川原家の台所で
川原家では、直子が暑い中、薪割りをしております。
『なつぞら』でも出てきた薪割りですが、信楽は北海道より暑いものです。
マツは喜美子からデザインのことを聞いております。
絵の上手い下手は関係ないという。マツが絵画金賞のことを持ち出すと、喜美子はこう来ました。
「そんなこと、自慢したらあかん!」
一番と二番を前にしたあの時の恥ずかしさが蘇ってきたのでしょう。視聴者の皆さんも同じ心境だったと思います。
喜美子は荒木荘時代のように、むしろ草間流柔道の気合を持ち出したほうがよろしいかもしれない。
精神性だ。
喜美子はこう言います。
フカ先生の言葉が脳裏にある。
大事なのは上手い下手より、大量生産に向いたデザインができるかどうか。
みんなにええなぁ言うてもらえるような、いろんな人に目ェ止めてもらえるような。
求められているデザインを考えるこっちゃ――。
「誰もが買うてくれるようなデザインや」
そう話していると、宿題を終えた百合子が手伝いにやって来ます。
ちょっと自慢げにこうだ。
「最近は喜美子姉ちゃんより、うちの作るごはんがうまいて評判なん」
「どのへんで評判?」
喜美子がそう言うと、こう来た。
「このへん、このへん!」
マツもそうだと肯定。
これぞエエ方の妹。天使や……。
かつては喜美子姉ちゃんのご飯を食べたがっていた。
それなのに乗り越えたと言うわけでして、可愛らしさが炸裂しております。
目標である喜美子姉ちゃんを乗り越えて、楽してもらいたい。そういう気持ちがある。
百合子は、本役・福田麻由子さんに交替しましたが、違和感がありません。
髪型や服装もあるのでしょうが、演技プランの引き継ぎができていると思います。
そしてここで、アカン方の妹である直子が薪割りを終えて入ってくる。
なんで薪割りかって、そら……百合子ほど料理の勉強せんのやろなぁ。
「はぁ、暑い、もう嫌や」
「ありがとうなあ」
そんな直子の口に、切ったばかりのトマトを入れてあげるマツ。
「うーん!」
その冷たさに微笑む直子。
やっぱりええなぁ。
親子の交流と、暑さの中での涼しさがトマトひとつで表現できる。
そう納得する一方で、親子の交流について考えてしまう。
ジョーからすれば、女だけで何か決めていると不満かもしれませんけれど。
こういう家事を通した交流あればこそでしょう。
女が陰湿なのではなくて、裏方を丸投げするからそうなるんですよ。
誰からも買うてもらえるデザインとは?
喜美子は悩んでいます。
誰からも買うてもらえるようなデザインを考える――それはなかなか難しいことでした。
これはわかる気がする。
公共性があるデザインは大事。
火鉢は来客のある場所に置くこともあるわけですから、一部のマニアックな嗜好だけを狙ってはいかんのです。
この時代のデザインを伝えるものとして、「黄桜ギャラリー」が典型だとは思う。
ほのぼのとした河童イラストではありますが、女性の河童はかなり色っぽいんです。
なんで黄桜はエロ河童でよいのか? と言いますと、酒だから。未成年は見ることを想定していない。
ジョーカスのようなおっちゃんが黄桜を飲みつつ、
「おっ、この河童、ええ乳しとるやん、げへへへへ!」
と盛り上がっても、それはそれでええ。そう想定しているからできたことです。
老若男女の目に触れるところで、露骨なエロを見せたらあかん。
そういう気遣いは、昭和以前にだって当然ながらあった。
ちや子がいたデイリー大阪のエロエロ記事だって、一面には掲載されません。
公共性のあるものにエロい絵を使い、炎上したとしたら?
そんなん当たり前や。
では、公共性があって売れるデザインは何か?
喜美子は悩む。
背後の本棚にはちゃんと参考書がある。綺麗な手毬も。これで練習をしているとわかるのです。
どんなデザインやったら買うてくれるやろか?
おにぎりを頬張りつつ、考えます。
例えばお父ちゃんやったら?
ここで回想されるジョーは、草間さんが買ってくれるまで揉めた、あのラジオを叩いております。
壊れてしまった。こんなもんは腹の足しにもならん! そんな理不尽な切れ方です。
そもそもラジオは食べるもんやない!
そう突っ込んだら負けや。テレビ時代黎明期ですからね。稼いで買わんと。
「いらんねん、ていっ!」
「ていっ!」が関西のおっちゃんぽくておもろい。
そして手元には銚子とお猪口があるわけですが。
うーん、これはむしろジョーみたいな層の意見は無視してよいかもしれない。
酷いと思いますか?
