半分、青い。80話 感想あらすじ視聴率(7/3)全力だった敗者の気持ちを知る者は

ノストラダムスの大予言では世界が滅びるはずだった世紀末の1999年(平成11年)7月。
世界は続くけれど、28の歳を迎えた楡野鈴愛の、美しくも苦しい創作の世界は滅びようとしています。

もはや漫画を描くことすらできず、ラストチャンスの原稿すら落としてしまう――そんな窮地の弟子を救ったのは、秋風羽織でした。

楡野鈴愛の完成しなかったネーム『月が屋根に隠れる』に、作画をつけて完成させたのです。
師弟の名前が、並びました。

【80話の視聴率は22.7%でした】

 

これぞプロだ

「勝手にすまなかった」
そういう羽織。
弟子のピンチを救っておきながら謝る――というのは、やはりネタを勝手に使ったというルール違反を羽織が意識しているからでしょうね。

菱本は、これは先生の危機管理ですと告げます。
弟子のピンチを実は守っていた。羽織先生、あんたって人は!

編集者も息を飲むほどの出来だったようです。

公式サイトで公開されますかね。
漫画を収録したファンブックなんて、『あまちゃん』の時みたいに出ませんかね、どうですか、NHK出版さん!

鈴愛も作品を見て驚きます。

これぞプロだと。

本作の漫画はプロが描いているわけで、他人の創作物を借り物みたいに使うという批判はあるようです。
しかし、前作『わろてんか』では、到底プロに及ばない素人芸が大ヒット設定というお寒い状況があり、しかも持ちネタも持ち歌もたったひとつという惨憺たるザマを見せられたこともあり、本作のようにさくっとプロの作品を出してくることはむしろ良心的に思えます(またも流れ弾をくらう『わろてんか』)。

そして鈴愛は、『月屋根』を見たとたん、糸が切れたようにふらりと倒れこみ、ユーコに助けられます。

 

先生の刀は本物の刀だ 人の心を斬る

すごかった。
迫力あった。
先生の刀は本物の刀だ。人の心を斬る。
先生の刀に斬られたら、心から血が流れる。
私は偽物の刀だ。

羽織の『月屋根』に対し、心から感嘆してしまう鈴愛。
それから、講談館の原稿どうしよう、と言います。

「寝てくれ、鈴愛。何も考えずに休んでくれ」
「そうか、寝ていいんか」

ベッドで眠る鈴愛と、慰めるユーコ。
そして鈴愛の手のペンだことインクで汚れた爪を見て、頑張ったねと労いの言葉を掛けます。その手にチュッと軽くキスするユーコ。

よかったと思います。
再起できない、最後のチャンスは失ったけど、鈴愛の挑戦は何かを残したはずです。

当サイトの編集人も、熱くなってこんなツイートを投下してました。

 

鈴愛をマンガから解放して欲しい

ボクテは【敢えて上から目線で言う】と前置きしたうえで、
「もう鈴愛を漫画から解放して欲しい」
と秋風に直訴します。

ボクテが破門され、ユーコは結婚して引退。
そんな中、鈴愛は秋風塾最後のひとりとして、羽織の期待を一身に背負い頑張り過ぎた。

そうなのか?とつぶやく羽織。いや、羽織先生がそれに気づかなかったわけはないと思うのです。
菱本も、それが大きかったと頷きます。

天才が自重で弟子を潰してしまった。一種の悲劇だとは思います。
悲しいことに、世間にはそういうことはわりとあります。物語の中には、描かれないだけで。

※編集注:頭脳のキレすぎる編集人が、部下の編集者やライターを潰してしまう(というより、大きな才能を前にして部下たちが自ら潰れてしまう)ケースもあります。かといって編集人が無能であれば雑誌や書籍も売れないワケで……非常に難しいところです

 

おじいちゃんと話したかった

二週間後。
掲載された『月が屋根に隠れる』は、大好評でした。
そして鈴愛は、遅れに遅れた『いつかきみに会える』を完成させます。

本作の鈴愛の漫画タイトルは運命を示唆しているので、これは小さな希望だと思えます。
このタイトルの作品を完成させたと言うことは、律との絆がかすかに繋がっている証拠のような気がします。

