スカーレット108話あらすじ感想(2/8)お母ちゃんは信楽で待っとるで

武志が帰って来ます。

「帰ったんちゃう!」

「桜……」

「咲きました! やったで!」

緊張感を込めてそう切り出し、封筒をかざします。

「おめでとう!」

「でかした!」

ようやった、ようやった、あ〜ようやった、でかした! よかった〜!
この年代ですと「ばんざーい!」は出てこないと。ジョーと喜美子の場面では出てましたけどね。

皆が喜ぶ。
こういう嬉しい気持ち、人生の節目ってありますよね。二月になんちゅうもんを見せてくれるんや。あやかりたい人もおるやろなぁ。

このあと、武志はごろんと寝転がっています。

「あ〜、食うた食うた。腹一杯や」

「腹一杯胸一杯や」

ここでマツがもう寝たのかと気遣うあたりが、武志の優しさです。
緊張の糸が途切れてほっとしたんよ。喜美子はそう言います。

心配かけたしな。そう気遣う武志はやっぱり優しい。こういう細かいセリフに、彼自身と本作の作り手の優しさがあって、グッと来てしまう。

ようやった、がんばった、おめでとう。喜美子は心の底から我が子を祝います。決断では突き放すようでも、こういうところに喜美子の優しさもある。

来月から京都の学生寮に入る。そう宣言する武志に、準備せんとなと返す喜美子です。

「寂しいな」

「寂しないわ、うれしいで、楽しみや」

武志に言われて、そう返す喜美子。ほんまにこの作品は、マザコンを地獄に落とすなぁ。
母として、育て上げてホッとするし、自分第一の生活に戻れてうれしい。そういう現実を認めたくないマザコン層には阿鼻叫喚もんや。

陶芸家をめざすという我が子に、まずは大学生活を有意義に過ごしぃと言うあたりも、喜美子らしさを感じます。

勉強ではなく、家の中の仕事をすることで、実力を蓄えて来た。そういう彼女の人生経験がそこにはある。

お母ちゃんは信楽で待っとるで。
そう送り出すのです。

大事なものを失った

そう油断させといて、これやで。

喜美子 地獄の捜査力
その4「そなたのやりとりは全部お見通しよ!」

 

「報告したん? 進路相談乗ってもらてたやろ。受験勉強の時も、時々電話してたやろ。助言してもろたん?」

くくく、お前が八郎と密書を交わしていたのはお見通しよ……って、なんだこの『麒麟がくる』の斎藤利政(斎藤道三)みたいな流れは……。

「お父ちゃんと同じ大学だから」

「そやな」

「会いに行った?」

「まあ、進路の相談いうか。話聞いてもろた」

四国からわざわざ?
喜美子がそう疑念を抱くと、ここで今は名古屋におると明かされます。

ここから、手紙について武志が語ります。

五年ぶりやった。五年間、信作おじさんが手紙を届けてくれたん。

喜美子は、やっぱり持ってきたのは手紙かと察知します。やはり気づかないフリをしていただけですね。怖いわ……。

五年間で、風呂沸かせるほどぎょうさん手紙もろたで。ほんま大したことない手紙や。いちいち言うことないいうて、言いそびれてたんや。言いにくうなった。

そう言われて、喜美子はええよ別に、と流します。武志にとって、お父ちゃんはお父ちゃんだとわかっているのです。

他愛のない手紙。名古屋で勤めている会社で、釉薬の配合をどうしたこうした……。

他愛ない。けれども残酷。
実は八郎モチーフの人物より下方修正されているとわかるのです。彼は陶芸家として活躍しております。

八郎は違う。
喜美子と違って、彼は丸熊陶業時代に戻ったようなもの。芸術性で勝負する陶芸家ではなく、自分の技術で大量生産品を作る、そういう会社員に戻ったのです。

挫折したとわかります。
その方が彼には合っているかもしれません。名声と芸術性を求められることに戸惑っていて、食器セットに救いを見出していましたからね。

武志も、たいしたことがない内容を書いていました。

美術部に入った。
文化祭があった。
試験終わりました。

けれども、これも大事。世界でたった一人の我が子のこととなれば、どんな些細なことだって大事なはず。親もいろいろおりますが、八郎は性格的にそう思うはずでして。それを見守れないこともつらいでしょう。

