夜の大野家です。何やら怪しげな雰囲気があります。
信作が「1日3回、お湯に溶かして飲め」と指示。それに対して忠信は「苦いの嫌いやねん」と渋っております。当時はまだ甘いもんで包む製品ないし……って子どもかっ!
ここで派手な薔薇柄パジャマにカーラーの陽子が怒鳴り込んできます。NHK大阪の衣装ストック、今日も本気出しとるな。
「何飲んでんねん、男二人で!」
女の勘が当たったでぇ! そう勝ち誇り、百合子もやって来ます。
おっ?
もしかして怪しげな新聞広告にあるようなモン?
いつまでも元気でお願いします
聞けばどうやら膝の薬だったようえ。
「膝がやられたんか!」
陽子が心配している。ほら、もう心配するからと男二人は返す。
愛すればこそ、妻に心配をかけたくない。
元気でいて欲しいから、隠さんで欲しい。
そんな忠信と陽子の愛がグッとくるで! なんせジョーの場合、隠していた結果、かなり早くに亡くなっているわけですし。この夫婦愛も、そんなジョーあってのものでもある。ジョーが中国大陸の何十キロもある戦線で、忠信を連れてきたからこそ、この愛があるんやな。ジョー、ありがとうな。
ここで、隠さんでいてくださいと、そんなジョーの愛娘・百合子が言うわけです。
元気でいてくれたらそれだけでええ。いつまでも元気でお願いします♪ そう微笑む百合子が今朝も天使やで……なんか一日頑張れる気がしてくるわ。
福田麻由子さんは、戸田恵梨香さんとも桜庭ななみさんとも、違う個性があって。ふわっとしていて、柔らかくて甘い声。こういうことをにっこり笑顔で言っても、嘘くさいどころか感謝しか感じないところが、ほんますごいと思う。
でも、そんな優しさだけでなくて、信作が「元気」と聞いていると、ちょっと暗い顔になっているのがすごいのです。林遣都さんは、シリアスでもコメディでもどちらでもいけるんやなぁ。
真奈は戦う
夜の川原家では、喜美子が突っ伏して寝ております。毛布がかけられていました。
目を覚まして、外に出る喜美子。すると、工房の外にビニール傘をさした真奈が立っているではないですか。工房の中では、武志が作品作りに励んでいます。
こっちにおいでと誘う喜美子。真奈は傘を差し出そうとしますが、喜美子は「ええもう」と断ります。
そして家に戻り、喜美子はお茶を持って真奈に出すのです。
このドラマは、お茶をいれるとか、料理を出すとか、本当にそういう場面が多い。そこをきっちりと綺麗にこなせる戸田恵梨香さんは、ほんまに半端ないな。もうこんなん、将来のベテラン大女優の座が約束されたようなもんやで。
喜美子は、門限は大丈夫なのかと気遣います。厳しいお祖母ちゃんがいる言うてたなぁ。と、話しかけると、先々週その祖母は亡くなったと真奈が告げます。
「そうか寂しいなぁ、ご愁傷様でした」
喜美子がそう言うと、真奈はずっと会えなかった武志に会うため「ヤングのグ」に行ったと言い出す。
「すみません、こんな話」と断ると、喜美子も、どんな話でもうれしいわと返答。男の子は言うてくれへんからな。あの子ちゃんとバイトしてたん? そう促すのです。
はじめこそ真奈の存在にざわついていた喜美子の心も、だんだんと落ち着いて来たようです。
実際に、真奈はその性格がわかればわかるほど、可愛らしいとわかってきましたもんね。
真奈は淡々と語ります。
約束せんと行ったから、追い払われた。嫌いと言われた。そんなこと言われても、来てしまった。負けへんでと傘買うて。
「うちは何と戦ってるんでしょう。何やってんのやろ……」
ここで喜美子は、コーヒーがよかったかと気遣う。そこにヤングへの歩み寄りを感じるで。真奈はお茶がよいそうです。
「いただきます。あったかい……」
おばあちゃん子かな? 年齢差のある相手と、すんなり話せるタイプのようですね。誰に対してもそういうところがあるのかな?