だってジョーは絵心ないでしょ。黄桜みたいな、エロ河童あたりが受けそうじゃありませんか。
いや、こっちの偏見でも妄想でもないんですよ。証拠はある。
おっさんはエロで釣る。むしろ王道や!
酒を飲み終わると裸が出てくる盃。
向きを変えるとエロい絵が出てくるボールペン。
エロい写真が印刷されたトランプ。
ああいう小さな裸で興奮できるのか?
芸術性でもない。
エロと背徳性やムフフとそっと楽しむ。そういう下心ゆえのデザインもあるわけでして。
「男はそういうもん好きやろ!」と、その手のエロと背徳性で釣るって、想定される側も舐められた話で侮辱的であるとすら思うのですが。
いや、芸術性があるエロもありましたね。
佐伯俊男氏のイラストなんて、昭和らしくいエロと芸術性を備えていて、ええと思う。
きわどい萌え絵の入ったケースをスマホにつけること。
これもある意味、伝統や。
翌朝、喜美子は考えています。
みんなにええなぁいうてもらえるような……。脳裏に浮かぶのは、荒木荘の人たちです。
笑うさだ。
とやぁ〜! の真似をする大久保さん。
かつらをかぶって歌う雄太郎。
まっすぐ見つめてくるちや子。
そして、おいしそうに食事する圭介。
そんな荒木荘の面々を思い出しつつ、薔薇の絵を描く喜美子でした。
今週もナイスチャレンジの予感がする
弟子のデザインは採用しない。
絵のうまい下手じゃない。
学歴や経歴ならば、一番と二番が上。
それよりも【誰もが買いたくなるデザイン】にする。
月曜からして、危険な予感がミッチミチに詰まっております。
予告編の「キャンペーンガール」あたりからも嫌な予感がある。
誰もが売れる、気にいるものなんてそうそうない。ならば近道として、広告を利用することは当然といえばそうなのです。
朝ドラと大河に連続している出演している著名な女優がおられます。
彼女は海外の映画祭で高評価であったことが、必ず持ち出されます。
主演であった昨年のNHK大阪朝ドラ枠では、感想にせよ記事にせよ、おもしろい傾向があった。
「流石カンヌの……」
「カンヌを圧倒させただけあって……」
そういちいちカンヌを持ち出す。海外のブランドネームを持ち出す。
ただ純粋に目の前のパフォーマンスを褒めるではなくて、カンヌという名声をフックにして褒めるわけです。
あのドラマそのものがそうだった。
海外でもヒットしている製品だから、その開発秘話だから面白い。ありえないプロットホールまみれでも、そういう高評価が溢れていました。
「あの夫妻の愛が詰まったチキンラーメンを食べています!」
それはドラマ評価なのか?
自分はドラマファンだというアピール、宣伝に弱いというだけのことではないか?
そう感じさせる投稿もSNSでは大賑わいでした。
長ったらしい前置きになりましたが、今週のテーマは【宣伝と広報戦略】になりそうですね。
ものづくりの本質とは無関係。
ブランドネーム。
しかも喜美子のような若い女性をアイキャッチに使う。
女性が社会に出るには、差別と偏見と戦う必要がある。
【性差別と戦う5人の女性🥊】
世界の政界で飛び交う性差別的発言に、果敢に応戦する女性たち。 pic.twitter.com/imu1TWsr8A— Brut Japan (@brutjapan) November 15, 2019
そこを乗り越えて活躍して日の目が当たれば?
あざとい、男性に媚びた、枕営業。そういうことまで言われる。
本人の意思とは関係ないところで、利用しようとする側も出てくる。
喜美子が陥りかねない状況に近い例が、今年もありました。
◆「美人銭湯絵師」の盗作炎上、学生を“御輿に乗せた”広告代理店にも責任
『なつぞら』にはNHK東京なりに考え抜いた、業界や社会が陥った悪習への告発があった。
北海道開拓史を取り上げた『大草原の少女ソラ』が、
「こんなテーマで数字が取れるならば苦労しない」
「地味で興味がもたれない」
と叩かれていると、マコは苦い顔で言っていたものです。
北海道開拓史が地味?
ヒグマと戦ってきたらいいべさ!
そう視聴者をムッとさせることで、告発していたわけです。
スター声優だの萌えだの、そういうわかりやすいフックで釣るアニメはどうなのよ。テレビは? そう突きつけていた。
それなのに、嗚呼、それなのに、
「『スカーレット』はテーマが地味だからダメ」
という叩きが出たのは何だったのやら。
さて、その『スカーレット』ですが。
NHK東京よりもえげつないやり方で、こういう広報戦略をぶった斬りそうで今週もドキドキが止まりません。ナイスチャレンジと違うか!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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