「……味気ないな」

そう喜美子が語るのも、厳しいもんがある。

喜美子は割と断絶に強いところはあった。
荒木荘時代、三年は実家に帰省しないと決め、有言実行したじゃないですか。

八郎の別居だって、視聴者の方が傷ついていたようなところはあった。

そういうもんや。そう流して、武志は再会の話をします。

ちょっと緊張したけど、「おう」「おう」と言い合い、そのあと二人でたぬきそばを黙って食べたと。

たぬきそば、か。
信楽舞台だけに、たぬきなのか。

そうは思えますけれども、そんな安いもんでのうてもええやん。せめて、天ぷらそばではあかんのか? そう突っ込みたい。

何気ないようで、これは作り手も考え抜いていると思う。登場人物に何を食べさせるか。そのことで、心理的な荒廃を示すってありますからね。

五年ぶりに再会する我が子に、もっと、うまいもんを食べさせられなかったのかな。「サニー」の時は、ライスカレーとプリンとアイスクリームだったっけか。

お金がないのかな。胸がいっぱいだったのかな。いろいろ考えるとつらい。しんどいわ……。

このあと、父と子は、五年ぶりなのに昔となんも変わらんように話し合ったそうです。

「なんで?」

喜美子はそうつぶやく。

「五年も離れて暮らしてて、なんで、昔と変わらんでいられるの? そういうもん?」

「そういうもんとちゃうでぇ」

武志は明かします。

風呂を沸かせるほど、ぎょうさんの手紙。必ず最後に、同じことが書いてあった。

会いたい。

会いたい。

いつか、会いたい――。

五年間、お父ちゃんは書き続けた。

ほやから、ほやから、「おう」「おう」、たぬきそばや。

そう聞かされ、喜美子は噛み締めています。

大事なものを失ったのだと、思いました――。

ここで八郎を見たいという気持ちはわかりますが、それをクリフハンガーにして来週までひっぱるところに、本作の技を感じます。

八郎の顔を見たいのは、武志だけではありません。

喜美子はやはり知勇兼備よ……

喜美子の圧倒的な強さが、炸裂した今週。反応も割れてますし、なかなか酷いことを言われ始めました。

悪魔に魂を売っただの。
狂気だの。
もはや悪役だの。

乱世ならアレやろ?
「信楽の蝮(マムシ)」とか「甲賀のうつけ者」ってところか。まぁ乱世の奸雄だわな――。

喜美子のおっとろしいところは、理詰めで先手打って、突っ込みどころをなくしているところでして。

ジョーみたいなガバガバギャンブルをするわけでもない。
鮫島夫妻よりもマトモです。

「あっさり成功しすぎィ!」という指摘もあるようですが、ただの難癖ですね。みっちり理論と計算、経験を重ねて何度も挑戦しています。その間に八郎が出ていき、そして成功した後は借金返済や。

娘として、妻として、母としても優秀。稼いで家事育児もこなしてきた。

『半分、青い。』や『なつぞら』のヒロインは攻撃しやすかったですよね。どこか抜けているから、そこを叩けばスッキリできた。

でも、喜美子は強い。

こうなると、批判の論調は一致してきます。

悪魔だ、ともかくダメだ、不愉快だ。そんな風に人格批判へ持っていく。どうしようもないほど稚拙なやり口に溜息しかでてきません。

昨年のアレな教祖の方がどうかと思いますけどね。あのときはクリエイターの妻になりたいと顔芸をするヒロインが賛美されていた。

そして今、自らクリエイターになると目に炎を宿すヒロインが悪魔扱いされている。

これって一体何を見せられてるん?

まぁ、いい。
この先、喜美子がどんな道を選ぼうと、気にせずレリゴーやでぇ~!

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
スカーレット/公式サイト

 

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