本作って恐ろしいなあと思う点があります。
【キャッチーでそちらに注目が集まる場面と、重大な伏線をセットにすること】
これは前回と今回で感じます。
振り返ってみると、本作は丁寧に伏線を構成しておりまして、なるほどと唸らされることが大変多いのです。
あとから見ると、はっきりと先の展開がわかったのだなと感じてしまう。
しかし、鑑賞直後には気づかないことが多い。
なぜなら重要な伏線とキャッチーな場面がセットになっているからなのです。
前回ですと、尾形の衝撃的な回想シーンの箸休めのような、おおはしゃぎする鯉登。
前回書きましたけれども、コミカルな鯉登の場面にも、あとにつながってくる重要な要素があったと感じています。
バッタだーッ!『三国志』でもキツイよね
さて、今回前後でカットされていると思われる描写は、稲妻強盗とお銀関連ですね。
刺青人皮入手枚数は、杉元、土方、鶴見と各陣営で大幅に減っております。
こうなってくると、メインプロットの金塊争奪という目的すら、本当にそれが達成出来るのか、重要であるのか、疑念すら湧いてくるわけです。
今回は、アシリパのマンボウクッキングからスタート。
マンボウって実は好きなんですよね。
水族館の水槽前でボケーッと見ていたいほど。あ、でも確かにこうして上に乗ることができればおいしそうだし、楽に食べられるなぁ。
一方で、セクシー谷垣はインカラマッにボタンつけをしてもらっております。
そこへ、アイヌの老人がラッコの肉を持参して来ました。
ラッコの毛皮は、アイヌにとって重要な交易品です。この肉は夫婦で食べるんだぞ、とのこと。
インカラマッはハマナスの実を取りに、ちょっと恥ずかしそうな顔で立ち去ってゆきます。
そうしてのんびりとしておりますと、空を覆い尽くす黒い雲が!
飛蝗ですね。
『三国志』でも、「ギャー! イナゴだぁーッ!」という場面がありますよね。
コーエーのゲームでも辛かった。
イギリスを舞台としたジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗の農場』というミステリも面白かったなあ。
こうなってしまうと、農作物も家屋も甚大な被害を受けてしまいます。
杉元、谷垣、白石、尾形は近くの小屋に避難。
インカラマッは、アシリパの小舟に乗って難を逃れます。
セクシーなラッコ鍋だーッ!
このあと、本作でも屈指のセクシーシーン「ラッコ鍋」が入ります。
姉畑支遁はカットですが、こちらは生きてくるとは……理由を推察しますと。
・ラッコ鍋はともかく、同時進行のアシリパとインカラマッの場面が必須だから
・セクシーさに着目させ、伏線をぼかす
あたりが理由かな?
ラッコ鍋を食べた四人、そしてここに来たキロランケは、互いのセクシーさにメロメロになってしまいます。
何度も言いますが、マタギのセクシーさは職業的な祝福なので!!
ここもただのセクシーさで面白いなあ、と言ってしまうのは簡単ですが、性別逆転すると不自然なセクシーさってあると思いますね。
女子更衣室で、下着姿のままキャッキャするとか。
それをあえて男同士でやるところ、それが本作の個性なのでしょう。
「第七師団でラッコ鍋を食べたらどうなるかなあ」
そんなことを考えてしまう人に、ちょっと史実的根拠でも。
明治維新後、薩摩閥の影響で男色はむしろちょっとしたブームになります。
そりゃあ薩摩隼人の鯉登、鶴見のブロマイドを見て顔を赤らめるわ……。
ただし、本作の少し前の明治30年代になりますと、世間を騒然とさせるような事件が発生し、男色は下火となっております。
ウィルクの記憶、樺太の歴史
アシリパは、インカラマッから父・ウィルクの話を聞きます。
しかし、どうしても彼女を信じることが出来ない。インカラマッは「網走監獄の“のっぺら坊”がアシリパの父ではない」という根拠を語ります。
ウィルクは、帝政ロシアによって投獄されたポーランド人と、樺太アイヌの母を持つ人物でした。
アシリパの青い眼は、この父と同じものです。
ポーランドは、その位置と規模ゆえに波乱の歴史を歩んで来た国です。
東西の狭間にあるこの国は、常に巨大なロシアの圧迫に苦しんできました。
このあたりも凄いです。
樺太が今後の歴史で重要視される。
日本史において、確かに存在した樺太——その存在感はあるとは言いがたいものです。
「へー、樺太って日本の領土だったんですね!」
という素っ頓狂な驚きすら、聞いたことがあります。
その樺太を取り上げるということ。これは本作の意欲が見えてきますね。
なぜなら日ロ関係史も扱わねばなりません。
これはもう相当に大変なことです。
大河ドラマすら明治政府が直面した領土問題は取り上げません。
西郷隆盛は樺太についてかなり関わっておりますが、『西郷どん』では全く出てきませんでした。
そんな関係史を記事にまとめております。
少女の悲恋
現在のアシリパと同年代だったインカラマッは、ウィルクに淡い恋心を抱いていたのでしょう。
そんな彼女の話に、アシリパは怪しいと反発します。
このアシリパの心理が、切ないのです。
父であるウィルクは、自分の母から北海道アイヌの知識を得たはず。ところがインカラマッの話が真実ならば、母の前に彼女が父の前にいたこととなってしまいます。
いわば両親の愛や思い出に傷がつけられるようなもの。
そしてもうひとつ。
インカラマッは、ウィルクにとって子供に過ぎなかったから、忘れ去られたのだと。
成人男性にいくら恋心を抱いたとしても、彼にとって所詮は子供で、いつか忘れられてしまうかもしれない。
インカラマッの涙は、少女の悲しい恋をあらわしているかのようです。
そしてこれはアシリパもそう。
杉元に、ただの友情以外の何かを感じつつある。
けれども成人男性の杉元は、彼女を子供扱いしてしまう……少女の恋は悲しいものです。
そしてここが本作の良心的なところです。
「少女でもいいんだよぉ〜〜ん!」
と、ウィルクでも杉元でも、スケベ心丸出しでいたら、それはそれで大問題ですから!
この後、インカラマッは衝撃的なことを言います。
ウィルクは、かつての仲間であるキロランケに殺されたのだと(次ページへ)。
※うわぁあああああああ、金カム、見逃してしもたっ><;
って、方はPC・スマホでゴールデンカムイ見放題のFODがありますよ
↓
「次のページ」or「2」を押して下さい!
単行本で読んでいた筈なんですが、もうこの時すでにこいつらーーーと、愕然としました。