1990年(平成2年)、世間はもうすぐバブルが終わることすら知りません。
それは、東京の片隅で暮らす楡野鈴愛と萩尾律もそうでした。
鈴愛は朝井正人、律は伊藤清という恋の予感をみつけています。
世界のすべてが輝くような、そんな瞬間を生きる二人ですが、これからはどうなるのでしょうか?
【54話の視聴率は19.7%でした】
もくじ
ディティールを拾うから厚みも出る
晴は鈴愛の留守宅を磨きまくって、綺麗にお掃除しています。
舞台は平成でも、彼女は昭和の母親像なんですね。
オフィスティンカーベルでは、菱本が原稿を切断中。
コマごとにバラして、それぞれのアシスタントが仕上げて、最後に後ろから接着するのです。
締切前で時間がないときの非常手段のようで、漫画制作の現場がわかって面白いですよね。
こういうディテールを入れることで、話に厚みが出てきます。律と清がドラマ過ぎる再会を果たしても陳腐にならないのは、こうした日頃の緻密さに守られているからなんですね。
羽織の「リアルを拾うんだ!想像は負ける!」というセリフ通りにドラマも作られているんだなぁと感じました。
今回は寝袋で寝ていないことや、あとのシーンから、締め切りが超ギリギリではなかったことがわかります。ちなみに羽織先生は、性格的に原稿落とさないタイプですかね。
修羅場を終えた鈴愛が部屋に戻ると、晴は掃除と夕食を作り終えて眠っていました。
青い模様のランプは父ちゃん、爺ちゃん、草太から
今日は二人で晩御飯。
お母ちゃんの作るハンバーグは世界一や、と鈴愛は感激しています。
晴は宇太郎から荷物が届いていたよ、と言います。
中身は宇太郎手作りの本棚と、お揃いのベッドサイドスタンドでした。
ランプシェードに青い模様が一筋入っているのがニクいですね。
作中では草太の工夫とわかりますが、こういう青をワンポイントで入れて行くのがさりげないと思います。
鈴愛の服や持ち物は赤系が多いのもポイント。
実はメインビジュアルとオープニングくらいでしか、鈴愛が寒色系の色を着ていることはあまりありません。
真っ赤な鈴愛の世界にすっとはいりこんでくる青は、何なのでしょうか。
故郷の思い出か、律のことなのか。
メインカラーとサブカラーの使い方が赤と青という点では『真田丸』も思い出しまして。あれは赤備えをメインビジュアルに使っていましたが、主人公は青系の服を着ていました。
また『わろてんか』を定期的にサンドバッグにして、我ながらもういい加減にしろと思うですが、あの作品では「赤がおてんちゃんのテーマ」ということで、カズレーザー状態になるまで間違った色の使い方をしていたので、今回は余計にいいなぁと。
「女は弱し、されど母は強し」
鈴愛はお礼に電話しようとしますが、晴はどうせ留守にしていると行動を読んでしまっています。
その通りで、「ともしび」では、梟商店街のおっさんたちがウダウダと飲酒中。
好きなのに出番が少ない五郎さんもいて、ちょっと得した気分です。ブッチャーのお父様も出てきてくれないかなぁ。
おっさんどもは、女は子供を産むと母親になるけど、子供が育ったら何になるのかと話しています。
五郎は女に戻って不倫したらかなわんとぼやいています。
女は楽しみを見つける天才だから、と語る五郎。母であり妻である、そんな女性を愛しているのでしょうねえ。
弥一はここで、母になったら永遠にそうなのではないか、と言います。
「女は弱し、されど母は強し」
そうしんみりと語る弥一。
確かに和子はおっとりしているようで、息子のためならいくらでも強くなるタイプに思えます。宇太郎も、晴は出産で腎臓治ったもんなあ、としみじみ。
聞いてほしいくせに、コイツぅ!
