきた姑vs戦後を謳歌する嫁は定番ですね

昭和のおばちゃんと言えば、お菓子ポリポリしながら話している。
そういうイメージを描こうとしても、ディテールは大事です。

美人でメイクもヘアもバッチリとした女優が、お煎餅をつつましやかにパリパリして、劇中のことを薄〜く話すだけでは、あかんのです。

雑踏を歩く群衆とか。街で遊ぶ子どもたちとか。社員食堂での食事とか。こういうおばちゃんの会話とか。

そういう細かいところに、ものすごい気合を感じて、本作は見逃せません。

絵付け火鉢の魅力

喜美子は、ともかく働き者。
作業場各所へお茶の補充に向かいます。

「ああ、わかるけ? 火鉢のとこな」

「行ってきま〜す」

火鉢にやかんを置く仕事です。
食堂で沸かしたお茶を、それぞれの部署に配ります。

そして交換したやかんを持ち帰り、一日何度かお茶を替える。

事務員が働く部署もあります。ここには女性も見えますね。

「失礼しました」

「ご苦労さーん」

本作を見ていて驚かされるのは、視点にあると思うのです。

喜美子のような、やかんを運んで取り替える女性なんて、本来ヒロインではないはず。
背景のモブ従業員Aではありませんか。

けれども、モブにも人生はある。仕事はある。
そういう人たちが、どういう風に生きていたか。その仕事や境遇の苦労は?
自分たちも、ああいう人らをモブ、背景やな〜と見過ごして来たのではないか?
そう思うと、背中に脂汗が滲んでくるようなところがある。

その視線が残酷な形で、ここから出てきます。

喜美子は、丸熊陶業が取り入れ始めた絵付け火鉢に見入ります。
思わず微笑んでしまう。これはかなり凝った高級路線でしょうね。複数の色があり、複雑な絵で、風流です。

人生で初めて、火鉢が欲しいとしみじみ思えました。
火鉢て……エアコンでええやん。それなのに欲しいと思わされるのだから、映像の持つ力はすごい。

そう、そこは新部署「絵付係」なのです。

その部屋に入り、喜美子は目を見張ります。

初めて見る光景でした――。それはこちらもそう。ヒロインの気持ちとシンクロできる、そういう素晴らしさがある。

喜美子は職人に話しかけます。

「あの、何してはるんですか? 見せてもろうてもええですか?」

しかし、職人はムスッと咳払いするだけ。
そしてそこへ、城崎親方が入ってきます。

「関係者以外立ち入り禁止や」

喜美子がここで働いていると名乗っても、こうです。

「聞こえへんやったか? この城崎組の作業場は関係者以外立ち入り禁止や」

原下というメガネの職人が、すみませんと謝りながら喜美子を追い出します。

追い出されガラス越しに、じっと親方の仕事を見つめる喜美子。
弟子たちは熱心に頷いています。

その夜、川原家では、三姉妹が川の字で寝ています。
掛け布団は二枚。冬なのに。お布団くらい、早く買うてあげてぇな!

その夜、喜美子はなかなか眠ることができませんでした――。

寒いからではないのでしょう。
BGMが響いています。

身の丈に合わせてベリーハードモードや

ジョーカスの週8日飲酒宣言だの。

しょうもないマフラー首絞めだの。

アホなノリを間に挟みつつ、涙腺をビシバシ刺激する――そんな罪作りな本作。

今日は、喜美子がキラキラした目と笑顔で、火鉢作りを覗く場面でそうなってしまいました。

昭和らしいレトロなガラス。
今ほど透き通っていない、ちょっと濁ったガラス。

喜美子は可愛い。けれども、あの場所には入れない。
絵付け火鉢の場所からは、部外者と追い払われる。

人間に対してあんまりじゃありませんか。
それでも、これが常識。喜美子のような「お茶汲みの姉ちゃん」は家具と大差ない程度だと思われてしまう。

喜美子の魅力や知性は、かなり細かく描きこまれてきています。

だからこそ、追い出す周囲に腹が立つ!

公式ブログを読んでいても、演じる側が喜美子に惚れているとわかります。

「なんでや! きみちゃん最高やん!」

そう嘆きつつ、役柄として喜美子に冷たいことしなくちゃいけなくて、ジタバタ悩んでいるようです。
辛いやろなぁ。

こんなに素晴らしい喜美子。
それなのに、どうして喜美子は周囲から扱いが悪いのか?

それはやっぱり偏見と環境のせいでしょう。
あんな貧しい家に生まれて中卒、しかも女。身の丈に合わせて、適当に働いて、嫁に行けばええ。

そういう身の丈。喜美子の器に合わないちっぽけな身の丈で彼女を見るから、そうなってしまう。

さらに苦しいところは、喜美子自身も、自分のことがわかっていないところ。

妹に見せる紙芝居のために、綺麗な絵を描いて。

慶乃川相手につまらん陶器だと文句垂れて、草間宗一郎に叱られて。

陶器のかけらを【旅のお供】にしつつ、ちや子に高いかもと聞かされて浮かれて。

彼女の中には感受性があるのですが、身の丈に合わせるという無意識が、間違った方向へ向かわせてしまう。ジョージ富士川ならば、そこを素直に伸ばしたのでしょうけれども、そうはならなかった。

それでも胸の奥底には燻っていて、だからこそ絵付け火鉢に見入ってしまう。

周囲の偏見と、本人も無意識に合わせてしまうところ。
これに阻まれて、壁が二重にあるのです。

『カーネーション』では、糸子がミシンを見た瞬間、これがうちのだんじりやと閃いた。

『あさが来た』では、あさがパチパチはんを新次郎からもらって覚醒する。

『なつぞら』の場合、なつは両方あった。父が残した絵。天陽が見せた動く絵。泰樹の後押し。その後も、大勢の人が彼女を励まし続けました。

しかし喜美子は、どちらでもない。
胸の奥底にある小さな火種を、緋色に燃やしていく必要がある。

喜美子は、敵に囲まれつつ、戦わねばならない。
ここ数年屈指のベリーハードモードステージにいると思う。

『信長の野望』なら5ターンで滅亡しかねない、そんな勢力のようなスタート。

そこをどう面白く見せるか?
今日も期待は高まっています。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

1 Comment

一視聴者

音楽が、すごいんです。なんというか、情熱的。BGMの存在感が、いい意味で、際立っているように思います。
きみちゃんの辛い経験のとき、ピアノの旋律があまりにも美しくて体に異変が…(笑)、鼓動が早鐘を打ちました。

作曲家さんの底知れぬ力を感じながら、
郷愁を誘う色彩に安らぎをもらいながら、
個性に血を通わせる俳優の皆さんに敬意を覚えながら、豊かな15分間を日に二度、三度…と楽しんでいます。

日本の各地で、海外で、日常を生きる人々を力付けてくれているのだろうな。いい芸術って、こういうことかな。

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