1989年のバブル真っ最中。
大人たちはギラギラしたバブルに浮かれ、甘酸っぱい青春を生きている高校生も、ロマンチックでバブリーな恋に憧れていた時代です。
岐阜県東美濃市のふくろう商店街もまた、
【ぎふサンバランド】
という、どうにもキナ臭いテーマパークの建設話で迷走中。
食堂の娘・楡野鈴愛も、恋がしたくて浮足立ち、高校最後の夏、落とし物をキッカケにある少年と出会うのですが………。
もくじ
新聞部です( ー`дー´)キリッ
鈴愛が落し物を届けた小林くん。しかし、出会いの予感はあるものの、割と地味です。
お礼に頭を深々と下げて学帽まで落としてしまうあたり、物腰は丁寧で性格は良さそう。
「もしかして、野球部とかですか?」
「新聞部です」
問題はナゼ、バットを持っているわけでもない、日焼けしていない彼に対して鈴愛はこんなことをいうのか?です。
運命の出会いなのか、ありか、なしか?
ナレーションの廉子さんは、
「もうイントロ? 星野源が歌い始めちゃう?」
と、第四の壁を超えたネタを発揮して戸惑っています。
いやぁ、攻めてきますね、本作!
※第四の壁:フィクションと現実の間に存在するとされる壁。この場合の廉子さんは明らかにこの壁を超えたいわゆる「メタ発言」
左耳のことを自然に気遣ってきた
鈴愛は、クラゲ先生の世界史の授業を聞いています。
相変わらず滑舌の悪い先生と鈴愛の攻防は続いているようです。
※編集さんの高校時代にソックリな先生がいたそうで。変なオジサンみたいな風貌で、いつも赤い顔して、付いたあだ名が『アップル』。ドラマとよく似た状況ですね
そしてランチタイム。
机を向かい合わせて、鈴愛とナオちゃんの恋バナタイムです。
「えっ、真面目で噂のない鈴愛が?」
「うん、モテたこと、大切にしたい」
「モテてないし。お礼言われただけだよ。遅刻までしたのに。鈴愛は自転車通学しないの? そっか、苦手なんだっけ」
本当に何気ない会話なんですけど。ナオちゃんの性格のよさがあらわれていて。
【モテたわけではなくてお礼を言われただけ】と突っ込むわけですが、モテないという否定的なことは言いません。
もうひとつ。
鈴愛が耳のせいで自転車は危険だと思い出し、さっとその話題を終わらせています。
長い付き合いの中、自然と鈴愛の耳をふくめて気遣ってきたことがわかりました。
「鈴愛がモテたなんてすげーし!」
ここでブッチャーがニヤつきながら乱入しようとすると、女同士の話だから、と断られようとします。
しかし、ブッチャーには武器が。
幻の人気ナンバーワンのおそうざいパン・じゃがまろで二人を釣ります。
律はバスケ部の後輩から、夏の大会も出て欲しいと言われているようです。
東大を目指す律は受験勉強もありますが、エースは辛いところです。
「鈴愛がモテたなんてすげーし!」
ブッチャーがそう言うと、律がハッと振り返ります。
なんでだよー!
なんでこんな反応しているのに鈴愛は気づかないで、じゃがまろを二個も嬉しそうに食べているんだよー!
ああもう、イライラドキドキする。青春ど真ん中かよー!!
喫茶ともしびでミラーボールがギラギラ回る
そのころ、ふくろう商店街の女性たちは、「つくし食堂」でサンバランドに懸念を示しています。
キミカ先生は、交通渋滞と野鳥のすみかが奪われることを気にしています。
他の女性は、そもそも、お父ちゃんたちが露出度の高いダンサーに鼻の下を伸ばしているのが気に入りません。
そこへ、鈴愛たち四人組がやってきます。
なんでも定番の喫茶「ともしび」は貸切なんだとか。どういうことや?
と、思ったら貸切の「ともしび」では、今日もランバダが流れ、ミラーボールがギラギラと回っています。
田舎の小さな喫茶店との組み合わせが似合わなくて、この時点で切ないようなニヤニヤしてしまうような、そんな気持ちが止まりません。
商店街の男たちは、ワンレンボディコン美女の瞳にデレデレになって、踊っています。
「さあ踊ることで、魂の解放をー!」
瞳さん、頑張るよなあ。
ハウスマヌカンだったんでしょ!