あたたかそうに茶碗を持つ真奈も、喜美子も、指先まで綺麗で。心がこもっているんでしょうね。こういう日常に宿る美しさを切り取るドラマです。
真奈は語ります。
「家に帰ったら、亡くなった祖母のにおいがして。もういいひんのに、家の中に残っているんですね……」
会える時に、会いたい人に会うておこうって。ほやから嫌い言われても、来ました。そうきっぱり言い切ります。
まだ若い誰かが、人の命が終わることを悟り、人生観が変わる。これは本作でずっとあったことです。
照子は戦死する前の兄が、愛する誰かと【いけないこと】をしている姿に衝撃を受けてしまった。照子様が大暴走じみていたあの一連の流れですが、幼心に衝撃があったことはわかります。
信作は、甘やかしぃの伊賀のおばあちゃんが急死したところを見て以来、何か弾けようとした。なんやその忍者じみた理由は! そう突っ込みましたが、人生観が変わる転機として重要ではあったのだと。
残酷なことではあるけれども、人の死による成長もある。そんな気がして来ました。
ただ、喪失だけではなくて、何かが残るのであると思えば、それは救いかもしれません。
喜美子は、こう言います。
「あの子は今作ってる作品があるんよ。いつ完成するかわからへん。明日できるかもしれへんし、一年かかるかもしれん。何年かかってもできんかもしれん。いつ完成するかわからへん。それでも作る。作り続ける。今、それで一生懸命なんやと思うわ」
本作はこういうところをきっちりと言いますよね。創作に終わりはない。そういう残酷さがある。
白血病のドナー探しと、皮肉にも似ているところはある。
目標金額はこれだとか。締め切りはこの日だとか。あるようでない。
それなのに、人生には区切りがある場合もある。一体いつになれば終わるのか? このドラマは今月いっぱいで終わるけれども、終わるようでそうはならない何かすら感じてしまう。
「あの、うち、見てきてええですか?」
「どうやろ。ええんちゃう」
「いってきます!」
喜美子は気が強いので、本当に真奈と武志を会わせたくないなら断固として止めることでしょう。
ある意味では恋を超えた。人の命を知る。そういう真奈ならば、むしろ武志に必要だ。そう確信した何かを感じます。
うちは納得できひん、許可しません
武志は見に来た真奈に驚いています。
なんでいるん? いつ来たん?
そう問いかけるということは、気付いていなかったんですね。
「お疲れ様です!」
「どういうつもりや?」
真奈は、作品作りの邪魔にならないようにするとしおらしく言います。けれども、武志は追い返そうとするのです。
「病気やからや。こんなんあかんって。もう来たらあかん」
「どういうこと?」
「帰りぃ」
そう言われて、真奈はますます熱くなる。
「病気やからうちと会うの避けてたん? えっ、そうなん? そうやったん? そんなんおかしいわ!」
「おかしないわ!」
「関係ないわ!」
「関係あるて! 帰ってください」
二人は言い争いになる。
真奈はフンワリしていて、いわば天然が底にある、百合子と並ぶ天使系のようですけれども、それだけではなくて、頑固で強いのです。
こういうゆるふわとした姿だけではなくて、いざとなれば頑固さや強さを発揮するところに、本作の生々しさを感じます。
だから真奈は、相手に反発する。
「ほな……ほな帰ります。帰りますけど、病気やからうちと会うの避けてたんというのは、納得できひん。そういうのは許可しません! 許可しませんので、また来ます。お邪魔しました。失礼します。ほなまた!」
こう言い切ります。
世代の差、時代の進歩も感じるで。
喜美子たち三姉妹。喜美子はあれほど気が強いのに、父の許可なくしては自由に行動すらできなかった。
やはり強気な直子も、人生脱出経路は男性を頼りにしているところはある。それが悪いとは言いませんけれども。
百合子はきっちりと「サニー」を手伝っている。それでも、働いていない専業主婦扱いをされてしまう。あのカスマスター信作が、店長扱いされて上になることもあった。あのスピンオフには意味があったと思うで。
けれども、その娘世代の真奈は違う。
自分が納得できるか。許可するのか。男でなく、自分の意思がある。真奈は強い新世代の女性なのです。
いったんここで、真奈が喜美子のところまでかばんを取りに戻ります。武志のアパートでもありましたね。こういう忘れ物をするそそっかしさがある。
それでも強い。同世代最強クラスの喜美子よりも、強いところがある。同級生の中でそこまで強そうでもない。それでも、真奈には喜美子すら及ばない何かがあるのかもしれない。そんな進歩を感じさせる真奈です。
マツが弱いだの、毒親だの、言われてましたっけ。
大久保だって、あそこまで強くとも、弟の学費を払うしかなく、賃金値上げもなかなかできなかった。そういう世代から、喜美子たちは進歩し、さらに真奈は進んでいきます。
個人の強さや弱さだけではない。進歩ゆえに、世代ごとまとめて強くなる。そんな姿もそこにはあると思えるのです。
真奈は可愛らしいとは言われます。そこに異論はありません。
せやけど、それだけやないで!
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