そして鈴愛は、岐阜に電話をかけます。

受話器を手にしたのは祖父の仙吉でした。食堂が昼どきで忙しくて宇太郎も晴もいなくて……と告げる仙吉ですが、鈴愛はおじいちゃんと話したかったのです。

仙吉はギターの弦を張り替えたところ。
鈴愛は、自分は思ったよりも才能がなかった、と告げます。

そっか、そういうこともある。でも『月屋根』はよかったぞ、と語りかける仙吉。
先生が描いてくれた、元ネタは私だけど、と謙遜する鈴愛。
自慢の孫やと語る仙吉です。

「で、どうした?」
「誰にも言わんといてや」

そう落ち込む孫に、このご時世なんだからどんなことをしてでも生きていけると仙吉は励まします。

それから、仙吉は若い頃、鈴愛よりも若かった時代の、敗戦について語り始めます。

 

一日15分だけの光で生きていけた

それは彼が戦地へ出兵したときの話でした。

日本が敗北し、満州に残された彼は、敵から逃れるために現地の住民に匿われます。
十日か。二週間か。見つかったら捕虜になるか殺されてしまう。

そこは暗い穴蔵で、太陽の光すら差し込まない。
しかし、一日十五分だけ、太陽の角度によって光が差し込む。

「十五分間、光が射し込むだけで、人はそれを楽しみに生きていけると思った」

ようわからんか? うまく言えとるか? 初めて喋るからな……そう言う仙吉。
受話器の向こうでは鈴愛が涙ぐんでいます。

「要はな、鈴愛、どうにでもなるぞ。大丈夫ってことや。人間は強いぞ。ほんでまた鈴愛は殊のほか強いぞ」
「ほっか、知らなんだ」
「教えたったわ、ハハハ!」

涙を目に浮かべて祖父の言葉を聞く鈴愛。

それから鈴愛のリクエストで、仙吉は歌い始めます。
受話器の向こうで、鈴愛も歌います。

選曲は『あの素晴らしい愛をもう一度』でした。

 

 

今日のマトメ「全力だった敗者の気持ちを知る者は」

あ、あら?
先週土曜日にいきなり映画『八甲田山』を連想したと書いたんですけど、その解釈でわりと当たっていたかな、と確信できました。

なぜ、鈴愛は父でも母でも律でもなく、仙吉にだけ苦境を打ち明けたのか?
というと、仙吉も「敗残兵」だからではないかと思うのです。

『月屋根』を見た途端、内部崩壊するか、撃たれたかのようにくたっと倒れる鈴愛の描写。
そして、今は休めと寝かしつけ、ボロボロの手にキスをするユーコ、その一連の動き。

やっぱり、兵士ぽいんですよね。兵士と、離脱を見守る戦友です。

平成を舞台にして漫画を描くという話なのに、どこか血のにおいや物騒さ、胃がキリキリするような緊張感が漂っているのはとても不穏で、まるで戦場にいるかのようなモチーフを入れている脚本演出ゆえではないかと。

極め付きが、満州で大きな挫折、敗北を味わった仙吉によって鈴愛が再起を誓うことです。

再起といっても次の夢とか大きな話じゃなくて、敗北から身を起こし、どこか次の場所へと歩くため、どうやって立ち上がるか。
かつて夢に破れて、敗北して、どん底を見た祖父。
ぼんやりとしかそのときの気持ちを知らなかったけど、やはりどん底を見た鈴愛は、彼に助言を求めるわけです。

満州での戦争体験と、平成を生きる孫の試練では、困難という意味では比較できない。
そう言いたくなる気持ちも理解できなくはありません。

ただ、それでもこういう交錯を敢えてしてしまう、その力技と大胆さにただただ驚くばかりです。

一生懸命戦って敗北した人の気持ちを、一番理解できるのは、その人と同じ経験をした人です。
愛する人でも、親でもなく、友でもなく。
敗者の気持ちが一番わかるのは、敗者なのです。

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

9 Comments

moon

ユーコが「とりあえず目を閉じてねよう、休もう」と、鈴愛をベッドに横になる様に言う。そして横になった鈴愛を抱きしめながら「寝てくれ。何も考えずに休んでくれ」と言うユーコ。
小さい頃に看護婦になりたかった、そして今お母さんになったユーコの母の様な大きな愛情を感じました。
そして、鈴愛の指の大きなペンダコにそっとキスするユーコ。ライバルであり、解りあえる親友であるふたり。同士としてのねぎらいと深い愛情を感じて、涙が止まりませんでした。
このシーン大好きです。

管理人

>ばかちんのはは様
ご丁寧にありがとうございます!
見落としており、ただいま修正させていただきましたm(_ _)m
今後もよろしくです!