店の外では、車の助手席にハンサム社員トオルがいます。
上司から瞳を見習えとハッパをかけられているのです。安宿に泊まる転職組に負けてどうする、というわけ。
しかしトオルは、商店街のおばちゃんは堅実だし、と苦い顔。
ボディコン瞳に対しても
「だってあの人、前はハウスマヌカンだったんでしょ。一食260円の鮭弁当食べて、風呂なしアパートで、DCブランド着ていたんでしょ」
また面白いネタを、セリフに詰め込んじゃって。
このセリフの元ネタは、『夜霧のハウスマヌカン』です。
ハウスマヌカンというには、英語とフランス語が混ざったバランスの悪い単語でして。もはや死語ですね。
当時隆盛を誇っていた「デザイナーズ&キャラクターズブランド(DCブランド)」の服を売る、売り子さんです。
要するに洋服店店員、アパレル店員ということです。
彼女らは生きたマネキンのように、そのブランドの高級服を着なければなりません。
そのため食費、光熱費、家賃を抑えなければいけないのです。素敵な服に身を包んだ華麗な女性ながら、その生活は厳しいという、時代の徒花のような存在でした。
本当に本作、バブルのアホくささに切り込んできますよね。
ふっきった元ハウスマヌカンとして、笑顔をふりまく瞳役の佐藤江梨子さん。
トオル役の鈴木伸之さんもいい味出してるわ。
故郷こそが本作のテーマかも
さて、つくし食堂に戻りまして。
姉の友人にきっちり挨拶する草太です。
それでもブッチャーさんであって、あくまで龍之介と呼ばないあたりは笑えるのですが。
話題は鈴愛の出会いが運命か、どうなのかということ。
どうにも、弓道部の美少女にハートを射抜かれた律に比べると、シチュエーションが地味なのだそうで。
「もう一度会えたら運命ってことで」
という、なんだか微妙な落としどころを見つけて、四人は解散。
帰路、律はキミカ先生に出会います。
サンバランドについて意見を求められて、どちらでもいいと答える律です。
「この町にはね、私が取り上げた赤ん坊がたくさんいる。律くんもそうだけど。その子たちが出て行っても、戻ってきたときホッとする町だといい」
そうしみじみと語るキミカ先生。
確かにサンバランドは「ふるさと」にそぐわない気がしますね。
劇中歌として『ふるさと』が頻繁に登場しますし、故郷こそが本作のテーマかもしれません。
翌朝、鈴愛がバスを待っていると。あの小林が手を振って叫びます。
「カセット拾ってくれたひとー!」
しかし、左耳が聞こえない鈴愛はなかなか気づかないのです。
手を振る姿にやっと気づいた鈴愛。そこへバスが止まります。
ここで視点は小林側に。
バスが去っていくと、そこには鈴愛が立っています。
遅刻覚悟で残るということは、やっぱり運命?
今日のマトメ「ジレったいながらも微笑ましく見守りたい」
サンバランドがらみのハウスマヌカンネタも笑えたのですが。やっぱり気になるのは、鈴愛の恋愛模様です。
「恋に恋するお年頃」
これこそまさに鈴愛のことです。
人を好きになるよりも、ロマンチックな出会いを待つ。出会いがあれば、それがありかどうかで判断してしまう。
野球部とは思えない小林にそう聞いたのも、
「顔は普通だけど、スポーツのエースならば彼氏としてあり」
という、その手の判断でもあったのでしょうか。
ナオとの会話で「結婚したら浮気しない」とかなんとか、マセたことを言ったのも、相手のスペックがありかどうか判断したいわけです。
律の場合、高校一の美少女と運命的な出会いをしているのですから、百点満点、恋のシチュエーションとしてはバッチリ。
しかし鈴愛の場合、新聞部だし、美少年でもないし、シチュエーションがよいわけではないから、ビミョーだなと思っているわけです。
律も鈴愛も、相手の中身は何も知りません。見ようとすらしていません。
スペック的にありかなしか、それだけを見ています。
そこが二人の愚かさであり、若さであり、未熟なところです。
だからこそリアルです。
この二人が運命の恋愛と言い続けるのも、見ているこちらとしてはじれったい。
スペックではなく、中身がぴったりとあう、ソウルメイト的な相手は実は目の前にいるのに……距離が近すぎて気づかないで、間違った相手に対してドギマギしているのです。
おばかさん同士は、いつ、隣に運命の相手がいたと気づくのか?
微笑ましく見守りたいと思います。
サンバランドの行方もね。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
主人公たちより7歳上ですが、
当時、ハウスマヌカンって何や?
と聞かれたら、普通に
生きたマネキンみたいなもの、
と説明していました。
毎日面白く拝読しています。
すみません。ちょっと突っ込むと、「生きたマネキン」というのは違うのでは?もともと、「マネキン」は、人間のことで、服を着せている人形たちを「マネキン人形」も言うのでは?
失礼しました。