三姉妹が揃う、鮫島も
「留守番オンナや」
ここでふてぶてしく言うのは、直子です。鮫島夫妻が川原家にやってきました。待っとったで!
留守番電話サービスは、当時やっとプッシュホン式で広がり始めておりまして。喜美子の勘違いに笑った方も多いとは思いますが、実は結構そう言うことはあった。一方的だと怒りだす人とか。冷たい、人類の堕落だと嘆く人だとか。
今では当たり前のように普及して、笑える反応の当時ですが、それが史実だからしゃあない。
喜美子は納得する。
直子は留守番オンナやのうて本物の女が出るかもしれんと、煽る。
気が削がれたからお礼を言っていないと明かす喜美子です。
「あかんよ、はよお礼言わな」
そう言われても、無事に大学合格したことは武志から伝えてあると言い切る。
しかし、母親としてそういうことはきちんとしとかんとあかん、そう言われてお礼状を書くと言います。住所は信作から聞くと言うと、百合子が東京出張していると返すのでした。
百合子は台所で何か切っておりますね。
「分けたでえー」
「うまいでえ、百合子の……」
「パウンドケーキ」
「そう、それ!」
はい、パウンドケーキだ。ゆりちゃんはほんまに、昭和のオシャレな奥さんやねえ。喜美子のおはぎは「ダセェ〜」と言われる時代だからさ……。
ファッションからも見て取れます。
喜美子:オシャレ無関心、よう動ければええんちゃうか
直子:大阪のおばちゃん、その真髄見せなアカン。派手、柄物!
百合子:オシャレで穏やかな、信楽の奥様や
「何飲む?」
ここで直子が聞いている。
大人はコーヒーで。子どもの桜と桃はジュースで。鮫島はお砂糖いらんかったな。そう確認しているのです。
マツはそんな直子に目を細めている。
夫婦仲良好、商売も順調。よく二人で旅行行ってる。ほんで武志にまでお土産を送ってくるってよ。
あー、わかった!
武志の部屋のペナントは叔母夫妻からの土産やな。修学旅行もあるかな?
今になって考えると、何がしたかったのかわからん。そんな昭和の遺物、地名と名所が刺繍されとるペナントやで。
京都、バーン!
金閣寺、バーン!
舞妓、バーン!
って、そういうのね。
「寂しいですね、武志くん、京都行ってもうて」
整髪料が臭そう。そんな昭和の関西おっちゃんになった鮫島が、しみじみとそう言います。
そんな夫に「ちゃっちゃとせえ!」という直子を見て、皆しおらしくなったわけではないと再確認するのです。
「あんなあ、肉じゃがが鰻重に変わるわけないやん」
「なんやその喩え」
そう喜美子が突っ込むと、百合子が鰻重にうっとりし始めます。
食べたいねえ。高いねえ。そんなん誰が出すん。そう言い合っていると、鮫島がこう来た。
「僕が出しますよ!」
「ありがとう、鮫島!」
鮫島がほんまにええおっちゃんになってて、こらもう感激する。道頓堀で飲んできてや。そう言いたくなる。
酒は弱いのか。
鰻重にビールのあと、鮫島は寝ていてごろんとするのです。
正門良規さんがほんまにすごいわ。脚を開いてごろっとするあたり、おっさんくさ過ぎて感動する。
『仁義なき戦い 広島死闘編』は、千葉真一さんの出世作です。あの大友勝利を演じるにあたり、ともかくゲスな演技を追及したとのこと。
今からするとちょっと信じがたいものがありますが、当時の彼はイケメンで爽やかなアイドルでして。ちょうど今の正門良規さんと同じやな。
それがワイルドでゲスな動きを証明して、ますます人気がでた。そういうもんを感じさせる、圧巻の熱苦しさを感じるで!
※新田真剣佑さんだって爽やかやろ、父親もそれやで
ここからは川原家の時間です
「お母ちゃん、眠たないの?」
「久しぶりに揃たん、寝るのもったいないわ」
三姉妹と母が揃う。こうしてみると、しみじみと人間って変わるようで、そうではないと思えてきます。
ありがちな妄想というか。
若いお姉ちゃんとババアは別の生き物。嫉妬しあっている。そういう世界観ですね。昨年のアレやで。
そんなことはなくて、一人の女性が育ち、老いてゆくのだとわかる。
河内のお嬢様として生まれ、ジョーと駆け落ちをした。
妻として、苦労してきた。
三姉妹の母として生きてきた。
夫の死後はコーラスを楽しみ、喉を潰した。
無力だの何もしないと言われてきたマツ。せやろか? 生き抜いた一人の人生がここにはあります。
そんなマツは、楽しそうにお喋りしている時に、ゆらーっと死ぬのが理想だと言います。
「やめえ、やめえ!」
「そういうこと言うてる人ほど、長生きするもんやで」
そう姉妹が止める。ここでマツは編み物をしています。
お母ちゃんの?
そう聞かれ、派手すぎないかと返す。いやええんちゃうか。それだけのやりとりではありますが。
マツは、妻として、母として、尽くして生きて来た。
独身時代はお嬢様として、綺麗な着物も着ていたでしょうね。それが、第一に夫、第二に我が子のことを考え、地味な服しか着られない。
そんな女性が、やっと自分のために、派手な編み物をしている。そのことそのものにグッときてしまう。
母と娘たち、久々に喋る楽しい一日でした。
愛のある世界
あまりに激しい先週から、優しい展開へ。
『なつぞら』と主人公は同年代ですが、本作の方が扱う時代の幅は広い。これから先の時代へも向かってゆくのです。
週を跨いでも八郎がいない。
しかも留守番電話ジョークで天国と地獄の往復をやらされて、「月曜朝からどういうことや!」と突っ込む視聴者さんもおるやろなぁ。
そういうところはさておき、どこからも愛がある世界だと思いました。
武志のお布団。
喜美子のお弁当。
照子のお野菜。
百合子のパウンドケーキ。
直子のコーヒー。
鮫島の鰻重。
マツの編み物。
そして八郎の養育費……。
日常生活の些細なことにも、思いやりが愛があるんだな。そう思えてしまう。地味だとかなんだかんだ言われています。それが本作でしょう。
細やかな日常にもよいことがこんなにある。そう伝える、良いドラマだと思います。
それはさておき、八郎さんをそろそろ見たいなぁ。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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