ばかちんのはは

何度もの投稿、失礼します。
前回の「極め付け」については修正されているのを確認いたしました。
ですが、その直前の文章については現在も編集されてないのでは?
と大変恐縮ですがコメントさせていただきます。
このままでいいのですね。私の書き方が悪かったですか。

>まるで戦場にいるかのようなをモチーフを入れている脚本演出ゆえではないかと。

いつもありがとうございます。

小原正靖

ある意味仙吉と鈴愛は戦友でわかりあえるところがあるのでは 時空をこえ共感 因みに平成でも戦争がなくなった訳ではなく死の商人も傭兵もエリア88の描写から変わらず存在し隣国韓国はじめ徴兵制がある国が世界に多くあります 日本国内にも米軍基地自衛隊基地が未だ多くあり本作で時代背景に戦争が出てきても台湾韓国等外国の方が本作を視聴しているので違和感さほどないかもしれません

匿名

〉世界は続くけれど、28の歳を迎えた楡野鈴愛の、美しくも苦しい創作の世界は滅びようとしています。

鈴愛、27歳らしいですよ。

匿名

武者さんの「敗残兵」という言葉はまさにその通りだったんだ…とお爺ちゃんの話を聞きながら涙が止まりませんでした。
朝ドラでは滅多に泣かないのですが、半分、青いではすで2度ほど泣かされてます。子供時代の失調の下りで。
あの時も、鈴愛は戦争経験者で、片耳を失調した奥さんがいた船頭さんに、自分の障害を打ち明けました。軽い感じで告げると、船頭さんも軽く返す。そんなやり取りにちょっと慰められて、鈴愛は今度はお母ちゃんを慰めるために動き出しました。
今回のお爺ちゃんとの下りは、あの時と対になってるのだと思います。お爺ちゃんリサイタルと語られなかった戦争の話も、ここに繋がってる。あの時は唐突感もありましたが、すごく綺麗で心に沁みる構成です(超絶技巧!というほどではないけども、私は好きです)。
鈴愛がお爺ちゃんの過去を感付いていたかはわかりません。草太と同じ宿題を出されて、聞きに行った可能性もありますし。ただ、そういうのを抜きにしても、漫画家の才能がなかったと告げるのは、お爺ちゃんしかいなかったと思います。律は楽しみにしてる、と言ってくれた。お父ちゃんは大いに期待していた。お母ちゃんは心配性。菜生も期待をかけてましたよね。
「夢見てる時間だけでも元取れる」と自然体に見守っててくれたお爺ちゃんだから、夢の終わりを告げられたのだと。
ボロボロになった敗残兵の鈴愛の骨を秋風先生が拾い、ユーコが詣り、お爺ちゃんが綺麗な花を手向けてくれた、そんな余韻が美しい朝でした…。

そして何度言っても足りない。永野芽郁さんは本当にすごい。
なぜあんな自然に目を潤ませ、ここぞというタイミングで泪を零せるのか…。子役の子もいつの間にかポロッと涙が転がり落ちる演技が上手でしたね…。配役担当に花束贈りたい。

しおしお改め、七歳上

まどさんのコメント、素敵です。

ばかちんのはは

失礼します。気になりました箇所です。

>平成を舞台にして漫画を描くという話なのに、どこか血のにおいや物騒さ、胃がキリキリするような緊張感が漂っているのはとても不穏で、まるで戦場にいるかのようなをモチーフを入れている脚本演出ゆえではないかと。

この後の「極め付け」も気になりましたが、参考まで。
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/106.html

まど

鈴愛ちゃんを自分の子供みたいに安心させながら、
お母さんのように「とにかく、休みなさい」と
優しく声をかけるユーコ。
結婚した時の「鈴愛は鈴愛の分を頑張れ」と
言ったものの、鈴愛は完全なキャパオーバーで
痛々しい姿になっている。
それが、愛おしくて切なくてツラくて
4年前の追い詰められてた自分の片割れを
見たように思った指へのキスに感じました。
ユーコちゃんの鈴愛ちゃんへの愛は、
こんなに深いのかと改めてジーンと。
ボクテくんもあんな思い切った事を
秋風先生にお願いするし、秋風先生まで
あんなに動かしてしまう鈴愛ちゃんは
それだけ愛される子なんですね。

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