晴は、鈴愛のカエルワンピースを見て、着てみたのか?と聞いてみます。
照れながら「着たよ」という鈴愛に対し、それ以上突っ込まない晴。
物足りずに鈴愛は、いつとかどことか聞いてよ、と言い出します。かわいいねえ。
彼氏ができたってなんでわかるのぉ、とか言い出しますが、聞いてほしいくせに。
もうちょっとでカッコいい、マシュマロみたいな人、とホワホワした雰囲気でいう鈴愛はかわいいです。
かわいい。かわいい。
何度でもいう、かわいい。
「あわせてくれんの?」
「まだ早い。半分片思いだから」
「もう半分は両思いだね」
「いい人やよ!」
こんな会話をしたあと、晴はポツリと言います。
「鈴愛は律くんかと思っとった」
律と鈴愛は月とスッポン それに、好きな人がおる
鈴愛は律への思いを語ります。
じっくりみると、すっごいかわいい顔。
成績表は5ばかり。
バレンタインデーは、チョコレートをもらいすぎて、駅前の岩田屋で下取りをしてもらうほど。
「月とスッポンなんや。それに律には、好きな人がおる」
元気いっぱいだったところからこうもしんみりされると、やっぱりいじらしい。
いじらしい、そしてかわいい鈴愛ちゃんです。
夜、母娘は布団を並べて寝ています。
「ここには龍の絵がないけど、寂しくないの?」
実家とちがって天井には模様がありません。
鈴愛は、漫画で疲れ果ててぐっすり寝てしまうから、気づかなかったようです。
「お母ちゃんからすれば、鈴愛が一番美人や。一番かわいい」
ミス・ユニバースなんかよりよほどかわいい、そう語る晴に、鈴愛はそういうのは親バカだよとツッコミます。
いやあ、それはそうだけど、鈴愛はどちゃくそかわいいと私も思いますよ。
「大きくなって、子守唄はもういらんかね」
宇太郎は「ともしび」から帰宅。
がらんとした家をみて、女の人がいない家は殺風景だな、と思います。
たしかに今は晴も……廉子も、鈴愛もいません。仏壇に、マサコさんの京都土産を置く宇太郎でした。
宇太郎は、晴が出かける直前まで迷った服の候補をみて、苦笑しています。
「東京やもんな」
夫婦は以前東京に来たことがあるようです。そのへんのことを鈴愛が聞くのかな、と思ったら晴は寝ています。
晴はトイレに起きて、鈴愛の布団を掛け直します。
「大きくなって、子守唄はもういらんかね」
そうしみじみつぶやく鈴愛。
鈴愛はそのあと、布団の中で目を開けて何か考えています。
今日のマトメ「青空の中に黒い雲」
チョコレートパフェから芽生え、これから伸びゆくように見えた鈴愛の恋の芽。
実はそんなに育たない。その原因を作ったのは、晴のようです。
確かに正人は魅力的ですが、恋愛経験値的に釣り合いが取れていないんですね。
母との会話で、律への思いに気づいた鈴愛。
バレンタインチョコ下取りなんていう言い回しで笑わせにきますが、中身は結構切なくて。
このムズムズする感じ……。
朝の連ドラなんて、美男美女が出てきてあっという間に恋するパターンが鉄板でしょうに、本作はねじって、悲しみをちょっとだけ混ぜてきます。
青空の中にある黒い雲みたいな、そういう要素を入れてきます。
一番近くにいて好きなのに、釣り合いが取れないのだと、あんなに明るくて楽しい子がウダウダと悩んでいるっていう。
鈴愛は底抜けに明るい子のようで、感傷的で後ろ向きなところもあるんですよね。
左耳失聴のところが、廉子さんでなくて鈴愛のナレーションだったのですが、あのあたりからこの子はちょっといじらしい、感傷的なところがあるんだなと感じていました。
がんばれ鈴愛ちゃん、かわいいぞ、頑張れ!
編集さんはじめ、全国の団塊ジュニアおじさんたちが応援したくなるのもわかります。
私も朝から割とガチで応援してしまいます。
そういう、単純に明るいだけでもない、ダメでナイーブなところも好きなんです。
鈴愛は性格的にも、半分青いってことですね。
もうひとつ気になったのが、女性の人生像についてです。
梟町のおっさんたちが語る女性観、晴がなんでも磨く主婦であること。
こういう像は、昭和の女性像であって、今からすると古いものです。
ノスタルジックに肯定しているかというと、これがちょっとわからないのです。
それというのも、結婚せずに我が道をゆく菱本やキミカ先生も出て来ているわけでして。
鈴愛は平成の時代を生きていきます。
クリエイター志願ということもあり、母親世代のような生き方をするとは、ちょっと考えにくいです。
昭和の母や妻像をノスタルジックに描く一方で、そこに依存してしまう男性の弱みのようなものも、チラッと見えた気がします。
本作をみたあとは、頭の中で何度もひっくり返してみたくなります。
そうすることで、また別の像が見えてくる気がするのです。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
男性の私がマサトをタラシ男と呼んで反発する投稿した一方、女性の方からサヤが何か嫌とかイラッとするなどの投稿がありました(笑)
男女それぞれ多くの人がそのように感じているのかもと推測します。結局、スズメとリツにそれぐらい感情移入している表れでしょう。視聴者をそうさせている脚本家さんの技巧や力量に改めて敬意を表したいですね。
しかしさらに神なのが武者さんのレビュー。朝ドラは毎日ですからこれだけの評を休まず書き続けるのは大河以上に本当にしんどいと思います。しかも量的にだけじゃなくて質的にも、単調なレビューにならないよう常に視点を変えたり話題を広げたりして読者を飽きさせない。これほどの努力を積み重ねている方だから、西郷どんに対するあの徹底的に辛辣な批判も十分説得力を持つのだと思います。
土曜日終わりの予告の見せ方も上手いです。
来週もいろいろ起こりそうです。
朝ドラの出来がいいと、日曜夕方の憂うつ感より、ドラマの次を見たい期待感がまさります。
またまた今日の考察も秀逸で、毎回敬服致します。何故、視聴者が鈴愛に惹かれるのか、上手に表現して頂きました。いやー、それにしても切ない回でしたね。鈴愛が自分では気づかない振りをしていた(あえて封印していた?)律への気持ちを、久し振りに触れた晴の愛の前に素直に語りました。晴のセリフも、途中でたわいのない天井の話を挟んで、核心をつく前に一呼吸おいた脚本も、リアルで感情移入がし易いです。予告をみると、早くも来週に恋愛関係に大きな動きが有りそうですね。正人は律と鈴愛の関係性に気がつき、身を引くのでしようか。クズの女たらしではありませんでしたね。素敵です。それに対して清とはバトルがありそうです。そうやって律と鈴愛はお互いの運命にゆっくりと気がついていく。憎い展開だこと、まだまだ楽しませてくれそうですね。